第四章

 

144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 16:39:45.08 ID:o0jTp2oUO
まず第一に必要なのは情報だった。

最初の目的は彼女に真実を伝え、彼女を助けだすこと。

それには、誰にも悟られずに彼女と会う必要があり、
さらにそのために、彼女が人柱として捧げられるまでの、
一連の流れに費やされる時間とその間の彼女の処遇について知る必要があった。

人柱の処遇について、教会が一般民に伝えていることはあまりに少なく、
単に人に尋ねるだけでは、人柱が何処にいるのかすら知るのは難しい。

ヒッキーにとって最大の情報源は共に路上生活を送っていた浮浪者達だったが、
彼らは皆、攫われたのか或いは危険を察知し逃げたのか、街でその姿を見ることは全く出来なかった。

となれは他の情報源を探すしかない。

そして幸か不幸か、ヒッキーには既にそれがあった。


145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 16:42:37.91 ID:o0jTp2oUO
深夜だというのに、この路地裏の怪しげな酒場は静まり返るということがない。

ひっきりなしに聞こえる大声、笑い声、泣き声、叫び声、罵声、怒声。

ヒッキーはそれらに聞き耳を立てながら、以前と変わりなく、雑務と皿洗いをこなしていた。

−−−−今までこき使われた分、報われりゃあいいがな

オレは暇でしょうがないぜ、とハインが漏らす。



146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 16:45:27.33 ID:o0jTp2oUO
この酒場は、うまく立ち回りさえすれば情報を得るには悪くない場所だと、ヒッキーは考えていた。

酒場そのものが非合法なことを行っているから、集まる客の素性や姿振る舞いなどは多少みずぼらしくても気にもされない。
ましてや雑用の人間の素性など、気に留める輩などいもしないだろう。

カウンターで喋っている者達の会話を盗み聞きしていれば、必要な情報をいくつか拾い集めることは出来るかもしれない。


……しかし。

−−−−三日経って収穫無し、ね

楽観視が過ぎたか、カウンターでダベる客の会話内容は下らない話ばかりで、
たまに人柱が話題に上がり、神経を尖らせてその会話に聞き入ってみても、
「若いのに気の毒だ」だの「可愛い女子だったな」だの個人的な感想を述べるに終始し、
これと言った収穫は得られずにいた。

時間が無い。

別の方法を模索すべきだろうか、という考えが頭の中をぐるぐると巡り、
悩みながら皿を洗っていた時だった。


147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 16:48:40.78 ID:o0jTp2oUO
椅子が倒れたりグラスが割れたり、といった感じの音が、騒がしい店内の雑音より一層に響いて、
続いて「テメェ!」と言う声が聞こえ、さらに何やらドタバタと音がした。

皿洗いの手を止めてカウンター越しに店内を見やると、
酒場で働くウェイターが何とも冴えなさそうな男性を一人取り押さえて床に押しつけている場面が見えた。

ミ#゚Д゚彡「ナメた真似しやがって……!」

ウェイターはウェイターらしからぬ怒りの形相を露にし、冴えない男の片腕を背中に回して関節を極め、男を罵倒した。


ミ#゚Д゚彡「クスリ掠め取ろうとはいい度胸だなこの糞野郎……!
二度とそんなこと出来ないように指片っ端からへし折ってやろうかァ!?」

(;-@∀@)「ゆ、許して……クスリが、あれが無いと……」

ミ#゚Д゚彡「シャブ中だろうが何だろうが、金のねぇ奴にやるもんなんざ何一つねぇんだよボケカス!」

154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 17:22:45.48 ID:o0jTp2oUO
(-_-)「……あの人……」

ヒッキーが、哀れな男を眺めながら呟く。

−−−−前にも店に来てたオヤジだな……。
同じように無一文でやって来て、追い出されてた覚えがある

ハインの言葉を聞きながら、ヒッキーは自分の記憶を辿っていた。
(-_-)「……」

少しの思考の後、手に持っていた皿を桶の中に戻すと、代わりにある物を握って、ヒッキーはそのまま裏口に向かった。

( ^Д^)「おい、どこ行くんだ」

気付いた店主が問い掛ける。

(-_-)「……用を足しに」

ヒッキーは店主の方を向かずにぶっきらぼうに答え、「ちんたらすんじゃねぇぞ」と言う彼の言い付けを背中越しに聞きながら店を出た。


157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 17:26:53.23 ID:o0jTp2oUO
(;-@∀(#)「うぅ……」

案の定、先程の男は店のゴミ置場でくたびれていた。

店から姿を消してから数分間の合間でひどく手痛い仕打ちをうけた様子で、
顔の半分は腫れ上がり、唇は切れ、腹を押さえる手から察するに何発かボディにも食らったようだ。
呻く男に近づくと、男は何とも形容し難い表情でこちらを向いた。
(;-@∀(#)「……何だ……まだ……何かするつもりか……?」

うんざりだ、と言わんばかりの口調でヒッキーに問う。

(-_-)「……元教会の人間だね」

男の質問を無視してヒッキーは唐突にそう尋ねた。

159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 17:29:24.11 ID:o0jTp2oUO

ヒッキーが酒場でこの男を初めて見て、今回と同じように放り出された後、
カウンターに腰掛けた二人組が男の素性について話しているのを、ヒッキーは耳にしていた。

『ありゃ、元教会の高官じゃないか……?
笑えるくらい様変わりしちまったな』

『ああ、そう言えば見たことある顔だな……クスリに手を出して人生を棒に振ったのかね……バカな奴だ』

『クスリに全部を費やして……あんな生き方はしたくないな』

『全くだ、飲もう』

その記憶に間違いはなく、男は頷いて答えた。

(;-@∀(#)「あ、ああ……そうだが……。
金目のモノなら、なにももっていないぞ……?」

怪訝そうな顔の男に、ヒッキーは握り締めていた右手の中に持っていた物を男に見せた。

真っ白な顆粒が、幾粒かその手から零れ落ちる。

と同時に、男の目が爛々と輝きを取り戻した。

161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 17:32:30.32 ID:o0jTp2oUO

(-@∀(#)「それ……!」

(-_-)「その前に幾つか答えてほしい」

男が伸ばした手を寸前で躱すように右手を引っ込めて、ヒッキーは取引を持ちかけた。

(-_-)「人柱の処遇について、詳しく知ってたら、洗い浚い話して。
内容次第でコレを渡すかどうか決める」

男は迷いもせず、ヒッキーが知りたかったほとんどの情報を、ベラベラとその口から語りだした。

165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 17:39:40.78 ID:o0jTp2oUO

(-@∀(#)「−−−−人柱に選ばれた人間は、最初に水場で身体を洗った後、人柱になるまでずっと教会の本堂で過ごすんだ。
ホラ、本堂の左側、側面から飛び出た様にある塔があるだろう……?
人柱はあそこで過ごしている。
曰く、俗世から離れて身体を清める為だ」

(-@∀(#)「−−−−食事や身の回りの事は全て世話係が付いて、人柱本人はそこから出ることはまず無い。
出たが最後、それは大抵人柱として捧げられて死ぬときだけだ。
本堂から塔に通じる通路には常に見張りが居て、
例え親であろうと婚姻相手であろうと、むやみに人柱と接触することも出来ない」

(-@∀(#)「−−−−お清めの期間は一週間位のはずだ。
それが終わった後、教会の地下で人柱として捧げられる」

一通り喋り切ったのか、男は一息つくと、ヒッキーを見上げながら言った。

167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 17:42:35.86 ID:o0jTp2oUO

(;-@∀(#)「知っているのはコレくらいだ……」

(-_-)「もう一つ。教会が秘密裏に行っている実験の目的と、人柱との関係性について」

(;-@∀(#)「実験……?
お前、どこからその話を……」

ヒッキーは無言で、手の上の顆粒を地面に捨てようとする。

(;-@∀(#)「待て!分かった答える!」

男は慌てて再び喋りだした。

(;-@∀(#)「アレは……神を生み出すための実験だ……」

(;-_-)「神……?」

(;-@∀(#)「そうだ。実験の存在を知っているなら、内容も知っているだろう?
あれらの狂気に満ちた実験は、少なくとも私がいた頃には、全てその目的に基づいて行われていた」

(;-@∀(#)「私は実験に直接関わる立場ではなかったから詳しくは知らないが、
人に、人以外の生物を「混合」させて、人よりも優れた亜人を生み出し、その集大成を持ってして、「神」……。
その為に、沢山の実験体が必要となった。
その実験体を浮浪者から調達する……そんな案が実行に移される直前に、私は教会を去ったから、それからのことは知らない」

169 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 17:44:52.85 ID:o0jTp2oUO

(-_-)「……人柱との関係は?」

(;-@∀(#)「人柱は……実験体を調達する案の一つとして上がっていたが、
いかんせん効率が悪すぎるために却下された……と言うような話を聞いたような……。
それ以上はよく分からない」

(;-@∀(#)「もういいだろう……?
頼むよ、それをくれ……!」

懇願する男が差し出す手の受け皿に、ヒッキーは持っていた砂糖をサラサラと移した。


170 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 17:48:45.11 ID:o0jTp2oUO

麻薬は、顆粒そのままでは効果が出ない。
水に溶かして蒸発させることで初めて麻薬としてその威力を発揮する。

つまり、男が今大事に手の中に包み込んでいる砂糖が砂糖だとバレるには、しばらくの時間を要するだろう。

奇声とも歓喜の声とも取れるような叫びを上げ、男は走り去っていった。

−−−−いいペテン師になるぜ、お前

ハインが楽しそうに言う。

もう、酒場で働く必要も、ここに留まる必要も無い。


ヒッキーは身を翻すと、そのまま立ち去った。

 

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