( ^ω^)「ヒーローはレッド」を譲れないようです
2 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/29(日) 22:00:56.39 ID:5PN97jbn0
 賢者の英知を結集した魔術。

 猛者の鍛錬を象徴した武術。

 学者の研究を昇華した科学。

 愚者の欲望を独占した金銭。

 虐殺の手段にも、繁栄のためにも、それらは利用された。
 国々は争い、占領、略奪、支配を繰り返す。
 戦場を形作るのも、これらの要素となった。
 魔力が、凶刃が、火薬が、裏切が、多くの血を流した。

 数百にも分割された大地には、いつしか数ヶ国のみが君臨することとなる。
 互いに牽制しあった結果、和平条約が結ばれる。
 つかの間の平和が訪れた。
5 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/29(日) 22:02:56.81 ID:5PN97jbn0


 そう、つかの間の平和。

 表面上の平和。

 些細な弾みで覆されるような。


8 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/29(日) 22:06:31.53 ID:5PN97jbn0


( ^ω^)「ヒーローはレッド」を譲れないようです




9 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/29(日) 22:10:02.09 ID:5PN97jbn0
 完全なる光と影のモノクロに包まれた城。
 広大な城内は、単に温度のものだけではない冷たさを持つ。

 全ての物が色彩に欠くのだ。

 明るいところは白、暗いところは黒にしか見えない。
 魔術による効果か、窓の外も白い空が広がるばかり。

 その中で、ひどく冷たい石床を走る姿が五つ。

(;'A`)「チクショウ! きりがねえ!」

ξ#゚听)ξ「無駄口を叩くのは後にしなさい、ドクオ! 追いつかれるわよ!」

 ドクオと呼ばれた軽装の男は、それでも絶えず毒づいている。

(;´∀`)「モナ……。また出てきたモナ!」

 しんがりの大柄な鎧男がそう言うと、先頭の人影がいっそう素早く駆ける。

10 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/29(日) 22:12:19.34 ID:5PN97jbn0
 行く手には簡素な甲冑を纏った骸骨の群れ。
 半自律の傀儡。数は三十ほどか。
 道を塞ぐ兵士達に向かい、迫る剣士。
 モノクロに、鮮赤のスカーフが翻った。

(#゚ω゚)「おおおおおおおお!!」

 男の煌く刃は、下から上へ弧を描く。
 前進の力を変換し、跳躍。
 両手に握られた剣が大上段から袈裟に振り下ろされる。

 むき出しの肋骨部が折れる度に刻む、軽快なリズム。

 前列の白骨が容易く砕けた。
 次いで横の骨を体当たりで跳ね飛ばす男。

川 ゚ -゚)「モナー、バックを頼む。掃除しておこう。下がれブーン!」

 背後では彼の仲間の一人が杖をかざし、何かを呟き始める。

11 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/29(日) 22:14:44.81 ID:5PN97jbn0
 大柄の男、モナーは背にした盾を腕に構え、背後を警戒した。
 その間に剣士がバックステップで集団へと戻る。

(;^ω^)ハァハァハァ

(;'A`)「クソッ、きりがねえ!」

川 - )「――煉獄の炎よ、彼らを真の意味で救い給え」

 厳かに呪文を唱えていた黒髪の女性が、杖を前方に向ける。

川 ゚ -゚)「『贖罪の火炎』」

 魔力が、輝きが、骸を包み込む。

 蒼の業火。
 氷のように冷たく、しかし、確実に対象を焼き尽くす。

 それは、塵芥を残すことすら許さなかった。

ξ;゚听)ξ「急ぎましょう!」
13 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/29(日) 22:18:32.60 ID:5PN97jbn0
(;´∀`)「ツンちゃん、ちょっ、ツンちゃん待つモナ。皆脚早すぎだモナ」

 ツン――せっかちな金髪の女性だ――は、早くしなさい、と急かす。
 矢立を背負った後姿は、離れつつあった。
 がちゃつく鎧を見ていたブーンが、耳打ちする。

(;^ω^)「脱ぐんでしたらお手伝いしますお?」

(;´∀`)「大戦中に我が国王から賜った『絶対防壁』の甲冑だモナ。
       モナの誇りは戦場では脱げないモナよ」

 それこそ絶対に、と胸を張るモナーはドクオに尻を蹴られる。

(;'A`)「おい、クソみてえな誇りが重くて遅れっちまうなら捨てた方がいいぜ!
    亀吉ども! 今は敵さんにカマ掘られたくなきゃ走るしかねえ!」

 さっきまでの自分を棚に上げて、彼はクー、ツンに追従した。
 口さえ閉じていれば、走っていてもドクオは無音の移動を行う。
 三人に遅れないよう、俊足・鈍足、両戦士が駆けた。

(; ω )「……絶対に皆で」

 剣士は仲間にすら悟られないよう、小さく呟いた。

***
17 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/29(日) 22:21:52.92 ID:5PN97jbn0
 魔と武と学と金の入り乱れた大戦終結前。
 大陸全土は緊迫した空気を押し込め、各国の外相が奔走していた。
 生き残った国中で、ヴィップ国は四国に囲まれた内陸の領土を持つ小国である。

 しかし、質実剛健を体現した、強国であった。

 起伏に富んだ地形は天然の要塞のようで、そこで育つ兵士もまた、強健だった。
 霊験あらたかな山を有し、呪術師の名家として戦後、なおも名を遺す者達もいた。

 強敵として、方々から狙われる時代が続いた。
 しかし、ヴィップ国国王、ロマネスク十四世は同様の小国と同盟を結ぶ。
 肥沃な大地を持つが、力の無い国。
 学に秀でたものの、世事に疎い国。

 搾取されるだけの立場を、よしとしない者達は必ずいる。
 それらに、彼は力の相補を持ちかけるべく歩み寄ったのである。

 略奪を目的としない彼の態度は味方を多く作った。
 そして、当然それだけの敵を持つことになる。

( ФωФ)「魔導騎士団だと?」

18 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/29(日) 22:25:01.41 ID:5PN97jbn0
 ロマネスク十四世は隣国、金の力で抜きん出たニューソク皇国の不穏な噂を耳にする。

「魔術と科学を金銭により纏め上げ、武を成す軍団を組織している」
「仮想生命を宿した魔導騎士は無慈悲に任務を遂行するであろう」
 
 ヴィップでは、そう言った兵器開発は着想段階でしかなかった。
 実用化される前に手を打つ必要があった。

( ФωФ)「ここに、大陸の和平条約を提案する! 賛同者はご起立願おう!」

 首脳会合の場を開き、出鼻をくじく形で虐殺兵器開発を中止させる。
 その目論見は一種の賭けだった。

 やはり、ニューソク皇国皇帝、ワカッテマスがそれに対して非を唱えた。

( <●><●>)「何をおっしゃるかと思えば。馬鹿らしい。一方的な終結の提案。
       これがどうして通るとお思いになったのですか。理解に苦しみます」

( ФωФ)「そう思われますか、ワカッテマス殿。では、皆さんはいかがかな?」

 多くの領主、国王が立ち上がっていた。

( ФωФ)「皆、血を流すことに、疲れ果てているのですよ」

19 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/29(日) 22:28:33.30 ID:5PN97jbn0
 以降、十二度の会合を経て条約は締結に至る。
 つかの間の平和が、脅威の代わりに訪れた。

 しかし。

( ФωФ)「……それは真か」

「間違いなく。密偵が岩を砕く無人の鎧を見ています」

 ついに魔導騎士完成の報告を受ける。
 それも、戦争後の修復に各国が賑わっている時であった。

 ロマネスク十四世の決断は、迅速だった。

( ФωФ)「風の如き俊足、炎の如き太刀筋、兵団団長ホライゾン・ナイトウ。
       鷹の目、全てを射通す金の射手、ツン・デレ。
       魔術の名門スナオ家が長女、魔術師クール・スナオ。
       裏の世界に名を轟かせる迅雷、傭兵ドクオ。
       我が国の誇る、深緑の守人にして絶対防壁、騎士モナー」

――そなた達、五名に皇帝ワカッテマス暗殺を命じる。

20 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/29(日) 22:33:05.20 ID:5PN97jbn0
 玉座の前に跪く面々。

( ^ω^)「了解、しましたお」

ξ--)ξ「ご随意に」

川 ゚ -゚)「ありがたき幸せ」

('∀`)「報酬は帰ってからでいいぜ」

( ´∀`)「御意。モナ」

 外相、その護衛として敵城に侵入、魔導騎士の存在を確認。
 武力放棄の提案。

( ФωФ)「彼奴は外交に自らが乗り出す。もし、受け入れが為された場合はそれで構わない。
       しかし、提案は棄却されるであろう。当然のことであるがな」

 ならば、戦火が上がる前に殺害せよ。

( ^ω^)「この任に、確実性はあるのですかお」

ξ;゚听)ξ「ブー……ホライゾン団長! 無礼ですよ!」
22 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/29(日) 22:36:15.16 ID:5PN97jbn0
( ФωФ)「よい。指揮を執る者が首尾を案じるのは当然である。
       詳細はドクオ殿に任せてある。独自の情報網を持ち、城内も熟知しておる」

 ドクオは口元をいやらしく歪める。

('∀`)「あっこはでっけえのに、兵器廠以外は警備あまあまだからな。何度も『頂き』に入ってるんだ。
    うへへ。あ、ここは入ってねえよ? 安心してくれ」

川 ゚ -゚)「……下衆め」

(#'A`)「ああん!? なんだテメーやっちまうぞ!」

( ´∀`)「御前モナ。やめるモナよ」

(*'μ`*)「良い子ちゃんでちゅね? なあ?」

(#'A`)「でっけえ図体しやがってよお! うるせえウドが! 邪魔くせえったらないぜ!」

( ´∀`)「……おい、黙れよ」

 静かな声を最後に、全員が沈黙する。
 それを破ったのは玉座からの重々しい声。

( ФωФ)「遅かれ早かれ、ニューソクは戦乱を起こすであろう。
       そなたらの働きが数多の命を救うことになるのだ。……死ぬな」

25 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/29(日) 22:41:14.47 ID:5PN97jbn0
 五名の暗殺者は、そうしてヴィップ城を出発した。
 夜盗に襲われることもなく、旅は順調だった。
 始めこそ分裂の危機があったが、次第に関係は良好になっていく。

 四日後。
 面々はニューソク皇国領地内に到達していた。
 宿の一室で休息をとっていたホライゾンが、そうやって沈思黙考している時だった。
 ノック。

「ブーン」

 あだ名で呼ばれ、ホライゾンは声の主に気付く。
 ドアの向こうには金髪の女性、ツン・デレの姿があった。

ξ゚ー゚)ξ「ここのところ無理してないかしら。悩んでるんじゃないかと思って」

( ^ω^)「……僕は。うん。そうだお」

ξ゚听)ξ「これしか、手段がないのよ。私達が動かなかったら、また人死にが出るわ」

 二人の故郷は、ニューソク皇国に焼かれている。
 亡命したヴィップでは、兵役志願をし、共に戦場を駆けた。
 寝食も、生死の境も共に経験している。
 一重に生き残ろうとあがいたブーンの功績は称えられた。
 兵団を任されるようになったのは、二年ほど前のことだ。

26 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/29(日) 22:44:59.45 ID:5PN97jbn0
 腰掛けていたベッドにスペースを作る若き兵団団長ホライゾン。
 いや、ブーン、か。
 ツンは隣に腰を下ろす。
 ひっそりと、ブーンは喋りだした。

( ^ω^)「今回の最終目的は、僕達がやったとすぐ分かるものだお。
       そうしたら和平条約を持ち出したヴィップが、自らそれを破ることになるお」

ξ゚听)ξ「魔導騎士の危険性は同盟国に伝えてあるのよ。すぐにニューソクが制圧できれば問題ないわ。
      そして、行動の正当性を主張するには……」

( ^ω^)「防衛以上の目的が兵器開発にあったと証明しなければならない。
       まずは先駆けとなる、確たる証拠を掴むべし、かお」

 暗殺の他に魔導騎士団の規模確認、またそれの鹵獲が任務にはある。

ξ゚听)ξ「ブーン。英雄はもっと堂々としているものだわ」

( ^ω^)「英雄?」

ξ゚听)ξ「少なくとも私達、武の世界の人間にとってはそうなるのよ」

 ブーンは髪をかき乱し、ベッドに身体を倒した。
28 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/29(日) 22:47:37.98 ID:5PN97jbn0
( ^ω^)「本当は分かってるんだお。誰かがやらなくちゃいけないんだって。
       ただ、もう人を斬らなくて良いと思ってた反動っていうか」

ξ゚听)ξ「……私もよ」

 ツンは悲しげにそう答えて、立ち上がる。
 ねえ、一言呟いた彼女に、ブーンは身体を起こす。

( ^ω^)「ツン」

 月明かりに照らされたツンは、服をはだけさせ、背中を露出している。

 華奢な白い背中。
 何本も走る傷跡。

ξ゚ー゚)ξ「優しい団長さん。私の怪我は醜いかしら」

 ブーンは指をその痕に這わせる。

( ^ω^)「美しい犠牲だお。ツンは綺麗だお」

ξ゚ー゚)ξ「でも、私もこれ以上は増やしたくないの。ねえ。守ってくれる?」

 誰だって、傷とは無縁でありたいのだ。
 ブーンは背中に優しく口付けをした。

 それは月影の見守る、庇護の誓い。

29 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/29(日) 22:54:23.03 ID:5PN97jbn0
 二人が初めて誰かの命を奪った日の晩。

 ブーンは相手の目が忘れられず、絶えずつきまとっていた。

 ツンは崩れ落ちる敵が同じ人間であったことを想った。

 二人は自らが生き残っている実感を強く求めた。

 握り合った手のぬくもりが、それを満たした。

 涙が、溢れ、涸れることはなかった。

 命あることに、感謝した。

 疲れ果てて寄り添うようにして眠った二人

 目覚めると、お互いに照れ臭そうに笑った。



 宿屋の一室で目覚めたブーンは、そんなことを思い出す。
 彼は安らかな寝息を立てるツンの髪を撫でた。

( ^ω^)(僕が、ツンを守るんだお)
31 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/29(日) 22:58:51.18 ID:5PN97jbn0
('A`)「朝か。眩しいな。チクショウ太陽め。ウツダシノウ」

 朝食をちまちまと食べながら、ドクオが言う。

川 ゚ -゚)「貴様は何回死ねば気が済むんだ」

( ´∀`)「気付けいるかモナ?」

('A`)「おう、今日もいただく。まずいんだけどなこれ」

(*'μ`)「でもハイにモッチャモッチャなるからモッチャ嫌いじゃないぜ!」

( ´∀`)「……そりゃ、ホントは弱い麻薬だからモナ」

 そう呟いたモナーは重装騎兵にも関わらず、常に薬草のストックを多く持つという特殊な人間だ。
 戦場では矢面に立って負傷兵を治療する。
 大きな盾の内にあるのは、慈悲ある戦士の顔だった。
 彼の柔和な性格なくして、パーティーは纏まらなかっただろう。

( ^ω^)ノシ「おいすー」

川 ゚ -゚)「おはよう、リーダー殿。目覚めは良いようだな」

32 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/29(日) 23:03:19.42 ID:5PN97jbn0
 手を振りながら階段を下りるブーンは、晴れやかな顔をしていた。
 後続は、同じく上機嫌なツン。

ξ゚ー゚)ξ「おはよう、皆」

(*'μ`)「おっしゅモッチャようやく皆モッチャモチャ揃ったなムチャ」

(*゚ー゚)「お客さんご飯出していいのー?」

( ^ω^)「お、お願いしますお!」

 女将のしぃは元気な女性で、主人のギコと二人で宿を切り盛りしていた。
 彼等は、五名が国務を背負ったものと知って、なお普通の客として扱う。
 気さくで、夫婦間は良好。

川 ゚ -゚)「結構早い時間から四回戦。うるさくてあまり眠れなった」

( ´∀`)「お盛んを通り越して引くレベルモナ」

(,,゚Д゚)「あいよー、残りお二人分の朝飯なー。四回戦じゃなくて五回戦だぞゴルァ」

(*'∀`)「ウツダシノウ☆」

( ´∀`)「あーあーキマッちまってるモナ」

 ブーン、ツン、両名は出された料理に手を付けながらそれを聞き逃した。
36 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/29(日) 23:10:07.12 ID:5PN97jbn0
(*゚ー゚)「お客さん、赤い布ってこんなのしかないけど」

( ^ω^)「お! ちょうど良いですお!」

 食後、出発までの時間にブーンは女将に頼みごとをしていた。
 馬車に乗り込む時、彼はようやくそれを受け取る。

('A`)「そんなもんどうすんだよ」

( ^ω^)「むふふ、これを適当な大きさに切って、と」

 その布を首に巻き付け、軽く結ぶ。

( ^ω^)「赤いスカーフ、熱血ヒーローの象徴だお!」

('A`)「……団長さんってのァ、子供にも務まるんかね?」

川 ゚ -゚)「しかし目に痛いぐらいの赤だ」

( ^ω^)「ヒーローはそれくらい自己主張するカラーじゃないといけないんだお。
       昔話の英雄だって、そういうもんじゃないかお?」

川 ゚ -゚)「五人が揃って巨悪をくじく、という話か。奇しくも我々も五人だな」
38 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/29(日) 23:11:40.87 ID:5PN97jbn0
 五人が力を合わせれば
 全ての敵をなぎ倒し
 弱きは救われ
 強きは挫かれ

 五人が知を結すれば
 全ての謎を解き明かし
 悲しみは去りて
 笑顔は溢れる


 そんな詩が冒頭に載った古来の物語がある。
 何度かの改変を経て、今も伝わる五人の騎士の寓話。
 題を、『五英雄物語』と言う。
 選ばれた単語は易しいものが多い。
 子供が言葉を覚える時によく好まれる話のひとつだった。

39 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/29(日) 23:15:30.86 ID:5PN97jbn0
('A`)「お決まりの勧善懲悪だな。んなん一度も読んだ覚えも、聞いた覚えもねえ。
    そんな努力と成功の小奇麗な話なんて、ガキの頃から信じちゃいねえ」

 ドクオは舌打ちをした。
 彼は傭兵団に拾われた戦災孤児だ。
 親も不確かな出生、暴力と悲鳴をかいくぐる生活。
 それらが幼少の彼から幻想を奪っていた。

('A`)「はん。明るく楽しくワルモノ退治。結構なこってす」

( ^ω^)「そんなドクオはイエロー・ナイトだお」

('A`)「ああ?」

( ^ω^)「イエローは、卑屈で寂しがり。普段はとがってるくせ、人情派」

(#'A`)「なっ、てめっ、おもしれえ冗談だな! 屋上に出ようぜ……久々にキレちまったよ……」

 ブーンは彼が義賊の一面を持っていると知ってはいたが、口には出さなかった。
 捨て子院へ兵役志願の呼びかけに赴いた時、偶然ドクオもそこにいた。
 彼が影で支援していたつつましい孤児院だった。

――ばーか、お前こんな服汚しやがって。あ? そーんなことで泣くなよ。
  泣いたらおやつ抜きだぞ? 強いヤツがうめえモン食える時代なんだぜ。
42 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/29(日) 23:19:02.15 ID:5PN97jbn0
('∀`)

 朗らかに笑っていたのだ。
 ブーンの心にはそれが残っている。

( ^ω^)「屋上ってどこだおww」

(#'A`)「るっせえぞガキが! ケッ、とっとと馬車乗んぞ!」

( ´∀`)「モナはなんだモナ? グリーンモナか?」

 グリーン・ナイト。
 気は優しくて力持ち。山のように不動を貫く堅牢な守り。
 自然を愛し、動植物と心通じ合わせたという慈悲の騎士。

( ^ω^)「だおだお。昨日の夜考えてたら、皆ぴったりだったんだお。
       クーがブルーで、ツンがピンクなんだお」

 愛を司るピンク・ナイトは、心臓を狂い無く射止める正確無比な弓の使い手でもある。
 紅一点として彼女は、寓話の最後でレッド・ナイトと恋仲になる。
 それに気付いたのか、ツンは顔をにわかに紅潮させる。

ξ*゚听)ξ「ばっ、馬鹿なこと言ってないで早く出発するわよ!」


( ´∀`)「……しかし暗殺に赴く『英雄』、モナか」

 モナーの呟きに気付いたクーが「皮肉だな」と返した。
44 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/29(日) 23:24:21.91 ID:5PN97jbn0
 活気溢れる城下町に入ると、全員が外交用の装いに身を包んだ。
 特に外相としてはクーが適任と思われ、補佐としてモナーが文官の服を纏った。
 二人は学もあり、ボロが出ないと踏んでの人選である。
 だが、問題はヴィップ出発時の採寸にあった。

(;´∀`)「これ、もんのすごい窮屈モナ」

 詰襟が締まらず、モナーは呻く。

(;^ω^)「骨格からして無理してるお」

ξ゚听)ξ「まだ着替え終わらない? そろそろ城に行かないと」

 パツン。

(;´∀`)「ズボンがっ。……やっぱりモナの正装は鎧で良いモナ」

(*'∀`*)9m「プゲラ」

(;^ω^)「笑い事じゃないお! 緊張感のないヤツめ……」

 だが、肩の力が入り過ぎないようおどけて見せているのだ、とブーンは理解していた。

 急ごしらえに適当な衣服が無く、モナーは結局持参の甲冑を着た。
 ちんちくりんの服よりも、確かに幾分はマシだったが、怪しまれそうでもあった。
46 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/29(日) 23:28:04.28 ID:5PN97jbn0
 なんとかニューソク城まで赴くことが出来た一行は、巨大な門をくぐった。
 非常に広大な敷地を持っているニューソク城へは、長い橋を渡る必要がある。
 城を隔絶するかのように、天然の堀の如き大河が走っているためだ。
 ブーンはそのたゆたう水面をかなり下の方に確認できた。

('A`)「妙な動きすんなよ。見えないけど、城からこっち監視してるヤツが常時十人はいるんだ」

 馬車の振動に紛れて、ドクオが静かに言った。

('A`)「最近は重量感知魔法がこの石畳にかかってるらしくてな。
    既にこっちの人数や大体の装備が、敵さんに割れてると思った方が良い」

川 ゚ -゚)「警備は甘いと言っていなかったか?」

 橋の手前にあった門は門番が二人左右に立っているだけだった。
 それはただの飾りようなものだったのか。

('A`)「中は甘いさ。だが、ここで侵入されなきゃあっちも楽チンだろ。
    まあ、そんなもん俺にかかりゃどうってこたないんだけどな」
48 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/29(日) 23:32:05.93 ID:5PN97jbn0
ξ゚听)ξ「アンタ、どうやってここに入ったの?」

('A`)「昔は食料樽に混ざったり、新月の晩に川渡ったり、だな。まあ後は、今回帰りに使う抜け道か」

 両岸の絶壁には、河川へと降りるための施設がある。
 その形状は円筒の上下に箱を付けたようなもの。
 船着場が下方の箱から突き出していた。
 水圧と魔力を利用した、自動乗降設備を備えてあるらしい。

( ^ω^)「渡航は大変だお……。抜け道は安全なのかお?」

('A`)「モチのロンよ。俺が知ってるってことを相手が知らないだろうしな。
    抜け道もいくつかあるんだ。おかげで俺は捕まってないぜ?」

( ´∀`)「妙な魔法があっても、クーさんが解除できれば問題ないモナ」

川 ゚ -゚)「スナオ家の威信にかけて、任されよう」

 橋の半ばまで差し掛かると、再びドクオが口を開いた。

('A`)「いいか、密室だとしても不用意な言動には気をつけろよ」

ξ゚ー゚)ξ「一番口数の多いヤツがよく言うじゃない」

 ドクオは舌打ちだけを返して、それ以上、何も言わなかった。
50 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/29(日) 23:36:07.34 ID:5PN97jbn0
 やがて、馬車は断崖に囲まれた城へとたどり着く。
 跳ね橋の前で御者が馬を停めると、鎖の擦れる音が激しく響いた。
 渡しがこちらに接地した時、青年が城門からこちらに頭を下げているのが見えた。

( ><)「ようこそ遠路はるばる。歓迎します、ヴィップ国大使殿方」

川 ゚ -゚)「感謝いたします」

 優雅な振る舞いでもって応じるクーは、他を驚かせた。
 ヴィップ国、裏の実力者が一門、名門スナオ家。
 その次代を担うに相応しい気品と風格がそこにあった。

( ><)「お疲れでしょう。まずは長旅の疲れを癒してはいかがでしょうか」

 笑顔の下に何があるか分からない。
 ツンは使いの者を見てそう思ったようだった。
 しかし、外交には手順というものがある。

( ´∀`)「ありがたいことです。それでは、此度はご厚意賜ります。モナ」

51 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/29(日) 23:40:51.04 ID:5PN97jbn0
 通された広間は華美でないにしろ、豪奢であった。
 調度品は黒に統一され、白い壁から等間隔に生える燭台が印象的だ。
 チェス盤を想起させる床はひやりと冷たい。
 人気が無いのも、それを強めた。

 しかし。歩けど歩けど、前を行く青年は止まらない。
 会合が行われるのは恐らく、この広い城内の最奥部。
 果たして、発覚した場合、逃げおおせるのだろうか。

( ^ω^)(暗殺失敗はありえないお。問題は見つかるまでの時間……)

 その時、なあ、と足音に挟まれる気楽な声。

('A`)「腹減ったなあ。飯は期待して良いのかい? 川魚が名物なんだろ?」

ξ#゚听)ξ(こいつ……私達は『従者』なのよ……)

 ぴりりとした空気に、後ろを歩くブーンも冷や汗をかく。
 なおも歩を進める使いは気にしていない風に答えた。

( ><)「半刻以内にお食事の準備が整います。それまではお部屋でおくつろぎください」

 前触れもなく立ち止まった青年は、ドアを開け、頭を下げる。

 窓の外が夕日に染まる頃、五人は食堂に招かれた。
55 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/29(日) 23:45:16.46 ID:5PN97jbn0
川 ゚ -゚))モグ

ξ゚ -゚)ξモグ

(( ´―`))モグモナ

( ^ω^)「……ドクオ」

((*'μ`*))「おふっ? なんぶぁモッチャ、ンッグ、なんだよ大将モッチャ。
      ああ、この魚か。ふまんふまんモッチャ、はいよ」

ξ゚听)ξ「ホライゾン団長、構いませんわ。口が塞がってる方が静かです」

 比較的ね、と小さく付け加えるツンは、落ち着いて見えた。
 しかし、彼女は緊張を隠すのが上手いだけだ。
 ブーンは長い付き合いでそれを知っていた。

川 ゚ -゚)

 アイコンタクト。
 下手に食べない方が警戒させるのだと、クーの目は言っていた。
 剣を振るうだけの生活からは得難い知識だ、とブーンは思う。

56 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/29(日) 23:49:32.24 ID:5PN97jbn0
「ようこそいらっしゃいました皆様。大使殿、従者殿方」

 明澄な声が、食堂に静寂をもたらす。
 入り口に現れた、目のギョロついた男の声だった。

( <●><●>)「我がニューソクへようこそ。わたくしがワカッテマスです」

――皇帝、ワカッテマス。

 ドクオを除き、テーブルに着いていた全員が席を立ちお辞儀をする。
 ツンが促すことで、ドクオも倣った。

川 ゚ -゚)「お目にかかれて光栄です。皇帝殿。外交の使徒、クール・スナオにございます」

( <●><●>)「ほう、ヴィップの高名なる家系のご息女がおいでになるとは。
       歓迎いたします。どうぞ、お座りになってください」

 神経質そうな顔つきのワカッテマスは、しかし、低くはっきりと喋る。
 足腰もかくしゃくとして、老齢であろうにそれを感じさせない歩みを見せる。
 しわのある顔は老人のもので間違いない。
 だが、絹の衣に包んだ身体は青年のそれのようだった。

川 ゚ -゚)「わたくしのような者をご存知とは、光栄の極み。かような手厚い歓迎に感謝しております」

 皇帝を含む六名が着席した。

57 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/29(日) 23:52:53.56 ID:5PN97jbn0
 ブーンは口を閉ざし、誰かの言葉を待った。
 ツンも同じく、成り行きを任せるしかない。
 ドクオはようやく口の中を空にして、腰の短剣の在り処を確かめる。
 モナーが甲冑を脱いでしまっていたことを後悔した時、クーは口を開いた。

川 ゚ -゚)「帯剣をお許しになったのは、何故ですか」

(;゚ω゚)(!)

川 ゚ -゚)「我々が刃を向ける。それを考えなかったのですか」

 空気が張り詰める。
 皇帝が目を伏せた。

(;゚ω゚)(どういうつもりだお、クーさん)

 何故、わざわざ自分たちへの警鐘を鳴らさせるのか。

 ブーンの視界の端で、剣の柄に指先を当てるドクオの姿が映った。
 他には誰も、それに気付いてはいないようだった。
 当然だろう。
 彼は気楽な馬鹿者を演じきっていたのだから。

58 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/29(日) 23:54:36.30 ID:5PN97jbn0
 ワカッテマスの顔が上がる。

( <●><●>)「もはや、太平の時代。しかも客人がその立役者となった国の民です。
       これほど信頼できる相手から、どうして武器を取り上げる必要がありましょう」

 そして、笑顔。

( <●><●>)「そして貴方は聡明なスナオ家が次期頭首、クール殿。信用と尊敬に値します」

川 ゚ -゚)「……余りあるお褒めの言葉です。無礼な振る舞いをお許しください」

( <●><●>)「我が国の歴史を鑑みれば、仕方のないことです。
       ですから、兵団団長ホライゾン殿、『絶対防壁』モナー殿。
       御両名が護衛についてらっしゃるのでしょう?」

 モナーが胸に溜まった空気を小さく吐き出した。
 ブーンも息が詰まる思いだった。

( <●><●>)「むしろ、ヴィップ国大使殿方こそ我々を警戒するのが自然というもの」

 ツンはブーンと居心地悪そうに目を合わせた。

59 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/29(日) 23:57:48.65 ID:5PN97jbn0
川 ゚ -゚)「彼等は我が国の誇る武の体現者でございます」

(; ω )(ニューソク皇帝に!)

 ニューソク皇国は経済活動、つまり金の分野に秀でる。
 それは愚者の欲望を示唆していた。
 他国の主達は、それによって全てを統括するニューソクを蔑視していた。
 嫌が上にも、話題はそちらに流れるだろう。

 ひりつく大気がブーンの肌を刺した。
 ひどく喉が渇いていることを、彼は感じていた。

( <●><●>)「ふふ、存じています。強国ヴィップの象徴、武と魔。
       無論、魔の体現者とは貴女。ニューソクではわたくしが金の体現者」

――あるいは亡者です。

川 ゚ -゚)「それを踏まえて、お耳に入れて頂きたい」

( <●><●>)「ほう、貪欲の徒に一体何を頂けるのでしょう」
64 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 00:01:51.08 ID:FMuNQq0V0


川 ゚ -゚)「我が主君の言葉がございます」


 そして。


 クーは、あろうことか微笑んだ。


69 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 00:08:49.05 ID:FMuNQq0V0
川 ゚ー゚)「『無礼があらば、武人両名の首をはねて報いよ。然る後、魔術にて屍を焼け。
     我等が二大の至宝をもって償いとせよ』」

 完全なる静寂が訪れた。

 やがて聞こえるのは、くつくつ、という抑えた笑い声。

( <●><●>)「……くくく、実に面白い方だ。しかし、それはさすがに貴重すぎます。
       強欲の食指が戸惑ってしまうほどにです!」

 張り詰めた何かが急激に弛緩する。
 ドクオが座りなおし、手を柄から離した。

( <●><●>)「くくくく、失礼。意地悪が過ぎましたね。では、堅い話は明朝にでも。
       今宵は美酒と選りすぐりの酒肴をご用意しましたので」

 どうぞお楽しみください、と指が鳴らされた。
 楽団と新たな料理が食堂へと入ってくる。
 華々しい弦楽は一行に安堵をもたらした。
 全員、仮初のものである、と自覚していてもだ。
71 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 00:10:15.46 ID:FMuNQq0V0
 食堂は賑やかさに溢れた。
 先ほどまでの緊迫した雰囲気が、それをさらに感じさせる。

 無防備な殺害対象。
 笑顔でクーと芸術を語らうワカッテマス。

 ドクオは努めてそちらへ目線を送らないようにして、杯を傾ける。

('A`)(信頼、ね。女狐に狸親父のとんだ茶番だぜ)

 全てを我が利とせん、智謀の帝。
 ワカッテマスが大戦中に得た評判である。

('A`)(しかしヤツはくせえ。嘘吐きの、きなくせえ匂いがプンプンしやがる)

 気を紛らわすための酒に、顔を赤くしたブーンがその神妙な面持ちに気付いた。
 だが、下手に話しかけることはしなかった。
 あくまでも晩餐を楽しんでいる風を装うので精一杯だったのだ。
73 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 00:12:06.33 ID:FMuNQq0V0
 しばらく続いた音楽がコントラバスのビブラートを最後に止む。
 そこで宴のお開きを告げた皇帝は、付き添いも無しに食堂を後にした。
 五人も一旦部屋へと戻る。

 女性用に宛がわれた部屋では、金髪と黒髪の女性が寝支度を始めていた。

ξ;゚听)ξ「すごくひやひやしたわよ、クー」

川 ゚ -゚)「使節団とは言え、戦時中の敵国が武装して一国の主の前に。
     これは異常事態だぞ。逆に尋ねない方がおかしい」

ξ;゚听)ξ「それはそうかもしれないけど」

川 ゚ー゚)「ふむ? 鷹の目は腹の探り合いに千里眼を用いることはできないのだな?」

 ツンは大きく嘆息し、目をつむった。

ξ;--)ξ「……原野で踏んだ場数もここでは通用しないわ。認めましょう」


 ノック。

74 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 00:16:57.08 ID:FMuNQq0V0
ξ゚听)ξ「どなたでしょう」

「俺だ俺、ドクオだ」

川 ゚ -゚)「なんだ。空気の読めない男」

 開けられたドアの向こうに、枕を抱えたパジャマの男が一人。

(*'∀`)「眠れなくって来ちゃった☆」


川 ゚ -゚)


ξ゚听)ξ


 ドクオの身体は一歩踏み入れたところで、打撃を受け、床に倒れた。
 女性二人が三角絞めと腕ひしぎをかける様は圧巻だった。

(;A(#)「かえりまーす」

ξ゚听)ξ「はいどうぞー」
77 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 00:21:06.01 ID:FMuNQq0V0
 男部屋では、ブーンとモナーが待っていた。
 ドクオに気付くと、二人はニヤニヤして迎えた。

( ^ω^)「おっおっ、お疲れ様だお」

('A(#)「こっぴどくやられちまったぜ。お高くとまりやがってあの女ども」

 適当な言葉で答えながら、ドクオはポケットに手を入れる。
 取り出したのは、アルコール用フラスコが二本。
 それと茶色に日焼けした紙切れだ。

( ´∀`)「自業自得だモナよ」

 差し出されるフラスコが、わずかに水音を起こす。

( ^ω^)「で、パジャマのツンは可愛かったかお?」

 ブーンは喋りつつ二本のうち、「silent」というラベルの貼られた方を受け取った。
 蓋を開けると、少量ずつ中身を床に垂らしていく。

 描かれたのは淡い光を放つ青の円。

('A(#)「さあな、『迅雷のドクオ』が見えない速度で関節技極められてたからな」

 三人はその中へ踏み入った。
 窓の外の月だけがそれを静かに見ていた。
79 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 00:24:40.33 ID:FMuNQq0V0
('A(#)「あー、これマジ痛い。目的知らされてなかったらぶち切れてるわ。
    事前に受け渡しとかできねえの? これ」

( ´∀`)「術者から離れると効力薄まっちゃうから仕方ないモナ」

(;^ω^)「ようやく普通に喋れますお。もう気張り詰めて疲れましたお」

( ´∀`)「モナモナ。二人とも名演技だったモナよ。あ、これ湿布用の薬草モナ」

(#'AП)ペトリ「つかさ、おめーはもっと喋れよ! 俺らで頑張っちゃったじゃねーか!」

(;^ω^)「盗聴魔法とか厄介すぎだお」

 防音特化の障壁魔術。
 それがフラスコに注がれた液体の正体だ。
 ドクオが女性部屋へ入ったのはこれを受け取るためだった。

( ´∀`)「モナは寡黙だから良いんだモナ。んで、気付けは?」

(#'AП)「十分目ぇ覚めてんよ! チクショウが」

 ドクオの情報網から、客室に音声探知の魔術が施されていることが分かっていた。
 曰く、終戦後に無人警備に力を入れたのであろう、とのこと。

80 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 00:26:27.32 ID:FMuNQq0V0
 壁を見透かす魔術は相当に高度で、スナオ家ですら一握りの者しか扱えないという。
 対して、盗聴は気付かれやすいが、維持に易い汎用呪文なのだそうだ。
 局所的になら複数箇所に施術できるらしい。

 その情報からクーは、ニューソクへの移動中に魔法液を調合。
 短時間とは言え、完全なる防音を可能にする結界用のインクだ。

( ^ω^)「これからのことをもう一度確認しておくお」

 靴紐をきつく結びなおして、ブーンは言った。

('AП)「俺が先導してブーンと兵器廠へ。魔導騎士の存在、また規模を確認。可能ならば鹵獲」

( ´∀`)「発覚時に備えてモナは待機、だモナ」

( ^ω^)「ですお。僕達は逃走経路の下見もしてきますお」

('A`)「あーすっきりした。腫れ引いてるな。で、そのまま皇帝やっちまえたら楽なんだけどな」

 しかし、そうもいかない。
 そもそも、皇帝の寝室どころか、生活空間が不明なのだ。
 こればかりはドクオでも、特定が叶わなかった。
 行く当ても無く彷徨うのは、この広大な城内では危険だ。

( ^ω^)「明日、目前にいるワカッテマスを仕留めるしか、方法はないお」
82 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 00:28:41.05 ID:FMuNQq0V0
( ´∀`)「万一、魔導騎士がひとっつも確認できなかった場合、どうするモナ?」

 すでに存在が分かっている虐殺兵器。
 それがないとは考えられない。
 「ある」、というのは仮定ではない。

( ´∀`)「万が一、だモナよ」

 念押しをするモナーは慎重に言った。

( ^ω^)「それは……、会議でクーさんに頑張って話を進めてもらうしかないですお」

 それを聞いてドクオは眉間にしわを寄せる。

('A`)「そん時は殺さない、か?」

( ^ω^)「ドクオはそれじゃ不満かお」

 別にそんなんじゃねえよ、と彼はおどけるように肩をすくめた。
 ブーンの表情が険しくなったのを見たためだ。

83 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 00:30:54.48 ID:FMuNQq0V0
 人が死なずに済むならそれより良いことはない。

 若き兵団長の願いは、数日の旅路で皆に伝わっていた。
 ツンとブーンの故郷を蹂躙したニューソク。
 そして、皇国の有する兵士は彼らの両親をも亡き者にした。

( ^ω^)(誰だって傷付けあうのは、もう嫌なはずなんだお。うんざりしてるはずなんだお)

 ブーンが本来、最も憎むべき相手、皇帝ワカッテマス。
 彼を仇敵として赦すことはなかった。
 しかし、先ほど相対して胸に抱いたのは憎悪ではない。

 空虚な悲しみだった。

 何の変哲もない男の意思ひとつで、数千、数万の命が消えるという現実。

(  ω )(うんざりなんだお。僕は、僕はただ……)

 その時、ブーンの肩に大きな掌が乗せられる。
 はっと顔を上げると、モナーが青々しい葉を差し出していた。

( ´∀`)「ホライゾン君、このハーブを噛むと良いモナ。
       でも、ちょこっとだけだモナよ。注意力散漫になるモナ」
85 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 00:32:52.00 ID:FMuNQq0V0
('A`)「あんだ、それ?」

( ´∀`)「りらーっくす、だモナ。ホライゾン君」

 ドクオを無視して、ブーンの両肩をさするモナー。
 言われた通りに葉の端をかじると、ブーンの舌にマイルドな刺激が広がった。
 じわりと温かいような、不思議な優しい感覚が彼の頭に満ちる。

( ´∀`)「どうだモナ?」

( ^ω^)「おっ……なんだかすっきりしましたお」

( ´∀`)「モナモナ。グリーン・ナイトは癒しの力を持つモナよ」

(#'A`)「けっ、シカトかよ緑の亀吉が。もういいぜ」

 イエロー・ナイトは卑屈で寂しがり。
 ブーンはそれを思って、一人、口の端を歪めた。

( ^ω^)(僕はレッド・ナイトだお。淀みなく皆を導かなくちゃいけないんだお)

 先駆者、指導者。
 彼は首に巻いた赤いスカーフを整え、顔を叩いた。
89 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 00:36:11.05 ID:FMuNQq0V0
 白と黒の廊下を走るふたつのぼやけた影。
 ドクオとブーンだ。
 月光に照らされる姿は曖昧で、人としての輪郭を保っていない。
 暗いところでは、認識が非常に困難だ。
 彼ら自身、物陰に入る度にお互いを見失いそうになっていた。

('A`)b(誰もいない)

( ^ω^)b(把握。行くお)

 曲がり角でハンドサインを使う二人。
 声を出さないのはもちろんのこと、足音、衣擦れの音すら起こさない。

 クーがドクオに託したフラスコのもう一方には「conceal」のラベルが貼ってあった。

――頭から被れば、不完全ながら視覚を惑わす。

 事前の説明通り、銀色の中身を被った二人は、立ち止まるだけで人の目から逃れた。
 既に歩哨を三人やりすごしている。
 三人目など、あまりに近くでも気付かないので、ドクオがふざけて触ろうとしたほどだ。
 さすがにその時のブーンのパンチが効いたのか、以降、慎重に行動している。

 無音移動は言わずもがな「silent」液の恩恵による。
92 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 00:39:56.58 ID:FMuNQq0V0
( ^ω^)ノ(待つおドクオ。防音付け足すお)

('A`)b(おk。早くしろよ)

 ドクオは元から隠密行動に長けるらしく、魔法液を必要としなかった。
 一瞬だけブーンの足、また、衣服の擦れる部分が淡く、蒼に光る。

(*'∀`)(股と脇が光るのめっちゃウケるんですけど)

(;^ω^)(なんかニヤついてないかおコイツ)

 武器保管庫の手前まで到達したところで、二人は物陰に身を隠した。
 振り向いたドクオの顔が、ついに緊張の色に染まっていた。
 ブーンは頷き、手信号を送りあった。

――ここからは警備が段違いだ。灯りも兵器廠周辺だけすさまじく多い。

――分かったお。ここからは走らないで行くんだおね?

 ドクオが首肯する。

――戦闘はありえない。痕跡さえも残したらアウトだ。
95 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 00:44:09.21 ID:FMuNQq0V0
 歩哨が一人、物陰に近付いた。
 兵士が通った瞬間に、その影に入るドクオ。
 自らの影がぼんやりと肥大していることに、歩哨は気付かないようだった。
 ブーンも、訪れたもう一人の歩哨の影へ。

 松明の灯りが両脇を照らす、武器保管庫の前を通る。
 門前にいた見張りが、巡回中の仲間に片手を挙げて挨拶する。
 まずはドクオが、次にブーンが移動する影に追従、目前を通過した。

 下り階段が見えてくると、そこには椅子に座って船を漕ぐ兵士がいた。
 巡回していた兵士は、その睡眠を阻害、喋りだした。
 ドクオは一旦、ブーンの到着を待つ。

 後から来たもう一人の兵士が来る。
 三名が会話に夢中になり始めた頃、ブーンはわき腹を小突かれる。

( ^ω^)(お待たせだお)

('A`)(行くぞ、早くついてこい)

 彼の指差す先は階段だった。
98 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 00:49:31.04 ID:FMuNQq0V0
 螺旋を描く階段には半周毎に灯りが点されていた。
 幅は、大人が両手を広げれば内外の壁に指先が触れる程度。
 蝋燭の炎が大きく揺れる度に、ブーンは身を強張らせた。
 見通しの悪さに比例して、彼の心臓は激しく拍動するのだった。

 数段ごとにドクオは静止の合図を出し、耳を澄ませる。

 半周降りる。

 一周降りる。

 二周降りた。

 そして四週。

 さらに続くな、とドクオが振り返った。
 ブーンもそれに頷いて答える。
 喉元で脈を打つようになった心臓が、元の位置に戻りかけていた。




 足音。


100 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 00:52:20.39 ID:FMuNQq0V0
 二人の身体が硬直した。

 反響のせいで、音が上下いずれからくるのか特定できない。

(;'A`)(息を整えろ! 落ち着け!)

(;゚ω゚)ハァ……ハァ……ハァ……

 防音障壁は人の肌には定着せず、当然、口元になど塗れはしなかった。
 漏れる荒い呼吸に、ブーン自身腹が立った。
 肋骨を内側から叩く心拍が、外に響いているのでは、と彼は錯覚する。
 だが、無慈悲にも接近の気配は止まらない。

(;゚ω゚)(捕まったら、皆……。収まれ! 収まれ!)

(;'A`)(そうだ、アレを出せ!)

 ドクオはブーンの服を探った。
 彼は目くらましの魔法薬しか使用していない。
 よって、衣擦れの音が起こされる。

 足音が、はたと止まる。

 刹那、速度を上げる規則的なステップ。
 ドクオがついに、目的の物を探り当てる。

101 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 00:55:00.18 ID:FMuNQq0V0
「……一体なんだ?」

「下の学者連中がお散歩でもしてたんじゃないのか。
 それか逃げ出そうとして、ビビって戻った、とか」

 上階から来た二名が、気配のした周辺を見回す。
 片方は階段の入り口横で眠りかけていた見張りだった。
 その頭が傾く。

「散歩……夢遊病のヤツがいたっけなあ」

「夢の研究してたら魔術が暴発したってあいつか」

「研究なんかしなくっても、見張りしてりゃすぐストン。だけどな」

「ばーか、お前と一緒にすんなよ」

 兵士達は別段調べることなく、納得してそのまま下っていった。

 残されたのは蝋燭の軸が焼けるわずかな音。

 ややあって、ぼやけた輪郭が階段に音もなく着地する。

(;'A`)「ここでならちょっとくらい声を出しても良さそうだな」

102 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 00:58:37.83 ID:FMuNQq0V0
 続く影がひとつ。

(;^ω^)「すまないお、ドクオ」

('A`)「結果的に見つかってないんだ、気にすんな。慣れってのもある。
    ……モナーに感謝しろ。元を辿れば奴さんのおかげだ」

 ドクオの手に握られたのは、半分に切られた葉。
 それは、モナーがブーンに渡した、「りらーっくす」用のハーブだった。
 ブーンは未だ原型を留めているそれを吐き出し、ポケットに突っ込む。

 彼が受け取ったのは、やはり麻薬のようなものだった。
 少量ならばそれこそリラックス効果を発揮する。
 しかし、多くを噛み続けると、多幸感、次いで軽度の倦怠感を示す薬草。
 高い交感神経抑制作用を持つが、依存性は低く、高値で取引されるものだ。

('A`)「……グリーン・ナイトの癒しの力ね」

 ドクオはそれをためつすがめつし、何かを想ったようだった。
105 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 01:01:33.28 ID:FMuNQq0V0
('A`)「もう行けるか?」

 葉の残った半分を自分の懐に入れつつ、ドクオは問う。

( ^ω^)b

 無言は、隠密行動の再開を示していた。

 螺旋階段はそれから二周と半分で終了した。
 こもった、なまぬるい空気が二人の顔を撫でた。

('A`)(兵器廠への城内口だ)

 階段から開けた空間を覗き込む。
 変わらず白黒の内装と、実験器具が多く確認できた。

 秤やフラスコ、何かの粉末や鉄片が乗った台。
 曲がりくねったガラス管はその間を走る。
 使途の分からない金具の入った大きな箱。
 壁際の棚には大小様々なガラス瓶。

 階段でニアミスした兵士達を含めた、八名ほどの歩哨。
 歩き回っては台の下などを覗いている。
 学者然とした人間は一人もいない。
 時折、作動している器具の立てる水音だけが聞こえた。

 ドクオはその奥を指差す。

( ^ω^)б(お、あれかお)


106 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 01:03:14.23 ID:FMuNQq0V0
 ブーンの目に錠前付きの頑丈そうな鉄扉が映った。
 高い天井いっぱいまでの、大きく黒い門だ。
 しかし、ドクオは首を振る。

а('A`)(いや、それは兵器搬出入用。横の扉を目指す)

 二人は慎重に歩を進めた。
 遮蔽物に富むこの部屋は、侵入するに容易い。

(;^ω^)(これは、心臓かお?)

 台に乗ったどす黒い肉塊が、規則的に脈動している。
 管が繋がれ、液体が供給され、また拍出される。

('A`)(脳みその輪切りか。悪趣味ったらねえぜ)

 また別の台には、縦横にスライスされた脳の標本。
 走り書きのメモには「夢想状態」「色付きの夢」などの文字が読めた。

 あと五メートルもしないで目標まで到達できる。

ヽ('A`)(……止まれ)

 突然ドクオが出した停止の合図に、ブーンは驚いた。

(;^ω^)(なっ、なんだお?)
108 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 01:07:40.35 ID:FMuNQq0V0
('A`)(見ろよ)

( -∀-)「――な物がございまして――開発――夢が」

 そこには床に寝転んだまま身振り手振りを行う白衣の男。
 絶えずぶつぶつと何かを唱えている。

( ^ω^)(この人は学者かお)

('A`)(見回りが来る。一旦隠れよう)

 実験台の下へと身を潜める二人。
 白衣の男に近付く兵士。

「ん? おい、こんなところで寝るな。やっぱりさっきのはアンタだったのか」

( -∀-)「そうすれば私は――信じ――絶対」

「起きろ。モララー博士」

(;・∀・)「―――クール様!」

(;^ω^)(モララー博士!?)

109 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 01:09:06.69 ID:FMuNQq0V0
 がばっと起き上がったモララーは辺りを見回し、ため息をついた。

( ・∀・)「あ、すみませんね。また歩き回ってしまったようで」

「まったく手のかかる。逃げ出そうとしたわけじゃないんだな」

( -∀-)「逃げられるわけが、ないじゃないですか」

「ふん。まあ、な」

( ・∀・)「……ええ」

 にやりと笑って立ち去る兵士。
 モララーは顔をしかめると、ブーン達の目指した扉へ向かう。
 ドクオがブーンの服を軽く引っ張り、その後を追った。

 その中は学者の住居スペースだった。
 扉からは短い廊下が続き、途中の部屋には寝台や食卓が見える。
 奥は兵器廠へ続いているようだった。

( ・∀・)「私は、何をやっているんだ……」

('A`)(……)

 モララー博士は、壁に背をつけ、座り込む。

110 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 01:12:08.14 ID:FMuNQq0V0
(  ∀ )「どうしようもない男だ。私は」

 その時、ドクオが素早く接近し、片手で口を塞いだ。
 さらに空いた手で短剣を首元に当てる。

(;^ω^)(ドクオ何するんだお!!)

(;・∀・)「っ!」

 ドクオは短剣をブーンに預け、懐から紙切れを取り出す。
 フラスコと共に彼が渡された物だ。
 それを口に当て、喋りだす。

('A`)「――――」

 一切の音が聞こえないまま、彼は紙切れを口から離した。

 一瞬の後、紙に異変が起こる。

『クールだ。モララーがいるのか? 彼は行方不明になっていた。
 本当なら、彼に紙を渡してくれ。使い方は分かっているはずだ』

 じわりと湧き出すように描写されたのは、そんな文字だった。
 モララーの目の前にそれを掲げるドクオ。

(;・∀・)「っ!」

 彼はそれを黙って受け取った。
112 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 01:14:47.93 ID:FMuNQq0V0
 モララーはドクオと同じくして、紙に喋りかける。
 声は全てそれに吸収されてしまうようだった。

('A`)(ブーン)

( ^ω^)(分かったお)

 残りが半分をきった「silent」液で、暗がりに結界を張るブーン。
 三人が無理やり入り込める程度の大きさで、円が描かれた。

 先ほどの文字は消え、新たな文字列が紙に現れた。

『モララー。再び話すことができて嬉しいよ。やはりニューソクに捕まっていたのだな。
 しかし、お前がそこにいるということは――』

 そこまで読んでブーンも理解する。
 記憶を辿り、言葉を発した。

( ^ω^)「スナオ家お抱えの学者一派が長、モララー博士。
       終戦の二年前、僕が団長になった年に消えた、魔導騎士の発案者」

('A`)「はっ! 虐殺兵器の開発者、の間違いだろ?」

( ・∀・)「ああ……その通りだ。やはりヴィップは、いや、なんでもない……。
      クール様はお元気か? お変わりは?」

 しかし、モララーはドクオに遮られる。

113 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 01:16:39.84 ID:FMuNQq0V0
('A`)「よもやま話はいらねえ。聞きたいのは、この先のことだ。
    おっと。どうしてお前さんが敵国で兵器開発してるかなんて、語りだすなよ。
    見え透いたお涙頂戴なんざ反吐が出る」

 釘を刺して、モララーを促した。

( ^ω^)「ドクオ」

( ・∀・)「いや、構わない。君達の目的は、確かにこの先にある。
      むしろ、目的の物しかないといったところか」

('A`)「内部構造と警備を教えろ」

 それから、質問が投げかけられ、簡潔な回答が行き来した。

( ^ω^)「完全に無人警備なんですかお?」

( ・∀・)「それだけ高度な魔術が張り巡らされているということだ。
      盗聴、重量感知、魔力感応、火薬探知。廠内で侵入が発覚すれば、
      全ての出入り口に封印魔法がかかる。その後は警報を聞きつけた兵士が殺到、終わりだ」

('A`)「袋のネズミもいいとこだな」

( ^ω^)「それじゃ、どうやってモララー博士達は入るんですお」
115 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 01:19:27.12 ID:FMuNQq0V0
( ・∀・)「中で開発が進められていたのは、何かご存知だろう」

 言わずもがな、魔と学の成す武の結晶、魔導騎士。
 ブーンとドクオは頷いた。

( ・∀・)「では、それが何を動力にしているか知っているかな」

('A`)「魔力じゃねーのか」

( ・∀・)「そう。魔力もそのひとつ」

( ^ω^)「ひとつ? まだ何かあるのかお」

(#'A`)「結論を急げ! ぐずが」

 ブーンはドクオをたしなめる。

( ・∀・)「血と色味のある記憶さ。それも、純度が高いほどいい。
      研究で私はそれを突き止めた。記憶とは、感情とも言い換えられる」

( ^ω^)「感情ですかお」

( ・∀・)「ああ、厳密には、人の体液の流れから生まれるんだが……」

116 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 01:20:46.25 ID:FMuNQq0V0
 曰く、感情の昂ぶりや沈降は独特の波長を放つらしい。

('A`)「昔、どっかの医療特化の国がそんなこと発表したらしいな。
    脳みそ辺りで目に見えないほど小さな粒子が出る、とかよ」

( ^ω^)「そういえば抗自白剤訓練でそんな説明を受けたお」

( ・∀・)「そう。おおまかな感情は、その粒子の種類から推測できる。
      魔力を当てることで、それを可視化、精製を可能にした」

 得られるのは微量ではあるが、と付け加えたモララー。

( ・∀・)「ところで、さっきの部屋で心臓を見なかったか?」

( ^ω^)「お。びくびくし続けてたのを見ましたお」

( ・∀・)「あれは、ヴィップ国の武人の心臓だ」

( ゚ω゚)「え?」

117 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 01:23:19.13 ID:FMuNQq0V0
 ブーンが青ざめた。
 ドクオでさえ、怒りの表情を一転させた。

( ・∀・)「要は、心の臓が送り出す血液。武の道を歩む者は、それに不可解な力を宿す。
      魔力とは別種でいて、近しく、目には見えない。戦闘のセンスはそれに起因する」

 なおもモララーは続ける。

( ・∀・)「抽出は生体からできれば良いが、なかなかそれも難しい。
      だから、戦争で出た死体から取り出した心臓を使っているのさ」

(;゚ω゚)「僕の、仲間の心臓を?」

( ・∀・)「ニューソクよりもヴィップの兵の方が資質に恵まれているんだ。
      薄めたとしても、有用なんだよ。強力な魔導騎士を作るためにはね」

('A`)「てめえは救われねえヤツだな。まともな死に目に会えねえぞ」

( ・∀・)「分かってる……。分かっているんだよ……」

 モララーは、笑った。
 涙を流しながら。

( ;∀;)「でも仕方ないんだ。やるしかなかったんだよ。私は。ははははは。
      私は、あはは、手を汚して! それでも守りたいものがあったんだよ!」
123 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 01:35:46.21 ID:FMuNQq0V0
 妻が!
 子供が!
 家族!
 旧い友人!

 目前で腕をもがれ、脚を斬られ!
 耳は削がれ、片目はえぐられ!
 それでも皆生かされて!
 どうしたら良かったんだ!?
 結果を出さないと彼らが痛めつけられる!
 逃げられるわけないだろう!?

 あはあははははははははははははははは

 ああああああああああああああ!!


 彼の叫びは、防音の障壁に吸い込まれる。
 ブーンはドクオの肩を叩き、一度、その結界から外に出た。
 ドクオは何も言わずに従う。

 涙にまみれて頭をかき乱す。
 床に頭を打ち付ける。
 腕を、顔を爪で掻く。

 そんなモララーから、二人は黙って、顔を背けた。

124 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 01:39:33.47 ID:FMuNQq0V0
('A`)「おい、続きはまだ話せるか」

 孤独な懺悔を見届けると、ドクオは問いかけた。
 その声は先ほどより柔らかいトーンだった。

(  ∀ )「ああ……すまない。時間を無駄にさせた」

( ^ω^)「それで、動力源がどういう関係があるんですお」

( ・∀・)「みっつの要素を混合、凝縮、固形化したものが核となる。
      それが、これだ」

 モララーが指にあるもの二人に見せる。
 見る角度によって色を変える、美しい石のついた指輪だ。

('A`)「随分小さいな」

( ・∀・)「魔導騎士達の胸にはこれより大きなものが内臓されている。
      私のこれは、いわば警備撹乱用の鍵さ。働く学者は皆これを着けている」

( ^ω^)「撹乱……。つまり、格納されてある魔導騎士に偽装できるのかお」

( ・∀・)「魔術は対象を明確に限定した場合、より強い効果を発揮する。
      ここは対人用魔法に溢れているんだ。必ず、なんらかの感情の色を看破される」
126 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 01:43:58.59 ID:FMuNQq0V0
('A`)「逆にその色とやらがなければ、全く見つからない、と」

( ・∀・)「少なくとも、混在したエネルギーに包まれている限りは」

 防音障壁の光が徐々に弱まってきた。
 同様に目くらましの魔術も薄まっている。
 ブーンはフラスコを振って、魔法液が残り少ないことを確認した。

( ・∀・)「クール様の魔術。この蒼い光。懐かしい感覚だ」

('A`)「会いたいか」

 いや、とモララーは答える。

(  ∀ )「こんな私が会う資格などない」

( ^ω^)「……戦争は僕達が食い止めますお。モララー博士。
       絶対に、助けに来ますお。そうしたらまた会えますお」

('A`)「……そろそろ行くぞ」

 目元を潤ませたモララーに背を向けたドクオは、寂しげな表情をしていた。
 そこで、唐突に待てが入る。

( ・∀・)「まっ、待ってくれ。君が中に入るのか?」

127 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 01:45:45.28 ID:FMuNQq0V0
( ^ω^)「僕ですかお? いや、僕達は二人で」

(;・∀・)「この小核では一人しか警備網を騙すことができない」

('A`)「なんだと?」

(;・∀・)「それに、君等の任務は『存在・規模の確認』。『鹵獲あるいは奪取』だったな」

(;^ω^)「ですお」

(;・∀・)「前者は簡単だ。だが魔導騎士は持ち出せない。不可能だ
      せいぜい、設計図を盗むことができるくらいだろう」

('A`)「魔導騎士の存在はひっかからないんだろう? 一体、何が言いたいんだ」

 モララーは、俯いて唇を噛んだ。
 防音障壁が消える直前に、彼は指輪を二人に渡してこう言った。

――見れば分かる。

128 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 01:47:04.93 ID:FMuNQq0V0
 モララーと別れた二人は、顔を見合わせる。
 お互いが怪訝な表情を浮かべている。

('A`)(あの野郎、どういうことだ)

( ^ω^)(見れば分かる?)

 手信号で、ブーンが指輪をはめることが決定された。
 ドクオが紙切れを差し出し、ブーンはそれに向かって状況を伝える。

( ^ω^)「ブーンだお。兵器廠内への潜入準備が整ったお。通信後、侵入。
       内部を探り、脱出。可能ならば兵器を持ち出すお」

『こちらツン。了解。ブーン、気をつけて』

 淡白な返答に、ブーンは苦笑したが、十分に心配する気持ちが伝わった。

 ドクオが姿を隠すと、ブーンは廊下を奥へと進む。
 魔術液を使わずに歩いたため、自らの足音に心臓が跳ね上がった。
 手を重々しい黒の扉にかけ、深呼吸。

( ^ω^)(行くお……)

 それは開かれた。
131 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 01:51:57.81 ID:FMuNQq0V0




 果たして、彼は、モララーの言葉の意味を理解した。


――むしろ、目的の物しかないといったところか





132 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 01:53:40.93 ID:FMuNQq0V0
(  ω )「こちらブーン」

『クールだ。どうした、発見できたか』

(  ω )「皆、任務は失敗だお。実行不可能だお」

『どういうことだ。答えろ、ホライゾン』

 ブーンは、兵器廠の中央を見る。

 整列した白黒の鎧の群れ。

 その中央には、台座に座らされた銀に輝く巨大な具足。
 甲冑の胸部は、開かれている。
 中には、魔力核と思しきものは見当たらない。
 その一体だけが、異常に巨大だった。
 常人の十倍以上の身の丈。
 凄まじく太く長い剣。
 だが、衝撃を与えたのはそれではない。
 核が無ければ、ただの大きな甲冑飾りだ。

 むしろ絶望の根源は、モノクロの鎧。
 特に、一番近い魔導騎士の露出した顔面だった。

「どうでしょう、すばらしい作品でしょう?」

 それが言う。

133 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 01:55:10.56 ID:FMuNQq0V0
(  ω )「作品?」

「そうです、作品です。私も含めてね」

「私もですよ」

「無論、私や、隣にいる私。背後にいる私も」

「すばらしいとは思いませんか」

「これを見て。すばらしいとは思いませんか」

(  ω )「狂ってるお」

「ご理解いただけない?」

(  ω )「こちら、ブーン。皆、逃げる準備をするお」

『答えろ! 何があった!』

 魔導騎士達が一斉に面を上げ、顔を彼に向けた。
135 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 01:57:49.53 ID:FMuNQq0V0



(<●><●>)(<●><●>)(<●><●>)(<●><●>)(<●><●>)(<●><●>)
(<●><●>)(<●><●>)(<●><●>)(<●><●>)(<●><●>)(<●><●>)
(<●><●>)(<●><●>)(<●><●>)(<●><●>)(<●><●>)(<●><●>)

   「実に残念です、兵団団長ホライゾン殿」

(<●><●>)(<●><●>)(<●><●>)(<●><●>)(<●><●>)(<●><●>)
(<●><●>)(<●><●>)(<●><●>)(<●><●>)(<●><●>)(<●><●>)
(<●><●>)(<●><●>)(<●><●>)(<●><●>)(<●><●>)(<●><●>)



 百を超える、ワカッテマスがそこにいた。
 白と黒とに覆われた鎧からのギョロついた二百の眼差し。
 それらが立ち尽くしたブーンに視線を集中させていた。
138 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 02:01:38.14 ID:FMuNQq0V0
(  ω )「魔導騎士っていうのは」

( <●><●>)「私ですよ」

 一番近いワカッテマスが答える。

(  ω )「無人の、仮想生命の兵器じゃないのかお」

( <●><●>)「ああ、それは試作品のことですよ。そうですねえ。ちょっとお話しましょうか」

 隣のワカッテマスが小首を傾げた。
 そして、さらに隣のワカッテマスが動作を引き継いで指を鳴らす。

( <●><●>)「こちらへ、客人をお連れください」

 ブーンの背後でどたばたと騒音が起こる。
 怒号。
 悲鳴。
 罵声。

 しかし、それらはすぐに止んだ。

「こっちに来い! おとなしくしろ!」

(#'A`)「チクショウ! モララーの野郎騙ってやがった! ブー……ン……」

(;'A`)「どういう、ことだ……」

139 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 02:05:02.56 ID:FMuNQq0V0
 愕然とするドクオは、ブーンの足元に放り出される。
 彼をつれてきた兵士は、一礼すると出て行った。

( <●><●>)「知、力、学、金。あればあるほど気持ちのよいものです」

 隣へ。

( <●><●>)「美しさを数に感じませんか。私は感じます。貴方達もそうでしょう」

 もう一人、隣へ。

( <●><●>)「多大なる物を手にするに、私は貨幣を利用しました」

 さらに話し手は隣へ。

( <●><●>)「物欲とは面白い。蔑視されるが、一方で人間の本質だ」

( <●><●>)「手に入れることが楽しみです。美しさです。悦びです」

( <●><●>)「ですが、それでも一生のうちに全ては手に入りそうもない」

( <●><●>)「そこで私は知ったのですよ。一生を延長する手段を」

( <●><●>)「戦場を駆けずり回るという新たな娯楽も手にいれました。それを実現する手段こそ」

 順々に喋っていた全員が、声を揃える。

 他人の命を取り込むこと。

140 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 02:07:06.70 ID:FMuNQq0V0
 ドクオが立ち上がり、剣を抜く。

(#'A`)「けっ! 雁首揃えてわがままの正当化演説かよ! くだらねえ!」

( <●><●>)「迅雷の傭兵ドクオ殿。貴方には失望しましたよ」

(#'A`)「なんだと?」

( <●><●>)「私の宝物庫に盗みに入った回数、八回。いずれも未発覚」

( <●><●>)「と、言うことにしてあげたのに。まさか盗った物を他人のために使うとは」

 ドクオがぎくりと固まる。

( <●><●>)「純粋な物欲ならばと許容していたのに、義賊まがいの行動? 馬鹿馬鹿しい」

(  ω )「馬鹿馬鹿しい?」

( <●><●>)「強欲を持つ仲間だと思っていたのですが、期待外れでした」

 そこで、再び背後に気配が生じる。

141 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 02:09:39.51 ID:FMuNQq0V0
 開かれた扉の向こうには、つい先ほど別れた人間がいた。

(  ∀ )

( ^ω^)「……モララー博士」

 彼は何も語らない。

( <●><●>)「いやはや、彼は得るより保持することに執着していました。彼も欲深い」

( <●><●>)「それを刺激してお願いをしたら、わたくしの願望を実現してくださったんですよ」

( <●><●>)「感情に潜む魂の色を発見。精製。混合することで、記憶を継承。すばらしい技術です」

( <●><●>)「おかげでわたくしは、それを定着させた疲れ知らずの身体をこんなにも得た」

( ・∀・)「……約束通り、家族は解放しろよ」

 魔導騎士全員が笑顔を浮かべる。
 そして、笑う。

 一人が始めて、左右に伝播し、後ろに広がる。
 巨大な銀色の鎧以外にそれが感染する。

 薄気味の悪い、背筋を凍らせる嬌声。

142 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 02:11:35.40 ID:FMuNQq0V0

(<●><●>) (<●><●>) (<●><●>) (<●><●>) (<●><●>) (<●><●>)
           けたけたけたけたけたけたけたけた
(<●><●>) (<●><●>) (<●><●>) (<●><●>) (<●><●>) (<●><●>)
 けたけたけたけたけたけたけたけた
(<●><●>) (<●><●>) (<●><●>) (<●><●>) (<●><●>) (<●><●>)
   けたけたけたけたけたけたけたけた   けたけたけたけたけた

       けたけたけたけたけたけたけたけた

(<●><●>) (<●><●>) (<●><●>) (<●><●>) (<●><●>) (<●><●>)
   けたけたけたけたけたけたけたけた
(<●><●>) (<●><●>) (<●><●>) (<●><●>) (<●><●>) (<●><●>)
 けたけたけたけたけたけたけたけた   けたけたけたけたけた
(<●><●>) (<●><●>) (<●><●>) (<●><●>) (<●><●>) (<●><●>)
145 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 02:13:43.67 ID:FMuNQq0V0
( <●><●>)「――ホライゾン殿、おかしいでしょう」

( <●><●>)「美談か、悲劇か。いいえ、紛う事無き喜劇!」

( <●><●>)「……はあ。モララー博士。約束は守りましょう」

 ワカッテマスが一人を除いて、面を下ろす。

( <●><●>)「ところで、ホライゾン殿。『暗殺は不可能』そうおっしゃいましたね」

(  ω )「それがどうしたんだお」

( <●><●>)「そんなことありませんよ」

 ブーンへ近付くワカッテマス。
 ブーンが剣を抜き、身構えた。
 頬を汗が流れる。
 ドクオはそれが、ブーンの赤いスカーフに濃いシミを作るのをちらりと見た。

 立ち止まったワカッテマスは、脱力したまま胸元を開ける。
 その甲冑の中は、生身の人間のように見えた。
 無防備に健康そうな胸を張るワカッテマス。

( <●><●>)「これは肉に見える、装飾品ですよ。あ、元はヴィップ国の兵士だったらしいです。
       心臓の位置を狙ってください。核を突けば、おめでとう、一撃死です」

146 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 02:15:11.73 ID:FMuNQq0V0
(  ω )「今、なんて言ったんだお」

( <●><●>)「心臓の位置です、心臓。ここですよ」

(;'A`)「おい、ブーン。罠だ。やめろ」

(  ω )「ヴィップ国の、なんだお」

 ああ、とワカッテマスは納得した。

( <●><●>)「ホライゾン殿の部下の一人でしょうか。良い筋肉でしょう?
       確か、半年前に生体から剥ぎ取って、以来、わたくしの体に――」

 やめろ! という叫びが重なる。


 刹那、鋼の刃が二種類の音声を断ち切った。

147 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 02:17:04.15 ID:FMuNQq0V0
( <●><○>)「――」

 モノクロの鎧は、崩れ落ちるように倒れた。
 胸元から、複数の色が混ざった液体を噴出して。

(  ω )「なんだ、簡単に死ぬんじゃないかお」


 拍手が沸きあがる。


 顔を覆った、多数の魔導騎士達の拍手。
 擦れる金属が不協和音となり、彼を包んだ。

(;'A`)「クソ! 馬鹿野郎! そんなことしたら!」

 一体が手を上げた。
 騒音は止む。

 新たに進み出たワカッテマスが、兜を外す。

( <●><●>)「お見事。さすが若くして兵団を率いるまで上り詰めたお方。
       国を挙げて演舞に対する礼をしたいのですが、残念ながら、
       皇帝ワカッテマスが殺されてしまいました」

(#'A`)「チクショウ!」
149 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 02:21:05.82 ID:FMuNQq0V0
( <●><●>)「目撃者は百以上のニューソク皇国兵士。魔導騎士とはいえ、意思ある者。
       犯人はヴィップ国、兵団団長ホライゾン。それにより我々は宣言します」


――ニューソク皇国は、ヴィップ国へと報復行為に乗り出す。


(;'A`)「やっぱりそういう目論見だったんだな……」

150 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 02:22:58.51 ID:FMuNQq0V0
( <●><●>)「下賎な義賊気取りは妙に気が付きますね」

(;'A`)「明らかな多勢が隙を見せる時は裏があんだよ。てめえみてえな野郎は特にな」

( ゚ω゚)「ドクオ。もう良いんだお。こいつは人間じゃない。
      ようやく踏ん切りが付いたお」

 ブーンは、剣に付着した液を振るい落とし言う。

( ゚ω゚)「こいつは、こいつらは僕らが殺さなければならない」

 含み笑いが返される。

( <●><●>)「ふふふ、良い怒りの色が見えます。鮮血の赤。
        そう、首から胸から噴出する赤です」

( ゚ω゚)「ふっ」

 再び、銀の軌跡が描かれる。
 低空に踏み出した、大きな一歩。
 対して、ワカッテマス達はぼんやりとそれを眺めている。
 ブーンが鋭く鎧の上下の隙間を突き上げて、硬い物を砕いた。

( <●><○>)「――」
157 名前: ◆s7L3t1zRvU :2009/03/30(月) 03:00:07.90 ID:FMuNQq0V0
ごめんなさい。

さるってて身動きが取れないので、
改めて投下するなりしたいと思います。
詳細は天下一ブーン会したらばで。

はてさて、これは書き込まれるのか。
next Back
inserted by FC2 system