第一話 後編
2 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 20:18:10.67 ID:iFVRULH90




<_;プー゚)フ「寒いってレベルじゃねーぞおい……」


西方大陸の中で最も北に位置するここシベリア。

帝国本土である暗黒大陸に比べればまだマシとは言え。
この寒さは温暖な地方の出身である彼にとっては非常に堪えるものだった。


『エクスト中佐。ロマネスク中将から無線が繋がっておりますが』

<_プー゚)フ「あー放っておけ。どうせまたグチグチ文句を言われるのがオチだ」



3 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 20:19:19.07 ID:iFVRULH90

説教はもういい加減に聞きたくない。
だから彼は、自身の機体の無線を切っているのだ。

しかし副官はそんな彼の思惑などお構いなしに。
一々無線が入っていることを伝えてくる。

まぁ、糞真面目なのが彼の唯一の取り得なのだから、仕方がないが。


<_プー゚)フ「シベリア基地が戦闘圏内に入るまで、あとどれくらいだ?」

『えーと、30分ってところですね。あちらから向かってこなければ、ですが』

<_プー゚)フ「なーるほど。ま、十中八九打って出てくるだろうな」


帝国としては、なるべく基地には近づけさせたくない筈。
そのためには自分達から出向くしかない。
5 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 20:20:50.83 ID:iFVRULH90


<_プー゚)フ(しかし、厄介だな)


周りを見渡す。

前方こそ永遠と道が続いているものの。
横方向の視界は驚くほどに狭かった。

切り立った崖に挟まれた、幅50メートル程の一本道。
シベリア基地へ行くためにはここを通るしかない。


<_プー゚)フ(高速ゾイドにゃ辛い地形。その上数の利点が生かせないとくる)


共和国が進む。
戦いを、終わらせるために。

ゾイドが歩くことで伴う音と衝撃は、1体でもかなりのものとなる。

それが集まること2000以上。
時々響く咆哮とも相まって、その迫力は想像を絶している。



6 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 20:21:52.72 ID:iFVRULH90


<_プー゚)フ(ま、何とかなるか)


そんな風に彼が考えた時だった。
またあの副官が、唐突に無線を入れてきた。
しかし今度伝えられたのは、あの聞き飽きた文句では無く、


『ゾイド反応を探知! この反応は――帝国軍です!』

<_プー゚)フ「ついにきやがったなあ、おい」


戦いの始まりを告げる、鐘の音であった。






7 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 20:22:43.80 ID:iFVRULH90





後編1:《激戦の中で》






8 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 20:23:40.41 ID:iFVRULH90


『全機、配置につきました』

( ゚д゚ )『よしわかった。では皆、聞いてくれ』


シベリアの大地に立つ100機のゾイドの群れ。
エレファンダーを筆頭に、実に様々な機体が入り乱れている。

全くもって統一感のない軍勢だ。
だがそれも仕方がないと言える。

何せついこの間までは、互いに別々の部隊に所属していたのだから。


9 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 20:25:01.58 ID:iFVRULH90


( ゚д゚ )『今回我々には、最新鋭ゾイドエレファンダーが与えられた。
     こいつは高い戦闘能力を持っているが、生憎と小回りが利かない』


基地を出発してから既に20分。
いい加減に共和国もその姿を見せてくる頃だ。


( ゚д゚ )『そこでだ。小型や中型、あるいは大型でもいい。
     機敏に動ける機体に乗る者がいたら、積極的にこのデカブツのサポートをして欲しい』


両サイドにあるのは高い崖と言う名の壁。
左右の幅はそれほど広くは無い。
この地形なら、相手が如何に多くてもそれなりに戦えるだろう。


10 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 20:25:57.78 ID:iFVRULH90


( ゚д゚ )『だがそれ以外の者は、まずは自分の事を第一に考えろ。
     こう言っては何だが、他人の事を気にしている余裕なんてないぞ』

( ^ω^)(死んでしまっては戦えない。生き残ってなんぼってことかお)


先程初めて乗ったばかりの機体。
不安がないと言えば嘘になるが、ここは自分を信じるしかない。

そう考えつつ、ブーンはエレファンダーの武装を確認していく。
何をするにしてもまずは機体の事をよく知らなければ始まらないからだ。
13 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 20:28:29.27 ID:iFVRULH90


 ツインクラッシャータスク
 ストライクアイアンクロー
 2連装45mmビームガン
 AZ60mmハイパーレーザーガン
 Eシールドジェネレーター
 AZ144mmレールガン
 AZ105mmリニアガン
 AZ105mmビームガン
 AZ115mmパルスレーザーガン
 45mmビームガン
 45mmマシンガン



14 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 20:29:35.67 ID:iFVRULH90

モニターに表示される様々な兵器の名称。
この全てをフル活用すれば、大体の相手と互角に渡り合える筈。


( ^ω^)(後は凄腕のパイロットに当たらないことを祈るしかない、か)

( ゚д゚ )『私からの話は以上だ。各自精神的な意味でも、準備を怠らないようにな』


前面のメインモニターから、ミルナの顔が消える。
その途端静寂に包まれるコクピット内。

ブーンの瞳はただ一点、長い一本道の向こう。
いずれ無数の影が現れるであろう地点を、見つめていた。
16 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 20:31:28.60 ID:iFVRULH90



――ミルナ――



( ゚д゚ )「さてと」


通信を切り、ミルナはふっと一息ついた。

もう何年も行ってきていることとは言え。
やはり大勢の人に物事を伝えると言うのは、緊張する。


17 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 20:34:37.37 ID:iFVRULH90


(´<_` )『お疲れ様です、少将』

( ´_ゝ`)『自分のことを第一に考えろ、か。
       自己犠牲の塊みたいなアンタが、よく言うな』

( ゚д゚ )「サスガの兄弟か……。そう言えば、お前達もここにいたんだな」


ミルナの愛機である虎型ゾイド、セイバータイガー。
その深紅の機体の左右に立つ、2体の竜。
19 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 20:37:47.86 ID:iFVRULH90

ジェノザウラー。

開戦初期に帝国が作り上げた大型ゾイド。
西方大陸で発見された古代の技術が組み込まれた、強力な機体だ。

こいつのカラーリングは、本来装甲が黒、フレームが紫な筈であった。
だが今ここにいる2体はどちらもそれとは異なっている。


( ´_ゝ`)『昔の師匠にまで忘れられるなんて、流石だよな俺ら』


アニジャ・サスガ。階級は少佐。
乗っているジェノザウラーの色は装甲が青で、フレームが紫。
要するに青系統の色ばかりと言うこと。


20 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 20:40:22.73 ID:iFVRULH90


(´<_` )『ちっとも流石じゃないと思うぞ、兄者』


オトジャ・サスガ。階級はやはり少佐。
ジェノザウラーのカラーリングは装甲が薄緑、フレームが深緑。
こちらは緑系統で纏められている。


顔、身体的特徴、愛機。

それらが全て瓜二つであるこの双子は、
2人共に戦って初めて、その真価を発揮してくれる。
逆に言えば1人だけでは並のゾイド乗りにしかならない、ということだ。

しかしまさか本当に、こんな所で2人が揃うとは。
メンバーはランダムで選出された筈なのに、凄い偶然もあったものである。
22 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 20:49:00.04 ID:iFVRULH90


( ゚д゚ )「フッ、相変わらずだな。お前達には期待しているぞ」

( ´_ゝ`)『少将直々に期待されるとは。流石だよな俺ら』

(´<_` )『ああ。それは確かに流石だな』


帝国本土から流れてきたのだろうか。
冷たい風が、シベリアの大地を優しく撫でて行く。

既に会話は無い。
痛い沈黙だけが、流れていた。


23 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 20:55:51.99 ID:iFVRULH90


1分

5分

10分


(´<_` )『来ませんね』

( ゚д゚ )「ああ」


更に時は過ぎる。
殆どの者が緊張の前に顔を強張らせていた。

当然それはブーンも例外ではなく。
先程から足の震えが止まらなかった。


(;^ω^)(来ないお……。もしかしたら諦めたんじゃ――)

25 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 20:59:16.40 ID:iFVRULH90

そんな予感が彼の頭を過った、その時だった。
唐突にレーダーに現れる、無数の反応。


(;^ω^)「!」
  _
(;゚∀゚)「!」

(´<_`;)「!」

(;´_ゝ`)「!」

( ゚д゚ )「来たか……」


前方数百メートルの地点。
強烈な地響きを立てながら、共和国の大軍勢が迫っていた。

先頭を切るのは白い狼型ゾイド、コマンドウルフ。
そしてその後に蒼き獅子、シールドライガーが続いている。


26 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 21:01:36.42 ID:iFVRULH90


<_プー゚)フ「さあて、お楽しみの時間だ」


部隊後方の中央、シールドライガーの群れの中。
1本の銀色に輝く大刀を持つ、漆黒の獣王が駆けていた。

搭乗者の名はエクスト=プラズマン。
共和国第7高速戦闘隊を指揮する若きエースだ。


27 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 21:02:52.06 ID:iFVRULH90


<_プー゚)フ「全軍戦闘に備えろ! 多少の犠牲は構わん、とにかく攻めて攻めて攻めまくれ!」


この戦いにくいことこの上ない地形。
下手に凝った戦略を立てるよりは、真っ向勝負で早急にかたをつけるべきだ。

エクストの怒号を受け、高速ゾイド達が一斉にその速度を増してゆく。


(#゚д゚ )「砲撃要員、射撃準備!」


だが先に仕掛けたのは帝国だ。
予め決めておいたレッドホーン等のゾイドが、その砲身の狙いを定めていく。

そして――
29 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 21:07:43.24 ID:iFVRULH90


(#゚д゚ )「放てえええええええッ!」


閃光、衝撃、轟音。
無数の光や鉄の砲弾が、共和国へと襲いかかる。


<_プー゚)フ「甘い! 甘すぎるぜ帝国野郎!」


だがエクストは動じない。
軍勢の歩みも止まらない。


<_プー゚)フ「シールドライガー隊前に出ろ! エネルギーシールド展開!」


後ろに着いていたシールドライガーが跳躍する。
白狼を飛び越え躍り出た何機かの蒼き獅子は、その鬣を同時に開いた。

その瞬間、帝国の攻撃が炸裂。
だが爆音と共に立ち上った黒煙から現れたのは、全く無傷の共和国軍。
32 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 21:10:30.64 ID:iFVRULH90


( ゚д゚ )「チッ、やはりそう来るか」


エネルギーシールド。

特殊なエネルギーの壁を発生させ、敵の攻撃を防ぐ防御用装備。
特に珍しいわけでもない、極一般的な代物だ。


(#゚д゚ )「だがそんな事は予測済みだ! 
     砲撃は引き続き続けろ、ただし砲弾及びエネルギーを使い過ぎるなよ。
     そしてエレファンダー隊、進撃開始だ! 共和国の連中を吹き飛ばせ!」


(;^ω^)(つ、ついにktkr!)


周りの景色が一斉に動き出す。
それを見てブーンも慌ててエレファンダーを前に進めた。


33 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 21:12:51.07 ID:iFVRULH90


【――――――!】


操縦桿越しに伝わる強い躍動感。
そしてこの咆哮のなんと逞しい事か。

――やれる。

そう思った。
このゾイドなら、どんな敵でも倒すことができると。


( ^ω^)「行くおエレファンダー! 今回限りかもしれないけど、いっちょよろしく頼むお!」


ブーンはまだまだ未熟なゾイド乗りではある。
しかし、恐らくは相性が良かったのだろう。
エレファンダーは気持のいいくらい力強く、彼の呼び掛けに応じてくれた。


34 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 21:17:18.18 ID:iFVRULH90

大地を踏みしめて突撃を開始する計25機の巨象の群れ。
突然動き出したこの新型機を前にして、初めて共和国の中に動揺が広がった。


<_;プー゚)フ「な、なんだありゃあ!? あんな奴見たこともねぇ。新顔か!」

『え、エクスト中佐、どうなされるのですか!?』

<_#プー゚)フ「馬鹿野郎! んなもん構わず突き進むに決まってんだろ!」

『しかし……!』

<_プー゚)フ「心配すんな。所詮はデカブツ、ノロマ野郎だ。俺等に敵うわきゃねーよ!」


猪突猛進がエクストの代名詞である。
例え新型が現れようとも、この勢いを緩めるつもりは全くなかった。


35 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 21:19:23.83 ID:iFVRULH90


(´<_` )『構わず向かってきますね』

( ゚д゚ )「好都合だ。この地形、奴等は満足に性能を発揮できん。そこを叩け!」

「「「了解!」」」


刻々と縮んでゆく両者の間。
程なくしてぶつかり合い、互いに戦闘を開始した。

司令官の怒声が互いに響く。


(#゚д゚ )「恐れるな! 地の利は我等にある!」

<_#プー゚)フ「とにかく攻めろ、そして叩き潰せ! 絶対退くんじゃねーぞ!」


いよいよここにおいて。
ゾイド戦史の中でも特に有名な戦いの1つ。

シベリア基地防衛戦がついに開始されたのだった。




36 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 21:21:27.05 ID:iFVRULH90



――――


シベリア基地を離陸して、既に約10分。      
初めて乗るホエールキングの乗り心地は中々悪くは無かった。


('A`)「………」


窓を覗くと見えるのは、青い空。
そして少し視線を下げれば西方大陸の輪郭が確認できた。

長年暮らしてきた故郷を離れ、今。
彼等は未知なる地である暗黒大陸へと向かおうとしていた。

38 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 21:24:08.33 ID:iFVRULH90


('A`)「………大丈夫かなぁ、ブーンの奴」

ξ;゚听)ξ「あのねえ。アイツを信じろって言ったのはアンタよ。わかってるの?」

(;'A`)「そりゃそうだけどよ……」


やっぱり心配なものは心配だった。
だが、いくら彼の身を案じても。それで助かるわけでもない。


('A`)「待つしかない、か」

ξ゚听)ξ「そうね」

40 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 21:28:24.64 ID:iFVRULH90

いつも傍にいた人間がいない。
それだけでこうも気持が落ち込むとは、正直思っていなかった。
重い空気が、2人を包む。

そんな時だった。
綺麗な小川のように澄んだ、聞き覚えのない声が木霊したのは。


「大事な人が、戦っているのか?」

('A`)「は?」

ξ゚听)ξ「ひ?」


他に人がいることを予想してなかったのか、何とも間抜けな声を出す2人。

振り向くと、そこにいたのは。
薄らと青味がかった長髪が美しい、妙齢の女性だった。


41 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 21:30:51.49 ID:iFVRULH90


川 ゚ -゚)「どうした? 妙な声を出して」

(;'A`)「え、あ、その。だ、誰?」


女性はとても美しかった。
それが故にドクオは上手く話せなかった。

何せ、美人な女性と言うものは。
彼が最も苦手とする部類なのだから。

増してやそれが、自分よりも格上の存在だと知れば。

43 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 21:32:34.01 ID:iFVRULH90


川 ゚ -゚)「私か? 私はクー・スカイア。一応、少将だ」

ξ;;゚听)ξ「しょ、しょしょしょしょしょ少将!?」




(゚A゚) ショ……ショウ?





この通り、彼の頭は間違いなく完全にクラッシュしてしまうのだった。


44 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 21:35:25.76 ID:iFVRULH90


ξ;;゚听)ξ「な、なななななな何で現役の少将殿が私達と同じ輸送艦に!?」


流石にツンは口を利けるくらいには理性を保つことができていた。
尤も、かなりどもっているようではあるが。


川 ゚ -゚)「こんな状況だからな。階級なんて、さしたる意味は持たんよ」

ξ;゚听)ξ「は、はあ」

川 ゚ -゚)「で? さっきの質問はどうなんだ。誰か知人が戦っているのか?」


余りにも冷静なクーの口調を前にしてか、
ツンは段々慌てている自分が恥ずかしく思えるようになってきた。

自分は士官学校を出たエリートだ。
だったらエリートはエリートらしくしゃんとしないと。

そんな事を己に言い聞かせ。
彼女は何とか落ち着きを取り戻すことに成功する。
46 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 21:36:57.60 ID:iFVRULH90


ξ゚听)ξ「えっと、その。……友達が、あそこに」

川 ゚ -゚)「……そうか」


完全に自我を喪失してしまっているドクオを無視し。
クーはツンの横に立ち、共にシベリアの大地を眺める。

そして暫くの後。
彼女はまるで独り言のように、ふいにこう呟いた。


川 ゚ -゚)「私も、知り合いがあそこで戦っていてな。
     ――馬鹿な奴だよ。行かなくてもいい死地に、むざむざ行くなんて」

ξ゚听)ξ「え……?」


特に感情はこもっていない普通の声。
だがツンが見たクーの顔は、痛いくらいの悲しみに満ち溢れていた。


47 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 21:37:35.09 ID:iFVRULH90


川 ゚ -゚)「……ま、そんな奴だからこそ。惚れたのかもしれないがね」


視線は一点、最果ての地に向けられている。

自らの大切な人間が死と隣り合わせになっているのを前にして。
果たして彼女は何を思うのか。

それは本人以外の誰にも分からない。
しかしそれでも、予想くらいはツンにもすることができた。

何故なら彼女も、同じ境遇に立たされていたのだから。


ξ゚听)ξ「……約束、ちゃんと守りなさいよ。ブーン」


ホエールキングは飛んで行く。
一路帝国本土、暗黒大陸を目指して。


幾多の悲しみに彩られた想いを、背負いながら。
50 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 21:39:48.98 ID:iFVRULH90




――ブーン――




(#^ω^)「あああああああああ!」


青年が吠える。
巨象が吠える。
白狼が吠える。
獅子が吠える。

幾多の咆哮飛び交う戦場の中。
凄まじいまでのパワーで敵を葬り去るエレファンダー。
その性能は正に圧倒的と言う他なかった。
52 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 21:41:13.02 ID:iFVRULH90

鼻は一振りで相手を完全に粉砕し、
堅い装甲はシールドライガーの牙さえ通さない。

近距離は鼻の先端のストライクアイアンクローで相手を掴み、放り投げ。
遠距離ではハイパーレーザーガンやビームガンで装甲を打ち抜いて行く。

攻防に優れ遠近どちらにも対応できる、正に万能ゾイドと言えるだろう。


( ^ω^)(それに加えてエネルギーシールドまで持ってるなんて。
      全く、とんでもないのを作り上げてくれたもんだお)

54 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 21:43:18.91 ID:iFVRULH90

コマンドウルフが2機斜め前方から、左右同時に飛びかかってきた。
恐らく複数で攻撃すれば誰かの攻撃が当たると踏んだのだろう。

しかしそんなものはこのゾイドには通用しない。
右を鼻で引っ掴み、そのまま振り回すことで左も吹き飛ばした。


『糞がああああああ!』

( ^ω^)「!」


幾人もの仲間を殺され、怒りに燃える共和国軍。
己を鼓舞するかのような咆哮を上げ、襲い来るのはシールドライガー。

だが攻撃の時に声を出すなど愚の骨頂だ。
反射的に機首を傾け光の弾で迎撃する。


55 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 21:45:38.06 ID:iFVRULH90


『甘い!』


吸い込まれるようにして命中した筈のレーザー。
しかしそれは蒼き獅子が誇る、英雄の盾によって全て防がれていた。


――しまった。


そう思った瞬間、機体を襲う強い衝撃。
シールドライガーがその爪と牙を打ち付けていた。

幸いにして、装甲の固さのおかげで傷は無い。
が、こんなに巨大な鉄の塊に抱きつかれていては身動きが取れなくなる。

そしてそれこそが、彼等の真の狙いだったのだ。
60 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 21:47:21.13 ID:iFVRULH90


『死ねえええええええええ!』


別方向からの襲撃。その数2機、いや3機だ。
左右から獅子が、後方から狼が迫る。


(;゚ω゚)「―――!」


すぐそこまで来ている、己の死。
その悪寒をダイレクトに感じてしまい、思わず彼は身震いした。

唯でさえ危ない状況だと言うのに。
彼は余計に隙を作り、敵に塩を送ってしまったのだ。


――駄目だ、もうおしまいだ。

63 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 21:48:56.19 ID:iFVRULH90


思わず目を瞑る。
親友達の顔が脳裏に浮かんだ。
ブーンは彼等に謝罪を告げる。

ごめん。もう駄目みたいだ、と。


その間僅かに数秒の出来事。
時期にエレファンダーは横倒しにされ、止めを刺される――



――筈だった。


65 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 21:50:44.40 ID:iFVRULH90


『ぎゃあ!』

『な、何だコイツ!』

『はや――うわあああああ!』

(;^ω^)「?」


危ないのは自分の筈なのに。
何故か響いたのは、共和国軍の悲鳴。


――助かったのか?


そう感じてすぐに辺りを見回す。
巨象に向かって突撃してきた3機は、いずれも既に事切れていた。


( ^ω^)「一体誰が――」

『おいおい、チンタラしてんじゃねーよブーン!』


無線越しに聞こえてきたのは久々に聞く声。
この陽気な感じ、間違いない。


66 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 21:52:55.75 ID:iFVRULH90


( ^ω^)「ジョルジュさん!」
  _
( ゚∀゚)『おうよ! 大丈夫だったか!?』


この部隊唯一の知り合い、ジョルジュその人だった。


(;^ω^)「は、はい。ありがとうございますお」
  _
( ゚∀゚)『ばっかやろ。礼言ってる暇あったらさっさと大勢立て直せ!』

( ^ω^)「把握!」


機体を持ち上げ、後ろ脚だけで立ち上がる。
気が動転していたのか、それだけで簡単にライガーは振り落とされた。

そこへすかさず飛んでくる、黒い影の一撃。
獅子は敵の姿を確認することすらできずにその活動を停止させた。
69 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 21:56:02.69 ID:iFVRULH90


( ^ω^)「ジョルジュさん、その機体は」
  _
( ゚∀゚)『かっけえだろ? 俺の大切な相棒だ』


華奢とも言える体躯に洗練されたフォルム。
隠密性を高める漆黒の装甲は、正に狩人の名に相応しい。

ブーンの危機に応じ駆け付けたジョルジュ伍長。
その彼が誇る実に頼もしい高速ゾイド。

その名を、


( ^ω^)「ライトニングサイクス。……伍長の地位で、よく乗れましたお」
  _
(;゚∀゚)『いや、上等兵で新型に乗ってるお前が言うセリフかそれ?』

(;^ω^)「おー……。そういやそうでしたお」

72 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 21:58:36.01 ID:iFVRULH90


呑気な会話に興じる2人の周りを徘徊するのは、
いきなり仲間が4機もやられたことで戸惑っている獣達。

しかし彼らとて戦場に生きる兵士である。
すぐに気を取り直し、敵を取り逃がさぬよう囲んでいく。

  _
( ゚∀゚)『っとぉ、やってくれたなこん畜生め!』

( ^ω^)「どうしますお? 囲まれちゃったみたいだけど」
  _
( ゚∀゚)『はっ、なあに。俺の愛機とお前のその象さんなら、すぐに突破できるさ』

( ^ω^)「ですおね」
  _
( ゚∀゚)『よおし、それじゃあいっちょ――』



73 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 21:59:59.02 ID:iFVRULH90

互いに背を向け相手と対峙する。
こうなった以上余計な策は無用、ただ正面から戦うのみだ。

操縦桿を握りしめ。
ブーンとジョルジュは同時に叫ぶ。


( ^ω^)「「殺りますかあ!」」(゚∀゚ )



黒豹と巨象の、夢の共演が始まった。



75 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 22:04:41.11 ID:iFVRULH90



――ミルナ――



戦いが始まってから既に半刻。
撤退作戦の方はどれほどに進んでいるのだろうか。

“彼女”の事が心配なせいか、一瞬そんな風に考えてしまう。

だがすぐにそれを改めた。
彼女は自分に心配されるような存在ではない。

それよりも今は。
この戦いの事だけに思考を集中させよう――。
77 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 22:06:41.00 ID:iFVRULH90


( ゚д゚ )「よし、大体予想通りだな」


数々の幸運が味方したおかげか。
絶望的な戦力差なのにもかかわらず、帝国はよく戦うことができていた。

後はできるだけ時間を稼ぎ、
最後のホエールキングに乗ってここを脱出すればいい。
それこそがミルナが思い描いていたシナリオだった。

だが不安要素がないわけではない。
中でも特に心配なのは、未だ姿を見せぬ後続の重砲撃隊のことだ。


( ゚д゚ )(重砲撃隊には共和国のロマネスク中将がいる。
     奴に来られると、敵の士気が上がって厄介だな……)


連中が来る前に、この戦いが終わればそれでいい。

だが恐らくは無理な話だろう。
撤退が最終段階まで進むには、短くてもあと数時間はかかる。
79 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 22:07:58.70 ID:iFVRULH90


( ゚д゚ )(糞、まさか足の遅い機体だけ置いてくるとは)


彼等は隊の中でも足の速い、ディバイソンだけを先行させることにより。
今急速なスピードでこちらに向かってきているのだと先程連絡があった。

どうやら、高速隊の連中がしたことの真似をしたらしい。


( ゚д゚ )(何とか奴等が来る前に、少しでも士気を落としておかないと……)


かと言ってそれは並大抵のことではない。
普通に戦っているだけでは駄目だろう。

何か1つ、刺激的なアクセントを加えてやらねば。
そしてそのアクセントに一番適しているのは――


80 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 22:09:32.17 ID:iFVRULH90


( ゚д゚ )(高速隊の中心を担う存在を、叩く。これしかないな)


中心を担う存在、即ち隊長。
だがそれの所にまで辿り着くには、
目前の共和国軍の群れを突破する必要がある。

そしてそれは現実的に考えれば、不可能な事だった。


( ゚д゚ )(ならば誘き出すか……? しかし、どうやって)


敵は自分達に不利な地形だと言うのに、馬鹿みたいにゴリ押しで攻めてくる。
そこから予測できる彼等の指揮官の人物像とは。

猪突猛進、血気盛ん。
やたらと戦闘を好む、そんな感じだろう。
83 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 22:11:01.26 ID:iFVRULH90


( ゚д゚ )(こう言う奴は大抵、気に食わない事があると率先して飛び出してくる)


そこを自分が迎え撃てばいい。
1対1の勝負なら、あのクー・スカイアは除いて。
相手が何であろうと勝てる自信がある。


( ゚д゚ )「アニジャ! オトジャ! 聞こえるか」

(´<_` )『何でしょう、少将』

( ´_ゝ`)『今ちょっと忙しいんだが。何せモテモテでな』


そしてその“気に食わない事”を起こすためには。
この双子の協力が必要となってくる。


( ゚д゚ )「突然すまん。だが大事な話をするから聞いてくれ。1回しか言わんぞ」

( ´_ゝ`)『――OK、把握した』

(´<_` )『それで、話とはなんですか?』



84 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 22:11:57.10 ID:iFVRULH90

正直言って危険な方法だ。
少し間違えれば、一気に追い詰められることになる。

しかしその程度の賭けができなくて、一体どうする。
そもそもこの戦い自体が大きな賭けみたいなものだと言うのに。

ミルナは少し間を置いてから。
竜を駆る兄弟に対し話始めた。


( ゚д゚ )「いいか。一端私は部隊を下げさせる。そしたら――」




85 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 22:13:38.48 ID:iFVRULH90



――エクスト――


初めから特に期待はしていなかった。
どうせいつもと同じ、つまらない任務になると思っていた。

何せ戦力の差は圧倒的。
どう転ぼうが、こちらの勝利はゆるぎない筈なのだから。

なのに。

何故、こんなにも攻めあぐねているのか。
たかが100の軍勢を、どうして破れないのか。

エクストの我慢はいい加減に限界を迎えかけていた。
今すぐにでも打って出て、敵を粉砕したかった。
87 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 22:16:55.09 ID:iFVRULH90


<_プー゚)フ「だが、それは流石にマズイよな……」


唯でさえ自分は後続の部隊を勝手に置いてきてしまっている。
軍の規律を、思い切り乱してしまっているのだ。

その上なお単独で下手に行動しようものなら。
あの中将が何と言ってくるか、想像しただけでうんざりする。


<_プー゚)フ「癪に障る話だが、仕方がないか」

『エクスト中佐!』

<_プー゚)フ「あ?」


ふと気づけば、帝国軍に動きが出始めていた。
行っていた戦闘をいきなり放棄し、次々に機首を反転させている。

これは、まさか――


88 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 22:18:42.67 ID:iFVRULH90


<_プー゚)フ「退いている? 一体、何故」

『わかりません。ですが、何か嫌な予感が――な!?』

<_プー゚)フ「どした?」

『な、何だこれは……』

<_#プー゚)フ「だからどうしたってんだよ!」

『ぼ、膨大なエネルギー反応を感知! なおも増大を続けています!』

<_プー゚)フ「エネルギー反応だあ? チッ、仕方がねぇ。データこっちに回せ」

『了解!』


部下の声と共にメインモニターに映る、緑色の四角。
それはこの辺り一帯を示す地図だった。

四角に記されているのは、複数の色と形をした印。
その中の、下にある青い凸マーク。これが表しているのがエクスト達だ。
そしてその遥か上、今全力で移動中の赤色凸が帝国軍。


89 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 22:21:57.86 ID:iFVRULH90


<_プー゚)フ「つまり、この真ん中の妙にでかい2つの丸が」

『はい、感知したエネルギー反応です』

<_;プー゚)フ「おいおいマジかよ。一体全体何が起こって――」


そこまで言って、エクストは話すのを止めた。
いや、話したくとも言葉が出なかったのだ。
頭に電撃のように入ってきた、1つの光景によって。


<_;プー゚)フ「エネルギー、反応? これだけの膨大な………って、まさか!?」

『え、エクスト中佐?』

<_;プー゚)フ「いやしかしこんな狭い所で、でも――くそっ!」



90 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 22:23:26.94 ID:iFVRULH90

もし己の予感が当たっているとすれば。
あまりモタモタとしている暇は無い筈だ。
エクストは一か八か、全軍に指令を出す。


<_;プー゚)フ「総員下がれぇ! そしてできる限り散らばれ! ヤバいのがくるぞ!」


必死で張り上げたあらん限りの声。

だがそれも空しく、瞬間。
世界は闇に包まれた。



93 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 22:25:44.88 ID:iFVRULH90



――流石兄弟――



ミルナの命令により次々と味方が引いて行く中。
唯一巨大な石の如く不動の構えを取っている、2頭の竜。

流石の双子が操る、ジェノザウラーだった。


(´<_` )『アニジャ、もうまもなく味方は全員退き終えるようだ。そろそろ』

( ´_ゝ`)「そうか。意外に速かったな」

(´<_` )『数が少ないのが幸いしたんだろう』

( ´_ゝ`)「そのようだな」

96 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 22:27:18.00 ID:iFVRULH90

共和国軍は動く様子を見せない。
いきなり帝国が退いたので、罠かと疑っているのだろう。
その思慮深差は全くもって素晴らしいとは思う。

だが共和国よ、知れ。
中途半端と言うものは、全ての中で最悪の道だと言うことを。


( ´_ゝ`)「罠だと疑うならすぐに逃げればいい。疑わないなら追いかけてくればいい」

(´<_` )『だがその場で動かないなど言語道断、だな』

( ´_ゝ`)「まぁ俺達も動いてないわけだが」

(´<_` )『揚げ足とるようなこと言うなよ。――さて、始めるか』

( ´_ゝ`)「そうだな」

98 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 22:30:04.43 ID:iFVRULH90

ジェノザウラーが動く。
全てを破壊し、道を切り開くために。


( ´_ゝ`)「荷電粒子砲、スタンバイ」

(´<_` )『了解、荷電粒子集束開始』


鈍い金属質な音。
竜が自ら前屈姿勢を取り、口を大きく開く。

途端各部のダクトから一斉に噴き出す白い蒸気。
同時に脚部に取り付けられた対衝撃用のアンカーが、勢いよく下ろされた。
101 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 22:33:22.42 ID:iFVRULH90


(´<_` )『集束率10%。……20……30……』


竜の口腔内に光の粒子が集まって行く。
それは見る者を圧倒させる、巨大なエネルギーの塊。

ふいに周囲が暗くなった。
無論、実際にそうなったわけではない。

唯の錯覚、そう見えたと言うだけの事。
それほどまでにこの粒子の球は、凄まじい光を放っていたのだ。


(´<_` )『60……70……80……』



102 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 22:36:32.93 ID:iFVRULH90

異変を感知したのか。
先頭にいた何体かのシールドライガーが、こちらに駆けてくるのが見えた。
牙を剥き出しにして、暴虐の王を打倒さんと咆哮する。


( ´_ゝ`)「無駄な事を」

(´<_` )『……100。こちらは準備完了だ、アニジャ』

( ´_ゝ`)「把握した」

<_;プー゚)フ『総員下がれぇ! そしてできる限り散らばれ! ヤバいのがくるぞ!』


遠くの方で敵の司令官と思わしき男の声が響いていた。

よほど気が動転していたのだろう。
無線機すら使わずに、機体のマイクを使って直接呼びかけている。


103 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 22:38:46.97 ID:iFVRULH90


(´<_` )『む、奴さん達退き始めたぞ。アニジャ』

( ´_ゝ`)「ああ。だが遅い。全ての行動が、遅すぎる」


緊急反転、先程のシールドライガーも慌てて逃げて行く。
彼には申し訳ないがここは1つ、消し炭になってもらうとしよう。

心の中で冥福を祈りつつ。
アニジャはゆっくりと、号令を発した。


( ´_ゝ`)「集束荷電粒子砲、発射」

(´<_` )『了解。集束荷電粒子砲発射』




106 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 22:40:14.39 ID:iFVRULH90



――ミルナ――



( ゚д゚ )「……何度見ても寒気が走るな、これは」


視線の先に立ち上る、巨大なキノコ雲。
恐らくその下には無数の共和国機のなれの果てが転がっているのだろう。

相手側にはエネルギーシールドがあるが、問題無かった。
そんなもの、あの光の束の前では紙切れのようなものだ。

それほどまでに双子の兄弟が放った攻撃は強烈だった。
圧倒的な範囲と破壊力で敵を飲み込み、全てを粉砕したのだ。
108 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 22:43:22.82 ID:iFVRULH90


( ゚д゚ )「荷電粒子砲、か」


帝国が誇る最強最悪のビーム砲。
破壊の代名詞とも言える悪魔の兵器。


( ゚д゚ )「流石に同情を禁じ得ないな――ん?」


レーダーに映る未確認反応。
そいつは単独で、しかも猛烈な速さで接近してきている。

間違いない、敵の指揮官だ。
賭けに勝ったのはミルナだった。


109 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 22:45:24.37 ID:iFVRULH90


( ゚д゚ )「勇猛な事だな。……よし。行くか、セイバータイガー」

【――――――】


ようやく退屈から解放されるぜ、と言わんばかりの呻き声。
血気盛んと言う意味ではこいつも敵の隊長によく似ている。


( ゚д゚ )「ま、私もだがな。――それっ!」


ミルナの掛け声に呼応して。
深紅の猛虎が跳躍する。
112 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 22:48:50.50 ID:iFVRULH90


『み、ミルナ少将!? 護衛もなしに一体――』

( ゚д゚ )「すまん、後は任せた!」

『ええええええ!?』


近くにいた、一応副官と言うことになっている男に後を任せ。
刻々と近づいてくる反応目がけ駆けてゆく。

彼には色々迷惑をかけるが、まぁ首領を倒すことで何とか許してもらおう。
流石にそろそろ戦わないと相棒が退屈で死んでしまいそうだ。


113 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 22:50:54.50 ID:iFVRULH90


(#゚д゚ )「どけ、雑魚共!」


歓喜の咆哮を轟かせ。
荷電粒子の破壊から間一髪逃れた敵を次々に仕留めて行く。

跳躍し、爪を立て、押し倒し、食い千切り、撃ち抜いた。

その様子は正に鬼神と言う他ない。
あまりの迫力に尻尾をまいて逃げだす者まで出てくる始末。

だがそんな中、他とは真逆の行動をとる者がいた。
シールドライガーとは全く形状の違う、漆黒の獅子。
116 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 22:53:43.82 ID:iFVRULH90


<_#プー゚)フ『やってくれたなてめえええええええええええ!!!』

(#゚д゚ )「来たか……!」


エクスト=プラズマン。
血と鉄を愛する、戦いの申し子。


(#゚д゚ )「我が名は帝国軍少将ミルナ・スコッチ!
     勇猛なる愚か者よ、貴君の名を問おう!」

<_#プー゚)フ『共和国軍中佐エクスト=プラズマンだ! 今からテメェをぶっ殺す!』

(#゚д゚ )「面白い……。やって見せろ!」


虎は牙と爪を、獅子は背中の大太刀を煌めかせ、猛り合う。

周りにいた者達は我先にと立ち去って行った。
戦闘の巻き添えを食らうことを恐れたのだろう。


117 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 22:55:59.98 ID:iFVRULH90


<_#プー゚)フ「ああやってやるよ。この――」


獣王が天高く舞い上がった。
伝家の宝刀を振りかざし、一直線に敵へと迫る。


<_#プー゚)フ「“ムラサメ”でな!!!」


( ゚д゚ )「ムラサメ……。新型か!?」


爪でそれを押し止め、弾き返した。
その後バックステップで距離を取り再度対峙する。


<_プー゚)フ「ただの新型じゃねえ。俺様専用の新型だ」

( ゚д゚ )「成程、使い物にならない実験機を回されたのか」

<_#プー゚)フ「………死ね!」

( ゚д゚ )「おっと」

119 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 22:59:10.23 ID:iFVRULH90

突然の突進攻撃。
最小限の動きでそれをかわし、爪を振りかざす。

甲高い、金属同士の衝突音。
太刀で防がれた爪はピクリとも動かすことができない。


(;゚д゚ )「厄介な!」


360度、どの方向にも自在に動かせる刀。
間合いもかなり広く、その上当たれば一撃でやられる。
近接用武器が爪と牙しかないセイバータイガーにとっては、非常に脅威と言えた。


<_プー゚)フ「どうした、でかいのは口だけか!」


弾かれ宙を舞う機体。
それを空中で回転させ、何とか受け身をとる。

しかしそれで終わりではない。

足元の地面が、突如爆発したのだ。
ムラサメの胸部に装着された衝撃砲の仕業だった。
122 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 23:05:35.32 ID:iFVRULH90


(;゚д゚ )「っ!」


コクピット内を襲う強烈な衝撃。
直撃こそなかったものの、僅かに動きが鈍った。
そしてその隙をエクストが逃す筈もない。


<_プー゚)フ「止めだ!」

(;゚д゚ )「ぬ――!」


反射的に機体を限界まで屈める。
その上すれすれのところを掠めて行く巨大な刀。

気持の悪い寒気が、全身を駆け巡った。



123 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 23:07:54.79 ID:iFVRULH90


<_プー゚)フ「おっ……!」


まさか避けられるとは思ってもみなかった。
並のゾイド乗りならば今ので終わっていた筈なのに。

だが流石は歴戦を生き抜いた戦士、これしきのことでは動じなず。
飛び上り、目前に迫っていた崖を蹴ることにより反転。
勢いを保ったまま再び敵に斬りかかった。


(#゚д゚ )「舐めるな!」

<_;プー゚)フ「うお!?」


拳の如く繰り出されたのは猛虎の前足。
迫り来るそれをエクストが視認した時には。
既にムラサメは吹き飛ばされ、崖に叩き付けられていた。
127 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 23:12:46.64 ID:iFVRULH90


<_;フー )フ「ぐげっ……!」


両者の高低差を利用した顎への一撃。
狙いは恐ろしいくらいに正確だった。

高速で迫るゾイドを殴り飛ばす。
口で言うだけならともかく、実際にやるのはかなり難しい。

それをミルナはものの見事にやって見せた。
伊達に少将の位を冠しているわけではないと言うことか。

130 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 23:17:41.46 ID:iFVRULH90


<_;プー゚)フ「ててて……。やろーやってくれたな」

( ゚д゚ )「何だ、もう終わりか?」

<_プー゚)フ「へっ、まあな。第1ラウンドはくれてやらあ」

( ゚д゚ )「それは有難い。ならついでに、負けてくれるとなおよいのだが」

<_プー゚)フ「だが断る」


そんな冗談を言い合いながらも。
射殺せそうなくらいに鋭い瞳で睨みあう2頭の獣。

間合いを取り、構えて。
いつでも敵の攻撃に対応できるよう心がける。


131 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 23:19:09.09 ID:iFVRULH90


<_プー゚)フ「ほんじゃま、第2ラウンドと行くか!」

( ゚д゚ )「ああ。さっさと終わらせないとな――!」


地を蹴り爪を光らせ牙を剥く。
タイミングは、互いに同時。

獅子と虎の殺し合い。
獣の咆哮が響き合う。


【――――!】

【――――!】


先に飛びかかるは漆黒の獅子。

噛みつき押し倒し爪を立て押し返され。
息の根を止めんと猛り狂う――!
135 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/23(金) 23:26:35.17 ID:iFVRULH90


(#゚д゚ )「うおおおおおおおおおおおおおお!!!」

<_#プー゚)フ『あああああああああああああ!!!』


ここまできた以上最早会話など不要。
ただひたすらに吠え合い戦い続ける。

相手の力が尽きるまで行われる狂気の舞。
粗暴で激しく血生臭いそれは、しかし優雅で美しく、魅せられる。


故に人は、ゾイド乗りに憧れるのかもしれない。


ミルナは夢中になって行く心の中で。
ふと、そんな事を思うのだった。





to be continued

137 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 23:28:28.01 ID:iFVRULH90
以上で今日の投下を終わります。
長い間ありがとうございました。

ついでにおまけとして、登場ゾイドの簡単な解説を投下しときますne。
143 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 23:30:52.01 ID:iFVRULH90
帝国サイド


エレファンダー 象型 搭乗者:ブーン

戦争初期に帝国が開発を始めた大型ゾイド。
攻守ともに優れた傑作機だが、
ロールアウト直後に捨て石にされてしまった悲劇の機体でもある。


セイバータイガー 虎型 搭乗者:ミルナ

帝国軍の高速戦闘用ゾイド。
数十年前に設計された機体だが、なお現役で活躍している。
シールドライガーとは永遠のライバル。


ライトニングサイクス チーター型(豹って書いちまった^p^) 搭乗者:ジョルジュ

最近開発されたばかりの高速戦用機体。
桁違いのスピードと運動性能を誇る。


144 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 23:32:13.80 ID:iFVRULH90

ジェノザウラー ティラノサウルス型 搭乗者:流石兄弟

西方大陸の古代技術を搭載した新世代ゾイド。
その性能は同クラスのゾイドを遥かに凌ぐ。
最強武器は集束荷電粒子砲。


レッドホーン スティラコサウルス型 搭乗者:帝国軍パイロット

ゾイドの中でもかなり古参な機体。
その扱いやすさと性能から、最高傑作機と言う者も少なくない。
バリエーションが物凄く豊富。

ツインホーン 象型 搭乗者:特になし

旧大戦に使用された小型ゾイド。
性能はいいが、現在はほぼ見かけない。
エレファンダーの大先輩的な存在。
147 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 23:36:06.27 ID:iFVRULH90

共和国サイド


ムラサメ ライオン型 搭乗者:エクスト

共和国軍が生み出した高機動ゾイド。
背中の大型ブレードで斬り裂くのが主な戦法。
試作機が1機だけ作られたが、
あまりの凶暴性故にエクスト以外誰も扱えなかった。
なお、いきなり変身して強くなったりはしないので注意。


シールドライガー ライオン型 搭乗者:共和国パイロット

共和国が誇る蒼き疾風。
エネルギーシールドを装備しており、防御力にも優れている。
射撃戦の性能ではセイバータイガーに少し劣る。


コマンドウルフ 狼型 搭乗者:共和国パイロット

シールドライガーとコンビを組む、高速戦闘隊の要。
帝国に捕獲されたり噛ませになったり色々扱いが不遇。
こいつも様々なバリエーション機が存在する。


※この説明は作品内のものです。公式とは違っているものもありますので注意。
148 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/23(金) 23:37:22.26 ID:iFVRULH90
これで今度こそ終わりです。
お疲れ様でした。

>>142
明日……は無理かもしれませんが明後日には投下できるかと。
Back
inserted by FC2 system