第五幕

 

173 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 17:54:08.50 ID:o0jTp2oUO
この街を簡潔に説明するなら、大聖堂を中心とした円形の街、と言えるだろう。

街を牛耳る教会のシンボルであり拠点である大聖堂と、
それを囲うようにしてある、教会に務める者達の居住区を含めて教会地区と呼ぶ。

さらにその周りに、大聖堂からの距離の近さに比例して、
上流階級の居住区、中流階級の居住区、そして最も離れた位置に下流階級の居住区が存在している。
酒場は下流階級の居住区に位置していて、ヒッキーは教会地区に到着するまでに短くはない時間を要した。

175 名前:多分最後まで:2008/12/25(木) 17:57:11.27 ID:o0jTp2oUO

(-_-)「……」

事件を起こしてから、中流階級居住区以上に街の中心へ近づいたことはなかった。

出来ることならば、二度と来ることが無ければいいと思っていた。

けれど、今はもう、そういう訳には行かない。

ヒッキーは意を決し、教会地区を大聖堂へ向け踏み出した。



176 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 18:01:12.13 ID:o0jTp2oUO

進路はなるべく距離の短さよりも目立たないようなルートを選んだ。

夕暮れも過ぎかけ、辺りは薄暗く、その分、身を紛らせることが出来る。

時折すれ違う人々の視線を伺いつつ、ヒッキーはフードを深く被りながら、
はやる心を落ち着けて着実に大聖堂へ向かい、道も半ばまで進んだ頃。

道を曲がったヒッキーは、視線の先の人影に反射的に足を止め、交替して身を隠した。

何故そんなことをしたのかと言えば、その人影が二人組で、しかも道に面している建物へ続く入り口を塞ぐように立ちはだかっていたからだ。

そういう道はあまり通りたくはない。

変に見咎められて呼び止めでもされたらことだ。

しかし、あの二人は何の建物の見張りをしているのだろう。

余計な好奇心でヒッキーは目を凝らす。

(;-_-)「……!」

一瞬の後、その二人が門番をしている建物の正体を知る。

途端、脳みそをガン、と揺らされるような衝撃を感じた。
179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 18:06:35.87 ID:o0jTp2oUO
その建物はもはや建物の体裁を保ってはいなかった。

半分近い部分が抉られたように崩壊している、白い建築物の慣れの果ての正体。

ヒッキーの無意識が心の奥底に閉じ込めていた記憶が、
まるで嘔吐物のようにせり上がってヒッキーの意識を飲み込んだ。
目の前にぼんやりとした印象を持って立ちはだかる灰色の壁。

檻の中の自分達を見せ物のように眺めながら目の前の廊下を歩いていく白衣の男。

絶叫しながら手足を千切れんばかりに振り回し、しかし力づくで白衣の男達に取り押さえられて連れ去られていく人。

液体の中に浮かぶイメージ。

滲む視界。聞こえる嘲りの声。

燃え上がる激情。

そうして、ヒッキーは忘れていたあの時の全てを思い出した。

182 名前:急ぎます:2008/12/25(木) 18:10:27.83 ID:o0jTp2oUO

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

けたたましい咆哮で一帯をビリビリと震動させた後。

異形の化け物となったヒッキーは、隔たりとなっているガラスをブチ破り、怯む白衣の男達に向け飛び掛かった。

鋭く生え揃った牙を剥き出しにして、覆いかぶさるように男達の内の一人を押さえ付けると、
その首筋に噛み付き、男の絶叫を限りなく近い位置で聞きながら喉元を食い千切った。

絶叫が止んで代わりに噴き出した血を顔に浴びながら、他の男達に視線を向ける。

化け物、という声が聞こえた気がしたが、そんなことはどうでもよかった。

身体の中をごうごうと駆け巡る激情を見せ付けるようにして、ヒッキーはもう一度咆哮すると、新たな標的に向かって跳躍した。


185 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 18:15:44.68 ID:o0jTp2oUO

そうやって逃げ惑う白衣が血に染まっていく中で、
難を逃れた者達が一目散に逃げていくのを視界の端に捉えた。

逃してなるものか。

理性を圧倒する、猛然とした破壊衝動が身体を突き動かした。

何もかも、自分がこうなった原因に触れたものは全て壊して無くして消し去りたかった。

ヒッキーは最早爬虫類のソレと化した四肢を地面に突っ張るようにして広げ、息を低く漏らす。

ヒト在らざるモノとなったヒッキーはなおも雄叫びを上げる。

そこから先は、もう何があっても二度と思い出したくなくて、ヒッキーは回想を止めた。

その後に繰り広げられたのは、破壊と殺戮だけだった。 


187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 18:17:53.46 ID:o0jTp2oUO
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

( _ )「……」

教主の言葉が蘇る。

『数十人もの命が……』

あの事件において命を落とした者達を殺したのは紛れもなく自分だ。

我を忘れ、暴力を奮って命を奪った人間の中には、自分のように囚われていた人々もいたはずではなかったか。

少なくとも、まともな人間が出来ることでも、やろうとすることでもない。

そんな惨事を巻き起こしてなお、生きる意味はあるのだろうか……



188 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 18:22:53.44 ID:o0jTp2oUO
−−−−忘れちまえ

回想に没頭していたヒッキーは、ハインの声で我に返った。

−−−−時間の無駄さ、ヒッキー。
今更、過ぎた事に何を後悔している暇があるんだ?

(-_-)「……うん」

ヒッキーはフードを深く被り直し、門番のいる道を避けてまた歩き始めた。

奥底に焦げ付いていた記憶は、忘れてしまえと言われて忘れられるようなものではない。

まして、忘れられれば、その出来事での自分の所業が全て帳消しになるワケでもない。

けれど、その事実と、彼女を危険から助けだすという行為には関係がない。

自分が、自分のした事に対してどんな結論を下すにしろ、それは彼女を救った後にするべきだ。

今考えるべきは彼女のことだけにしよう。

ヒッキーは自分に言い聞かせて、歩を進めた。


190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 18:24:50.37 ID:o0jTp2oUO
この街の象徴と言える大聖堂は、真ん中に中庭があるものの、大雑把に言えば真正面もしくは真上から見ても「山」の字のような外見をしている。
一番全長が高く奥行も広い中央部には広大な礼拝堂があり、毎日多数の人間が出入りしている。

それだけに、大聖堂に近づくからには今まで以上の注意が必要だった。

ついに到着した大聖堂を建物の陰から見据え、ヒッキーは辺りを見回した。

日も暮れはじめ、辺りが暗くなっているのにも加え、
身なりからしてあまり心証の良くないヒッキーが、
大聖堂の前で怪しい行動をしていれば、誰かの目に止まってしまう可能性はある。

ヒッキーは大きく回り込む様にして、正面から見て左側、塔のある東側へと近付いた。

大聖堂の両脇は主に聖職者の居住場所であるため、真正面に比べれば人気は一気になくなる。

ヒッキーが彼女のいる塔の真下に到着し、レンガ造りの大聖堂に手を当てたとき、日は既に落ち、夜になっていた。


192 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 18:27:15.64 ID:o0jTp2oUO
−−−−無事、到着か

(-_-)「……」

ヒッキーは外壁に手を当てたまま上を見やる。

窓が一つ、十数メートル上方に見て取れた。

聖路堂に直接侵入を試みるには、その窓が最も適しているようだった。

(-_-)「……」

ヒッキーは手を外壁から離し、小さく息を吐いた。


194 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 18:30:05.23 ID:o0jTp2oUO
ヒッキーが壁から離した手が、大きくその形状を変化させた。

指が長く、細く、より放射状に広がるように伸び、手のひらが小さく縮む。

そして、変化は手だけでなく全身に及んでいた。

何も履いていない足が手と同様に形を変え、
肌の色はどんな人種も持ち得ないような黒ずんだ赤に染まり、
その目の瞳は縦に極端なほどに長細い楕円形になり、
そしてローブに隠された下半身のシルエットが、円錐形の何かを逆さまにして後ろ腰にくっつけたかのように膨らんだ。

口は真横に大きく切れ込みを入れるように広がって、
口内に生え揃う歯はどれもが刃物のように鋭く光る。

骨格そのものが変形して、ヒッキーは体制を直立から四足接地へ変えた。


201 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 19:09:32.58 ID:o0jTp2oUO
(*゚ー゚)「……」

塔の中。
丸々が一つの大部屋となっている離れ小島のようなこの場所で、しぃはここ数日の間、生活を送っていた。

別に生活自体に不足があるわけではない。
むしろ与えられる食事や衣類は上等なもので、生活の世話は過保護とも言える範囲に及んでいる。

自身の身分を考えれば当然の事なのかもしれないが、
しかしながら一般にはもうすぐ成人として認められる年齢の女子としては着替えの手伝いまでされるのは流石に恥じ入るものがある。

部屋を出ること以外は何も強要されないのに何故か疲れが溜まる生活の終わりが何時なのか、
しぃには知らされていない。

そう言えば、知っている事のほうが少ないのか、とベッドに腰掛けて溜め息を吐いたとき、
唯一はめ込まれている窓がキィ、と開く音がした。

(*゚ー゚)「!」

振り向くと、そこには見覚えのある少年が立っていた。


202 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 19:11:54.24 ID:o0jTp2oUO
ヒッキーは、ハッとしてこちらを向いた彼女の顔を見て、とりあえずはまだ無事であったことに安堵した。

(;゚ー゚)「あなた……どうやって……」

彼女が静かに呟く。

(-_-)「壁を、上ってきた」

何故か緊張して、ヒッキーは言葉の途中で唾を飲みながら答える。
(;-_-)「あなたを、助けに来た」

(*゚ー゚)「助けに……?」

ベッドから立ち上がった彼女がまたヒッキーに問う。

ヒッキーは頷いて言う。

(;-_-)「あなたが人柱になるというのは嘘なんだ」

(*゚ー゚)「嘘……?」


203 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 19:12:37.60 ID:o0jTp2oUO
(;-_-)「あの、何もしないから、僕と話をして欲しい」

喉が渇く。
言葉遣いの違和感や、言葉が不自然に途切れ途切れになるのを自覚しながら、
しかしヒッキーは精一杯に彼女に伝えようと必死だった。

(*゚ー゚)「……分かったわ」

彼女は、そんなヒッキーに静かに答えた。

(-_-)「……あなたは最近の事故や災害を抑える為に人柱に選ばれた、はずだ」

(*゚ー゚)「ええ、教主様からはそう聞いているけれど……」

僅か数日前に、スカルチノフが一般市民の自分の家を直に訪れた時のことは、鮮明にしぃの記憶に残っている。

(-_-)「その理由の最たる事が、先日の事件で、教会は犯人を悪魔と言っている……」

でも、と付け加え、ヒッキーはハッキリ言った。

(-_-)「教会は嘘を言った。
……あの事件は、僕が起こしたんです」



(-_-)「僕は建物を破壊して、沢山の人を殺して、その後あなたに助けられた。
そうして生き延びて、今ここにいる」

(-_-)「事件は悪魔のせいじゃない。
だから人柱が必要な理由なんてない。
あなたが命を落とす必要は無いんです」


207 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 19:21:16.12 ID:o0jTp2oUO
彼女は依然として言葉を失っている。

(-_-)「今、詳しく話している暇はないし、
僕が、事件について、自分のした事について言い訳をするつもりもない。
けれど……」

どんな台詞であっても、今は躊躇せずに言う。

(-_-)「僕はあなたを騙そうとも、何かに利用しようとも思ってなんかいない。
あなたを助けたいんだ。
あなたが無駄に命を落とすのを黙ってみてはいられないだけなんだ。
……信用性を示す証拠なんてないけれど……、こんな僕が人を助けたいなんて都合が良すぎるなんて思うかもしれないけれど……、
本当のことを話していると、僕は命を懸けて誓う」

こんなに話したのは生まれて初めてだと思うほど、ヒッキーは一心不乱に語った。

言ったことは間違いなく本心だし、偽りを言ったつもりもなかった。

そして喋り通した反動のように、それきり黙り込んだ。
209 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 19:34:23.82 ID:o0jTp2oUO
(*゚ー゚)「……それで、貴方は私をここから連れ出しに来てくれたのね」

入れ替わるように彼女が話しだして、ヒッキーはすぐに頷いた。

(*゚ー゚)「……あなたの話が本当で、私は本当は人柱として選ばれた訳ではないかもしれないとしても、」

(* ー )「私はあなたとは一緒にはいけないわ」


210 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 19:37:30.66 ID:o0jTp2oUO

(;-_-)「!? ……どうして……?」

彼女のその言葉に、ヒッキーは反射的に彼女の腕を掴んでいた。

それは、彼女がやっぱり自分を信用してくれていないのではないかという悩みとか、切羽詰まった状況が好転しない事への焦りに、
ヒッキー自身が耐え切れなくなったからで、
一瞬理性を失った彼は、伸ばした右腕が未だに変容したままだと言う事を忘れていた。

(;゚ー゚)「痛……ッ!」

彼女が痛みに顔を歪めて初めてヒッキーは自分の失態に気付き、慌てて掴んだ手を離して後退りした。

(;-_-)「ご、ごめんなさい……」

ヒッキーが掴んだ彼女の手首は、彼の変容した硬い皮膚が擦れて擦り傷を作っていた。



211 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 19:41:05.16 ID:o0jTp2oUO
しかし。

(-_-)「!」

−−−−コイツは驚いた

今まで黙っていたハインすら感嘆するような出来事が、目の前で起きた。

(* ー )「……」

彼女の手首に確かに出来たはずの傷が、淡い光を伴って、まるで鉛筆で書いた文字を消しゴムで消すかのように消え去っていく。

それは「奇跡」とも呼べる瞬間だった。

(*゚ー゚)「……大丈夫だよ」

驚くヒッキーに向かって小さく、悲しそうに笑いながら、彼女は言った。

(*゚ー゚)「……昔からこうなんだ。
誰にも……親にも内緒の、秘密」

すっかり傷の癒えた手首をもう片方の手でさする。

(*゚ー゚)「だから、人柱に選ばれたのかな。
本当に誰にも、言ってなかったんだけどね」

その哀しげな表情が、ヒッキーには耐え難い物だった。



212 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 19:46:46.35 ID:o0jTp2oUO
(;-_-)「……教会は、あなたの、その体質を狙っているんだ」

断定する、強い口調。

(;-_-)「お願いだから、ここから逃げよう」

そうやってヒッキーが頼んでも、
彼女は首を横に振った。

(*゚ー゚)「無理だよ……」

(;-_-)「何故?」

(*゚ー゚)「私が逃げたら、私は安全かもしれない。
けれど……私にはお父さんやお母さんがいる」

(*゚ー゚)「もし、私が逃げたら、世間では人柱になることを恐れて逃げ出した娘だと扱われる。
そんなったら、お父さんもお母さんも、そんな娘を育てたダメな人間だって皆から迫害される。
どんな目に遭わされるか分からないわ」

それは、ヒッキーが予想だにしていなかった返答だった。

そして、ヒッキーに自身と彼女の決定的な違いを、自分だけでは埋める事の出来ない溝の存在を思い知らせるものだった。


213 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 19:49:08.61 ID:o0jTp2oUO

(;-_-)「……」

家族も共に逃げよう?
この街以外を知らないヒッキーが、彼女だけならまだしも、
さらに連れる人数を増やしてどうする?

家族を捨てよう?
家族が彼女にとってどれ程に重要か、そんな事も分からないヒッキーが、
そんな無責任な行動を軽々しく彼女に押しつけられる道理がどこにある?


どちらも、ヒッキーの口から言葉に出来るものではなかった。

217 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 20:20:04.79 ID:o0jTp2oUO
(*゚ー゚)「あなたの言う事、信じてるわ。
わざわざ危険を冒してまで、ここに来てくれたこと、感謝してる。
……けれど、やっぱり私は、ここから逃げることは出来ない」


止めのような彼女の言葉に、ヒッキーは完全に為す術を失った。

彼女は今の自分の言葉や行動では、ここから動いてはくれないのだと悟る。

それでも、諦めきれないヒッキーが、何かを言おうとした、その時だった。



218 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 20:23:13.96 ID:o0jTp2oUO
「何者だ!」

塔と大聖堂を繋ぐ通路への扉が開いたかと思うと、屈強な男が二人現れた。

(;-_-)「ッ!」

ヒッキーは身構える。

状況からすればすぐさま逃げたほうが得策だが、彼女を残して去ることへの執着が、その場にヒッキーを立ち止まらせる。

−−−−一先ず退散だ。
彼女との関係性を奴らに知らせたらアウトだぜ

ハインの助言に、ヒッキーは唇を噛み締めながら従った。

(;-_-)「……」

最後に彼女を一瞥して、助走の後、窓から外に飛び出した。

空中で、ヒッキーは変容を遂げ、着地に備える。

常人なら骨折は免れないような高さから難なく着地。

(-_-)「!」

しかし、ヒッキーは未だ逃げ切れていないことを悟った。
220 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 20:27:38.62 ID:o0jTp2oUO
「逃げられると思うなよ、悪魔め!」

先に押し入ってきた男と同様、屈強な者達がヒッキーの両脇を挟み込んでいた。

どうやら侵入がバレてから男達が押し入ってくるまでに包囲を固めていたらしい。

−−−−洒落臭ぇ、軽くあつらってスタコラサッサだ

ハインに言われるまでもない。

一々まともに相手している余裕などないのだ。

ヒッキーは素早く行動に移った。
着地してしゃがみ込んでいた体勢から身体をグン、と伸ばして、
取り囲む男達の一人に肉薄する。
男はその手に握る棒をヒッキーに向け横に振り抜いたが、それは空振りに終わる。

棒が頭に直撃する寸前で身を屈めたヒッキーは、その勢いを利用して身体を回転させた。

同時に、ローブから飛び出した細長い尻尾が男の足元を払う。



221 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 20:33:06.22 ID:o0jTp2oUO
「……!」

見事なまでに脚を掬われスッ転ぶ男にはもう目もくれず、
その隙を狙った別の男が振り下ろした棒を掴む。

「ウオオッ!?」

瞬間、棒は勢い良く燃え上がり、男は危うく手を炙る直前に棒を手放した。

一人が転び、もう一人が慌てふためくその間をすり抜け、
さらにその後ろに控えていた男には燃え上がる薪と化した棒を投げつけて隙を突く。

僅か数秒間で包囲を突破して、ヒッキーはあっという間に走り去り、闇夜に紛れた。

222 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 20:38:04.13 ID:o0jTp2oUO
(*゚ー゚)「……」

窓から顔を出し、走り去っていくヒッキーを見つめていたしぃの肩に、不意に手が置かれる。

しぃが驚きながら振り向いた先に見たのは、
優しそうな笑みを浮かべるスカルチノフだった。

/ ,' 3「大丈夫かね」

にこやかにそう尋ねられ、しぃは頷きで返す。

/ ,' 3「そうか、それは何よりじゃ。
人柱となる者に、万が一の事があっては一大事だからの」

変わらず笑顔で話すスカルチノフの顔が、一瞬だけ剣呑になったのを、しぃは見逃さなかった。



223 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 20:44:05.26 ID:o0jTp2oUO
/ ,' 3「しかし、まさか大聖堂にまで表れるとは……悪魔め」

悪魔。
その単語で、先のヒッキーとの会話を思い出す。

悪魔なんていない。
教会は嘘をついている。

/ ,' 3「どうかしたかね」

黙り込んだしぃに、スカルチノフがより身を寄せるようにして問い掛ける。

(;゚ー゚)「あ、いえ、その……」

/ ,' 3「まぁ、仕方あるまいな、あのような穢れたものに襲われかけたのだから。
明日から、見張りをより厳重なものにしよう」

(*゚ー゚)「……あの」

/ ,' 3「何だね?」


225 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 20:50:01.36 ID:o0jTp2oUO

(*゚ー゚)「あの人は、本当に……悪魔なんでしょうか……」

その疑問を聞いたスカルチノフの顔が、またしても鋭さを帯びる。

/ ,' 3「……間違いない。
あれは人ですらない、この世を混沌と悲しみの渦に巻き込もうとする邪悪の化身だ。
もしかしたら何かを吹き込まれたのかもしれないが、何一つ信じてはいかん。
……分かるね?」

その念押しには、有無を言わさぬ圧力が籠もっていて、しぃは頷く他なかった。




 

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