第六幕

 

228 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 20:57:54.85 ID:o0jTp2oUO
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

−−−−振り出しに戻る、かね

追跡を振り切り、下流階級の居住区まで逃げてきたヒッキーは、
そう言ったハインの声を聞いて悔しさを滲ませた。

(-_-)「何で……」

彼女を助けだせなかった苛立ちを込めて握り締める拳が震える。

しかし、その拳を振るう先を見つけることは出来なかった。

仕方がなかった、で済ませる話ではない。

けれど自分と彼女の立場には圧倒的な落差があって、
ヒッキーがいくら手を伸ばそうとも、彼女のいる場所には決して届かない。
彼女の立場に、自分を置いて考えることは出来ない。

彼女を説得して救い出すのは実質的に不可能だと思い知らされたのだ。
231 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 21:03:28.25 ID:o0jTp2oUO
さらに言えば、現状は振り出しに戻るばかりか悪化したとも言える。

一度あのようなことがあれば、教会は間違いなく人柱のガードをより堅固なものにするだろう。

一度目と同じように彼女と接触出来る可能性は無きに等しい。

手詰まり。
チェックメイト。

−−−−まぁそう気を落すなよ、ヒッキー。
いざとなりゃあ、研究所を吹き飛ばしたように、ちょちょいっとやっちまう手もあるぜ?

明らかにからかっているようはハインの発言に耳を貸す余裕もなく、ヒッキーは途方に暮れた。


だから、それから少しの間歩いている時に、女性の小さな悲鳴のような声を聞いても、
それに続いて脅しを掛ける男の声が無ければ、特に気にも止めずに通り過ぎていたかもしれない。


233 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 21:07:24.08 ID:o0jTp2oUO
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

声の音源を探すのに結構な時間を要して、
声がする路地裏の奥の袋小路にようやく辿り着いたヒッキーが見たものは、女性と、その女性にナイフを突き付ける男だった。

男も、女性も、それぞれに自分自身の状況に意識が集中していて、距離を置いたところにいるヒッキーの存在には気付いていない。

首下で鋭く光るナイフに怯え、声も出せない女性は、明らかに自分の意志でそうしているとは思えない。

ソレをねめ付けるような視線で舐め回す男が、おもむろに自らの股間に手を伸ばすのを見て、ヒッキーは猛烈な嫌悪感を覚えた。

それは女性と彼女が重なったからであり、男と教主が重なったからでもあった。

235 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 21:13:05.41 ID:o0jTp2oUO

(-_-)「おい」

今まで発したことのない、ヒッキーの乱暴な呼び掛けに、男が驚いたように振り向いた。

「……何だお前」

男も威嚇するような目つきと声色でヒッキーに応対する。

ヒッキーはこちらを見ている女性を一瞥して言った。

(-_-)「その人を放せ」

その一言に男は一時だけ怪訝そうな顔をして、そしてすぐに嘲笑うかのような表情を上塗りする。

「ああ? ガキが何言ってやがんだよ。
死にたくなきゃチビりながら失せろ」

ナイフの切っ先をこちらに向けてちらつかせながら、男は言う。
ヒッキーなど恐れるに値しないと思っているのが一目瞭然だ。

女性は、ナイフの恐怖からは解き放たれても、場の雰囲気に押されたのか、その場から動こうとはしなかった。
237 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 21:18:44.42 ID:o0jTp2oUO
−−−−憂さ晴らしにゃ、ちょうどいい相手だな

と、ハインが言う。

ヒッキーはこちらに向けられたナイフに自ら近付いていった。

「ああ?」

怒りの形相で睨み付ける男には怯みもしない。

男も流石に焦りを感じたのか、ナイフを突き付ける手をより前に突き出してヒッキーを威嚇するが、それでもヒッキーは近付いていく。

( _ )「……」

心の中のわだかまりがブスブスと音を立てているのが感じられ、それが堪らなく嫌だった。

発散したいのに出来ない焦げ付きが、ヒッキーを自暴自棄に似た行動に走らせていた。


238 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 21:21:05.80 ID:o0jTp2oUO

「舐めてんじゃねぇぞ……!」

男も限界に達したのか、歯ぎしりしながら呻くように呟くと、
一歩踏み込むと同時にヒッキーの左胸目がけてナイフを突きだした。

その切っ先がヒッキーの胸に吸い込まれる寸前、男の手首をヒッキーが掴み、ナイフはギリギリのところで止まる。

「なぁ……ッ!?」

細い腕からは想像できない握力で手首を握り締められ、男は困惑した。

その手を振りほどこうとするが、
左右に揺さ振ろうが、もう片方の手で引き剥がしにかかろうが、
ヒッキーの手は一向に離れない。

「な、何なんだよ、お前……!」

無表情なままのヒッキーを見て、男が驚きと恐れの入り交じった声を発する。

( _ )「……知りたい?」

241 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 21:25:39.96 ID:o0jTp2oUO

ヒッキーは冷たい声色で聞き返すと、一度目を閉じる。

その目が再び見開かれた瞬間、男の顔は面白いように豹変し、喉元から悲鳴を上げた。


金色に染まる眼に、それを縦に裂くような細長い瞳。

変容した人外のソレは、男を驚愕させるには十分な威力を発揮した。

気が付けば、手首を握る手も、異様な外見に変化しつつあった。

「は、離せ!離せぇえ!!」

男は完全にパニック状態に陥った。

言葉にならない叫びを挙げながら、気を違えたように掴まれた腕を振りほどこうと暴れ回る。

ナイフが手からこぼれ落ちて地面に当たり、金属音がした。

242 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 21:29:04.31 ID:o0jTp2oUO
その姿を見て、ヒッキーは自身の内部の熱を持った感情が急速に冷えていくのを感じた。

こんなことをして気を紛らわせている自分に猛烈に嫌気がさす。

手首を掴む力を緩め、男を解放すると、男は奇声とともに一目散に夜の路地へと消えていった。

−−−−何だ、逃がすのか、つまんねーな

(-_-)「……」

ヒッキーは視線を男の消えていった路地から、蚊帳の外に置かれていた女性へと向ける。

(-_-)「……大丈夫?」

女性に近付いて、手を差し伸べたが、女性は未だ蒼白な顔をして、ヒッ、と息を呑む。

それでヒッキーは変容させた自分の姿の一部を元に戻すのを忘れているのに気が付いた。

何とも間抜けだ、と思いながら、
とりあえずは人に戻って女性に落ち着いてもらおうと思った、矢先。

男が逃げていったのとは正反対側の路地から、何かが急速に近付いてくるのを視界の端で見、反応してそちらを向いた瞬間、
強烈な打撃を受けてヒッキーは吹っ飛んだ。

244 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 21:33:21.45 ID:o0jTp2oUO
(;-_-)「!?」

余りに唐突な出来事に、一応はまだ変容しているままの状態でも対応しきれず、
豪快に背中から地面に叩きつけられる。

さらには起き上がる暇もないまま、首筋に金属の冷たさを感じ、
「動くな」という声が聞こえた。

見上げれば、そこには男に脅されていた女性とは別の、正に容姿端麗と言うべき美女が立っていて、
その手に持つ剣の刃がヒッキーの首に軽く当てられていた。

まるでさっきの場面の立場を逆転させて再現したかのような状況だ。

川#゚ -゚)「良い度胸だな、貴様」

ヒッキーを突き飛ばした美女のその一言には明らかな敵意が滲んでいて、その視線は突き刺すように鋭い。

川#゚ -゚)「タダで済むと思うなよ……!」

首筋に当たる剣の圧力が増す。

246 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 21:36:21.80 ID:o0jTp2oUO
どうやら美女は自分の取った行動に怒りを感じているようだとヒッキーは考え、
ならばこちらも黙ってやられる筋合いはないと、自由な四肢で反撃を試みようとしたとき、
そこで「止めて!」という叫びが割って入った。

ヒッキーとそれを押さえ付ける美女が同時に、その叫びを発した女性に目を向ける。

「その人、悪い人じゃありません……!」

美女がもう一度ヒッキーを一瞥する。

ヒッキーは反撃をするかわりに両手を挙げた。

−−−−止めるのがおっせーよ、馬鹿女。
そんなんだから犯されかけんだよ

ヒッキーの心情を濃縮して、悪意満載の罵詈雑言に変換した言葉でハインが毒づいた。



247 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 21:38:44.90 ID:o0jTp2oUO
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

川 ゚ -゚)「まずは非礼を詫びる。すまなかった」

下流階級の居住区のとある家屋の中で、ヒッキーは先程自分を突き飛ばした美女に頭を下げられた。

(;-_-)「いや……」

ヒッキーはどう答えるべきか悩みながら、小さな声で答える。

一悶着があった、あの後。

ヒッキーと共に件の不幸な女性を安全な場所まで送り届けた美女は、ヒッキーをこの場所に連れてくると、いきなり謝罪した。


253 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 22:00:38.03 ID:o0jTp2oUO
川 ゚ -゚)「私の名はクールだ。クー、と読んでもらって構わない」

美女はまた唐突に、自己紹介をし、その手に持っていた、鞘に納まっている剣を家屋にあるテーブルの上に置いた。

(;-_-)「……」

自らも名乗るべきか、クーへの疑心と相談していると、クーが再び口を開いた。

川 ゚ -゚)「君は教会の言っている「悪魔」、ということで合っているかな」

(-_-)「!」

その一言に空気が緊迫し、ヒッキーの身体は一瞬強張った。

川 ゚ー゚)「そんなに警戒しないでくれると助かる。
私は君を敵だとも、まして「悪魔」だとは思っていないよ」

クーは微笑を浮かべながら言った。


256 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 22:02:04.91 ID:o0jTp2oUO
川 ゚ -゚)「君と教会の関係については、私達はある程度の事を把握している。
君がついさっき「人柱」に接触したことも」

……知っていたのか。……けれど、一体どうして?

驚きながらも、ヒッキーは沈黙を続け、クーは言葉を続けた。

川 ゚ -゚)「実を言えば、私はあの時君を探していたのさ。
憚らずも私の失態で君にとっては不愉快な出会い方になってしまったが、
私達は君の敵ではなく、むしろ味方だと思ってほしい」

そこでようやくヒッキーが口を開いた。

(-_-)「……どうして、僕を?」

川 ゚ -゚)「その話は、少し別の場所で話をしたい。
ここからそう遠くはないんだ」

−−−−さて、どうする?

ハインが楽しそうにヒッキーに尋ねた。

258 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 22:06:15.34 ID:o0jTp2oUO
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

クーに連れられて到着したのは、ヒッキーが労働していたのとは別の、場末のバーだった。

(´・ω・`)「いらっしゃい……遅かったね、クー」

客が一人もいないバーの店内で、グラスを磨きながら二人を出迎えたのは、
優男、と呼ぶのが妥当な顔立ちの若い男だった。

川 ゚ -゚)「すまないショボン。話は伝えてあるはずだが……」

(´・ω・`)「うん、話は聞いている。皆集まっているよ」

クーにショボンと呼ばれたバーの男が、塞がっている手の代わりに顎でカウンターの脇にある扉を示した。

(´・ω・`)「僕もコレが終わったらすぐに行く」

川 ゚ -゚)「ああ、待っている」

短い会話を交わして、クーはショボンが示した扉を開けた。

川 ゚ -゚)「こちらだ」

扉はバーの後ろに立つ建物に通じていて、
明らかに元々あったとは考えられない粗末な造りの扉は、ヒッキーが通った後にぎぃ、と軋みながら閉められた。
262 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 22:14:55.89 ID:o0jTp2oUO
建物の中には数人の男がテーブルを囲うように座っていた。

クーと、その後ろに立つヒッキーが一斉にその視線を浴びる。
   _
( ゚∀゚)「マジに連れて来たんかよ……スゲェすよ、クーさん」

その中でも一番快活そうな男が、二人を喜びと驚きの中間の表情で見ながら感嘆の声を上げた。

川 ゚ -゚)「やると言ったらやるさ。
失礼かつ不本意な出会い方だったがね」

どういうことだそりゃ、と怪訝な顔をする、快活そうな男を含めた男性陣。

川 ゚ -゚)「悪いがしばらくジョルジュ以外は上に上がっていてくれないか。
下に降りていても構わないが」

クーがそう言うと、快活そうな男を除く全員が大して文句も言わず、それぞれ了解の意を示して席を立っていき、

その場にはクーと、どうやらジョルジュという名だと思われる快活そうな男とヒッキーだけが残った。

264 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 22:20:33.64 ID:o0jTp2oUO

川 ゚ -゚)「さて、話の続きなんだが、とりあえず腰掛けようか」

クーが促したが、ヒッキーは首を横に振った。

(-_-)「ここでいい」

クーが苦笑して、そうか、と言った。

川 ゚ー゚)「今は未だ信用に足らないと思われても仕方ないな。
いいだろう。君が望むような立ち位置で話をしよう」

クーがヒッキーから離れ、ある程度の距離を取ってそう提案する。

(-_-)「じゃあ、このままで」

川 ゚ -゚)「分かった。では、話を始めようか」
266 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 22:24:57.68 ID:o0jTp2oUO
  _
( ゚∀゚)「あのー、何で俺だけ残ったんすか、クーさん?」

出鼻をくじくように、ジョルジュが手を挙げて質問する。

川 ゚ -゚)「……お前が彼について一番詳しいからだ」
  _
( ゚∀゚)「ああ、そういう事。
あ、俺の名前ジョルジュ。君のことストーカーみたいに調べろってクーさんに命じられた男。よろしく」

ジョルジュのヒッキーに対しての軽薄な挨拶にクーは顔をしかめたが、ジョルジュ本人には悪気はないようだった。

川 ゚ -゚)「基本的には黙っていろよ、お前の軽口は余計だ」
   _
(;゚∀゚)「ひでぇけど分かりました」

川 ゚ -゚)「……余計な話だったな。
今度こそ本題に入ろうか」

クーは一度溜め息をついてから、再三に話を切り出した。


268 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 22:29:19.78 ID:o0jTp2oUO
川 ゚ -゚)「ここは、私がリーダーを務める、教会に反抗する者達のアジトだ。
このうるさい馬鹿もその一員」

ジョルジュはクーの辛辣な紹介に舌を出して抗議するが、一睨みされて引っ込めた。

川 ゚ -゚)「私達は長年の間、教会の裏の姿について調べてきた。
政治汚職、麻薬の流通、そして、「神」を生み出す実験……。
恐らくは、君も知っているとおりだろう。
そういった教会の悪事を世に曝け出し、今の腐り切った教会を打ち倒すことが我々の目的だ」

川 ゚ -゚)「特に、最近、「神」を生み出す実験と言う馬鹿げた行動が目立つようになってきた。
浮浪者の誘拐は、正に暴挙とも言えるものだろう。
私は少しながらも実験の内容を知り戦慄したよ。
こんなことが教会の、人間のすることか、とね」


270 名前:眉毛ムリ\(^o^)/:2008/12/25(木) 22:32:47.18 ID:o0jTp2oUO
川 ゚ -゚)「そんな時に、例の事件が起こった。
君が脱走したあの事件だ。
一般民には情報操作で誤魔化したようだが、
私達はあの事件の真相を掴み、君の存在を知った」

(-_-)「……」

川 ゚ -゚)「私は君に接触出来ないかと考えた。
実験の被害者であり、生存者でもある君の証言があれば、それは我々にとって大きなメリットになる。
教会の嘘を暴く切り札となり得るかもしれない」

川 ゚ -゚)「しかし、これは当然の事だが、君は姿を隠し、私達は多少の情報を得ることはあっても、君を見つけることが出来なかった。
だが、ついさっき、君は現れた。
それも教会の本拠地に乗り込むという大胆な行動を伴って」

川 ゚ -゚)「君の行動の理由を知り、私は君と協力し合える関係を築けるのではないかと思ったんだ。
君は「人柱」に何らかの目的があって、大聖堂への侵入を試み、失敗した。
未だ目的は果たされていないのなら、互いの目的の為の行動は一致し、
そして協力してその目的を共に果たせはしないか、とね」

そこでクーは一度言葉を区切って息を吐いた。

273 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 22:35:22.62 ID:o0jTp2oUO

川 ゚ -゚)「……もう一つ、大変な失礼を承知で言うが、
君は実験によって……人よりも優れる部分を幾つか得たと聞いた。
その力の協力があるなら、我々の目的の達成は容易になる、と私は思った」

川 ゚ -゚)「そして、私は単身で君を探すことにした。
結果、君は今こうして私の話を聞いている……というワケさ」

(-_-)「……なるほど」



274 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 22:36:54.12 ID:o0jTp2oUO
      _
    ( ゚∀゚)「何か俺役に立たない奴、みたいに話されてるけど、君に会える後一歩まで迫ってたんだぜ?
     あの非合法のイカレた酒場に、しばらく君がいたって、しかも数時間前に消えたと聞いて、
オレァもうこれは見つけださねばと思った矢先に君が……」

クーの話と入れ替わるようにジョルジュが怒涛のごとく喋りだしたが、
数秒後にクーの拳骨がジョルジュの脇腹に叩き込まれ、
ジョルジュはうげっ、と呻いて椅子から転げ落ちた。

川#゚ -゚)「居ないほうが遥かに良かったな。私が間抜けだった」

苦しむジョルジュに目もくれず、クーは言い捨てた。

−−−−イイな、「情報が欲しい」、「力が欲しい」、「邪魔だ」……
相手に無礼であると承知で、言いたいこと、欲することを単刀直入に切り込んでくる奴は嫌いじゃねーぜ

276 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 22:39:14.99 ID:o0jTp2oUO

川 ゚ -゚)「……で、話の筋は分かってもらえたと思うんだが……」

(-_-)「……大体は」

川 ゚ -゚)「そうか。
……率直に行こう。君の気持ちを聞きたい。
私達に協力してくれるか、否か」

ヒッキーは少しの間悩んで、そして切り出した。

(-_-)「……正直、僕はまだ信用してない。
何か証拠が欲しい。本当に教会に敵対しているということを示す、何かを」

川 ゚ -゚)「……証拠か」

クーもまたしばし悩むような仕草を見せる。

川 ゚ -゚)「……君は「ロマネスク」を知っているか」

そしてクーはそう尋ねた。
283 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 22:45:13.79 ID:o0jTp2oUO
それが人名であるならば、ヒッキーには聞き覚えがあった。

ラウナス・ロマネスク。
十年ほど前に、教会裁判によって死罪、磔刑に処せられた、この街でも有数の貴族であった男だ。

川 ゚ -゚)「聞き覚えはあると見た。
……彼は、十二年前……正確には十二年と二ヵ月と十三日前だが、
教会に「悪魔を崇拝する者」として処刑された」

川 ゚ -゚)「彼は無実を主張し、実際そうだった。
しかし、教会は、教会の腐敗部分の是正を訴える彼を疎ましく思い、
ありもしない罪を着せて、神の名の下に彼を殺した。
彼の妻も、息子も処刑された」

川 ゚ -゚)「だが……。
当時、病弱であったために、家族と離れて暮らしていた娘は、ギリギリのところで魔の手を逃れた。
その後、その娘は父親のツテを頼り、何とか生き延びた」

クーが首に手をかけ、服装の裏に忍ばせるように身につけていた首飾りを引き出した。

外して、ヒッキーに手渡す。

そこには、両目に縦に刻まれた傷跡が特徴的な男性と、温和そうな女性、精悍そうな少年、そして、可愛らしい笑顔の少女が、寄り添い合った写真がはめ込まれていた。

ヒッキーは視線を変え、その少女が育ったら正にこうなるだろうという外見をした、目の前の美女を見た。

川 ゚ -゚)「それから、少女は家族の無実を証明するためだけに生きてきた。
教会の歪みを正すためだけに」
クーはヒッキーの目を真っすぐに見て言った。

285 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 22:47:21.82 ID:o0jTp2oUO
川 ゚ -゚)「……証拠と言えるのは、これくらいしかない」

−−−−不幸加減は負けず劣らずだな

ハインが冷やかしたが、ヒッキーは気にせず、クーに首飾りを返しながら言った。

(-_-)「……よく分かりました」

その言葉が、ヒッキーの協力の意志を示していることは、クーに伝わったようだった。

川 ゚ -゚)「協力をしてくれる、ということで良いか?」

(-_-)「……一応は。
ただ……」

川 ゚ -゚)「ただ?」

濁した言葉尻を捕らえてクーが問う。

(-_-)「……僕には時間が余り無い」

川 ゚ -゚)「「人柱」か……君はなぜ、彼女を?」

(-_-)「……命の恩人だから」

287 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 22:50:16.64 ID:o0jTp2oUO
クーはそれ以上は聞かなかった。

川 ゚ -゚)「……成る程、その為に命を懸けるか……。
凄い人間だな、君は」

(-_-)「僕はもう人間じゃない」

クーの賛辞を、ヒッキーは口調を強めて否定した。

(-_-)「……とにかく、時間が無いんだ」

気まずくなった話を戻してヒッキーが呟く。

川 ゚ -゚)「……君のタイムリミットが、人柱である彼女の命が失われるまでならば、問題はない」

クーがヒッキーの憂鬱を打ち消すように断定した。

端ではようやくジョルジュが起き上がる。

そんなジョルジュを一瞥して、クーは言った。

川 ゚ -゚)「我々は、明後日の早朝、大聖堂を襲撃する」


 

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