第八幕
- 383 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 17:07:10.86 ID:RoiL6Hj7O
- 無邪気であると同時に悪意に満ちたているような、そんな笑顔の女は、
右手でヒッキーを襲った物体……刺付きの球体を形取った黒光りする鉄塊……を軽くお手玉するように扱いながら、
軽い足取りでヒッキーに近づいてきた。
- 385 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 17:08:53.28 ID:RoiL6Hj7O
- (*゚∀゚)「どーもー。つーチャンでーす」
距離をある程度まで詰めたところで、つーと名乗った女性は立ち止まった。
(*゚∀゚)「きょーしゅ様から命じられて、君を捕まえるために来ました。
よろしくー」
宣戦布告に近い発言をしておきながら、よろしくね、とはいかに矛盾した言い草だろう。
ヒッキーは目の前の風変わりな女性を、警戒心丸出しに睨み付けていた。
(*゚∀゚)「そんな怖い顔しないでよー。
ちょっと戦うだけなんだからさー。
仲良くいこうよ、ね?」
−−−−見上げたイカレポンチだな
本人には届かない侮辱を、ハインが口にする。
- 387 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 17:12:29.39 ID:RoiL6Hj7O
- (*゚∀゚)「いや、実を言うと嬉しくて仕方ないんだよね。
最近はつまんない仕事ばっかりでさー。
毎日毎日、狭い部屋の中で人間をミンチにするのは飽きちゃった」
尋ねてもいないのに意味の分からないことを話すつーの舌は止まらない。
(*゚∀゚)「キミは中々手強いって聞いたからさ。
ワクワクしながら会えるのを待ってたんだよ。
……ま、やってみれば分かるよね」
つーはそう言って、ジャラ、と鉄球に繋がる鎖を鳴らす。
(*゚∀゚)「ほいさァ!」
(-_-)「!」
次の瞬間には、鉄球をヒッキーに向けて投げていた。
- 390 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 17:16:32.58 ID:RoiL6Hj7O
-
猛スピードで迫る鉄球を間一髪のところで躱すと、ヒッキーも素早く反撃に出た。
後方で鉄球が何かに激突する鈍い音を聞きながら、
投げ飛ばされた鉄球がつーの手元へ戻る前に接近する。
変質させた鋭く光る爪を揃え、つーの胸元目がけて突いた。
返ってきたのは一瞬の硬い感触。
(;-_-)「!?」
(*゚∀゚)「やー、危ない危ない」
つーが胸元から素早く取り出したナイフがヒッキーの爪を斜めに受け流していた。
突っ込んだ勢いは止まらず、ヒッキーは身を躱したつーに脇腹を晒すような体勢になる。
ヒッキーの攻撃を受け流したナイフが翻って、ヒッキーの脇腹を切り裂く寸前、
ヒッキーは強く地面を蹴り付けて真横に跳んだ。
- 392 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 17:20:34.37 ID:RoiL6Hj7O
- バランスを崩して背中から着地、起き上がったヒッキーは、
僅かに切り裂かれたローブの切り口から滲む赤いものを一瞥した。
−−−−おー、危ない危ない
(*゚∀゚)「いい反応だね!
そうこなくっちゃ」
一方のつーは余裕綽々といった様子で、ヒッキーの脇腹を掠め、血液の付いたナイフを眺めた。
(*゚∀゚)「やっぱり血を見ると気分が高鳴るさね……」
クックッ、と籠もるような笑い声を出すつーの雰囲気が、陰湿な空気を帯びる。
(*゚∀゚)「さぁ、かかってきなよ、トカゲ男君!」
両手を広げて挑発する言われる迄もなく、ヒッキーは再度突撃した。
- 394 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 17:23:13.81 ID:RoiL6Hj7O
- 重心を低くしてつんのめるような格好で駆ける。
再び接近したところで、ヒッキーの身体が伸長する。
(*゚∀゚)「おおっと、ワンパターンだね!」
ヒッキーの動きを察知したつーは、ヒッキーの腕のリーチよりも後ろへと後退した。
が。
(*゚∀゚)「!?」
ヒッキーはつーの予想とは異なり、その目前で踏み出した足で、自身を真上に蹴り上げた。
(-_-)「ッ!」
体が宙に舞い、空中で一回転する。
同時に、つーの顎を何かが真下から打撃した。
(;ー∀゚)「ぐッ!」
一瞬揺らぐ視界の中で、つーは何が起こったのかを知った。
- 396 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 17:26:58.37 ID:RoiL6Hj7O
- ヒッキーが、空中で回転して打ち出す蹴り、サマーソルトを繰り出したことまでは見えていた。
予想とは違うとはいえ、つーはヒッキーの足の届く範囲からは飛びのいていたのだ。
それでもなお、つーの顎を打ち抜いたモノ。
それは、ヒッキーの腰から伸びた細長い三角錐の物体だった。
(*゚∀゚)「尻尾!?」
一撃を食らった後、大きく距離を取りながら、つーは驚かざるを得なかった。
ヒッキーも着地し、二人は距離を離して再び対峙した。
−−−−頑丈な奴だな
ヒッキーもハインと同様、つーの受けたダメージがさほど大きくないことを理解した。
常人ならば、大の大人でも一発で脳震盪を起こして沈む程の一撃だったが、
つーは特にふらつく様子もなく、ただ黙って立っている。
−−−−案外、同類な予感がするな
ハインが意味ありげな発言をした直後。
(*゚∀゚)「んー、油断した」
しばらく互いに睨み合い、張り詰めていた空気に、変わらず気の抜けたつーの言葉が割って入った。
- 397 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 17:31:49.11 ID:RoiL6Hj7O
- (*゚∀゚)「尻尾まで生えてんのね……流石、一応は「せーこーたい」なだけはあるよ」
「せーこーたい」。
それが何を意味するのか、一瞬考えて、ヒッキーは答えを思いついた。
「成功体」。
(*゚∀゚)「私もちょっと本気だそうかなぁ、と」
つーは鎖をグイ、と引いて鉄球をその手に舞い戻らせると、そのまま地面に落とし、ナイフも懐にしまい込む。
代わりに腰の後ろに手を回して新たに取り出したそれは、
棒の先端に幾何学的な立体をした鉄塊を取り付けたような、一般にはメイスと呼ばれる鈍器だった。
(* ∀ )「さて、じゃあ仕切りなおし」
そう言うが早いか、つーはヒッキーに向かって駆け出した。
- 399 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 17:38:27.16 ID:RoiL6Hj7O
- ヒッキーも素早く迎撃の体勢で迎えうつ。
右下から左上に振り上げられたメイスが、ヒッキーの顔面を粉砕するギリギリのところで、その打撃を身を反らして躱す。
(*゚∀゚)「もういっちょ!」
さらに踏み込んで、折り返すように振り回されるメイスを今度は横っ飛びに躱し、
反撃の手刀を繰り出したが、つーもまたそれを躱す。
直後、脇腹に衝撃を受けてヒッキーは吹っ飛ばされた。
(;-_-)「!?」
つーが繰り出した蹴りが、ヒッキーを捉えていた。
- 402 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 17:46:57.37 ID:RoiL6Hj7O
- 背中から地面に叩きつけられ、慌てて起き上がるヒッキーに暇を与えまいと、真正面からメイスの追撃が振られる。
ヒッキーが地面を後転した直後、メイスが石畳を叩き壊す。
つーがメイスを持ち上げる隙をついて、体勢を持ちなおしたヒッキーがアッパーのような切り裂きを繰り出す。
爪がつーの頬を掠め、顔に赤い筋が走った。
- 408 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 17:59:43.12 ID:RoiL6Hj7O
-
(*゚∀゚)「ぞくぞくするねェ」
頬を伝う血液を拭い、つーが言う。
(*゚∀゚)「何となく察してると思うけどさ、私も成功体の一人なんだ。
私が二番目の成功体で、キミは七番目。
二番目だからつー、なんちて。
あ、ちなみに、一番目は自殺して、四番目と六番目はきょーしゅ様の「エサ」になって、五番目はアタシが殺したんだ。
だから今いるせーこーたいはキミとアタシだけ」
今現在、自分とヒッキーが何をしているのか、全く意に介さず、つーは続ける。
(*゚∀゚)「一番目とアタシはまだ不完全なせーこーたいだったから、変身とか無理なんよね。
とまぁ、そんなことはどうでもいいのかな」
再びつーが接近してきて、乱暴な大振りの一撃を振るう。
ヒッキーは後ろに飛んで躱す。
- 410 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 18:06:33.50 ID:RoiL6Hj7O
- (*゚∀゚)「でもさ、不思議に思わない?
キミは元々ただの物乞い、なのにこうやって、アタシと楽しくダンスしてる。
その身体はトカゲに変身できるし確かに強くなってるけど、
さっきのサマーソルトみたいな身体の使い方を、キミはどうやって学んだのかな?
どうしてキミは、あの研究所を粉々に吹っ飛ばしたのかな?」
(-_-)「……」
攻める気配を消し、代わりに冗舌になったつーを面前に、ヒッキーは黙り込んだ。
(*゚∀゚)「まるで始めから知っていたみたいじゃない?
「使い方」、「壊し方」、「殺し方」……全部、当たり前のように知っていたみたい。
ねぇ、トカゲ男クン……そんな人間は、果たして全うに人間かな?」
- 413 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 18:12:00.17 ID:RoiL6Hj7O
- 返答が無いことなど一向に気にしない口振りで、それでもつーはヒッキーに問う。
(*゚∀゚)「感情に任せ、衝動に突き動かされる。
何かを破壊できる力もあるし、どうやって破壊するかも知っている。
それは正に「異常」な「怪物」だよね」
(*゚∀゚)「キミは、どうやら誰かを助けたいみたいだけど、そんな「健全」で「人道的」なことを、
キミやアタシみたいな「怪物」が出来るのかな?
……それとも、だからこそ人道的な行いをして、自分を慰めたいとか?」
そこまでが限界だった。
ヒッキーはつーの顔面目がけて拳を振るった。
それに対し、つーは避ける素振りも見せなかった。
- 416 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 18:17:42.73 ID:RoiL6Hj7O
- (;-_-)「!?」
ヒッキーの拳はつーの顔を右から殴り付け、鈍い音がする。
けれどつーは微動だにしない。
(* ∀ )「分かってるんだよね、本当は。
キミはマトモじゃないし、
そんな今の自分に違和感も持っていない。
ちなみに「一番目」は自分のそういうとこに絶望して死んじゃった。へなちょこだね」
ヒッキーは拳をつーに叩きつけた体勢のまま、動くことが出来なかった。
(* ∀ )「そうなったのは、今ここでこんなことになっているのは、キミのせいじゃない、と思う?
全部はきょーしゅ様や、キミをそんな風にした奴らのせい?
好きでトカゲ男になったんじゃないやいバーカ、とか言っちゃう?
どーでもいいじゃんそんなこと。誰のせいとか。
というか関係ないよね、キミはもう既にそういう次元は越えているもんね」
- 417 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 18:22:18.67 ID:RoiL6Hj7O
-
(* ∀ )「残念だね、もう手遅れ。
キミに与えられたものはすぐにどうしようもないほどにキミを蝕んでしまうんだよ。
何をしたって、ただの人間には戻れずに、背負っていくしかない。
誰に責任を求めても、誰を恨んでも、誰かを助けても、キミは「怪物」。「化物」。「モンスター」。
この定義は変わらない。キミは逃げられない。
世の中はキミをそういう型にはめて扱う。
キミが助けたいあの娘は、どうかな?」
スッ、と、つーが一歩下がる。
一瞬目が合って、ヒッキーはつーの瞳に戦慄した。
淀んでいるような、あるいはどこまでも底の見えない、不気味な瞳。
(* ∀ )「だからさぁ……もうやめない?
無意味だよ、そんなこと。
人生はもっと楽しくしようよ。
アタシみたいにさぁ……」
「狂っちゃおうよ」
- 420 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 18:28:19.01 ID:RoiL6Hj7O
- そう呟いた後、つーはヒッキーの視界から消えた。
(;-_-)「ッ!?」
間髪を入れずに腹部に鈍痛。
つーの肘が、鳩尾にメリ込んでいた。
何とも言えぬ苦痛が腹部をはい回り、ヒッキーは呻きながら倒れこんだ。
ヒュッ、と頭上に射した影を見て、咄嗟に身を捩る。
降ってきたつーの足は強固な床を叩き割って、飛び散る瓦礫がヒッキーの顔を掠めた。
- 422 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 18:34:42.41 ID:RoiL6Hj7O
- 痛みに苛まれながら起き上がるヒッキーに、つーは容赦無かった。
(#゚∀゚)「「尊厳」とかさぁ! 「建前」とかさぁ! 「躊躇」とかさぁ!
くっだらなさすぎて笑えちゃうじゃんか!」
右フックがヒッキーの顎を揺らす。
(#゚∀゚)「どうでもいいよ、そんなもの!
そんなものを抱えて何が楽しいの!?」
切り返すような左のボディブロー。
(#゚∀゚)「さっさと諦めてさぁ! アタシに「本当」のキミを見せてよ、ねぇえ!?!」
軸足で体を回転させて勢いを乗せた回し蹴り。
立て続けに攻撃を食らって、ヒッキーは反撃の余地もなく再び倒された。
- 424 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 18:40:35.40 ID:RoiL6Hj7O
- (*゚∀ )「つまんないんだよ」
倒れたまま咳き込むヒッキーを見下ろして、つーは呟く。
(* ∀ )「満たされないんだよ」
(* ∀ )「もっと狂いたいのに。暴れたいのに。壊したいのに」
(# ∀ )「どれもコレも何もかも、弱すぎて脆すぎてゼンッゼン物足りない!!!」
狂気以外の何物でもない咆哮。
(# ∀ )「立てよ!飛び掛かってきなよ!壊せよ!殺せよぉぉお!!!」
そして。
ヒッキーはユラリ、と立ち上がった。
- 426 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 18:46:38.31 ID:RoiL6Hj7O
- ( _ )「……」
−−−−どうする、トカゲ男
ハインはこんな状況でも呑気な調子で問い掛けてくる。
コイツは安いB級映画でも見てる気分なんじゃないかとヒッキーは思う。
( _ )「……」
つーに対して、返す言葉は無い。
つーは反論なんて求めていない。
それこそ彼女にとってみればくだらないものだろう。
彼女とヒッキーは、お互いの立場において相容れないのだ。
ただ、今、自分の為すべきは。
ヒッキーの身体が、より一層に変容を遂げていく。
「ヒト」から、「ヒトデナシ」へ。
( _ )「グゥ……」
言葉を喋ると言う事が出来ない喉から低い唸り声を漏らした時、彼は考えることを止めた。
- 427 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 18:48:28.07 ID:RoiL6Hj7O
-
地に這う四肢。
赤黒い身体。
縦長に切れた瞳を擁する眼。
沸き上がる衝動。
(*゚∀゚)「ふ、フフ……」
つーが笑う。
(*゚∀゚)「ヒャヒャハヒャハハハヒャ!!
そうだよそうだよそうだよ!!」
絶叫に近い声を上げるつーに向かい彼は跳躍した。
- 429 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 18:50:19.77 ID:RoiL6Hj7O
-
つーは先ほどとは比にならない速度で突っ込んでくるヒッキーを受け流し、
そして背後からメイスを投てきし、自身も駆けた。
振り向いたその面前に迫るメイスを横っ飛びに躱すと、
続けて接近してくるつーに対して身体を回転させて尻尾を振るう。
空気をブン、と鳴らしながら鞭のように振るわれた尻尾を飛び越ぇ、
ヒッキーの頭を踏み付けようとする。
しかし、ヒッキーが地面を殴り付け、
強引に飛び散らせた破片がつーへの目眩ましとなった。
一瞬の隙をついてヒッキーがつーに襲い掛かる。
左腕を食い千切らんばかりの圧力で噛まれながら押し倒されたつーの顔はしかし笑っていて、
直後、ヒッキーの脇腹に激痛が突き抜けた。
いつの間にかつーの手に戻っていたメイスが、ヒッキーの肋骨を砕いていたのだった。
- 431 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 18:53:15.12 ID:RoiL6Hj7O
- (; _ )「ガッ!」
ミシリ、と言う軋みを確かに聞きながら、ヒッキーは飛び退く。
着地してすぐ、喉を何かがせり上がってきて赤い液体を吐いた。
起き上がったつーが、口元に筋を引く血を、噛まれて血が滴るた右手で拭い、ニタリ、と笑みを浮かべた。
(* ∀ )「最高だね……イッちゃいそう」
その表情は、眼は、気配は、
完全にイカレた狂人だった。
- 434 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 18:56:34.06 ID:RoiL6Hj7O
- (#゚∀゚)「ああそうさね最高だよトカゲ男クン!!
今までにない緊張感だ昂揚感だ幸福感だァアハハハハハハハハハハハ!!」
眼を見開いて歓喜しながらつーが突っ込んでくる。
(#゚∀゚)「決着をつけようカァ!!」
前傾姿勢から繰り出すメイスの振り上げ。
ヒッキーは最小限の動きでそれをいなす。
しかしそれはブラフ。
メイスを避けるために身を捻ったヒッキーの腹部右下に、本命の蹴りが食い込んだ。
硬質な皮膚を貫いて内臓に突き刺さる痛み。
たがヒッキーとてそれは承知のことだった。
強靭な四肢で蹴りの勢いに吹き飛ばされないように踏張りを効かせと踏み止まる。
バネのごとくその勢いを反発させ、ヒッキーはつーの脇腹を掴んだ。
もう片方の手で迫るメイスを振るう手首も掴む。
−−−−躊躇うな。
ハインが、囁いた。
- 438 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 18:59:47.13 ID:RoiL6Hj7O
- (*゚∀゚)「!?」
一瞬の膠着状態に最初に生じた変化は、つーの表情だった。
(;゚∀゚)「く、ア」
絞り出すような声。
ヒッキーが掴んで離さない脇腹と手首から、白煙が上がった。
(; ∀ )「ア"ア"ア"ァ!!」
ダミ声でつーが絶叫する。
肉の灼ける音がした。
高温に達したヒッキーの両手はつーの身体を容赦なく炙り、その苦痛に比例するようにつーの叫びが轟いた。
つーの身体から力が抜ける。
倒れこむつーにのしかかるようにしてヒッキーが折り重なる。
そこで、決着はついた。
- 441 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 19:03:26.48 ID:RoiL6Hj7O
-
(;-_-)「……」
次第にヒッキーの体温が下がり、変容していた身体もヒトへと戻る。
意識的にそうしたのではなく、そこまでが限界だった。
(* ∀ )「……」
つーは生きているようだった。
見るも無残な程に焼け爛れた脇腹は微かに動いている。
(* ∀ )「……そうか、キミにはそんな力が有ったんだね。
ふふ、何だぁ、アタシよりもぶっ飛んでるじゃないか」
擦れた声で、つーが呟いた。
右手首は最早炭化の一歩手前、左腕は血に塗れている。
(* ∀ )「……アタシの負けさね……あーあ、アタシもあっけない……フフ」
- 445 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 19:08:56.65 ID:RoiL6Hj7O
- (-_-)「……アナタの言うことが間違いじゃなくても」
つーと目を合わせながら、ヒッキーは言った。
(-_-)「僕は諦めるなんて出来ない。彼女を助けるまでは、死ぬことになったって諦められない」
(* ∀ )「キミはアタシとは違うんだ……って?」
(-_-)「……」
つーは将来のヒッキーであり、
その狂気はやがてヒッキーにも生じる。
だからこそ、ヒッキーは彼女に打ち勝たねばならなかった。
結果、彼女を殺すことになっても、そこで負けてしまえば、それはヒッキーにとって、この先ヒッキーが狂気に屈するのと同義だった。
(* ∀ )「……純真だねぇ、痛いよ、正直。
自信過剰で、夢見がちで、楽天的だよ」
(-_-)「……」
(* ∀ )「……ま、負けたアタシが言えた義理じゃないさね……」
(-_-)「……」
(* ∀ )「行きなよ。キミの望むとこまで……。
アタシは地獄で見てるよ、君の生き方を……」
それっきり、つーは目を閉じて、一言も喋らなくなった。
- 446 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 19:14:31.04 ID:RoiL6Hj7O
- ヒッキーの身体もユラリ、と傾くと、何の抵抗もなしに地に臥した。
( _ )「……」
脇腹の痛みが酷い。
変容を維持できなくなったのもそのせいだった。
呼吸だけを繰り返して、ヒッキーはしばらく横たわっていた。
……そう言えば、クー達の方はどうなっただろうか。
−−−−下の方も静かになったな
ハインの言葉に答えるのすら億劫だったが、クー達の無事は気になった。
が、身体は思うようには動かない。
流石にダメージが大きすぎる。
回復は人よりは遥かに早いとは言え、それなりの時間を要するのだろう。
- 447 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 19:17:40.73 ID:RoiL6Hj7O
-
それでも、何とかして身を動かそうと四苦八苦していると、
屋内から屋上に通じる縦穴を塞いでいる仕切り板が開いて、中から手が出てきた。
川 ゚ -゚)「ッ、と……」
現れたのはクーだった。
川;゚ -゚)「ヒッキー……!?」
横たわる三つの人影からヒッキーを見つけ、駆け寄ってくる。
川;゚ -゚)「大丈夫か……?」
一応は呼吸をして意識を保っているヒッキーに胸を撫で下ろし、その脇に膝をついてヒッキーに問う。
(-_-)「……何とか」
時々擦れる呼吸の合間にそう答える。
- 448 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 19:20:33.83 ID:RoiL6Hj7O
-
川 ゚ -゚)「どこをやられた?」
(;-_-)「胸と……脇腹」
川 ゚ -゚)「見せてもらうぞ」
許可を得る前に、クーはヒッキーの纏うローブをめくり上げ、そこに出来ている痣を見て顔をしかめた。
川;゚ -゚)「酷いな。
肋骨もやられているし、内臓にも損傷があるかもしれん」
(;-_-)「……」
川 ゚ -゚)「とにかく、場所を移そう。
話はソレからだ」
- 450 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 19:25:46.18 ID:RoiL6Hj7O
- −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「逃した、だと?」
「申し訳ございません……賊共の隠れ家を完全に包囲して襲撃したのですが、
奴らいつの間にか消えていまして……」
「おかしな話だな。貴様等の眼は腐っていたのか?」
「いえ、何人かは姿を確認したのてすが、どれもかなりの手練で、そやつらに手間取った間に皆……
家屋を隅々まで探したのですが、手掛かりは何も……」
「で、その手練とやらはどうした」
「逃げられました……つーも恐らくは、「悪魔」にやられたものと……」
「……結果、貴様等は賊の誰一人も殺すこと叶わず、「悪魔」も取り逃がし、しかも成功体の一人を失っておめおめと帰ってきたわけか」
「……申し訳……」
「もうよい」
ドシュッ、と音がして、男は首から上を失った。
鮮血が噴水のように吹き出すのを面前で眺めながら、老けた顔を歪めて、荒巻スカルチノフは呟く。
/ ,' 3「計画は最早佳境……止められなど出来ん。最後までは穏便に済ませられぬ、というだけだ」
クックッ、と肩を震わせ、スカルチノフは嗤った。
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