第十章



517 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 22:22:51.01 ID:RoiL6Hj7O

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

結局は、自分勝手なんじゃないの?トカゲ男クン

狂う自分にせめて何か、誇れる何かを身勝手に生み出したいだけなんでしょ?

それで愛しい人柱のあの娘は振り回されるんだよ

それは幸せ?幸福?万事解決?問題無し?
それはキミだけじゃないのかな?



ねぇ。

キミは何でそこまでやるの?


521 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 22:26:30.47 ID:RoiL6Hj7O
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

(-_-)「……」

……見つけた。

階段を下りた先。

広がるのは、松明も無く、壁自体に刻まれた模様が発光して照らしだされる空間。

そこに、彼女がいた。

呼吸に肩を上下させながら、ヒッキーは振り向いた彼女と目線をあわせる。

/ ,' 3「誰だ?」

その後ろにいる、荒巻スカルチノフも視界に捉えながら。


523 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 22:29:26.40 ID:RoiL6Hj7O
(;゚ー゚)「なん、で」

先程のシスターと同じような表情を浮かべ、彼女……しぃは言う。
しぃは真っ白なワンピースに身を包み、その姿は妖しい光に照らされて不可思議な雰囲気を醸し出していた。

(-_-)「助けに、来たんだ」

ヒッキーは、あの時、塔でしぃと話したときと同じように答えた。

今度こそ。貴方を。

525 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 22:31:35.86 ID:RoiL6Hj7O
/ ,' 3「誰かと思えば……全く、何処までも役にたたんな、奴らは」

二人の間に、スカルチノフの言葉が割って入る。

しぃの肩を掴むと、ぐい、と引き寄せた。

/ ,' 3「何の用かね、悪魔よ」

−−−−まだ言うか、このジジイ

(-_-)「その人を放してもらう」

/ ,' 3「放す? 何故?
この娘は人柱として、貴様等を駆逐する代償としてここで命を捧げるのだよ」

(#-_-)「……ふざけるな」

/ ,' 3「ふざけてなどおらん。貴様こそ悪魔の分際で何を言うか」

(#ー_-)「悪魔はお前の方だろう……! 僕達をあんな……!」

/ ,' 3「……ふん、戯言を聞く暇はないのだよ」

スカルチノフがヒッキーの言葉を切り捨て、嘲笑うように目を閉じて息を吐き、
そして……目を開いた瞬間。

ヒッキーの拳がスカルチノフの顔面を殴り飛ばした。

527 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 22:33:58.02 ID:RoiL6Hj7O
−−−−おー、清々しいクリーンヒット

吹き飛ぶスカルチノフ。

ヒッキーはそのままスカルチノフとしぃの間に立ちはだかった。

(#-_-)「お前の好きにはさせない。
彼女をお前の実験の犠牲にはさせない。
神を創るなんて……そんな馬鹿げた実験、ここで終わらせてやる……!」

/ 3「フ……フハハハ」

吹っ飛んで倒れこんだ体勢のままスカルチノフは笑って、ゆっくりと身を起こした。

すかさずヒッキーが詰め寄り、もう一度殴りかかる。

が。

(-_-)「……!?」

パシッ、とスカルチノフの手がヒッキーの拳を受けとめた。


529 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 22:36:04.70 ID:RoiL6Hj7O
/ 。゚ 3「俗物めが……。あまり調子に乗るなよ」

今までとは打って変わって深い声が、スカルチノフの喉から唸るように聞こえた。

同時に走る直感。

ヒッキーは素早く距離を取り、しぃの前に盾となるように位置を取った。

/ 。゚ 3「貴様に一つ、間違いを訂正してやろう。
ワシは、神を創るために実験など行ったのではない……」

おぞましい声はヒッキー達のいる空間に不気味に響く。

/ 。゚ 3「神になるため、だ」

それは明らかにこの線の細い老人から発せられるようなものではなく、
しかし明らかにこの線の細い老人から発せられているものであった。

/ 。゚ 3「最早隠す必要もあるまい……。
すぐに終わらせてやるわ……」

そして。

スカルチノフは、変容した。

ヒッキーよりも圧倒的に。


534 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 22:41:27.33 ID:RoiL6Hj7O
(;-_-)「……!」

メキメキと音を、立ててスカルチノフの身体が膨張し、新たな形容に変わってゆく。

大蛇をさらに倍に拡大したような右腕。
剛毛に包まれて、膨れ上がっている左腕。
胴体と脚は最早言い例える形容詞や副詞が見つからない、邪悪で鋭利で重厚で肥沃で危険な異形。
頭は頭ではなく、目玉を乱雑無数に埋め込み、巨大な口がついている球体と言ったほうが正しい。

それが、変容したスカルチノフ。

数多の人の命を犠牲にし、身の毛のよだつ実験を繰り返し、そしてそれらから得たものを貪欲に愚直に取り込み続けた結果。
一体どうやってそこに到ったのか皆目検討もつかない、
人間の成れの果ての果ての果ての果ての果ての果ての果ての果ての果ての果ての果ての果ての果ての果ての果ての果ての果ての果ての果て。


(゚。W。゚)「分かるだろう……貴様など私の……神となる存在の前では塵芥に等しいのだ」


537 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 22:44:49.51 ID:RoiL6Hj7O

−−−−誰か鏡持ってきて言ってやれ。
「新世界の神はイケメンに限る」ってよ

(;-_-)「黙れ」

余裕綽々のハインを放っておいて、ヒッキーはしぃを後ろに下げた。

(;-_-)「n……」

単純な体躯の巨大さによる圧迫感に気圧されながら、しぃに「逃げろ」と告げようとした瞬間、
スカルチノフの右腕、極太の蛇がヒッキーに向かって伸長し、口を大きく広げて突っ込んできた。

(;-_-)「く……!」

しぃに退場を促す間もなく、ヒッキーはしぃを後ろに庇いながら蛇を躱す。

が、蛇はヒッキーの動きを追尾するようにその身を折り曲げ、腕に食らい付いた。

強烈な力で引きずられたヒッキーは次の瞬間、投げ飛ばされて宙を舞う。


539 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 22:47:29.62 ID:RoiL6Hj7O
(;-_-)「ーッ!」

かなりの勢いで壁に衝突する寸前、体勢を整え、そのまま壁に着地する。

90゚重力に逆らいながら、落ちるギリギリまで力を溜め、姿を変容させ、ヒッキーは壁を蹴った。

(# _ )「ウオオッ!」

再び奮われる蛇の攻撃を身を捩って躱す。

追撃も振り切って、ヒッキーはスカルチノフに肉薄すると、
限界まで鋭く硬く変質させた爪を脇腹に突き立てた。

直後には肉の焼ける音。


543 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 22:52:44.98 ID:RoiL6Hj7O
灼熱に焼かれたスカルチノフが呻き、吠えながらヒッキーを叩き潰そうと鉄塊のような左腕の一撃を振り下ろす。

素早く身を退いたヒッキーの面前でスカルチノフの一撃が床を粉砕した。

つーのそれとは比べものにならない衝撃で床の破片が飛び散る。
拳大ほどの石が腹部を直撃して、ヒッキーはたまらず呻いた。

それでも何とか踏みとどまる。

追い討ちをかけるように蛇が食らい付いてきて、
ヒッキーを捉える直前、ヒッキーは何とか顎を掴んで押し止めた。


544 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 22:55:25.56 ID:RoiL6Hj7O
目の前の蛇の咥内に吸い込まれるような感覚を覚えながら、
ヒッキーはスカルチノフを見据えた。

(;-_-)「……これが……こんなものが神か……!!」

(゚。W。゚)「そうだ。
……そもそも神の姿など、人が勝手に想像するものに過ぎない。
自身の希望を投影した、都合のいい理想像。
実際、誰も抗えない、圧倒的な力を持つ者がいれば、それが神なのだよ」

(;-_-)「そんなもの神じゃない……!
ただの暴君じゃないか!」

(゚。W。゚)「民衆はそうは考えないだろうな。
奴らは自身が被護下に置かれるならば喜んで長いものに巻かれる輩だ。
民衆は既に洗脳されている……楽なものだよ……。
私は神となった偉大な存在として、これまでと変わらず、永遠に支配を続けるだろう。
ただ、貴様等のように逆らうものは排除する。神に仇なすものは、悪魔以外の何者でもないからな……ッ!」

スカルチノフはヒッキーに食い止められた右腕を乱暴に振り回し、ヒッキーを振りほどくと、
そのまま鞭のようにしなった蛇の胴体でヒッキーを打ち据えた。


547 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 22:58:06.62 ID:RoiL6Hj7O
(; _ )「グッ……」

とっさに構えた腕から伝わる衝撃に肋骨が軋むのを感じながら、
ヒッキーはいとも簡単に吹き飛んだ。

地面を転がって、ヒッキーは何とか起き上がる。

面前には、既にスカルチノフの姿があった。

(゚。W。゚)「ぬぅん!」

左腕が振るわれ、ヒッキーを上から叩き潰す。

(゚。W。゚)「ヌ……?」


550 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 23:01:49.61 ID:RoiL6Hj7O
( _ )「……」

スカルチノフの左腕を、ヒッキーはヒトから掛け離れた姿で、真正面から受けとめていた。

(゚。W。゚)「……フン、それが貴様の正体か」

スカルチノフがヒッキーの姿を詰る。

(# _ )「ア"ァアア"ッ!!」

巨大な爬虫類の様相を剥き出しにしたヒッキーは、スカルチノフの左腕を力任せに押し返した。

たたらを踏んで揺らぐスカルチノフの身体に、ヒッキーが体当たりをかます。

完全にバランスを失ったスカルチノフが、真後ろに倒れる。

好機と見たヒッキーが飛び掛かった。

(゚。W。゚)「図に乗るなよ」

( _ )「!」

スカルチノフが唸るようにそう言い捨てた瞬間、その右腕がヒッキーの身体に絡み付いた。


553 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 23:06:43.87 ID:RoiL6Hj7O
右足から右腕を巻き込み、胸まで螺旋状に巻き付いた蛇の頭部が唯一束縛を逃れた左腕に噛み付いた。

(゚。W。゚)「茶番劇は仕舞だ。
もう飽きた」

蛇がその屈強な胴体でヒッキーを締め上げる。


(; _ )「グウゥッ……!」

脇腹にナイフで乱れ突かれたかのような激痛が走り、ミシリミシリと身体が音を立てた。

何とか抵抗を試みようとするが、激痛に苛まれて力が抜けていく。

(# _ )「ヴゥアァア!」

それでも渾身の力を込めて、蛇の束縛を緩める。


(゚。゚。゚)「フン、くだらん」

スカルチノフは右腕を振り上げて、捕まえているヒッキーを壁に向けて投げつけた。

遠心力のついた勢いでヒッキーは容赦無く壁に叩きつけられる。

身体中がバラバラになったのかと思う程の衝撃がヒッキーを襲い、
そのままヒッキーは紐の切れた操り人形のように石畳に落下した。


554 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 23:09:53.99 ID:RoiL6Hj7O
( _ )「……」

むくり、とヒッキーは起き上がる。

最早目は虚ろで、意識があるのかどうか疑わしい。
けれどその足は身体をギリギリの瀬戸際で支えている。


スカルチノフの右腕がヒッキーを再び壁に突き飛ばし、
ヒッキーは再び倒れこむ。


それでも、ヒッキーは起き上がった。

( _ )「……」

しかし、その身体はすぐに前のめりに倒れ、動かなくなった。



(゚。W。゚)「ゴキブリの様にしぶとい奴だ……。
一応は生かしておいてやる。
何の突然変異か知らんが……、火を扱えるというのは興味があるからな。
ただし……今は、こちらが優先だがな」

(;゚ー゚)「!」

スカルチノフは、動かなくなったヒッキーから、立ち尽くすしぃに視線を変えた。


555 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 23:13:18.87 ID:RoiL6Hj7O
(゚。W。゚)「怖がることは無い……」

十分に異形のスカルチノフの身体が、またしてもその姿を変えた。

胴体のど真ん中に、真一文字に切り込みが入ったかと思うと、
そこからあまりにも巨大すぎて上下の噛み合わせが合わないほどの牙が乱雑に生え、
そして真一文字の切れ込みがガバリ、と開き、何ともグロテスクな楕円形の口が現れた。

(゚。W。゚)「むしろ喜ぶべきだ……。
神となる私の身体の一部として、私の命の燈となる他の生け贄と共に、永遠の時を刻めるのだから……」

(;゚ー゚)「……嫌……」


最早スカルチノフの言葉など聞こえない位にしぃは恐怖に捉われていた。
足は竦んでびくともしない。


(゚。W。゚)「こレでまた……私はカミに一歩近付ク……」

スカルチノフは一歩一歩、彼女に向かって歩を進めた。


556 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 23:18:36.94 ID:RoiL6Hj7O
( _ )「……」

視界に二人が映る。

彼女が……しぃが、スカルチノフの恐怖に晒されている。

行かなければ。

気持ちだけが肉体から引きちぎれんばかりに彼女とスカルチノフの間へと向かう。

しかしそれを実行に移す身体が、思うようには動かなかった。

( _ )「……畜生……」

やがて視界が霞んでいく。
意識が沈んでいく。

結局……、

−−−−おしまいか、ヒッキー

嘲笑うようにハインが問い掛けた。


557 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 23:19:40.36 ID:RoiL6Hj7O
−−−−ざまねぇな、オイ。
ラスボス戦にしちゃ呆気なさすぎて白けるぜ。
もうちょっと踏張れよ。




−−−−まだ死んでないだろ?
後悔なんざ、死んでからしろ





559 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 23:22:02.48 ID:RoiL6Hj7O

( _ )「……」

……そうだ。
まだ……まだ、やれる。
まだ、死んでない。

ヒッキーは自分で自分の脇腹を握り締めた。

身を走る激痛が、意識を無理矢理に引きずり上げる。

−−−−そうさヒッキー。命を大事になんかすんな。
作戦は最後まで「ガンガンいこうぜ」に決まってんのさ。
命を極限まで削りきって、極限まで尖らせるんだ。
痛みも、辛さも、全部何もかも、命を燃やすタメの薪だ。
目の前の障害を、圧倒的な怒りと偏見で、その命を持ってねじ伏せて貫いて破壊しろ。
力が欲しけりゃ、くれてやるぜぇ!?


561 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 23:26:31.85 ID:RoiL6Hj7O
(゚。W。゚)「我ガ念願……やット……」

ジリジリとしぃに迫るスカルチノフは、瞬間、背後から突き刺さる悪寒を感じた。

(゚。W。゚)「!」

思わず振り返ったスカルチノフの面前を何かが駆け抜ける。

チリ、と空気の焦げるような、音。


(゚。W。゚)「!?」

スカルチノフは、しぃと自分の間に割って入ったソレを見て、自身の目を疑った。


563 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 23:29:24.94 ID:RoiL6Hj7O
炎。
轟々と燃え盛る、蜥蝪の形を得たそれが、スカルチノフの野望を目前にして妨害すべく立ちはだかっていた。

(゚。W。゚)「何ダと……!?」

よくよく見れば、炎の中には芯のように、一回り小さな形が見て取れる。

(゚。W。゚)「……何故だ」

それをヒッキーと認識したスカルチノフは思わず問い掛けた。

(゚。W。゚)「そこまでシて何を望ム!?
、命ヨリも何よリモ、この少女ガ大事か!?
貴様には何の見返りもなイぞ!」

それは何の根拠もない、ただヒッキーの士気を削ぐために吐いた戯言だったが、
ヒッキーには何の効果もなかった。


566 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 23:31:22.07 ID:RoiL6Hj7O
……お前に何が分かる。
……僕が、彼女にどれほど救われたのか、お前に分かるはずがあるものか。

答えなど明白。

死ぬまで、彼女を救いたいと思える……そして、救う為に何物も厭わない自分でありたいだけだ。

全てを懸けても悔いなど残りはしない。

(゚。゚。゚)「……ウジ虫めがァアッ!!」

スカルチノフが己を鼓舞するように叫びながら左腕を振りかぶる。

ヒッキーが纏う炎をかき消そうと水平に薙払われかけた左腕を、ヒッキーは避けるのではなく、逆にスカルチノフへ飛び掛かることによって制した。


568 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 23:34:01.79 ID:RoiL6Hj7O
蜥蝪をかたどる炎の四肢が、スカルチノフの巨体を押さえ付けて押し倒す。

肉の焼ける匂いを嗅ぎながら、に右の腕に食らい付くと、太い蛇の胴体をブチブチと筋繊維を乱暴に引きちぎった。

スカルチノフが絶叫する。

(゚。W。゚)「グアッアアッ!!
こ、ノ……っ!」

必死の思いで振りほどいて、残った左腕で弾き飛ばす。

炎は優雅に舞うと、再びしぃとスカルチノフの間に着地した。

( _ )「……」

身体が熱かった。
自身も身に纏う炎に焼かれているようだ。
けれど、言い知れぬ昂揚感がある。
面前のスカルチノフを粉々にしたいという破壊衝動。
命を削って、燃え上がらせる戦意。

ヒッキーは身に纏う炎をより一層燃え盛らせた。

起き上がるスカルチノフを見据える。

572 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 23:35:59.95 ID:RoiL6Hj7O

(゚。゚。゚)「害虫メがっ!!殺ス!!殺しテ殺シて殺シテ殺すァあアあぁガァあァあア!!」

正気を失ったかのような叫びをあげて、スカルチノフが突撃してくる。

ヒッキーはスカルチノフに対し、炎を操って放射する。

スカルチノフの面前で放たれた炎が燃え上がり赤い壁を立ち上らせ、
スカルチノフの姿は赤い灼熱に包まれた。

(゚。W。゚)「ヌゥガァアアア!!」

しかしそれもつかの間、自身が焼けることも構わない捨て身で、スカルチノフが炎の障壁を突破してきた。

振り上げられた左手が、巨大な鎚となって振り下ろされる。

ヒッキーは跳躍、スカルチノフの背後を取るように宙を舞った。


573 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 23:39:23.15 ID:RoiL6Hj7O

(゚。W。゚)「カかッタなァ!!」

スカルチノフの口が愉悦に歪む。
左手に掴んだ巨大な石畳を力任せに床から引き剥がすと、振り返りざまに投げ付けた。

炎が着地すると同時、石畳が炎を直撃して、轟音が響き、土埃が舞い上がった。

(゚。W。゚)「クハはハハハァアハハハ!!」

勝ち誇るようにスカルチノフは笑う。




笑い声に合わせて波打つ、その下腹部を、一本の腕が深々と刺し貫いた。



576 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 23:43:13.37 ID:RoiL6Hj7O
(゚。W。゚)「な」

スカルチノフの言葉は喉からせり上がる血液に邪魔をされて不意に途切れ、
直後にスカルチノフは吐血した。

(゚。W。゚)「ガハッ!ガアアッ!!」

(-_-)「……」


スカルチノフの頭上を飛び越えた炎は囮。実体であるヒッキーは、ただ真上に跳躍して、スカルチノフを騙したのだ。

(゚。W。゚)「……ば、馬鹿ナァ……ッ!
わ、ワシが、カミニナルコノワシガ、ワシガ……?!?!」

−−−−幕引きだ

スカルチノフの身体が、ヒッキーの発した炎に包まれて燃え上がった。

そのまま素早く手を引いて、ヒッキーは離れる。

響き渡る断末魔。

スカルチノフは言葉として意味のなさない何かを喚きながら、
残った左腕で、身を焼く業火を振り払おうとしたり、あるいは周りを破壊しようとしたり、
でたらめに藻掻いたりしながら、自分の生命を急速に終わらせていく。

( W )「カ、ミ……」

最後に呟くと、スカルチノフは辿り着いた壁に持たれ斯かるようにして倒れこんだ。


581 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 23:46:52.84 ID:RoiL6Hj7O
(;-_-)「……」

……終わった。

緊張の糸が途切れた瞬間、ヒッキーは石畳に膝をつき、手をついて息を吐いた。
もう痛みはどこがどうして痛むのか分からないほどあちこちから伝わってきて、
正に全身が痛むというのはこういうことなのだろう。

そんなヒッキーに、そっ、と寄り添う人がいた。

背中に触れる感触。
顔を上げれば、すぐ至近距離にしぃの顔があった。

泣きそうな顔で、唇を噛み締めて、申し訳なさそうな、そんな表情。

(* ー )「ゴメンね……」

絞り出すような声で、しぃはヒッキーに謝った。


583 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 23:48:14.07 ID:RoiL6Hj7O
(* ー )「私の、私のせいで、こんな……」

止めてくれ、とヒッキーは思った。

僕は貴方をそんな顔にしたくて、そんな事を言わせたくて、ここまで生き長らえてきたんじゃない。
貴方に、笑って欲しかった。
何かに悩まされて、苦しんでいる貴方を助けたかった。

そして、それで、その時にこそ、僕は……。


−−−−ヒッキー!!


(-_-)「!」


587 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 23:50:51.75 ID:RoiL6Hj7O
ハインが雰囲気を打ち壊してまで自分の名前を呼んだ理由を、ヒッキーはすぐに知った。

寄り添うしぃの身体を突き飛ばす。

直後、ヒッキーの身体に無数の触手のようなものが巻き付いた。


(%W##)「グゥハハハァア!ツカマエタゾォオ!!」

それらの触手は、まだしぶとくその命を保っていた、スカルチノフの左腕の指先だった。

−−−−ジジィの癖してしぶとい野郎だな

触手はヒッキーを引きずり寄せていく。

その触手に、しぃが振りほどこうと掴み掛かった。

(;゚ー゚)「……ッ」

しかし、彼女の力ではどうしようもないことは触手に捕まっているヒッキーがよく分かっている。

それでも諦めない彼女にヒッキーが止めてくれと言う寸前、空間そのものが激しい揺れに襲われた。


588 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 23:51:52.89 ID:RoiL6Hj7O
(;-_-)「!?」

−−−−チッ……、考えてみりゃ、柱も無い、ただっ広い地下の空間で衝撃をガンガン起こせばこうなるわな。今更だがよ。

……どうする。

川;゚ -゚)「ヒッキー!!」

(-_-)「!」

焦るヒッキーの背後から聞こえたのは、クーの声だった。

川;゚ -゚)「……驚いている暇は無さそうだな……!」


瞬間的に状況を把握するクーに感心する暇などない。

(-_-)「この人を連れて、ここから逃げてくれ……!!」

ヒッキーは咄嗟にクーにそう頼んだ。


590 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 23:53:49.57 ID:RoiL6Hj7O
(;-_-)「!?」

−−−−チッ……、考えてみりゃ、柱も無い地下の空間であんな馬鹿げた衝撃をガンガン起こせばこうなるわな。今更だがよ。

……どうする。

川 ゚ -゚)「ヒッキー!!」

(;-_-)「!」

焦るヒッキーの背後から聞こえたのは、クーの声だった。

川;゚ -゚)「……驚いている暇は無さそうだな……!」


瞬間的に状況を把握するクーに感心する暇などない。
(-_-)「この人を連れて、ここから逃げてくれ……!!」

ヒッキーは咄嗟にクーにそう頼んだ。


595 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 23:56:23.77 ID:RoiL6Hj7O
(;゚ー゚)「ダメよ!」

却下したのはしぃだった。

(;゚ー゚)「貴方、そんな身体で……!」

(#-_-)「いいから行くんだッ!!」

ヒッキーは、今までにない強い口調でしぃに命令する。
けれどすぐに激しく咳き込んで血反吐を吐く。

(;-_-)「時間が、無いんだ……早く……頼むから……」

ヒッキーの身体がスカルチノフに引き寄せられ、しぃと距離がまた離れる。

川 ゚ -゚)「……行こう」

クーが立ち尽くすしぃを引き寄せ、肩を抱え込むようにして無理矢理に歩かせた。

川 ゚ -゚)「ヒッキー、死ぬなよ……」

そう言うと、クーはもう振り返らずにしぃの手を引く。

しぃは名残惜しそうに連れられていった。


598 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 23:59:33.64 ID:RoiL6Hj7O
限界まで広げた咥内に見えるのは小さな火の玉。

それはすぐに大きさを増して、ヒッキーの面前で人の頭程に膨れ上がる。

−−−−派手にブチかませよ、地獄のそこまで突き落とさにゃあ、また帰ってくるぞ、このジジィは

(%W##)「カミ、ニ……カミ……」

その戯言も、もううんざりだ。

この世から消え去れ。

ヒッキーはスカルチノフに向け、極限まで溜めた火球を射ちだした。


600 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 00:01:36.03 ID:Hhfl2jb/O
火球はゴウッ、と真っ直ぐにスカルチノフに向かって行き、着弾と共にスカルチノフを再び業火に包み込む。

(%W##)「フヒハ、ミエタ、ミエル、ワタシは……フハハ」

もはや絶叫すらせず、ブツブツと呟き、薄ら笑いすらしながら、スカルチノフはその生涯を神になることなく終えた。


603 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 00:04:33.21 ID:Hhfl2jb/O
( _ )「……」


ヒッキーはその場に仰向けに倒れこむ。

ひび割れ、振動する天井が見える。

痛みはもう何処かにいってしまったようだった。

恐怖も、絶望も、悲しみも、何もない。

けれど、それらとは別に、大声で叫びたいほどの感情が、ヒッキーを満たしていた。

( ー )「悪くないな……」

崩落する瓦礫が雨のように降り注いで、ヒッキーは舞い上がる土煙の中に消えた。















607 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 00:08:57.33 ID:Hhfl2jb/O
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

ガラリ、と音がして、瞼の裏に光が射す。
視界が赤くぼんやりとする。

ゆっくり、眼を、開く。

真っ先に映ったのは、しぃの顔だった。


610 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 00:10:25.23 ID:Hhfl2jb/O
( _ )「……」

自分がまだ生きていることよりも何よりも、そのしぃの表情が気に掛かった。

彼女は、泣いていた。

とうとう泣かせてしまった。
全く僕はダメな奴だ。

(*;ー;)「ヒッキー君……!」

……ああ、名前、覚えてくれたのか。

( _ )「……」

何か言おうとしたが、声にならなかった。
口の中がひどく乾いている。

唾を飲むのにも一苦労だった。

614 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 00:12:19.64 ID:Hhfl2jb/O
川;゚ -゚)「待っていろ、すぐに助けだしてやる……!」

クーの声が聞こえて、横たわる自分の下半身の方を見る。

自分の身体は未だ半分以上が瓦礫に埋まっているのを知って、
ヒッキーは何となく察する。


間に合わない。


下半身はひどく寒い。恐らくは瓦礫の下で無残な様を成しているのだろう。

クー達に掘り起こされるよりも前に、自分の身体が保たなくなる、そんな直感があった。


618 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 00:15:39.02 ID:Hhfl2jb/O
……ちょうどいい。
本当の幕引きを引くときがきたのだ。

今がその頃合いなのだ。
遠からず、自分は自分の望む自分でいられなくなる。

狂う。本能が暴走する。
今はまだ、理性のブレーキがその暴力の矛先を制しているけれど、
やがて彼女を破壊したくなるかもしれない。

結末がその内のどれであれ、それは結局、自分が今までやってきたことを無駄に帰すことになりかねない。

そんな結末は望みたくもない。
彼女にだって、僕のような存在はこれから生きていく中で障害にしかなり得ない。

意識など、もういつでも手放せる。

ただ、最後に、最後に。
これだけは伝えたい。

( _ )「…う…」

上手く動かない口で、ヒッキーは精一杯声を絞り出す。

(*つー;)「あ……何……?」

感じ取ったしぃが、涙を拭って口元に耳を寄せた。


624 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 00:19:05.00 ID:Hhfl2jb/O
( _ )「あ……」

貴方に、会えて、良かった。
貴方が、「僕」を生かしてくれた。
貴方のおかげで、僕は他ならぬ「僕」だった。

( _ )「り、がとう」

ありがとう。
貴方に、ありがとう。

やっと、やっと言えた。
ずっと思っていたんだ。

貴方を助けだすことが出来たら、貴方を救うことが出来たら、
その時にこそ、その時にだけ、その時にやっと、僕は、貴方に感謝出来る。
そう決めて、生きてきた。
だからもう、生きられなくたって、いい。

( _ )「ありがとう」


しぃの涙が、ヒッキーの顔に落ちる。

涙の伝うその顔は、何処までも安らかで、その口は、幸せそうに微笑んで、
その目は、閉じられたまま……









 

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