第一話
2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/22(木) 19:09:00.15 ID:ZdiYyT0a0- 代理感謝です。
この話は前編及び後編、そしてエピローグの全三章で構成されています。
本日はそのうちの前編を投下したいと思います。
戦争ものです。が、本人が軍とかあまり詳しくないので、
妙な点が出てくると思いますが気にしないで下さい。
ちなみに元ネタである[ゾイド]を知っていることが前提になってます。
知らない人は……ごめんちゃい><
- 3 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 19:10:21.54 ID:ZdiYyT0a0
-
頭が痛い。
体が痛い。
手が痛い。
足が痛い。
ありとあらゆる部分が痛い。
- 4 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 19:11:04.45 ID:ZdiYyT0a0
-
「―――お」
この痛み、とっくに死んだと思っていたのに。
まだ自分は生きていたのか。
男はそのことに少し安心すると共に、
しかし早く楽になりたいと言う気持ちも捨てきれなかった。
『―――まだ呼吸があります。如何なさいますか? ―――中将」
冬の風が、額を撫でる。
冷たい感覚が、ワンテンポ遅れて頭に届いた。
- 5 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 19:14:04.18 ID:ZdiYyT0a0
-
『……了解しました』
どこからかする声。
一体全体、どのような状況になっているのだろう。
そのことを確かめたい欲求に勝てなくて。
彼は薄らと、目を開けた。
「―――おお」
- 7 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 19:15:52.91 ID:ZdiYyT0a0
-
最初に見えたのは、どこまでも済んだ青い空だ。
そして次に、そこをのんびり漂う黒煙が映る。
頭上にあった筈の天井は、既に砕け散っていた。
『目を覚ましたか』
「――――何故?」
- 8 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 19:17:08.43 ID:ZdiYyT0a0
-
何処からともなく現れた人影。
それによって、突然視界が遮られた。
朦朧とした意識ではその顔までは確認できない。
それでも声だけは聞くことができたから、正体を掴むことは容易だった。
『己の愛機に感謝するんだな。最後の力で、お前を生かしたようだ』
淡々と影は告げる。
さっきまで命を賭けて戦っていた、憎むべき敵。
こうして目と鼻の先で話すのは初めてだった。
それなのに何の感情もわいてこないのは、一体どういう訳だろう。
- 10 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 19:18:32.05 ID:ZdiYyT0a0
-
「―――殺せお」
僅かに残ったプライドに必死に縋って。
彼はそう吐き捨てた。
無論、本当に死を望んでいるわけではない。
ただ単に今の状況から早く楽になりたいだけなのだ。
『ほう? さっきまでのあの、恐ろしいまでの生への執着は何処へ行ったのだ』
うるさい、黙れ。
そんなもの知ったことか。
影の言葉を頑なに否定する。
もう、何も考えたくなかった。
- 11 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 19:20:40.70 ID:ZdiYyT0a0
-
『殺せと言うならすぐに殺そう。だがその前に、その手に握っている物でも見てみたらどうだ?』
「お…・・?」
そう言われて初めて、彼は己の手が閉じられていることに気が付いた。
力なんてもう何も残されていない筈なのに。
何故かこれだけは決して開くことは無い。
「…………」
何の感情もないまま意識的に力を抜く。
堅く握られていた拳は、拍子抜けするほどあっさり開いてくれた。
- 13 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 19:21:56.25 ID:ZdiYyT0a0
-
彼が無意識的に放すまいとしていた物。
冬場の太陽を一身に浴びて。
銀色のペンダントが、鈍い輝きを放っていた。
- 14 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 19:23:59.11 ID:ZdiYyT0a0
-
「――お」
『どうだ? それでも、死にたいか』
忘れかけていた記憶が蘇ってくる。
確かな絆で結ばれていた戦友達。
自分を信頼し、この機体を与えてくれた上司。
そしてこのペンダントを預けてくれた、愛しき少女。
それぞれがそれぞれの言葉を自分に投げかけた。
しかしそのどれもが同じ事を言っていた。
――生きろ、と。
- 15 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 19:25:53.61 ID:ZdiYyT0a0
-
『答えを聞こう。死ぬか? 生きるか?』
ヒヤリとした感触が額に伝わる。
それと同時に視界の隅に映った、黒光りする物体。
拳銃と言う名の殺意が、突き付けられていた。
『さぁ、どうする?』
もう迷うことは無い。
例えどんなに蔑まれ恨まれようとも、耐えきって見せよう。
そんな決意を胸にして。
ゆっくりと、口を開いた。
「僕は――」
- 17 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 19:26:46.53 ID:ZdiYyT0a0
-
ゾイド乗り( ^ω^)は生きて生きて生き抜くようです
- 18 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 19:29:11.24 ID:ZdiYyT0a0
-
その言葉を上司の口から言われた時。
ブーンの頭にまず浮かんだのは、何故? と言う疑問だった。
『ブーン上等兵。君を只今より、シベリア基地防衛決死隊に任命する』
突然の移籍命令。
特に手柄を立てたわけでもないし、失敗したわけでもない。
理由になる事など1つも思いつかなかったからだ。
- 19 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 19:30:41.60 ID:ZdiYyT0a0
-
何が何だか分からない。
でも別に悪いことじゃないだろう、と勝手に結論付け。
わけもわからず、彼は返事をしてしまった。
結局自分の置かれた状況が理解できたのは。
事の次第を話した友人の、憤慨した反応を見てからのことであり、
(;'A`)「はぁ!? 一体どういうことだよ、それ!」
ξ;゚听)ξ「嘘……」
その時にはもう、全てが手遅れになっていた。
- 20 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 19:32:17.27 ID:ZdiYyT0a0
-
前編:《シベリア基地防衛決死隊》
- 22 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 19:33:57.19 ID:ZdiYyT0a0
-
“西方大陸戦争”
異郷の地で行われた、共和国と帝国の大戦争。
数年にも及んだその戦いは、今1つの形となって終焉を迎えようとしていた。
それは様々な戦闘の結果、ついに万策尽き果てて。
最早戦闘続行不可能と判断した上層部が下した、苦渋の決断。
即ち、帝国の全面撤退である。
- 24 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 19:36:59.91 ID:ZdiYyT0a0
-
しかしそれを黙って見るわけにもいかないのが共和国だ。
敗北したとは言え、本土の軍を合せて計算した場合。
帝国の力はまだ十二分に脅威と言える。
その脅威がいつまた自分達に向けられるかは分からない。
何としてでも、ここで決定的打撃を与えておかなければ。
- 25 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 19:39:05.77 ID:ZdiYyT0a0
-
故に、ここに置いて。
共和国は帝国最後の砦であるシベリア基地への総攻撃を決定した。
西方大陸派遣部隊の全兵力を動員して。
当然、帝国側も彼等のそんな行動は予測済み。
だから撤退を決めた後、すぐに準備に取り掛かった。
だがそれでも用意された残り時間は僅かしかない。
準備を始めた頃には、もう共和国も動き始めていたからだ。
普通にやっていては間に合わない。
よって幾度となく、足止めをするための部隊が編成され、出撃していった。
- 26 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 19:40:36.16 ID:ZdiYyT0a0
-
勝つ確立など当然ない。
それは言わば特攻隊、唯の捨て石と言っても過言ではない。
それでも、己の信ずるもののため。
捨て石は捨て石なりに、恐怖に怯える心を鞭打ち必死で戦った。
そんな彼等の活躍があって、撤退準備は無事完了。
後は実際に行動に移すのみとなった。
だが
- 29 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 19:42:37.47 ID:ZdiYyT0a0
-
『共和国軍第一陣が接近中。このままでは、撤退作戦の途中に攻撃を受けることになります』
運命の女神は残酷だった。
何人もの仲間をいたずらにすり減らしてなお、犠牲を出せと言うのか。
無論、背に腹は代えられない。
ここで渋ってしまえは、更なる犠牲は必死だ。
そのことをよくわかっている軍の決定は、やはり迅速。
よっていよいよ、ここに。最後の捨て石部隊が編成されることとなる。
それが、【シベリア基地防衛決死隊】
ブーンはここに配属された。
最後の最後で、死んでくれ、と。
- 32 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 19:47:52.51 ID:ZdiYyT0a0
-
( ^ω^)「おー、すげぇお。結構大勢いるお」
彼の移籍が決定されたその日。
シベリア基地のとある一室に、決死隊のメンバーが集められた。
何でも、かなり重要な事を決めるのだとか。
( ゚∀゚)「よう、お前も配属されたのか?」
( ^ω^)「お?」
部屋に入ってすぐに、声をかけられた。
主はブーンと同い年くらいの男。
2人は以前、とある任務で一緒に戦った仲だった。
名前は確か、ジョルジュ、とか言ったか。
- 34 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 19:49:50.15 ID:ZdiYyT0a0
-
( ^ω^)「ジョルジュさん?」
( ゚∀゚)「おうよ。久しぶりだな、ブーン」
見かけこそ強がってはいるものの。
ブーンは内心かなり怯えていた。
一体自分はどうなってしまうのか。
普通に死ぬのは構わない。それは軍に入った時から覚悟している。
だが親友と離れ離れにされ、孤独なまま息絶えるのは御免だ。
次々に湧いて出てくる不安と恐怖。
そんな折に見かけた数少ない知人だ。
彼が露骨に嬉しそうな表情をしたのも無理は無い。
- 35 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 19:52:16.14 ID:ZdiYyT0a0
-
( ^ω^)「ジョルジュさんが選ばれるとは思ってませんでしたお」
( ゚∀゚)「俺もだぜ。こんな優秀な兵士を捨て駒にするたぁ、一体何考えてやがんだか」
( ^ω^)「出撃前にトイレ(大)に行ってて遅れた兵士の、どこが優秀なんですかお?」
(;゚∀゚)「ちょwwお前記憶力よすぎwwwさっさと忘れてwwwジョルジュのお願いwww」
( ^ω^)「きめぇ」
暫しの間談笑する2人。
周りのどんよりとした空気の中、その様子はかなり異様だった。
- 36 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 19:54:52.48 ID:ZdiYyT0a0
-
彼等の陽気な声は、それから少しして。
1人の男がどよめきに包まれながら現れるまで続けられた。
口周り生やした短い髭。
放たれる鋭い眼光が、彼が歴戦の兵だということを証明している。
彼は自らを、“ミルナ少将”と名乗ってから話を始めた。
( ゚д゚ )「さて。よく来てくれたな、諸君」
( ゚∀゚)(何がよく来てくれた、だ。クソッタレ)
別に来たくて来たわけではない。
ジョルジュだけでなく、その場にいた多くの者から。
そんな不満がありありと発せられている。
- 38 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 19:56:31.62 ID:ZdiYyT0a0
-
( ゚д゚ )「まぁそう睨むな。君達の気持はよくわかる。それは私だって同じだ」
( ^ω^)「? どういうことですかお」
( ゚д゚ )「簡単なことだよ、青年。私も君達と共に、捨てられることになった」
(;゚∀゚)「何ィ!?」
たちまちの内に起こる驚きの声。
だが彼等の態度も当然だ。
まさか現役の少将が捨て石にされるなんて。
古今東西、そんな話は聞いたこともない。
- 41 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 20:00:54.44 ID:ZdiYyT0a0
-
( ゚д゚ )「驚くことではないだろう。今、我が国がどんな状況に置かれているかはよく知っている筈だ」
だと言うのに、ミルナは少しも動じている様子は無い。
さも当然のことのように、己の運命を受け止めていた。
( ゚д゚ )「二等兵だろうが将校だろうが、いざとなればすぐに切り捨てられる。それが戦争だよ、諸君」
(;^ω^)「………」
( ゚д゚ )「――と、すまない。時間がないのだったな。手短に言うからしっかり聞いてくれ」
不満げな感情も、驚きも。
全て一様にして消えてしまっていた。
皆このミルナと言う男の存在に、圧倒されている。
- 42 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 20:02:54.77 ID:ZdiYyT0a0
-
( ゚д゚ )「これから君達にはあるテストを受けてもらう。まぁそう言っても、簡単な面接と戦闘だけだが」
それは後でのお楽しみ、とか適当に誤魔化して。
ミルナはそのテストの目的までは言ってはくれなかった。
- 43 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 20:05:39.70 ID:ZdiYyT0a0
-
そしてそれから10人づつを1組として、計10組に分けられたブーン達。
順番に面接、そして戦闘という順序でテストを受けていく。
ミルナが言ったとおり、それは極めて簡単なものだった。
面接は4、5個の質問をされただけで、
戦闘テストの方はと言えば、数体の標的を破壊するのみ。
何の困難も無い、入軍試験よりも簡単な内容と言えるだろう。
- 45 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 20:08:34.89 ID:ZdiYyT0a0
-
ただそれでも、気になった点が無いわけではない。
無論、それが何を意味するのかは皆目見当がつかないが。
テストを終え、親友にでも報告しに行こうと歩く道の中。
ブーンは戦闘に使われた、とある機体について考えを巡らせていた。
( ^ω^)「一体、何でツインホーンなんかを?」
- 46 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 20:11:20.49 ID:ZdiYyT0a0
-
“ツインホーン”
大昔に親衛隊用に設計されたと言う小型の戦闘機怪獣。
象型の野生ゾイドを元に作られたそれは、今はもう殆ど現存していないと言う。
そんなある意味貴重ともいえるゾイドを、何故こんな時に使ったのか。
彼にはその点がどうにも理解できなかった。
ちなみに。
ゾイドとは、この星に生きる金属生命体のことである。
人はこのゾイドを捕獲・改造し、様々な用途に使うことで今を生きている。
工事用、移動用、愛玩用、そして戦闘用。
特に戦闘に関して言えば。
ゾイドはその持前の高い能力を存分に発揮して、
今ではこの星での最強兵器として君臨していた。
- 47 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 20:14:50.50 ID:ZdiYyT0a0
-
( ^ω^)「まぁ、考えてもしょうがないお」
頭に浮かぶ様々な説。
それを彼はいとも容易く振り棄てた。
結局予想は予想にしか過ぎないのだから、
本当の事を知りたいなら時が経つのを待つしかない。
そう割り切った彼が廊下を進んでいると。
前方から、見知った顔が近づいて来た。
- 48 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 20:16:14.29 ID:ZdiYyT0a0
-
('A`)「よう」
( ^ω^)「ど、ドクオ?」
かつて同じ部隊に所属して、共に闘ってきた無二の親友。
今まさに会いに行こうとしていた彼が、有難い事に向こうから来てくれた。
しかしその表情は、何故か極めて暗いものであったが。
( ^ω^)「どうしたんだお?」
('A`)「……話がある。ちょっと、いいか」
( ^ω^)「?」
そう一言だけ言って、ドクオはすぐに来た道を戻り始めてしまった。
一体どうしてしまったのか。
さっぱりわからないながらも、ブーンは彼の後に着いて行くのだった。
- 52 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 20:20:11.92 ID:ZdiYyT0a0
-
( ^ω^)「どうしたんだお?」
連れてこられたのは、基地内のとある一室。
ドクオはそこに到着するや否や、扉をすぐに閉めてしまった。
まるで、人目を恐れるかのように。
ξ゚听)ξ「来たわね」
(;^ω^)「え、ツン?」
カールした金髪のツインテール。
おおよそ軍人とは思えぬ髪型をした少女がそこにはいた。
着ている軍服はまだ真新しい。
入軍してから、まだそれほど月日は経っていないのだろう。
- 53 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 20:22:38.46 ID:ZdiYyT0a0
-
(;^ω^)「何でツンがいるんだお? こんな下級兵だらけの所に」
ξ゚听)ξ「何だっていいでしょ。いいからよく聞きなさい」
( ^ω^)「……お」
有無を言わさぬ威圧感。
何か表立って言えぬことを、彼女は言おうとしているのか。
ドクオはただ黙って見ているだけだ。
ただその表情は、心なしか緊張しているようにも見える。
- 55 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 20:24:26.49 ID:ZdiYyT0a0
-
ξ゚听)ξ「時間がないから率直に言うわ」
( ^ω^)「わかったお」
ξ゚听)ξ「―――いい、ブーン」
ツンはそこで一息置き。
程なくして意を決し、口を開いた。
ξ゚听)ξ「今すぐ帝国から逃げ出しましょう。
アンタがこのまま、みすみす死にに行くことはないわ」
( ^ω^)「え……」
('A`)「わかってるだろ? 出撃したら最後、二度と生きては戻ってはこれないってことくらい」
- 56 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 20:27:48.25 ID:ZdiYyT0a0
-
そんなことは今更言われるまでもない。
確かにあの部隊にいれば、自分は生きてはいられないだろう。
しかし、だからといって逃げると言うのはどうなのか。
自分1人だけのうのうと生き延びるなんて、それこそ大恥だろう。
第一、あの部隊にはジョルジュと言う知り合いがいた。
彼が戦うと言うのに、自分がそうしないわけにもいくまい。
そう考えたが故に、彼は親友達の言葉に素直に従うことができなかった。
- 57 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 20:29:42.51 ID:ZdiYyT0a0
-
( ^ω^)「――悪いけど、その意見に従う訳にはいかないお」
ξ;゚听)ξ「なっ……!?」
見開かれるツンの目。
全く予想していなかった答えを、彼は言ってきた。
思わず抗議の言葉を口にしそうになる。
だがドクオがそれを、彼女より先に代弁してくれた。
(#'A`)「何でだよ! 俺等はお前のためを思って――」
( ^ω^)「わかってるお。でも、逃げるのは嫌だお」
- 58 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 20:31:33.78 ID:ZdiYyT0a0
-
もう少し以前にこうなっていたら。
あるいは彼は、この案を実行していたかもしれない。
だが今となってはそれも無理な話。
彼は中途半端に軍人として生き過ぎていた。
( ^ω^)「僕は戦うお。戦って、そしてツンやドクオを守って見せるお」
(#'A`)「ッ! ふざけ――」
ξ#゚听)ξ「ふざけないで!」
決して広くは無い空間に轟く可憐な声。
ブーンがよく見知ったその少女は、今までのどんな時よりも怒っていた。
- 60 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 20:34:22.71 ID:ZdiYyT0a0
-
ξ#゚听)ξ「私達を守る? 生憎だけどね。
アンタに守られるほど、私もドクオも落ちぶれちゃいないわ!」
(;'A`)「え。お、おい、何もそこまで――」
(#^ω^)「だから何だって言うんだお!」
そんな彼女に負けじと彼も声を張り上げる。
自らの誇りのためにも、ここはどうしても退くわけにはいかなかったから。
もし逃げようものならば。
たとえ生き残っても、そこには何も残りはしまい。
- 61 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 20:35:23.51 ID:ZdiYyT0a0
-
(#^ω^)「僕は守りたいから守る。2人の意志なんてどうだっていいんだお!」
ξ#゚听)ξ「馬鹿言ってんじゃないわよ! アンタなんかに、一体何が守れるっていうの!?」
(#^ω^)「全部だお! ドクオもツンも帝国も、みんな守って見せるお!」
ξ#゚听)ξ「――っ! よ、よくそんな大きな事言えるわね!」
- 63 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 20:37:41.80 ID:ZdiYyT0a0
-
外見こそ憤慨してはいるものの。
ツンは内心酷く悩み、そして悲しんでいた。
こんなにも心配しているのに。
こんなにも一緒に生きようと言っているのに。
何で彼は、納得してくれないのだと。
彼女がここで、率直に自分の気持ちを伝えていれば。
少しは望みはあったのかもしれない。
だが素直じゃない事こそが、ツンがツンたる所以である。
よっていくら頑張ってみようとも、出てくるのは捻くれた言葉ばかり。
- 64 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 20:39:32.37 ID:ZdiYyT0a0
-
ξ#゚听)ξ「ブーンの馬鹿! アンタなんて、勝手に行って勝手に死ねばいいのよ。このわからず屋!」
(;'A`)「お、おい待てよ!」
轟く轟音。
ドアを思い切り蹴り開けて。
ツンは猛烈な勢いで部屋を出ていった。
それを慌てて追いかけるドクオ。
結局部屋に残されたのは、ブーンただ1人。
- 65 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 20:41:52.02 ID:ZdiYyT0a0
-
( ^ω^)「……これで、いいんだお」
頭の中に湧く少しの後悔。
しかし無理矢理それを押さえつけ、掻き消した。
彼の行動が正しかったのかはわからない。
そんなものを論じても意味がない。
彼は逃げず、戦うことを選んだ。
ただ、それだけのことなのだから。
- 67 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 20:43:44.15 ID:ZdiYyT0a0
-
決死隊のメンバーが一堂に会した、その日の夜。
ミルナはテストの結果を纏めた書類を持って、とある場所に来ていた。
外にはもう既に月が昇っている。
この間にも、共和国は着々と進んでいるのだろう。
彼の最期となるかもしれない戦いまで、時間はそうそう残されてはいない。
だからそれまでに、やるべきことは全てやる。
この行動が少しでも時間稼ぎに繋がることを祈りながら。
- 68 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 20:46:10.64 ID:ZdiYyT0a0
-
( ゚д゚ )「おい、いるか?」
(´・ω・`)「やぁ。遅かったね」
明かりが灯った格納庫内。
そこでミルナを待っていたのは、何とも冴えない中年の男だ。
垂れ下った眉に、ボサボサの髪。
加えていかにも気力のなさそうなその表情。
着ている白衣は皺だらけで、もう何日も洗濯されていない。
ショボン、と言う名を持つ彼の恰好は、酷いの一言に尽きた。
- 69 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 20:47:07.77 ID:ZdiYyT0a0
-
( ゚д゚ )(こんなナリの男が、“アレ”を作り上げるとはな)
(´・ω・`)「何か言ったかい」
( ゚д゚ )「いや。すまんな、結果を纏めるのに時間がかかった」
(´・ω・`)「そう。まぁ500人分のを1人でやるんだから、大変なのはわかるけどね」
そう言いながら、ミルナから結果を受取るショボン。
パラパラと捲って流し読みをし、その内容を把握していく。
- 70 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 20:47:51.80 ID:ZdiYyT0a0
-
(´・ω・`)「ふーん、30名か。結構いるね」
( ゚д゚ )「意外にも中々腕利きの奴が多くてな。私としては嬉しい限りだ」
(´・ω・`)そいつはよかった。……おや」
( ゚д゚ )「? どうした」
(´・ω・`)「いやあ。まさか上等兵なんてのがいるとは思わなかったからね」
( ゚д゚ )「あぁ、彼か」
- 72 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 20:48:46.89 ID:ZdiYyT0a0
-
白衣の男の視線は、ある1人の兵士の名前に注がれている。
ブーン・ルクラント。上等兵。
曹長やら尉官クラスが揃っている中で、その階級はあまりにも低かった。
( ゚д゚ )「腕は確かだぞ。もしこんな任務などに抜擢されなければ、間違いなく出世していただろう」
(´・ω・`)「成程。自ら未来を潰してしまうなんて、この国も落ちたものだね」
己が属する国を罵倒されたにもかかわらず、ミルナは全く怒っていない。
寧ろショボンの意見に同調しているくらいだ。
彼にも何か、思うところがあるのだろう。
- 73 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 20:50:53.07 ID:ZdiYyT0a0
-
( ゚д゚ )「で、結局そっちは何体くらい準備できそうなんだ?」
(´・ω・`)「そうだね。ギリギリになってみなけりゃ何とも言えないけど――」
視線を天井に上げ、ショボンはブツブツと何やら呟いている。
( ゚д゚ )「あまり多くは望めないか」
(´・ω・`)「うん。まぁ精々、20体くらいが限界だと思う」
( ゚д゚ )「……そうか」
- 76 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 20:52:48.22 ID:ZdiYyT0a0
-
20体。
あまりにも、少なすぎた。
彼の頑張りを認めぬわけではない。
だがどうしても、もう少し何とかできないものかと思ってしまう。
(´・ω・`)まぁあくまでもこれは予想だ。実際にはもう少し多く作り上げるつもりだよ」
( ゚д゚ )「すまんな……」
(´・ω・`)「構わないさ。で? 敵さんの構成は大体わかった?」
( ゚д゚ )「あぁ。大体、な」
彼の脳裏につい先日の光景が思い浮かぶ。
偵察に行った兵士の、あの真っ青な表情。
彼は絶望的な口調でミルナに報告してきた。
- 77 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 20:55:14.68 ID:ZdiYyT0a0
-
( ゚д゚ )「中核を担うのはシールドライガー及びコマンドウルフ等で構成された高速戦闘隊。
その後を追って、ディバイソンやゴルドス、それにカノントータスBCなどの重砲撃隊が続いてるそうだ」
(´・ω・`)「そうか……。高速隊の連中はともかく、砲撃隊は厄介だね。
集中砲火を浴びれば、いくらあの“象さん”と言えども耐えきれない」
( ゚д゚ )「あぁ。だが恐らく混戦になるから、連中はその真価を発揮できまい。
そこを突けばある程度は何とかなる」
(´・ω・`)「確かにね。でもさ、第一陣ってどれくらいの数だっけ?」
- 79 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 20:57:14.55 ID:ZdiYyT0a0
-
そう言われると、つい押し黙ってしまう。
あまり考えたくはなかったからだ。
( ゚д゚ )「……5000、だ」
(´・ω・`)「ははは、50倍か。笑えない冗談だね」
全くだ、とミルナも言う。
砦を攻める際は敵の10倍の数が必要だ、と言うのは誰の台詞であったか。
共和国は、その条件を満たしてお釣りがくるほどの戦力を用意してきたのだ。
- 81 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 20:59:30.99 ID:ZdiYyT0a0
-
( ゚д゚ )「まぁ何とかするさ。幸い、このシベリアの地形は集団戦には向いていないしな」
(´・ω・`)「一度に多数の敵を相手にすることは避けられるってわけ?」
( ゚д゚ )「そういうことだ」
そのために無理を言って、アレを手配させたのだ。
この過酷ともいえる地形での戦闘に適した、あのゾイドを。
ミルナは今ここにはいない、
しかしいずれは自分達の救世主となるであろうその存在に向けて、言った。
めいいっぱいの、親愛の情を込めて。
( ゚д゚ )「頼んだぞ、エレファンダー」
- 82 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 21:01:02.75 ID:ZdiYyT0a0
-
それから1週間後。
いつもと変わらぬ、極寒の朝。
昼夜問わずして輸送艦の離陸音が鳴り響くこの最果ての基地に。
突如としてそれとは比べ物にならない程に騒がしい、警報が轟いた。
『共和国軍接近中。繰り返す、共和国軍接近中』
- 83 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 21:03:08.33 ID:ZdiYyT0a0
-
(;゚д゚ )「何だと!? 速すぎるぞ!」
今までの進行速度から言って。
共和国が近づくのは精々明日か明後日くらいだと踏んでいた。
その読みが、ものの見事に外れた。
流石のミルナも驚きの色を隠せない。
川 ゚ -゚)「恐らく、砲撃隊の連中を置いてきたのだろう」
朝食を取ろうと食堂に向かっていた足を止め。
彼は共に歩いていた女性の方に顔を向けた。
- 85 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 21:04:11.08 ID:ZdiYyT0a0
-
クー・スカイア。
同じ少将の位につきながらも、
全てにおいて己に勝る最高のゾイド乗り。
ミルナが全幅の信頼を置く、ただ1人の人間だ。
( ゚д゚ )「高速隊のみで来たと言うことか?」
川 ゚ -゚)「ああ」
( ゚д゚ )「糞、共和国め……!」
- 86 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 21:05:59.63 ID:ZdiYyT0a0
-
舐めるのも大概にしろ。
そう心の中で、毒づいた。
( ゚д゚ )「クー。お前はすぐに荷物を持ってホエールキングへ向かえ」
川 ゚ -゚)「言われるまでもない。だが――」
( ゚д゚ )「わかっている。私とて、このまま死にはしないさ」
やるべきことはまだ残っている。
今ここにいるクーにだって、返していない借りがある。
こんなところで果てるわけには、いかない。
ミルナの瞳に、炎が灯る。
- 88 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 21:07:21.02 ID:ZdiYyT0a0
-
川 ゚ -゚)「……わかった。死ぬなよ」
( ゚д゚ )「当たり前だ」
互いに笑みを浮かべ、彼女は走り去って行った。
その背中を少しだけ見つめて。
彼も己の在るべき場所へと急ぐのだった。
- 89 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 21:09:24.96 ID:ZdiYyT0a0
-
その知らせを聞いた時は、流石に驚いた。
まさかここまで速いとは。
やっぱり油断ならないな、共和国。
('A`)(って何言ってんだか。俺みたいなのが多いから、負けたんだ)
開戦直後、帝国は圧倒的優勢だった。
連戦連勝。向かうところ敵無し。
こんな戦争など、すぐに終わると思っていた。
それが押され始めたのはいつのことだったか。
気づけば追い詰められ、こうして今まさに敗北しようとしている。
- 90 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 21:11:51.08 ID:ZdiYyT0a0
-
('A`)(糞ッ……)
彼は決して愛国心が豊かな男ではない。
だが、自分の国がこうも無様に負けるのはやはり悔しい。
無意識の内に、奥歯を噛み締めていた。
無念すぎて仕方が無かった。
- 91 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 21:13:22.51 ID:ZdiYyT0a0
-
ξ;゚听)ξ「ドクオ!」
('A`)「……ツンか」
駆け寄ってくる金髪の少女。
両手は自分と同じく、荷物で完全に塞がっている。
ξ゚听)ξ「準備はできているみたいね」
('A`)「ああ。だけど見たところ、お前はできてないようだが」
ξ;゚听)ξ「へ?」
- 92 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 21:16:00.19 ID:ZdiYyT0a0
-
彼女は何の話だ、とでも言いた気に、約90度首を傾ける。
その様子があまりにも滑稽に見えて。
心の中で少しだけ、ドクオは笑み浮かべていた。
('A`)「言われなきゃわからねーか? このツンデレめ」
ξ;゚听)ξ「わからないわよ、さっさと教えなさい」
('A`)「……ブーンのことだよ。まだ、何も言ってやってないんだろ」
そう言った途端、瞬く間にツンの表情から色が失せた。
視線を落とし、俯いて。
その様子はまるでカップルを見たドクオのようだ。
- 96 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 21:19:09.00 ID:ZdiYyT0a0
-
('A`)「ばっかやろ。何て顔するんだよ。お前は俺か」
ξ )ξ「……だって。今更、どんな顔して会えっていうのよ」
“お前に何が守れると言うのか”
己を守ると言ってくれた少年を、彼女はそう罵倒した。
彼の気持ちを、踏み躙ってしまった。
そんな自分に彼と会う資格などない。
ξ )ξ(それに、会いに行けたとしても。一体何て話せばいいの?)
- 97 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 21:21:26.54 ID:ZdiYyT0a0
-
今回は唯の任務とは訳が違う。
文字通り死地へと向かうようなものなのだ。
そんな戦いを迎えようとしている彼を前にして。
まともな会話などできよう筈もない。
ドクオだってそんな彼女の心境はわかっている。
だからこそ、ここは頑張ってもらいたいたかった。
このままでは彼女もブーンも、そして自分も。
誰もが救われたないと思ったから。
- 100 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 21:24:52.73 ID:ZdiYyT0a0
-
('A`)「なぁ、ツン。お前はブーンの友人じゃないのか?」
ξ#゚听)ξ「友人なんてもんじゃない、親友よ! だから――」
('A`)「だったらよ。信じてやれよ、アイツをよ」
ξ゚听)ξ「え……」
('A`)「アイツがこんな所で死ぬような奴だと思うか?」
彼は必ず、帰ってくる。
自分やこの少女を置いて、勝手に死ぬわけがない。
そう思い込むことで、ドクオは自らの想いを必死に抑え込んでいた。
今すぐにでもブーンを連れて逃げ出したい。そんな想いを。
- 101 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 21:28:56.24 ID:ZdiYyT0a0
-
ξ゚听)ξ「それは、勿論そうだけど……」
('A`)「寧ろよ。お前が会いに行ってやれば、アイツだってきっとやる気出す筈だぜ?
生き残る確率だって飛躍的に上がるってもんだ」
ξ゚听)ξ「………」
無論、彼の言葉は完全な出まかせである。
まぁ確かに多少は彼を元気づける材料にはなるだろう。
だがそれだけで如何にかなる程、この任務は甘くない。
ツンも当然それは知っている。
知っているが故に、
- 103 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 21:30:51.65 ID:ZdiYyT0a0
-
('A`)「だから頼む、会いに行ってやってくれ。俺からの一生で一度のお願いだ」
ξ゚听)ξ「ドクオ……」
彼の言葉が、とても重みのあるものとして聞こえたのだ。
彼女は暫くの間、ドクオの瞳を見つめていた。
だがやがて、観念したかのようにクスリと笑い、言った。
ξ゚ー゚)ξ「……わかった。じゃ、行ってくるね」
('A`)「ああ。思い切り脅してやれ。生きて帰ってこなかったら承知しない、ってな」
共和国が戦闘圏内に入るまで残り1時間半。
死の軍勢は、着々と最果ての地へ近づいていた。
- 105 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 21:33:56.22 ID:ZdiYyT0a0
-
今日は自分にとって忘れられない日になりそうだ。
そう言う予感が、今朝早く目覚めてからブーンの頭にはあった。
そんな折に突如鳴り響いた、警報。
全く、何で自分の予感は悪い方にばかり当たるのか。
あまりのタイミングの良さに、苦笑せずにはいられなかった。
- 107 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 21:36:51.37 ID:ZdiYyT0a0
-
( ^ω^)「で、そんな緊急事態だってのに。何で僕はこんな所にいるんだお?」
招集がかかり、決死隊が再び集まった時。
何故かブーンと何名かのメンバーだけが、突然別の場所へと呼び出された。
理由は不明。
周りの者達も皆一様にして不安の色を浮かべている。
だが彼等はまだいい。
一番たまらないのはブーンである。
何せ、周囲にいるのは全て自分よりも高い位の者ばかりなのだ。
どう気楽に考えても、場違いな感は否めない。
- 108 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 21:39:35.07 ID:ZdiYyT0a0
-
( ゚д゚ )「よし、集まってくれたようだな」
起こっていたざわめきが一斉に治まる。
皆の視線は壇上の上、1人の男に注がれた。
ミルナ・スコッチ。
この決死隊に配属された、ただ1人の将軍。
( ゚д゚ )「こんな時にいきなり呼び出してすまない。
だが恨まないでくれ。君達には、あるプレゼントを用意した」
( ^ω^)(プレゼント?)
( ゚д゚ )「まずは紹介しよう。こちらにおられるのが、ショボン博士だ」
- 112 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 21:42:42.19 ID:ZdiYyT0a0
-
ミルナの横に、別の人影が現れる。
おおよそ軍の人間とは思えない、気力ゼロの中年男。
(´・ω・`)「やぁ。ようこそ、バーボンハウスへ」
(;^ω^)(え、釣られた?)
実はこの任務自体が壮大なドッキリでした、なんてことは流石に無く。
ショボンと言うらしいその博士は、更に言葉を続けていった。
- 113 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 21:44:43.54 ID:ZdiYyT0a0
-
(´・ω・`)「このゾイドはサービスだから、まず落ち着いて受け取ってほしい」
ブーンの前方、即ち2人が立つ壇上の奥。
堅く閉ざされていた鋼鉄の扉が、物々しい音を立てて開き始めた。
それに伴い視界に映り始める巨大な影。
それは紺色のボディに巨大な2本の牙を持つ、
彼が見たこともないような大型ゾイドの姿だった。
(´・ω・`)「うん。新型、なんだ。すまない。仏n」
( ゚д゚ )「エレファンダー。それが、こいつの名前だ」
(´・ω・`)「ぶち殺すぞ」
- 116 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 21:47:42.62 ID:ZdiYyT0a0
-
歓声は無かった。
何でこのタイミングで新型機の紹介をされたのか。
それが彼等には理解できなかったからだ。
唯1人、ブーンを除いては。
( ^ω^)「エレ、ファンダー。象型なのかお。……ん、象型?」
頭の中に1つの光景が思い出される。
以前受けた実戦テストで使われた、赤いゾイドの姿が。
(;^ω^)「もしかして、あのテストでツインホーンを使ったのは……」
( ゚д゚ )「いい点に気づいたな、ブーン上等兵。
そうだ、こいつに相応しいパイロットを選別するために、あのテストは行われたのだ」
- 118 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 21:50:14.60 ID:ZdiYyT0a0
-
大きさこそ天と地の差があるとは言え。
この2機は元となった野生ゾイドが同じ象系統、言わば後継機のようなものなのである。
操縦システムや扱い方など、似通っている点があっても不思議ではない。
( ゚д゚ )「今回君達25名には、コイツに乗って出てもらう。
ショボン博士が死力を尽くして用意してくれた機体だ。心して扱えよ」
(´・ω・`)「彼の言う通り。この子は僕の作品の中でも特に完成度が高い一品だ。
生半可な活躍じゃあ割に合わない。必死で戦ってくれ」
国のために死んでもらう決死隊のため、急遽用意されたプレゼント。
心強いのは確かだ。
だがある心配事のために、ブーンはそれを手放しで喜ぶことができなかった。 - 120 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 21:53:16.54 ID:ZdiYyT0a0
-
( ^ω^)「……1つ、聞いてもよろしいですかお」
( ゚д゚ )「ん、何だ?」
( ^ω^)「僕等の元々の愛機。彼等は、どうなるんですかお?」
彼の言葉に他の兵士達も頷く。
ゾイド乗りが己の愛機の事を心配するのは当然の話だ。
ミルナもそんな事は言われるまでもなく把握している。
( ゚д゚ )「心配は無用。 君達の相棒も既に輸送艦に積み込んでいる最中だ。
もうまもなくその作業も終わり、本土へと向かうことになるだろう」
( ^ω^)(あぁ、そう言えば面接で愛機の事について聞かれたっけ)
それを聞いてつい、安堵の溜息を漏らした。
ならば後は、愛機が逃げるまでの時間を己が稼げばいいだけだ。
歴戦の将軍は、高らかにその声を格納庫内に響かせる。
- 121 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 21:54:36.76 ID:ZdiYyT0a0
-
( ゚д゚ )「それでは諸君。出撃する前に少しだけ、話をしておこうと思う」
出撃、と言う言葉を聞いてか。
一気に皆の間に緊張が走った。
視線が再びミルナの元へと集束していく。
( ゚д゚ )「君達はこの戦いに赴くにあたって。一体何を思っている?」
生還の望みのない戦い。
否応なしに、様々な事を考えてしまう。
家族のこと。
友人のこと。
あるいはこれからの自分の運命のこと。
想いは人によって様々だ。
しかしそれには1つだけ共通点がある。
- 123 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 21:56:32.38 ID:ZdiYyT0a0
-
( ゚д゚ )「恐らく諸君等は、自らが死ぬことを前提にして考えていることだろう」
こちらの数はたった100。
対する共和国はこれから来る高速隊だけでも2000を超える。
余りにも巨大な戦力差。
幾ら楽観的に見ても、とても生きて帰れるとは思えない。
( ゚д゚ )「まぁそれは仕方がないことではある。――しかし!」
初めから死ぬと考えてしまえば。
生への執着を無くしてしまえば。
それは最早人間ではない。
いや、生き物ですらないだろう。
壊れるまで戦い続ける、ただの殺戮マシンと同じだ。
- 126 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 22:00:01.24 ID:ZdiYyT0a0
-
( ゚д゚ )「諸君はそうなりたいか?
生物であることを捨て、感情無き機械と化して、それで満足か?」
( ^ω^)(……そんなの、嫌に決まってるお)
恐らく、この場にいる全員がブーンと同じことを思った筈。
好んで機械になる変人などそうはいない。
( ゚д゚ )「当然嫌だと思うだろう? だったら1つ、肝に銘じておいてくれ」
“これは死ぬための戦いではない、生きるための戦いだ”
今までのどんな時よりも大きな声で。
ミルナ・スコッチは兵士達へ告げる。
- 127 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 22:00:50.17 ID:ZdiYyT0a0
-
( ゚д゚ )「生きて生きて生き抜いて、もう一度!
諸君等の大切な者たちと笑顔で再会して見せろ。いいな!」
- 129 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 22:03:46.26 ID:ZdiYyT0a0
-
大歓声が辺りを包んだ。
ミルナの言葉を聞いて、全ての者達が思いを新たにする。
絶対に生き抜いてやる。そう誰もが決意したのだ。
( ^ω^)(生きるための、戦い……)
無意識の内にブーンは拳を握りしめていた。
浮かぶのは無論、掛け替えのない2人の親友達の顔。
彼等の為にも。
こんなところで、死んでたまるか。
そう己を奮い立たせ。
格納庫に佇む巨象へと、足を進めていった。
- 131 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 22:05:40.40 ID:ZdiYyT0a0
-
無我夢中で駆けていた。
基地内はいつになく慌ただしい。
皆が我先にと、輸送艦へ乗り込もうとしているからだ。
ξ;゚听)ξ「何だってこんな時に見つからないのよ、アイツは!」
最初に向かった場所にブーンはいなかった。
ただ幸運にも知り合いがいたため、彼が向かったと思われる先を聞き出すことができた。
- 132 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 22:06:24.37 ID:ZdiYyT0a0
-
( ゚∀゚)『あぁ、アイツならミルナ少将に呼ばれて行ったぜ。
あっちは確か、第3特別格納庫だったかな?』
特別格納庫。
新型や実験機のために建設された、特殊な格納庫。
研究者などがそこによく出入りしているのを、彼女もよく目撃していた。
何故そんな所へ向かったのかは分からない。
分からないが、今はとにかく走るしかない。
- 133 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 22:09:24.62 ID:ZdiYyT0a0
-
ξ゚听)ξ「第3第3……あった、ここね!」
幸いにして、警備の兵士はいない。
こんな状況なのだから当たり前と言えば当たり前だが。
ツンは躊躇せず扉を蹴り開け、中に踊りこんだ。
中で出撃の準備をしていたメンバーの視線が、一斉に彼女に集まる。
ξ゚听)ξ「ブーン!」
(;^ω^)「へ? ツン?」
- 136 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 22:12:46.81 ID:ZdiYyT0a0
-
何で彼女がここにいるのか。
とっくに脱出したものとばかり思っていたが。
呆気に取られて呆然とツンを見つめるブーン。
そんな彼の心境などお構いなしに、彼女はズンズンとこちらに近づいてくる。
ξ゚听)ξ「はい、これ」
(;^ω^)「お? お? お?」
差し出された手。
その上に鈍く輝く、銀色のペンダント。
ツンが親から譲り受けたと言う、2つの装飾品の内の1つ。
(;^ω^)「こ、これはツンの――」
ξ゚听)ξ「いいから何も言わずに受け取りなさい。はい!」
(;^ω^)「ちょwwwwペンダントを腕に巻き付けんなwwwwwって外れねぇwwww」
- 140 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 22:20:39.85 ID:ZdiYyT0a0
-
雁字搦めに鎖を巻き付けられて、血の気が失せてゆく己の右腕。
どうやら少しきつくしすぎた様である。
痛いです、とっても痛いですツン准尉!
ξ゚听)ξ「よし!」
(;^ω^)「よしじゃねーよwwwwwいきなり何なんだおwwwww」
ξ゚听)ξ「………」
( ^ω^)「………ツン?」
- 141 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 22:22:04.29 ID:ZdiYyT0a0
-
ああ、やっぱり。
いくら自らを奮い立たせたとしても。
こうしていざ彼を目の前にすると、どうしても言葉が出てこない。
しかしここで何か言わなければ。
彼の運命がどうなろうとも、いつかきっと己は後悔する。
だから、勇気を出さなければ。
ξ )ξ「ブーン」
( ^ω^)「お」
本当は逃げさせたかった。
約束された己の将来を棒にしてでも救ってあげたかった。
でも最早その希望はかなわない。
よって彼に言うべき言葉は、もうこれしかない。
- 143 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 22:22:59.16 ID:ZdiYyT0a0
-
ξ゚听)ξ「お願いだから、悪戯に死のうとしないで。必ず生きて、帰ってきて」
偶然にも彼女の話の内容は、先程のミルナのそれとよく似ていた。
死ぬな、生きろ。
生きて生きて生き抜いて見せろ。
ツンに言われるまでもなく。
今のブーンの心には、以前と違い死ぬ気など毛頭無い。
( ^ω^)「わかったお、ツン。絶対にまた、帰ってくるお」
ξ゚听)ξ「約束よ? あと、そのペンダント。言っておくけどあげるわけじゃないからね。
ちゃんと返しに来なかったら、その時はもうボッコボコにしてやるからね」
(;^ω^)「うげ。こ、これは死ぬわけにはいかんお……」
- 148 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 22:44:26.76 ID:ZdiYyT0a0
-
遠くの方から爆音が聞こえてきた。
ホエールキングの離陸音だ。
どうやら既に退去は急ピッチで始まっているらしい。
ツンもそろそろ、この場を離れないと。
( ^ω^)「ツン」
ξ゚听)ξ「わかってる」
恐らく、先程の場所でドクオが自分を待っている筈。
そんな予感があっただけに、あまりのんびりとはしていられなかった。
- 149 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 22:46:14.57 ID:ZdiYyT0a0
-
掛け替えのない親友に背を向けて。
ツンは一路、行くべきところへ走りだす。
そんな彼女の背中を眺め、ブーンはぽつりと呟いた。
( ^ω^)「また今度だお、ツン」
それは本当に小さな声。
よって走り去る彼女には聞こえる筈もない。
だが偶然とは恐ろしいもので。
彼女も丁度、彼に向って同じことを呟いていた。
ξ゚听)ξ「またね、ブーン」
――共和国軍到着まで、残り1時間
to be continued
- 134 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/22(木) 22:11:06.64 ID:7ycOOTn4O
- 前に
( ^ω^)はゾイド乗りのようです
書いてた人? - 150 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/22(木) 22:49:37.04 ID:Rwi/hivwO
- 乙
次はいつ頃投下の予定?
- 151 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/22(木) 22:50:13.58 ID:qytF5CrWP
- 乙!!
ゾイド良く知らんけど楽しめたよ
続きに期待 - 153 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/22(木) 22:50:41.66 ID:PaOb96K/O
- 乙、かな
続き気になるわー
とりあえずゾイド同士の戦闘シーンにwktk
- 154 :作者 携帯 ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 22:52:37.49 ID:a/kFcqrQO
- 以上で前編終了です
長い間支援ありがとうございました
見ての通りニクシー基地防衛戦が元ネタです
レイとかは出てきませんが
次回から戦闘パートです
質問がありましたら受け付けます
>>134
( ^ω^) - 156 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/22(木) 22:55:00.77 ID:Sk84yWVu0
- >>1の一番好きなゾイドでも語って下さいな
- 157 : ◆O7VpO4QdUA :2009/01/22(木) 22:57:15.40 ID:ZdiYyT0a0
- >>150
運が良ければ明日、
無理だったら明後日か明々後日くらいになると思います。
>>156
1番と言うか、恐竜系は大体好きです(バイオ込)
あとはディバイソンとかコングとか今回の主役の象さんとか、重量系が好みかなと。