99 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 18:35:24.46 ID:TlYrpylh0

――ラウンジ高校 屋上――

(゚、゚トソン(遅いなぁ……)

寒空の下の校舎。
その屋上で、トソンは待っていた。

誰を? と問われれば、彼氏、と答える。
どんな彼氏? と問われれば、自慢の彼氏、と答える。

(゚、゚トソン(でも、もう我慢できない)

だがそんなトソンにも、不満があった。
入学式のときにされた告白から数えて、もう九ヶ月は付き合ってきた彼氏に対しての、不満が。

今までは、我慢をしてきた。
いや、見て見ぬ振り、と言う方が正しいだろうか。

言えば、嫌われるだけでは済まないかもしれない。
しかし誰かが言わなければ、何も改善されることはないだろう。
その役目は、自分自身にしか果たせないはずだ、とトソンは確信していた。

100 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 18:35:40.46 ID:TlYrpylh0

(゚、゚トソン(後悔しないように、これ以上被害者が出ないように)

決意を再確認する。

それと同時に、自分がいる屋上への扉が、開いた。

( ФωФ)「用ってなんだ? トソン」

(゚、゚トソン「……うん、あのね……」
102 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 18:36:50.38 ID:TlYrpylh0






私のあなたに対する、たったひとつの不満はね――。







(゚、゚トソン トソンの彼氏はクラッシャーのようです



,
104 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 18:39:02.44 ID:TlYrpylh0
――ラウンジ高校 校門前――

(゚、゚トソン(ついに高校生か……でも実感ないかな)

少女が立っている場所は、校門前。
視界に収めるのは、長い受験期を越えて辿りついた学び舎だ。

トソンは今日、ラウンジ高校に入学する。

('、`*川「ほら、行くよ、トソン」

(゚、゚トソン「うん」

呼ばれ、小走りになるトソン。
新しい制服を身に纏い、入学式が行われる体育館を目指す。

('、`*川「それにしても、色んな人がいるね」

(゚、゚トソン「だね」

偏差値は高めだが、入学する者の目的は様々。
それが、ラウンジ高校だった。

105 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 18:41:27.79 ID:TlYrpylh0
( ・∀・)「なーなー、帰ろうぜーギコ」

(;゚Д゚)「おいおい、初日から何言い出すんだよ」

(゚、゚;トソン「……」

('A`)「ヒトリボッチダシノウ」

('、`;川「……」

( ゚∀゚)「おっしゃああ!」

ノパ听)「おおおああああああ!!」

(゚、゚;トソン(大丈夫かなぁ……)

周囲の奇人たちに怯えつつ、歩を進めるトソンとペニサス。

106 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 18:44:41.21 ID:TlYrpylh0
 白色の校舎の角を曲がったところで、人だかりができている体育館の入り口が見えた。

('、`;川「うわ、すごい人じゃん」

(゚、゚;トソン「入るのにも一苦労しそう……」

群がる人は、道を譲ろうとはせず、自分の居場所を守るようにせめぎあっていた。

('、`*川「でもまぁ、進まないと仕方ないしね」

と言い、ペニサスは歩を進める。
人混みを掻き分け、体育館の靴箱を目指して進む。

(゚、゚;トソン「うー、やだなぁ」

トソンも歩き出す。
しかし、長身のペニサスと違い、背が低く華奢な彼女はやがて、人波に流されてしまった。

(゚、゚;トソン「いてて」

流れ着いたのは、体育館の角。
そして、そこには角にもたれている男子生徒が居た。

( ФωФ)「……」

流れていく人を、空白の空間である角から眺める男子生徒。

108 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 18:47:07.02 ID:TlYrpylh0
(゚、゚トソン(話しかけようかな……)

中学時代のように、寂しい思いはしたくない。
この時点から彼を恋愛対象として見ていた訳では無い、だが話しかけて損はないはず。
トソンの経験が、そう告げていた。

(゚、゚トソン「すごい人だね」

放った言葉――。

( ФωФ)「ん? ああ、こんなに沢山いるとは思わなかったな」

返された言葉――。

(゚、゚トソン「ホント、席に着くまで大変そう」

再度放った言葉――。

( ФωФ)「確かにな。ところで、付き合わないか?」

返された告白――。

(゚、゚トソン「うん……」

告……白?
111 :訂正>>110:2009/01/03(土) 18:50:09.98 ID:TlYrpylh0
(゚、゚トソン「え?」

( ФωФ)「なんだ?」

(゚、゚トソン「今、なんて言ったの?」

( ФωФ)「いや、だから付き合おうと言ったんだ」

(゚、゚トソン「……」

あまりに突然の事で、トソンの思考が停止する。
しばしのあと、その思考が再び動き出した。

(゚、゚;トソン「ええええ!!」

これが、二人の出会いだった。

112 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 18:52:22.21 ID:TlYrpylh0
――ラウンジ高校 トソンのクラス――

(゚、゚;トソン(結局付き合うことになっちゃった……)

入学式も終わり、高校生活初めての教室の席に着いたトソン。
考えることは、先程の出来事ばかり。

(゚、゚トソン(あんまりにも突然だったから……)

ペニサスと離ればなれのクラスになったことよりも、
新しい学び舎に足を踏み入れたことよりも、
何よりインパクトが強かった出来事。

一言二言交わしただけの男子生徒に、告白されたこと。
あまりの衝撃に叫び声をあげてしまったが、そのままOKしたこと。
それら全てが、トソンを悩ませていた。

(゚、゚;トソン(いくらなんでもおかしいよね……)

男子生徒の名前は、杉浦 ロマネスク。
大柄で、がっしりしていて、ちょっとかっこいい。
それくらいしか知らない相手が、彼氏。

113 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 18:55:09.74 ID:TlYrpylh0
(゚、゚トソン(言おう、やっぱり付き合えないって。それがお互いのため――)

(#・∀・)「なんだとてめぇ!」

(#゚Д゚)「もっぺん言ってみろやゴルァ!」

突如教室中に響く怒声。
声をあげている二人は、同じクラスの男子生徒たちのようだった。

二人の視線の先には――

( ФωФ)「何度でも言ってやる、ダサいなと」

ロマネスク――絶賛トソンの彼氏中――。

(゚、゚;トソン(何やってんの?)

さらに悩みを加速されられたトソンだが、冷静になり、

(゚、゚;トソン「ちょちょ、喧嘩はダメだって」

制止の声をあげる。

ロマネスクが関わっていたから、という訳ではなく、誰も止めようとしなかったからだ。
と彼女は自分に言い聞かせていた。

114 : ◆080mxUe5zE :2009/01/03(土) 18:59:44.23 ID:r8AbnZwaO
( ФωФ)「おお、愛しのハニーではないか」

(///トソン「ちょ、やめてよ」

そうして頬を赤らめている間にも、男子生徒たちのボルテージは上がっていく。

(#・∀・)「話聞いてんのかよ杉浦!」

(#゚Д゚)「随分余裕だなゴルァ」

まずい、と思い、

(゚、゚;トソン「やめなさいよ!」

再度制止の声を上げる。

(#・∀・)「うるっせぇよ女ぁ!」

男子生徒から浴びせられる暴言。

( ФωФ)「ああ? 今なんつったよコラ」

それまで落ち着いていたロマネスクが激昂。

(;・∀・)「え? ちょ、やめ」

知ってる、それはアイアンクローって技だ。
相手の頭を掴み、握力だけで締め上げるんでしょ?

115 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 19:01:03.88 ID:r8AbnZwaO
 そんなことを思っているうちに、男子生徒が悲鳴を上げ始める。

(メ ∀ )「うわあああ! やめてよ! やめ――ッ! ……」

男子生徒が言葉を発しなくなり、その代わりに口から泡が零れだした。
気絶したのだ、と判断した瞬間、ロマネスクはそれを投げ飛ばす。

(;゚Д゚)「ッ!?」

「「きゃ――!!」」

激しい音を立てて机が倒れ、男子生徒が床に横たわった。

(゚、゚;トソン「……」
118 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 19:02:26.65 ID:r8AbnZwaO

――これが、あなたに対するただひとつの私の不満だ。

――突然の告白も、優しく気の合うあなたを知ったなら、受け入れられた。

――でも、私以外の人に対しては加減をせずに暴力を振るう。

――そんなのって、嫌だよ。

( 、 トソン「……」

( ФωФ)「黙ってるだけじゃ何もわからんぞ?」

(゚、゚トソン「……あの、ね」

( ФωФ)「うん?」

優しく微笑みかけながら聞いてくるロマネスク。
そんな彼を愛おしく思うトソン。

119 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 19:02:44.82 ID:r8AbnZwaO
 だが、それとこれとは別問題だ、とも思う。

(゚、゚トソン「ロマってさ、私に優しくしてくれるじゃん?」

( ФωФ)「当然だろう。好きだからな、お前が」

( 、 トソン「――ッ」

トソンは胸が痛むのを感じた。
自分の事を好きでいてくれる愛しい彼を見れば、
他人に優しさをかけられない彼とのギャップがはっきりと見える。

120 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 19:03:43.25 ID:TlYrpylh0
(゚、゚トソン「じゃあ、なんで他の人には優しくできないの?」

それでも、言った。

( ФωФ)「どういう意味だ?」

(゚、゚トソン「ロマって他の人にひどいことするじゃん。
入学式の日のモララー君。
体育祭の日のジョルジュ君。
遠足の日のドクオ君。
みんな、ロマが傷つけたじゃん」

( ФωФ)「ふん。他者などそんなもんだろう?
俺は強い。だからこそ力を示す。弱い者に嘗められてはかなわんからな」

やっぱり、そう思っているのか。

(゚、゚;トソン「それ、本気で言ってる?」

( ФωФ)「本気だとも、弱肉強食とはよく言ったものだ」

(゚、゚#トソン「……ッ!!」

( ФωФ)「――ッ!?」

トソンがロマネスクを平手で打った。

121 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 19:05:03.93 ID:TlYrpylh0
(゚、゚#トソン「……」

( ФωФ)「……何をする? 痛いじゃないか」

(゚、゚#トソン「あんたが他の人に与えた痛みはこんなもんじゃないわよ!」

( ФωФ)「何を言っている? 痛みなど――!?」

トソンが殴った。
今度は平手などではなく、握りこぶしを作り、渾身の力で。

(メФωФ)「ぐ……」

それくらいしないと、わかってくれなさそうだから。

(゚、゚#トソン「少しは痛みがわかった!?」

(メФωФ)「……」

(゚、゚#トソン「あんたがいかに最低かってことが、少しはわかった!?
わかんないなら……!!」

トソンの表情が曇り、荒げていた声を落ち着かせ、言った。
123 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 19:07:13.34 ID:TlYrpylh0
(゚、゚トソン「なんとか言いなさいよ……」

(メФωФ)「……なぁ」

ロマネスクの、低く威圧感のある声。

(゚、゚トソン「何?」

自分のしたことは間違ってはいない。
だが気を悪くした彼に、モララーたちと同じ様な目にあわされるかも知れない。
トソンは覚悟を決めた、殴られても、想いだけは伝えたから。

(メФωФ)「殴られるって痛いもんだなぁ……」

だが、予想していたことは起こらなかった。

(゚、゚トソン「……そうよ、痛いのよ。殴られる方も、殴る方もね」

(メФωФ)「ああ、悪いことをしたな」

(゚、゚トソン「……」

( ФωФ)「……」

沈黙。
ロマネスクの頬は薄く赤に染まり始め、トソンの右手も同様に。

124 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 19:08:41.36 ID:TlYrpylh0
 長く続いた沈黙を破ったのは、ロマネスク。

(メФωФ)「なぁ、トソン?」

(゚、゚トソン「ん?」

(メФωФ)「俺のこと、嫌いになったか?」

(゚、゚トソン「……!」

トソンの心が震えた。
抑えてきた思いが、溢れ出す。

(゚、゚トソン「嫌いになんか、なれるわけないじゃない。
初めてロマに会って、告白されて、それで、好きになって。
人を傷つけるロマだけど、私にはすごい優しくて、惹かれて……」

自分の言った言葉に頬を染めるトソン。

125 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 19:10:15.38 ID:TlYrpylh0
(゚、゚トソン「好きだよ、ロマ。
だからもう暴力は振るわないって約束して?」

(メФωФ)「……」

ロマネスクは黙る。

(。Фω.Ф)「……」

間を置いたあと、彼の瞼から涙が溢れ出た。

(。Фω.Ф)「ごめんな、トソン」

(゚、゚トソン「バカ。あやまんのは私じゃないよ」

(。Фω.Ф)「……そうだな、みんなに謝らないとな……」

(゚、゚トソン「うん」
127 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 19:13:05.12 ID:TlYrpylh0
 ――この人が私の自慢の彼氏。

( ФωФ)「おいモララー」

(゚、゚トソン「ロマ!」

(;ФωФ)「う、モララー君」

(;・∀・)「な、なんだよ杉浦」

(;ФωФ)「いや……その、すまんかった」

(;・∀・)「は?」

(;ФωФ)「入学式のときのことだ、俺は何も考えずに……」

( ・∀・)「あー、はいはい。もう気にしてねーって」

(* ФωФ)「そ、そうか、ありがとう」

(゚、゚トソン「……ふふ」
129 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 19:16:12.38 ID:TlYrpylh0
 ――今はちょっと格好悪いけど、いつもは頼れる人なんだよ。

( ФωФ)「ジョルジュ君」

( ゚∀゚)「あ? なんだよ」

( ФωФ)「あの、体育祭のときのことなんだが……」

( ゚∀゚)「あー、悪かったな」

( ФωФ)「いや、悪いのは俺だ、すまなかった」

( ゚∀゚)「先に手をだしたのは俺だろ? お前の方が強かっただけだよ」

( ФωФ)「……そうか」

( ゚∀゚)「今度教えてくれよな、喧嘩」

( ФωФ)「お、おお。任せておけ」

(゚、゚トソン「……ロマ」

(;ФωФ)「あ、いや。喧嘩はダメだ、うん」

(;゚∀゚)「は?」

130 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 19:17:32.22 ID:TlYrpylh0
 ――素直で、一途で、それでいて不器用で。

( ФωФ)「ドクオ君」

('A`;)「ひ、ひいいい! このフィギュアあげるから許してー!」

(;ФωФ)「く、くれるのか、ありがとう」

('A`;)「あれ?」

( ФωФ)「遠足のときはすまなかったな」

('A`)「えっと……ああ、ふざけんなよお前」

( ФωФ)「……」

('A`)「まったく、DQNはこれだから困る。俺ら喪男をなめんなよ」

( ФωФ)「……」

('A`)「まぁ、許して欲しいってんならそこで土下座すれば許してやるよ」

(#ФωФ)「……」

('A`)「……ごめんなさい」

(゚、゚;トソン「ちょ! ロマ!」

( ФωФ)「……ごめんなさい」

131 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 19:17:52.47 ID:TlYrpylh0
 ―― そんな所も全部、好き。

( ФωФ)「なぁ、トソン」

(゚、゚トソン「ん?」

( ФωФ)「これからも、よろしくな」

(゚、゚トソン「……うん!」
133 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 19:20:33.87 ID:TlYrpylh0

冷え込む空気。
照らす月明かり。
――今年の冬も、まだまだ冷え込みそうだ。



(゚、゚トソントソンの彼氏はクラッシャーのようです
fin


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