川 ゚ -゚)謳われない戦争のようです
3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/12(日) 19:20:20.21 ID:mJxWSdmd0
[サンド島空軍基地 10時15分]

俺の初任務からもう二日が経つ。
極度の緊張状態が続いたことによる心身の疲労はもう取れた。

事情を知る者は、ご苦労だったな、と言った労いの言葉をかけてくれるが、
そうでなく何が起こったかをひたすら聞いてくる整備兵などもいた。

手元の新聞記事に目を落すが、戦争についての記事など一切無く、
どこぞの政党の議員が不祥事を起こしただとか言う下らないスキャンダルで
埋め尽くされているのを見て、俺は思わず笑ってしまった。

仲間から貰った派手な原色で彩った袋に詰め込まれたクラッカーを、
一つ手に取り口の中へ放り込む。少し俺には塩が多い気がする。

軽く顔をしかめながらデスクのカップに手を伸ばし、
冷めかけている珈琲で無理やり流し込めば、まだイケる味だ。

新聞記事から目を上げ、搭乗員室を見回す。

雑談に励む者や、俺と同じように何か読み物を読む者といったように
それぞれが自分の好きな事をしているのが見て取れる。

           ・ ・ ・ ・
やはり思うのは、まだ平和だ、ということ。


4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/12(日) 19:21:24.82 ID:mJxWSdmd0





川 ゚ -゚)謳われない戦争のようです
Mission 2 OPEN WAR
  《開戦》






5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/12(日) 19:23:06.93 ID:mJxWSdmd0
_
( ゚∀゚)「おい、ブービー暇そうな顔だな」

そう言って声をかけてきたのは、チョッパー――ジョルジュ・H・ダヴェンポート少尉――だ。
同じ編隊に入ってから数日しか経っていないが馴れ馴れしい。

だが彼の話は面白い。
誰かの言葉を借りればそれは漫談のようで、俺はコイツと会話するのは好きだ。

(`・ω・´)「まあ、あれだけのことがあった後だからな。余計だ。」

別にいつも通りの日常なのだ。
だけど、俺は一度非日常を味わってしまった。
一度麻薬に手を出した人間はもう一度その快感を得ることを欲するという。
俺はまさにそんな状態なのかもしれない。
あの空戦での俺は、自分で言うのも難だが、生き生きしていたと思う。
_
( ゚∀゚)「にしても、もう基地中の連中がブービーって呼んでるよな」

そのことに関しては、軽く泣きたい。
隊長からつけられた不名誉なあだ名はすっかり広まってしまった。
もっとも、チョッパーがそこら中の人間に吹聴したのだ。殴ってやろうか。

(`・ω・´)「お喋り小僧チョッパーというのも俺は中々気に入ってるぞ」
_
(;゚∀゚)「それは勘弁してくれ」

俺たちはハハハ、と笑いながら珈琲を啜った。
7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/12(日) 19:25:14.61 ID:mJxWSdmd0
だが、そんな呑気な会話も中断される。

( ・∀・)『至急、ウォードッグは会議室へ集合。各関係者も同じく集合だ。』

基地内放送の声は、ハミルトン大尉だ。
ということは何を意味するかと言うと、それは俺らの“任務”が出来たということになる。

やれやれ、と言ってチョッパーはだるそうに立ち上がった。
その顔を見る限りは、別に嫌がってるわけではないみたいだ。

やはり、お前も同じかと思いながら、俺も立ち上がる。

視界の隅に、ソファーに寝転がって赤い表紙の本を読んでいたナガセ少尉が立ち上がるのが見えた。
隊長の姿は見えないし、どこにいるかも見当がつかない。

他のパイロットからは、頑張れよブービーと声をかけられた。
彼らだって雑務に追われているはずだ。

狭い廊下をチョッパーと並んで歩くと、
_
( ゚∀゚)「またどっかから侵攻でもあったんだろうな」

恐らく、そうだろう。
敵機に撃墜されるのは御免だが、やはり同じ人間を殺すのは後ろめたい。

だが、空を命がけで翔るのは俺を奮い立たすのも事実だ。
9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/12(日) 19:29:20.59 ID:mJxWSdmd0
会議室の中には、例のでっぷり太った司令官を始めとするこの基地のお偉方や、
AWACSのサンダーヘッドなど、既に顔を合わせた人物ばかりだ。

やはり隊長の姿は見えない、と思ったら、

(,,゚Д゚)「よう、ブービーとお喋り小僧。」

部屋の後ろから彼の声が聞こえた。
その無邪気な子供のような声は毒を含んでいるのを俺は知っている。

ナガセ少尉が部屋に入ってくるのを確認したと見えた副指令補佐は切り出した。

( ∵)「このサンド島沿岸に、国籍不明の不審船が接近するのを レーダーが捉えた。」

国籍不明機の次は国籍不明船か。
なかなか敵はジョークのセンスがあるみたいだ。

( ∵)「また、当該船舶から無人偵察機とみられる物体が射出されたことも確認されている。」

無人偵察機が出てくるのは予想外だった。

( ∵)「偵察活動を終えた無人偵察機は、回収されるために不審船へ戻るものと予測される。
    回収される前に無人偵察機を捕捉、破壊し、その偵察活動を阻止せよ。」

人が乗っていないだけ、やりやすいだろうと思った。

( ∵)「なお、船舶への攻撃は許可あるまで禁ずる。」

やけにはっきりとした口調で言った。それと同時に俺らを上の連中方が睨む。

10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/12(日) 19:33:11.61 ID:mJxWSdmd0
ふむ。
まだこいつらは隊長の命令違反と俺らの行動について苛立ちを覚えているみたいだ。

( ゚∀゚)「よし、ブービー。例のアレだ。」

そう言ってチョッパーが取り出したのは紙切れとペン。
3番機が4番機かを決めるとでも言うのだろう。

どの道俺は編隊内のどこにいても“最後尾”というあだ名を貰ってる。

( ゚∀゚)「……さあ、どっちか選べや」

彼の手のひらには小さく丸まった紙が二つ。
俺は前回と同じ右を選んだ。
編隊内での位置はそれぞれの役割が若干異なってくるが、俺はやることをやるだけだ。

紙を開くと、3と書いてある。

(;゚∀゚)「げえっ、俺が今回はケツかよ!」

そんな風にチョッパーが言うと、後ろから忍び寄って来た隊長が、

(,,゚Д゚)「なあに、優しくしてやるさ。」

意味深な発言を残して部屋を出て行った。
ナガセ少尉がそれに続いたのを見て、俺も続く。
悪態をつくチョッパーも渋々といった表情でついて来た。

11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/12(日) 19:35:51.49 ID:mJxWSdmd0
離陸した時の感覚が俺は好きだ。
胃が浮くような、ふわっとした不思議な感触。

<<高度制限を解除する>>

その指示を聞いて俺は隊長と同じ高度まで上げる。
後ろを覗くと、チョッパーが上がるのが見えた。

今回乗る機体もF-5Eだ。
俺はレーダー上に例の不審船及び無人偵察機が移りこんでいるのを確認する。

空域はこのサンド島基地のすぐ傍だ。故に下手な行動は出来ない。

しばらく隊形を整えて飛行するが、サンダーヘッドからの通信が入る。

( ゚д゚ )<<情報収集船に戻る無人偵察機あり。回収を許すな。空中で撃ち落せ。>>

いわれなくても俺はやる気だ。
いつになく攻撃的なサンダーヘッドの美声はエンジン音に慣れている耳に、
一種の潤いをもたらせてくれる。言っていることはつまらないが。

(,,゚Д゚)<<あいよ。聞いたな、野郎ども>>

川 ゚ -゚)<<2番機了解>>

そういえば俺が今回は3番機だったなと思い出す

(`・ω・´)<<3番機了解>>

( ゚∀゚)<<ちぇっ、4番機了解>>

12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/12(日) 19:39:53.45 ID:mJxWSdmd0
(,,゚Д゚)<<よし、ターゲットは無人偵察機だ。全部落すぞ>>

そう言って、水平線に対してなおよそ45度に機体を傾けて、最も近い目標へと進路を取る。
レーダーから確認出来る限りは、無人偵察機は単調な軌道をしている。
これならば撃ち落すのに時間はかからないだろう。

まあ、それだけで終われば、だが。

(,,゚Д゚)<<船には発砲するなとのお達しだ。いいな?>>

( ゚∀゚)<<もし流れ弾が当たったらどうするんでありまするか隊長殿?>>

こんなときでもふざけていられる奴は三種類のパターンがある。
馬鹿な奴、池沼の奴、KYな奴だ。
彼は――

(,,゚Д゚)<<全く、世話が焼ける野郎だ>>

隊長の声から本意を汲み取る限りは――まだチョッパーは見放されてはいないだろう。

そんなこんなで加速している機体のコックピットからは、目標の無人偵察機が視認できた。
一定の速度で飛行するそれは、いつだかやったゲームのキャラのようだ。

(,,゚Д゚)<<ブービー!お前のお手並みを拝見させてもらうぞ!>>

やれやれ、どうやら俺は隊長の強化指定選手のようだ。

(`・ω・´)<<言われなくとも>>

それだけ伝えて、操縦桿を倒し、目標を標準の中心に収める。

13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/12(日) 19:42:46.43 ID:mJxWSdmd0
敵機との距離が近づいていく。
1000…900…800…ミサイルが目標をロックオンする。

これならば避けられることはないだろう、見切り発車でミサイル発射。
チョッパーと会話をしているうちに何だか下らないことを思いついてしまう癖が
どうやらうつってきたみたいだ。

機体の中心部にAIM-9の直撃を受けた偵察機が爆発するのを確認、
直後に機体の速度を下げ、急旋回。

緩やかな雲が浮かぶ空が移り変わっていく。

すぐそばを飛行する偵察機をレクティルの中心部にそっと捉える。
操縦桿を前後左右に細かく操作しながら、機銃を正確に相手へと向ける。

低速で飛行する的に向けて、トリガーを引く。
放たれた20mm弾は金属の装甲をひしゃぎ、中の機関部分すら貫く。

行動制御が出来なくなった目標は左、右と揺らいだ後に、
まっ逆さまに海へと落ちていった。

(,,゚Д゚)<<ブービー、どうだ。この位なら楽勝だろう?>>

(`・ω・´)<<余裕です。>>

(,,゚Д゚)<<こんなチョロい機動にてこずってちゃあ駄目だ。さっさと片付けるぞ>>

14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/12(日) 19:50:55.93 ID:mJxWSdmd0
各機がそれぞれの目標へ向けて加速する。
下には例の不審船があるのを宙返りしたときに見た。

川 ゚ -゚)<<恐らく本土にも偵察の手が>>

(,,゚Д゚)<<……そうじゃねえことを祈りたいがな。>>

俺もそうは思うがそれは無理だろう。
こんな極地の基地にすら偵察機なんだ。きっと本国にだって向かってるに違いない。
もしかしたら既に情報は伝わっている可能性だってある。

( ゚∀゚)<<撃墜スコアを競うってのもありかな?>>

(,,゚Д゚)<<無人機だからって、手を抜いたら承知しねえぞ!>>

(;゚∀゚)<<おー、怖い怖い>>

そう言いながらチョッパーがミサイルを撃つのをレーダーで確認する。
口調さえふざけてはいるが、彼も実力者なのは確かなのだ。

(,,゚Д゚)<<こんな奴らとの空戦は願い下げだ。>>

隊長はそう言って偵察機の間を潜り抜け、不審船の上空へと進路を取る

(,,゚Д゚)<<俺が警戒する。お前たちはあの玩具と遊んでな>>

玩具という表現に噴き出してしてしまったが、例えとしては適切だと思う。

15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/12(日) 19:53:36.15 ID:mJxWSdmd0
( ゚∀゚)<<標的射撃でもしてるみたいだぜ。>>

俺が3機目の無人偵察機を機銃のレクティルに収めた時にチョッパーは言った。
それを聞き流しながら、汗ばむ手でトリガーを絞る。

弾丸が当たり、距離が近づきすぎたので宙返り。
海と空が入れ替わり、重力が俺の身を引きずる。

レーダーで確認するとまだ無人機は飛行していた。
自分はつめが甘いようだ。

すぐさま機首を瀕死なはずの玩具へと向けて、標準をロックする。
ミサイルの残弾数を確認しつつ、ミサイルを発射。

ふらふらと空を飛んでいる玩具は鉄屑となる。

( ゚∀゚)<<人が乗っていないのが救いだな。ブービー>>

(`・ω・´)<<ああ、気が楽だ。>>

最初の任務では人が乗っていたから、僅かに躊躇いが生まれた。
それは命取りに成りうるが、今回はそうではない。

( ゚∀゚)<<これなら嫌な気分にならなくてすみそうだ。>>

16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/12(日) 19:56:27.08 ID:mJxWSdmd0
川 ゚ -゚)<<FOX2!>>

俺が撃墜したのは3機。
チョッパーが2機。エッジは俺と同じ3機。
最後の一機を仕留めにかかったのは彼女。

放たれたミサイルはあっと間に無人機との距離を縮め、破壊する。
しかし、なぜかその無人機はふらりと直前で不審船とは反対方向に進路を向けた。

ミサイルは赤外線探知の追尾型のため、難なく目標の機動に合わせ、
再び狙いを済まし、予定通りに撃破した。

( ゚∀゚)<<妙な避け方しやがる。>>

川 ゚ -゚)<<無人機を全て撃墜した。>>

俺とチョッパーは不審船の上空を旋回する隊長機へと加速する。

( ゚д゚ )<<こちらサンダーヘッド。敵機の撃墜を確認した――ん?>>

嫌な予感がする。

(;゚д゚ )<<警告!国籍不明機多数の接近を確認>>

レーダー上でも確認出来る。最悪のケースだ。

(,,゚Д゚)<<このあいだと同じ方向か?>>

隊長は存外冷静に問う。


17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/12(日) 20:00:58.99 ID:mJxWSdmd0
(;゚д゚ )<<方位280、同じだ!>>

やはり、これが狙いだったようだ。
敵機の数は――確認出来るだけでも4機以上。

(,,゚Д゚)<<向こうはどれだけの数を国境に揃えてんだ。こっちはこの4機っきりだぜ。>>

隊長はそう言って基地があるほうへと機首を向ける。
激しいエンジン音が空気を振動させた。

(,,゚Д゚)<<そら、撤退しろ。こっちだ。>>

2番機がすぐに後ろを追うのが見えた俺は、同様に加速。
何しろこっちは物量差で圧倒的に不利だ。

(,,゚Д゚)<<俺のケツについて来れるか?>>

川 ゚ -゚)<<後ろは守ります。>>

(,,゚Д゚)<<お前、ユーモアのセンスがもう一つだな。>>

エンジンの最高出力が出るまでひたすら加速する。
しかし、敵機は確実に俺たちとの距離を縮めていた。

まずい。逃げるだけではまずい。
19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/12(日) 20:04:24.97 ID:mJxWSdmd0
(;゚∀゚)<<間に合わねえよ!追いつかれる!>>

チョッパーは今回最後尾なのだ。

(,,゚Д゚)<<今日のどん尻はお前か、ロックンローラー。待ってろ、助けてやる。>>

そう言って前方の隊長機が反転、俺の上を追い越していく。

(;゚∀゚)<<今日はくじ引きで負けたんだあぁあ!>>

悲痛なチョッパーの叫び声が気になるが、
それよりも、もう敵機は俺らのすぐ傍まで迫っていた。

ミサイルの射程距離にまで、もうすぐ入ってしまうだろう。

そして隊長は言った。

(,,゚Д゚)<<お前らも見てねえで、降りかかる火の粉はさっさと払え。>>

(;`・ω・´)<<え?>>

思わず反射的に聞き返す。

(,,゚Д゚)<<ブービー、しっかりしろ。つべこべ言わず、やるんだ。>>

これは、いつだかと同じ、攻撃許可か?

20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/12(日) 20:07:30.61 ID:mJxWSdmd0
(;゚д゚ )<<バートレット大尉!>>

流れを敏感に感じ取ったであろうサンダーヘッドが声を荒げる。

相手のミサイルがこちらへ向けて飛んできた。
俺はそれを速度を急激に落し、急旋回して回避する。

どうやら敵はやる気らしい。
このような状況で誰が一番適応力が高いかというと――

川 ゚ -゚)<<攻撃確認、反撃します。>>

そう、彼女だ。

川 ゚ -゚)<<エッジ、交戦。>>

隊長が続く、

(,,゚Д゚)<<ハートブレイク・ワン、交戦>>

(;゚∀゚)<<げえ、チョッパー、交戦!>>

(`・ω・´)<<……ブレイズ、交戦!>>

戦いの火蓋は切って落された。

21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/12(日) 20:09:34.26 ID:mJxWSdmd0
(;゚д゚ )<<ウォードッグ!交戦許可はまだ出していない!>>

サンダーヘッドがその美声で俺たちを止めようとする。
だが、俺らの隊長がそんなに聞く耳を持つはずがない。

(,,゚Д゚)<<ブービー、全機落すぞ!>>

俺は隊長の声を聞きながら、俺へミサイルを放った敵機を追う。
相手はいきなり逃げから反転して攻撃機動を取ってきた俺に対して背を見せた。

それを見逃さない。
急旋回すれば、どうしても速度は下がる。
先に加速体制に入っている俺は追跡を振り切ろうと回避機動する敵機をしっかり捉える。

ドッグファイトで最も致命的なのは敵に後ろを取られることだ。

誰かが言った言葉を反芻しながら、俺は一気に距離を縮める。

<<っく……振り切れない!>>

敵の無線を聞きながら、俺はミサイルの届く距離にまで迫った。
相手は半ば諦めたのだろうか、急激な回避の連続で疲労したのかは分からないが、動きが鈍くなる。

ミサイルを放った。
それは僅かに蛇行しながらロックオンした目標を正確に追尾する。
更にもう一発放つ。

最初のミサイルが左翼に着弾した敵機は大きく機体のバランスを崩し、速度が遅くなる。
そこ目掛けて二発目のミサイルが突き刺さり、激しい爆発と共に空中分解した。
23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/12(日) 20:11:58.05 ID:mJxWSdmd0
(`・ω・´)<<敵機撃墜した!>>

(#゚д゚ )<<交戦許可無しで撃墜しただと?何を考えているんだウォードッグ!>>

交戦許可だとかそんなチャチなもんのせいで落されるのは勘弁だ。

<<グラニード5が落された!相手もやるぞ!>>

そうだ。
俺らはただのひよっこじゃないんだ。

ルイルだとかいう奴を俺は堕としたらしいが、一々感傷的になっている場合ではない。
すぐに次の目標を探しつつ、レーダーを確認して敵機に狙われないようにする。

自分で言うのも難だが、この空気に呑まれずにやれているのは中々だと思う。
 
川 ゚ -゚)<<隊長の後ろに一機。撃墜します。>>

……やはり、彼女は素晴らしい腕を持っている。

(,,゚Д゚)<<ほいよ。やるじゃねぇか>>

隊長がそういい終わる前に、彼女の機体からは鉄槍が放たれていて、
隊長機の後ろには炎と煙をまとった棺桶が速度を失ってまっ逆さまに落ちていった。

24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/12(日) 20:13:09.17 ID:mJxWSdmd0
<<こちらグラニード3!!駄目だ!撃墜され――>>

パイロットが言い終わる前に強烈なノイズが入る。
旋回しながらナガセ少尉が撃墜した敵機を見ると、海へ落ちる前に爆発していた。

(`・ω・´)<<ナガセ少尉の敵機撃墜を確認>>

(#゚д゚ )<<ウォードッグ……!!>>

サンダーヘッドが目の前にいたら間違いなく殴られているだろうが、
やられたらやり返すのは基本だと俺は思う。
子供か、と言われれば否定は出来ない。

川 ゚ -゚)<<国籍は……やはり分からない。>>

機体の国籍情報は不明だ。
しかし、あの方角から二度も来たんだ。
誰だってもう予想はついているだろう。

川 ゚ -゚)<<また以前の戦闘機なの?>>

(,,゚Д゚)<<……>>
( ゚д゚)<<……>>

ナガセ少尉の問いに隊長やサンダーヘッドは応えなかった。

25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/12(日) 20:15:39.25 ID:mJxWSdmd0
<<敵増援無し、早急に駆逐せよ>>

<<機体4。2日前と同部隊と推測>>

こちらの情報は僅かに相手側に伝わってるらしい。
何よりマズイのはこちらには増援が全く来ないということだ。

戦闘機の数自体も少ないサンド島基地には、搭乗員も圧倒的に不足している。
厳密に言えば、機体を動かせる人間はいる。
しかし、それはあくまで演習のみであって、実戦に参加するとなれば……
サンド島基地はまた更に戦闘機の数を減らすことに繋がるだろう。

(;゚∀゚)<<どこから来たんだ?こないだの奴らの仲間か?>>

なんと、チョッパーは未だに現状を理解していないみたいだ。
これではお調子者というより、ただの馬鹿なのではないか。

レーダーを確認する。4機編隊が二つ。
先ほどの敵の通信は、どうやら敵の増援だったみたいだ。

(,,゚Д゚)<<また来たな。今度はしっかりやれよ>>

隊長の激励とは言えない言葉を聞きながら、
俺は操縦桿を握る手に力を込め、機首を近くの敵機へと向ける。


26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/12(日) 20:17:12.80 ID:mJxWSdmd0
<<低空に誘い込め。こちらでも引き受け可能だ。>>

<<了解。>>

敵の通信を見る限りは、こちらを撃墜するのは容易に考えているらしい。
舐められたものだ、と思うし、実際はそうなのかもしれない、と不安もよぎる。

( ゚∀゚)<<よっぽど俺たちの国のことが知りたいらしいな。>>

(,,゚Д゚)<<チョッパー、見物料を頂いて来い。>>

( ゚∀゚)<<言われなくてもきっちり取るぜ>>

この二人の掛け合いは実に息が合っている。
口下手な俺には羨ましいと思うところもあるが、
何も戦闘中にやらなくてもいいのではないか。

そう考えていると、敵機にロックオンされたことが、アラートで分かる。
俺は舌打ちをしながら、追っていた敵機を諦めて、後ろの敵に意識を切り替える。

相手は射程距離に入っていないにもかかわらず、機銃を撃ってくる。
余程のことが無い限り、当たることはないだろう。
しかし、“撃たれている”というのは非常にプレッシャーになる。

相手は空戦に慣れているな、といった感想を抱く。

27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/12(日) 20:19:47.25 ID:mJxWSdmd0
(;゚∀゚)<<くそっ、あたらねえ!>>

チョッパーの焦っている声がする。

(,,゚Д゚)<<繊細さが足りねぇんだよ、ナガセを見習え。>>

隊長機から放たれた機銃によって敵機の羽がもげ落ちていくのが見えた。

後ろの敵は中々振り切れない。
先ほどから思いつく限りの回避手段となるマニューバを繰り返してはいる。
しかし、後ろの奴はそれにしっかりと食いついてくる。

敵の増援部隊のエースだな、と本能的に察した。
他の敵も動きはいいが、コイツはずば抜けている。

これは下手すれば落される。
いや、相手からすればもう落すつもりだろう。

(;`・ω・´)<<………っく……>>

何度も加速、減速、旋回。
当然体は悲鳴を上げ、声が漏れる。

相手はこちらを生かさず殺さず、距離を一定に保ちながら、
確実に仕留められる時が来るのを狙っている。
30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/12(日) 20:22:20.31 ID:mJxWSdmd0
(,,゚Д゚)<<やれやれ、ブービー。そいつは俺に任せな>>

隊長が静かに言った。
有難いと思ったし、同時に自分が情けなくなった。

俺の後ろの更に後ろに隊長の機体が回り込んだのがレーダーで見えた。

<<ハートのエースとやらか……>>

(,,゚Д゚)<<俺から逃げ切れると思ってんのか?>>

<<上等だ。お前の噂はかねがね聞いていたからな>>

隊長にロックされた敵は俺へ向けていた機首を海へと向けた。
俺はその隙に一気に加速し、距離を取る。

隊長がフォローしてくれるのが遅かったら、
俺は間違いなくあの場で綺麗な花火を皆に見せることになっていただろう。

(;゚∀゚)<<あいつ俺の正面をかすめたぞ!>>

チョッパーがあげた声を聞きながら、俺は標的を定めるために旋回する。

川 ゚ -゚)<<やはり無人機とは挙動が違う。>>

俺はさっきまで標的射撃をしていたのを思い出すと、
レーダーに目を落した。

31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/12(日) 20:23:50.96 ID:mJxWSdmd0
表示では、チョッパーが二機に追われていた。
 _
(;゚∀゚)<<畜生、あいつ俺より腕が立つ!>>

チョッパーがバレルロールをするのがガラス越しに見えた。
俺はそれを確認しながら前方の敵機へと近づく。

こいつは誰かから既にプレゼントを貰っているようで、
右翼から細く出ている煙が機体の動きに合わせてゆらゆらと揺れていた。

それを細めた目で見つめながら、ピッチを調整し、加速。
アフターバーナーが火を吹き、機体の速度は急激に上がる。

<<こちらグラニード4!ロックされた!被弾していて回避出来ない!>>

俺の標的は悲痛な声を上げるが、そこは感情を押し殺してミサイルを発射。
制御が利かない機体を落すことなど放たれた槍には容易なことなわけで、

<<ベイルアウト出来ない……終わりだ……すまない、し>>

最後の一言は聞かなかった。
誰かへ向けた遺言は届けられることは無いだろう。

申し訳ないけどこれ、戦争なんだよ。

32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/12(日) 20:25:08.38 ID:mJxWSdmd0
川 ゚ -゚)<<チョッパー、大丈夫?>>

チョッパーはまだ敵機に追われているようだった。
二機となるとカバーが利くため、回避はより困難になる。

<<落伍した一機に攻撃を集中しろ。>>

これはつまるところチョッパーを撃墜をしろということだ。

(;゚∀゚)<<くそっ、ブービー!早く助けやがれ!>>

(,,゚Д゚)<<ブービー、ロック野郎を助けてやりな。>>

相手のリーダーと追いかけっこを続ける隊長が言った。
何だかいまいちやる気にならないが、仕方が無い。

減速して操縦桿を横に倒す。
機体は横に回転して、チョッパーの逃げる方向へと向けた。

残弾数を確認。
ミサイルがあと4発と機銃はまだ十分だ。

コイツはガンで仕留めようなどと考えている俺は、
まるで自分ではないくらい冷静だ。
34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/12(日) 20:26:16.13 ID:mJxWSdmd0
(;゚∀゚)<<……っち>>

チョッパーの舌打ちを聞きながら、意識を前方の敵機へと向ける。
一定の距離を保って飛行している敵機は今にもチョッパーを落すだろう。

それより前にあの二機を撃墜しなくてはならない。
隊長も手伝ってくれればいいのに、と思ったが彼もそれどころではないはずだ。

川 ゚ -゚)<<チョッパー、応答して。>>

(;゚∀゚)<<取り込み中だ、後にしてくれ!>>

(`・ω・´)<<慌てるんじゃない。今助ける。>>

前方のチョッパー機が減速、急旋回。
それにつられて、敵機も、その後ろの俺も後を追う。

(;゚∀゚)<<脳みそが片寄りそうなくらい旋回してる!>>

(#゚Д゚)<<喚く元気があるなら敵を落とせ!>>

隊長の怒声が飛ぶ。
チョッパーの舌打ちが聞こえたが、それはあっという間にジェット音にかき消された。


35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/12(日) 20:27:41.35 ID:mJxWSdmd0
ジョルジュを追うために旋回している敵機をレクティルに収め、自動で照準がロックされる。
距離があるため、AIM-9では更に近づかなければ無駄撃ちになってしまう。

F-5の最大出力目掛けて一気にスロットルレバーを上げる。
Gが全身にかかるが、一瞬でそれは気に留めるほどではなくなる。

(`・ω・´)<<ブレイズ、FOX2!>>

発射ボタンを押すと、炭酸飲料の蓋を開けたような音がして、鉄槍が放たれる。

<<グラニード2、ブレイク!>>

敵機が高度を急激に上げ、誘導ミサイルを振り切ろうとする。
計算済みだよ、回避されるのは。

速度を落とした敵機をガンのレクティルに合わせ、速度を保ったまま急接近する。

<<つ、突っ込んで来たぞ!>>

残弾数は少ないし、確実に仕留めていきたい所だ。
トリガーを慎重に引き絞る。

ダダダダ、と一昔前の世代から使われている機関銃は火を噴いた。

36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/12(日) 20:29:11.17 ID:mJxWSdmd0
何発かが高高度にいた敵機の右翼とエンジンをもぎ取り、速度とバランスを制御出来なくなった敵機は失速する。
俗に言うきりもみ落下をしながらその機体は俺の視界から消えていった。

(`・ω・´)<<敵機撃墜>>

まだ一機がチョッパーを追っているが、自力で何とかするだろう。
少し息をついて、強張る体をリラックスさせたい。

(#゚Д゚)<<息ついてる場合か!まだあるぞ!>>

やれやれ、どうもそうはいかないらしい。

川 ゚ -゚)<<エッジ、FOX2!FOX2!>>

レーダー上からまた敵の反応が消え、視界の隅に炎上する機体が映る。

川;゚ -゚)<<一体、何が目的で……?>>

敵機は残り2機。
一つはチョッパーのケツを追いかけている奴と、もう一つはナガセから必死に逃げ惑っている奴。
この編隊の中で間違いなく頭角を現しているのはナガセ少尉だ。二番機なだけある。
隊長の人員を選ぶセンスは間違いなく一流なのだろう。

37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/12(日) 20:31:48.28 ID:mJxWSdmd0

(;゚∀゚)<<よし、何とか後ろに回りこめた!FOX2!>>

敵機は残り少ないし、俺を狙っている機体もいないので、適当に空中を旋回する。
チョッパーが敵機に見事にミサイルを命中させたのが見えた。
タンク部に当たったらしい、轟音を辺りに響かせ、爆散した。

川 ゚ -゚)<<敵機追い詰めています。>>

(,,゚Д゚)<<了解、確実に仕留めろ。>>
  _
(;゚∀゚)<<あのまま燃料切れまで逃げ切ってやろうかと思ったぜ>>

(`・ω・´)<<繊細さが足りないんだよ。ナガセ少尉を見習え>>

(#゚∀゚)<<言ってろ。>>

どうやら今回も生き残れたみたいだ。
レーダーから最後の敵機を表す印が消える。

( ゚д゚ )<<……全ての敵機の撃墜を確認。>>

サンダーヘッドはどうやらお怒りらしい。何に対してなのかは分からないし、知るつもりもないが。

38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/12(日) 20:33:34.65 ID:mJxWSdmd0
指示が出るまでは、退却も出来ない。
少しの間、勝利の余韻に浸りながら空の散歩を楽しもう。

(,,゚Д゚)<<……警報が解除にならない。引き続き対空警戒を怠るな。>>

警報は解除されてはいないが、なんてことはない。
どの道俺らを狙える敵機はこの領域にはいない。

旋回していたナガセ少尉の機体が、僅かにあの船に近づいた。

(`・ω・´)<<ナガセ少尉、あまりそっt>>

俺が言いかけたときだった。
船舶に積んである対空兵器と思われる箇所からミサイルが射出される。

それは真っ直ぐにナガセ少尉の機体へと突き進む。

(#゚Д゚)<<気をつけろナガセ!敵は下にもいるぞ!>>

川;゚ -゚)<<なっ……>>

ナガセ少尉がアフターバーナーを全開にしてミサイルから遠ざかろうとする。
蛇のようなマニューバでミサイルの軌道をぶらそうとするが、赤外線探知のミサイルはしつこく追いかける。
このままでは、ナガセ少尉は落とされる……。
40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/12(日) 20:39:19.87 ID:mJxWSdmd0
刹那、俺の機体を高速で横切る機体が見えた。
一瞬の出来事に俺が見えたものは、ハートのエース。

隊長機は、それこそ最高速度でナガセ少尉と、ミサイルの僅かな隙間を通る。
赤外線探知のミサイルは、近づいた相手に標的が自動的に変更。

隊長はすぐに期待を旋回、宙返り。
ミサイルを振り切ろうと回避するためのマニューバを繰り返す。

(#゚∀゚)<<何をッ……!>>

近すぎた。
いくら隊長でも、この距離では避け切れなかった。

この光景が、事実だと思いたくなかった。。
隊長の機体が、火を吹いた。

川 ;-;)<<隊長!!>>

ナガセ少尉の悲痛な声が空っぽになっている頭に響く。


41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/12(日) 20:42:39.95 ID:mJxWSdmd0
(#゚Д゚)<<馬鹿ッ!涙声なんか出すんじゃねえ!>>

隊長のいつもの怒声。

(,,‐Д‐)<<……ちょっくらベイルアウトするだけだ。>>

この海上で、あの損傷からのベルトアウト?生還する確率が100%だと言い切れる訳が無い。
それでも、隊長はいつものおどけた調子の声で続けた。

(,,‐Д‐)<<機体なんざ、消耗品。搭乗員が生還すりゃ大勝利だ。>>

(;`・ω・´)<<た、隊長!>>

思わず声を出す。
ここで、この人を死なせるわけにはいかない。
この人が、ここで死ぬはずが無い。

(,,゚Д゚)<<……救難ヘリと俺の予備機の整備の手配、頼んだぜ。>>

(;゚∀゚)<<隊長ッ!>>

――隊長の機体は、火を噴き、煙を上げたまま、眼下に広がる大海に消えた。

42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/12(日) 20:44:17.11 ID:mJxWSdmd0
(#゚∀゚)<<畜生ッ!>>

チョッパーの声は、未だ思考が止まっている俺の頭に入ってこない。
隊長が、目の前で墜とされた。その事実だけが酷く俺の思考を蹂躙する。
俺らは、言葉を失くす。機体は意味もなく宙を旋回する。

――ザザッ
通信が入るときの、ノイズ音。

(#゚д゚ )<<警報!警報!>>

サンダーヘッドの怒声。

(#゚д゚ )<<ウォードッグ全機、至急基地に帰還!>>

馬鹿野郎、隊長を見捨てる気か。

川 - )<<……救助ヘリの到着がまだです。>>

そうだ。何故捨て駒の俺らを帰還させる。何の理由で?だが、俺が問う前に、答えは帰ってきた。

(#゚д゚ )<<救助隊に任せろ!基地で燃料弾薬を補給して再発進!>>

間が空き――

(#゚д゚ )<<敵は宣戦布告した!>>

43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/12(日) 20:45:31.76 ID:mJxWSdmd0


                           
                     
               MISSION ACCOMPLISHED
                     AND NEXT MISSION COME SOON...      
                  
                    



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