第七幕

 

301 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 23:04:55.93 ID:o0jTp2oUO
閉店したバーの一角にある長椅子に、両足を抱え込むようにして乗っていたヒッキーは、
裏の家屋に通じるドアが開くのを耳で感じ取って、扉の方を見た。

(´・ω・`)「やぁ」

入ってきたのは最初にヒッキーを出迎えた優男だった。

(´・ω・`)「寒くないのかい、そんな場所で」

そう問い掛けながら、答えを待たずに優男はカウンターに入って、その背後の棚に並ぶビンの中から一つを選ぶ。

(´・ω・`)「店を閉めた後に一杯やるのが僕の楽しみでね。
君はどう見ても未成年だから勧められないけれど」

カウンターにグラスを置いて、ボトルから蒸留酒を注ぎ入れ、優男はカウンターの反対側に回って席に座った。



302 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 23:06:36.41 ID:o0jTp2oUO
(´・ω・`)「僕の名前は、さっき言ったはずだけど、覚えてるかな?」

(-_-)「……ショボン」

(´・ω・`)「うん、ご名答」

優男……もといショボンがそんな問いをしたのには訳がある。

ヒッキーが自分から寝床にバーのソファーを希望して、そこに座り込む前、
ヒッキーがクーと会話を交わした後の事だが、
クーがレジスタンスの仲間を一々全員紹介したものだから、
その全員の名前を覚えているには相当な記憶力が必要なはずなのだ。

実際ヒッキーも全員は把握仕切れたわけがなく、ショボンの名を覚えていたのは初めの印象が特徴的だったからだ。

305 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 23:11:20.48 ID:o0jTp2oUO

(´・ω・`)「覚えて貰えていてなによりだね。
僕だけコッチで悪いけど、水でも飲むかい?」

ショボンの好意を首を振って断る。

(´・ω・`)「そう、なら、僕だけでやらせてもらおうか」

そう言ってショボンはグラスの中身を煽った。

注いだばかりの酒はあっという間に呑み込まれる。

(´・ω・`)「ふぅ……やっぱり格別だね」

彼が酒に強いのか弱いのか分からないが、好きであることは確かなようだった。


308 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 23:20:12.89 ID:o0jTp2oUO
(´・ω・`)「僕がここに店を構えたのは、十年ほど前でね」

グラスを置いて、一息ついたショボンが唐突に言った。

(´・ω・`)「以来、何とかこうやって店を続けてきているんだけど、
長い間こういう生活をしていると、色んなことを見たり聞いたりすることが多くなる。
それこそ、どこそこの家で赤ん坊が生まれたとかいう小さい話や、
あるいは誰々が何々をして教会裁判に掛けられて首を吊された、でも実際は無実だった……なんて話も聞いたことがある」

(´・ω・`)「けれど……それを人づてにしか聞かないからなのか、やはり何処か実際の出来事として認識できなくてね。
街の出来事は、全て対岸の火事を見るような、そんな感覚でしかなかったんだ。
自分には関係の無い、単なる情報として捉えていたんだと思う」

(-_-)「……」


(´・ω・`)「好きでやってるこの仕事だけど、やっぱり店を構えて何かをすると籠もりきりになりがちになる。
世界が自分とこの店とやってくる客しかない、そんな感覚に陥ったんだろうね。
……そんな時だったよ、クーがこの店を訪れたのは」


310 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 23:25:40.02 ID:o0jTp2oUO
(´・ω・`)「僕がここに店を構えたのは、十年ほど前でね」

グラスを置いて、一息ついたショボンが唐突に言った。

(´・ω・`)「以来、何とかこうやって店を続けてきているんだけど、
長い間こういう生活をしていると、色んなことを見たり聞いたりすることが多くなる。
それこそ、どこそこの家で赤ん坊が生まれたとかいう小さい話や、
あるいは誰々が何々をして教会裁判に掛けられて首を吊された、でも実際は無実だった……なんて話も聞いたことがある」

(´・ω・`)「けれど……それを人づてにしか聞かないからなのか、やはり何処か実際の出来事として認識できなくてね。
街の出来事は、全て対岸の火事を見るような、そんな感覚でしかなかったんだ。
自分には関係の無い、単なる情報として捉えていたんだと思う」

(-_-)「……」


311 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 23:27:54.79 ID:o0jTp2oUO
(´・ω・`)「好きでやってるこの仕事だけど、やっぱり店を構えて何かをすると籠もりきりになりがちになる。
世界が自分とこの店とやってくる客しかない、そんな感覚に陥ることもあった……。
そんな時だったよ、クーがこの店を訪れたのは」


313 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 23:29:36.62 ID:o0jTp2oUO
(´・ω・`)「先に言ったような、無気力な人間だったから、僕は客の容姿や言動を余り気にしなかった。
流石に暴れだしたりなんかしたら退場願うけれど、
街の腐敗具合や教会の裏について客が話しても何とも思わない、ある意味都合の良い店だったと思うし、
実際僕はそういうお客を容認していたしね。
クーはそんなこの店の情報を聞き付けてやってきた」


(´・ω・`)「彼女は今よりもかなり鋭い性格をしていたよ。
それこそ邪魔をするような奴らは皆蹴散らしてやる、というような気概があったし、
それを実行しうる肉体的な力も持っていた。
店に来るなりの第一声はこうだ。
「教会に不満を持つ奴らがいる店と聞いた」
僕は思わずきょとんとしたのを今でも覚えている」


314 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 23:31:54.66 ID:o0jTp2oUO

(´・ω・`)「それから、彼女はこの店を中心に段々と自分と同じ意志を持つ仲間を集め始めた。
彼女にはある種のカリスマ性があるし、仲間が増えるのは面白いほどに早かった。
いつの間にか、この店は教会打倒を目論む輩の溜り場になっていた」

(-_-)「……」

(´・ω・`)「それからのことは省こう。色々と地味な話だし。
ただ、その間に僕はクーに五回ほど殴り飛ばされ、二回股間を蹴り上げられて、
代わりに僕はクーを一回だけ引っ張たいた。
今でこそクーはクールビューティーだけど、それは僕の頬と鳩尾と股間の痛みが代償だと言っていい。
全く、あの頃の彼女と来たらカリスマ性はあっても実に……まぁ、止めておこう。
あまり面白いとも言えないし、多分君も聞きたくない話でしょ?
いい年扱いた大人が、「馬鹿げてるし無謀だ」とか「軟弱者は黙ってろ」なんて批判しあって喧嘩する話なんてのは」

ハインが小さく笑った。


319 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 23:52:46.58 ID:o0jTp2oUO
(´・ω・`)「僕が話を繋げたい先は、いつの間にか僕も変わってしまったということさ。
今はもうこの街の出来事は対岸の火事だとも思わないし、思えなくなった。
真面目に、この街が良くなるには何が必要か、なんて考えている。
……まぁ、僕は武闘派じゃないから、出来ることなんて些細なことだけどね」

長い話の後に、ショボンはグラスを揺らして中で煌めく氷をぶつけ、カラン、と音を奏でた。

(´・ω・`)「僕とクーの関係を長ったらしく話したけれど、言いたいのはたった一言だ」



(´・ω・`)「人は、変わるし、変われる。
勿論、君も」

(-_-)「……」




320 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 00:03:08.07 ID:RoiL6Hj7O

(´・ω・`)「実に欝陶しい話をしてすまなかったね。
僕はもう寝る。君はそこで寝る、と聞いているけど、本当にそこで良いのかい?」

ヒッキーが頷くと、ショボンはそれ以上は言わなかった。

(´・ω・`)「なら、僕は隣で寝るよ。
実を言うと、隣の家屋は僕の家なんだ。
今や数十人の寝床だ、泣けてくるよ……じゃあ、お休み」

そう告げて、ショボンは店から出ていった。

(-_-)「……」

人は、変わるし、変われる。

ショボンの言葉がリフレインする。

何故、彼があんなことを唐突に言いだしたのか、ヒッキーには理解が出来なかったが、言いたいことは何となく掴めていた。

−−−−「無愛想な顔してないでちょっとフレンドリーになったら、ヒッキー君?」ってとこか?

ハインが言う。

(-_-)「……さぁね」

ヒッキーは適当に返事をして、長椅子に横になった。

そういうことじゃない、というのが、ハインの意見に対するヒッキーの本当の意見だったが、
それをハインに言う気はしなかった。
323 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 00:08:07.71 ID:RoiL6Hj7O
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

ヒッキーが目を覚ましたのは、まだ夜も明けていない深夜だった。
(-_-)「……」

何か気配を感じたような気がして、上半身を起こす。

−−−−嗅ぎ付けたっぽいなー

楽観的なハインの声。

暗闇に目が慣れるのを待たず、ヒッキーは僅かな光を頼りにバーから隣のショボンの家に向かった。


325 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 00:10:34.06 ID:RoiL6Hj7O
川 ゚ -゚)「どうした?」

バーから通じる部屋にはクーとジョルジュがいた。

彼らは今夜の見張り番だとは聞いていたので、余計な会話を挟まずにヒッキーは告げた。

(-_-)「皆を起こしたほうがいい。多分、囲まれてる」


川 ゚ -゚)「何……?」

クーが顔をしかめる。

(-_-)「早く」

それだけ告げて、ヒッキーはまたバーの方へ戻った。
  _
( ゚∀゚)「……どうすんすか、クーさん」

ジョルジュがクーに問う。

川 ゚ -゚)「……従おう。
皆を起こ……」

クーがそう言おうとした瞬間、バーの方からけたたましい音が響いた。



326 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 00:13:04.88 ID:RoiL6Hj7O
ヒッキーはバーに戻ると、すぐに体勢を整える。
その直後、店の入り口の扉が勢い良く開かれると同時に入り込んで来た男に、カウンターのようにして飛び掛かった。

まるでびっくり箱を開けたような格好になった男は驚きの表情を浮かべたが、
地面に倒れると同時に頭を打ちつけて意識を失った。

ヒッキーが、バーが面する比較的広い路地を見回すと、何人かの男達が目に入った。

−−−−団体様一組ご案内ってか

ハインの悪ふざけに反応する暇はない。

目の前の男達は、先の逃走劇で相手にした輩とは雰囲気からして違っている。

持っている得物も棒などではなく鋼の剣だ。

今のように意表を衝けば話は別だが、真正面から対峙しては、どう考えても分が悪い。
329 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 00:17:26.07 ID:RoiL6Hj7O
一度下がろうか、と考えた瞬間、右側から男が一人、距離を詰めながら剣を突き出してきた。

(;-_-)「!」

ほんの少しの隙を突かれ、ヒッキーは身をねじって剣を躱したものの、バランスを崩す。

隙の大きくなったヒッキーに、別の男が振りかぶった刃が振り下ろされた。

避けられない。

直感してヒッキーは思わず手を突き出した。

せめて体を守ろうとした行為の代償としてくるであろう痛みに覚悟したが、
その代わりに感覚したのは金属と金属のぶつかり合う音だった。


目の前で横から飛び出した剣が、ヒッキーに振り下ろされた剣を受けとめている。

次の瞬間には、長い黒髪が棚引いて、ヒッキーの前に立ちはだかった。

川 ゚ -゚)「警告ありがとう、感謝する」

クーはそういって鍔競り合いをしている相手の剣を手品のような剣捌きで弾き飛ばすと、甲を着けた肘で相手の胸を撃って吹き飛ばした。

容赦ない打撃で男は苦悶の声をあげながら仰け反る。

ヒッキーもその時には体勢を立て直して男達に再び飛び掛かっていた。


331 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 00:19:44.78 ID:RoiL6Hj7O
  _
( ゚∀゚)「クーさん!」

続いてバーから飛び出してきたのはジョルジュだ。
   _
( ゚∀゚)「あっちもカバー出来ました!
大丈夫ッス!」

川 ゚ -゚)「そうか……フッ!」

答えながらクーは剣を一閃、男を一人切り捨てる。

川 ゚ -゚)「貴様等、教会の刺客か……」

男達は答えないが、クーの気迫に気圧されたのか、ジリ、と後退した。

場の空気が張り詰め、しん、と静まり返る。

それは幸運だった。


332 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 00:23:10.41 ID:RoiL6Hj7O
川 ゚ -゚)「!」

ギリリ、と何かが引き伸ばされて軋む音を聞いたクーは、咄嗟に上体を仰け反らせた。

ヒュッ、と空を切る何が彼女の面前を横切って、建物に突き刺さる。

正体は矢だった。

壁に突き刺さる矢の柄の角度を見て、放たれた方角を悟る。

川;゚ -゚)「屋上……!」

バーの向かいの建物の屋上に、一人の男が弓矢を持ち、第二射の用意をしているのが見えた。

川;゚ -゚)(まずい……!)

目の前の男達にも気は許せない。
クーの顔に焦りが滲む。

だが、その時、弓矢を構える男のいる建物の壁を奔る影があった。


333 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 00:27:58.46 ID:RoiL6Hj7O
(-_-)「……」

既に、ヒッキーは行動に移っていた。

窓の縁をうまく使って飛び上がるように壁を登り切ると、
矢を引き絞っていた男に飛びかかって殴り付け、気絶させる。


−−−−油断すんな、まだいるぞ

その言葉を証明するかのように、屋上の奥から声がした。


336 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 00:31:25.88 ID:RoiL6Hj7O

「いらっしゃ〜い」

(-_-)「!」

挨拶と共に向かってきたものを、ヒッキーは横に転がるようにして躱した。

黒い塊がゴウッ、と空を裂いてヒッキーの真横を突き抜ける。

立て続けに響いた鈍い音に、自分がいた場所を返り見ると、
黒い塊は建物を構築するレンガを打ち砕いていた。

(;-_-)「……!」

思わず息を呑むと、ソレは時間を巻き戻すように地面から引き抜かれて暗闇の奥に消える。

(*゚∀゚)「キミが「脱走者」クンだね?」

入れ替わるように暗闇から現れたのは、笑顔の女だった。


 

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