Mission 0

 

1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/11(日) 23:22:31.11 ID:CXu6nWv90
15年前、戦争があった。

いや――

戦争ならば、遥か昔から何度となくあった。
彼らは北辺の谷を出で、南の土地を目指して侵攻を繰り返した。
運に恵まれぬ彼らに、勝利が続くはずはない。

彼らは時代が変わったことに気づかなかった。
敗戦を繰り返しては領土を失い、小国に戻りつつあった彼らは比類なき工業力を養い、
それを武器に、世界に向かって、最後の戦いを挑んだ。

それが15年前の戦争――

彼らは猛々しく戦い、惨敗した。
自国内で核兵器を使う愚さえ犯したベルカ人。
その無残を目にした戦勝国達は自らの武器を捨てようと心に誓った。

世界に平和が訪れた。彼らのおかげで。それは永遠に続くかと思われた。


平和から最も遠いこの島で、平和を守って飛ぶ“彼ら”。

2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/11(日) 23:23:38.36 ID:CXu6nWv90





川 ゚ -゚)謳われない戦争のようです
Mission 0 Encounter






3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/11(日) 23:24:23.25 ID:CXu6nWv90
[ランダース岬沖 9月23日 11時09分]

レッドアラートが唸り、私の鼓膜を震わす。
高らかに吼え続けるその音は未知の脅威を表しているかのようだ。

――その時、私は空中にいた。
編隊長機の狭苦しいコックピットの後部座席から、
演習の様子をカメラに収めようとしていた。

前の席に座る編隊長―ギコ・バートレット大尉―が、アラートの音に負けない、
怒気をたっぷりとはらんだ声で地上の監視人へ吼えている。

(,,#゚Д゚)<<無茶言うな!こっちは新米の面倒見てんだぜ!>>

<<通信司令室よりウォードッグ、不明編隊のコース――
ラングース岬を基点に278から302。
バートレット大尉――サンド島の貴隊しか間に合わない。>>

例えるならば、冷たい金属。
そんな無表情な声が告げる内容は、私の心を動揺させるのには十分だった。
5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/11(日) 23:25:58.28 ID:CXu6nWv90
通信司令室はどうやらあくまでも機械的に事を進めるらしい。
編隊長は納得のいかない事態に苛立っているようで、舌打ちをしたのが聞こえた。

緊迫した空気がひしひしと伝わってきて、死の危機が迫っている気がする。
しかし、この前の席に座っている男と共にいれば何故だか大丈夫だと思う。

(,,゚Д゚)<<こうなったらしょうがない。デミタス、ポセイドン、後ろにつけ。
教官のみで侵犯機を出迎える!残りは低空に撤退しろ!>>

デミタス、ポセイドンは今回の演習に同伴している教官だったはずだ。
短く聞こえた了解、という返答はどことなく不安気だった。

どうやらかなりマズイ事態らしい、と思索を巡らせていると、
編隊長が操縦桿を倒すのが見え――


―――世界がひっくりかえり―――
―――胃が裏返った―――

6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/11(日) 23:26:33.18 ID:CXu6nWv90
[サンド島空軍基地 13時52分]

タラップを慣れない足取りで降りる。
近寄った整備兵には動揺と困惑の表情が浮かんでいる。

装着具を整備兵に手渡し、隊長の後ろを足早に追いかける。

たった2,3時間空にいただけなのに地面を歩くのが久しぶりに感じる。
戦闘機から降りて痛む首をさすりながら歩いていたら、

(,,゚Д゚)「すまねぇな。」

そんな場合でもないだろうに、隊長は私に謝った。
疲労が見て取れる目は、私を見ていた。

正直、このフライトで起こった出来事は私には衝撃的だった。
8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/11(日) 23:27:54.18 ID:CXu6nWv90
[ランダース岬沖 11時10分]

強烈なGが容赦なく体に降りかかる。
朝に食べたオニオンサラダが喉元まで逆流してくるのを必死に堪えた。

(,,゚Д゚)「わりぃな!ちょっと我慢してくれ」

('A`)「だ、大丈夫です……。」

苦し紛れに搾り出した声は自分でも情けないとは思うが、
いかんせんこの状況では何ともしようがない。

(´・_ゝ・`)<<隊長、不明機と……戦闘ですかね>>

明らかに動揺しているこの声の持ち主は確か朝に挨拶した教官の一人だったと思う。

(,,゚Д゚)<<ああ、そうだろう。だが今優先すべきはひよっ子の安全だ。>>

(゜3゜)<<全く、ついてねぇ>>

私も全く同じことを思っていた。
何か巨大な悪が忍び寄るのを肌で感じるが、それが杞憂で終わることを願ってしまう。

9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/11(日) 23:29:58.49 ID:CXu6nWv90
その時だった、金切り声――まだあどけなさを含んだ――が聞こえた。

<<ぜ、前方に敵機!!>>

<<どういうことだ!た、助けてくれ!>>

(,,;゚Д゚)<<マズイ!デミタス、ポセイドン!針路を変えろ!>>

状況が読めない。何故新人パイロットを逃がしたほうへ敵機が?

(;´・_ゝ・`)<<どういうことだ!司令室!応答しろ!>>

<<じょ、状況を確認する!!>>

通信司令室の人間も相当焦っているようだ。
そして聞こえてくるのは叫び声。

<<撃ってきたぞ!ブレイク!ブレイク!>>

<<被弾した!!駄目だ制御が!うわああああ>>

連続して爆発音が聞こえ、通信にノイズが混じる。


10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/11(日) 23:31:36.03 ID:CXu6nWv90
機体が加速するのを振動で感じ、新人パイロット達が向かった空域へ入ると、そこは狩場だった。
無防備な子羊を狩るのは無機質な鉄の塊。

(,,;゚Д゚)<<全員回避を重視だ!生き残れ!>>

<<撃ってくる!何なんだ!>>

隊長の怒鳴り声は更に強まる。
右前方では右翼から煙を吐き出す機体が下へ堕ちていくのが見えた。

つい先ほどまでは平和だったこの空域は戦場と化している。
また一つミサイルが訓練生の機のエンジン部へ突き刺さるのが見え、
激しく爆発を伴って機体が空中で分解する。

<<うわあああああああああああ>>

<<もう……駄目だ……>>

悲痛な叫び声や断末魔が立て続けに聞こえる。
隊長が宙返りをすると、その急激な軌道に慣れない私の体は悲鳴を上げ、首の筋を痛めた。
痛みが襲うが、それよりもこの状況に困惑している感情がそれを覆い隠す。
13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/11(日) 23:36:27.26 ID:CXu6nWv90
(;゜3゜)<<後ろを取られた!マズイ!>>

教官の一人も叫び声を上げた。
新人パイロットだけでなく、教官すらも圧倒する敵はなんなのか。
しかし、実戦の感覚を忘れてしまっていたのだろう。

それだけ長い間、この国は平和だった。

(;゜3゜)<<左翼に被弾!駄目だ!制御が効かん!>>

(,,;゚Д゚)<<ベイルアウトしろ!死ぬぞ!>>

(;゜3゜)<<電気系統がいかれてる……ベイルアウトは出来ない……>>

(;´・_ゝ・`)<<っくそおおおお>>

戦闘機のエンジンの音、空を切る翼の音、そしてミサイルや機銃の発射音、
機体やミサイルが爆発する音、そして叫び声。
すべてが私には強烈なショックを与える。

14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/11(日) 23:39:16.70 ID:CXu6nWv90
(,;゚Д゚)「おい!07番機!ナガセ!何やってんだ!」

<<大丈夫です。私は生き残ります。>>

女性のパイロットだ。澄んだ声はまるでこの戦場には似ても似つかない。

彼女の機体はヒラリヒラリと舞うように飛び、敵機の攻撃をよけている。
インメルマンターンをした時に見えた機体の番号は07。ラッキーセブンか。
華麗なテクニックで機体を敵機の後ろへつけ、ミサイルを放った。

新人パイロットなのだろうが、とてもそうは見えない技術を持っていて、
この状況において冷静な声を発することが出来る精神力もある。

('A`)「彼女、やりますね。」

(,,;゚Д゚)「あぁ、だがあんなんでは長くは持たない。」

隊長の声はどこか子を心配する親に似ている節があった。

敵機をロックしたのをアラートで確認する。
隊長の軌道はあざやかで、敵機を寄せ付けていない。

よく考えたら、彼のミスは私の命にも関わるということだ。

15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/11(日) 23:43:11.64 ID:CXu6nWv90
(;´・_ゝ・`)<<チッ、被弾した!だが飛行には問題ない!>>

<<援軍はまだなのか!うわあああああああ>>

(,,#゚Д゚)<<司令室!援軍はまだか!このままじゃ全滅だ!>>

<<分かっている!現在戦闘空域へ向けて飛行中だ!>>

くそったれ、と悪態を吐きながら隊長は敵機の後ろへと軽やかに位置を取る。

連続した発射音と共に吐き出された弾丸は敵機の装甲を切り裂き、
飛行には致命的なダメージを与える。
炎上する敵機はきりもみしながら海へと堕ちていく。

――下に広がる広大な海は、いつも通り穏やかな表情を見せ、
太陽の光を受けて、紺碧の色に輝いていた。

本来ならば、もうすぐ帰路につき、隊長らと雑談しながら記事の構想を練っていたはずだ。

叶うはずのない妄想をしていると、また味方機が堕とされる爆音で、
鉄の塊が交差する悲しい現実へと引き戻された。
18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/11(日) 23:47:34.23 ID:CXu6nWv90
カメラを手に取り、この戦闘の様子を写真に収める。
高速で飛行する機体を追うのは困難だったが、次第に慣れた。

敵機だか味方機だか分からないエンジン音、爆音が重なり合って、
鉄の協奏曲を奏でる。

それは聞きたくないもので、私はそれでなくとも隊長の機体のマニューバのもたらす
影響が体中のいたるところに現れていて、私は意識を保つことと、
この状況をしっかりと写真と自分の頭に焼き付けることに必死だった。

<<敵機を撃墜した。残りは一機。>>

先ほどの女のパイロットの声だ。まだ生き残っているらしい。

(,,゚Д゚)<<……こちらは俺とデミタスとお前だけだ……>>

レーダーを除いてみると、敵機を示す赤色も減っていたが、
僚機である緑の三角形も極端に減っていた。

あんなにいた味方がこれしかいなくなっている。
海には水しぶきの名残が沢山あり、
それは多くの人が命を散らせたことを如実に物語っていた。

19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/11(日) 23:49:38.18 ID:CXu6nWv90
(´・_ゝ・`)<<敵機をロックオン!FOX2!>>

先ほど被弾した教官機からミサイルが射出されるのが見え、
最後の一機が火に包み込まれる様子も確認できた。

<<遅かったか……>>

恐らく友軍機が来たのだろう。しかしここは既に戦いが終わった後だ。
操縦はしていなくとも、慣れないフライトや戦闘で私の心身は疲れきっていた。

この戦闘はすぐにでも公式発表されるはずだ。
隠し通せる訳がない。死んだパイロットの遺族には何と言うのだろう。

到着の遅れた友軍の機体を睨みながら、
この事態を呼び起こした原因は司令部のミスだということを再確認する。

しかし、 な ぜ こ ん な ミ ス を し た ん だ ?

<<敵機殲滅を確認。ご苦労だった……>>

司令室からの通信に返信する者はなく、
基地へとたどり着くまで誰も一言も口を開かなかった。

20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/11(日) 23:52:26.20 ID:CXu6nWv90
[サンド島空軍基地 13時54分]

話を変えたくなった私は、生き残ったパイロットの話題に変える。

('A`)「あの7番の機体。あのパイロットの反撃は見事でした。」

隊長は大きくため息を吐き、

(,,゚Д゚)「みてられん……ナガセ!あんな飛び方してたら死ぬぞ!」

隊長が声を投げかけたほうへと私も振り返る。
タラップから降りてきた彼女はこちらを見据えて言った。

川 ゚ -゚)「死にません。」

静かに放った言葉には凛とした響きがあった。
透き通るような顔の作りは、美術館の彫刻を思い立たせる。

額には、僅かに汗が滲んでいるのが見て取れた。
それを彼女は手の甲でふき取る。

21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/11(日) 23:55:25.14 ID:CXu6nWv90
(,,-Д-)「へっ、虫も殺しませんって面をしてやがるぜ」

隊長はそう言いながら笑いを浮かべると、向き直って歩き出した。
記者としてというより、写真家として。
厳密には一個人として彼女の表情をカメラに収めたくなりケースから取り出した。

キャップを取り外すと、持ち手の部分が私の汗でまだ僅かに湿っているのを肌触りで感じる。
ピントを合わせるために調整し、ベストショットを狙う。

私の向けたカメラに、彼女は青ざめたままの口元で、わずかに微笑んだ。
彼女の短い黒髪を揺らす風が止むのを待ち、シャッターを切る。

川 ゚ -゚)


思わず、美しいと思ってしまう。
この写真は個人的な記念に取っておこうか?

再び基地に向かって歩いていると、険しい顔をした男が二人ほど私達一向に近づいてくる。
やってきた基地守備兵に怒鳴られてカメラは結局取り上げられてしまった。

宣戦布告なく行われた戦闘の証拠が拭われていく。

22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/11(日) 23:58:06.14 ID:CXu6nWv90
文明を離れたこの島へ取材に来た理由は、
ユニークな男が隊長にいる、と聞いたからなのだがこれほどとは思わなかった。

この口の悪い――
底意地の優しい目をした古強者に鍛え上げられれば、
きっと若者たちも手強いパイロットに育ちあがる。
そのはずは、正体不明機の進入で消えてしまった。

兵士が戦場で死ぬのは言っては悪いが当たり前のことである。
しかし、未来のある若き命をこのようなことで失うのはあまりにも悲惨なことだと思う。

この空戦で起こった出来事は、国を揺るがす事態になるはずだ。
一記者としてのスクープを書きたいという感情が沸きあがるが、そうもいかない。

全ての証拠を収めたカメラは取り上げられてしまったのだ。

隊長は何を思っているんだろう。
私は、彼の魅力の虜になっていた。

私はもうすぐこの基地から去るよう言われるだろうが、まだ彼の動きや、
この基地の人々の思惑について調べ上げたいという願望に満たされてた。
しかし、それは予想外な形で叶うこととなる。

MISSION ACCOMPLISHED
AND NEXT MISSION COME SOON...      


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