第三話
- 1 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 18:51:40.15 ID:c9KHVz9e0
-
ブカブカ ドンドン。
さあさあ始まりました、人が糸を繰れば動くからくり人形を巡る不思議な活劇奇譚。
その第三幕に御座います。
人ほどの糸繰り人形を操るツン、奇妙な病に侵されたギコ、
そして謎多き懸糸傀儡”あるるかん”を親から遺されたブーン。
彼らの運命を操る見えない歯車がキリキリと廻り、彼らを戦いの渦へと誘い始める。
「不思議なからくり奇譚」第三話。鷹揚の御見物を願います。
まとめサイト様:ブーン系小説グループ
http://boonnovel.g.hatena.ne.jp/bbs/443?mode=tree
- 2 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 18:52:55.68 ID:c9KHVz9e0
- ――第三話
オレがその病気になったのは半年ぐらい前の話だ。
それまでオレは健康そのもので、拳法なんかもやってたぐらいだ。
だけど、ゾナハ病って病気に罹ってからオレの人生は最悪なものに変わった。
人を笑わせないと呼吸すらろくに出来なくなる発作に苦しまれるってふざけた病気。
しかも、今のところ治療法は無いらしい。
だからこの病気とは一生付き合っていかなきゃいけないって医者の先生は言ってた。
じゃあ人を笑わせればいい? まあそうだよな。
けどな、考えてみろよ。
発作で全身汗だくの苦しんでる人間を見て笑える奴がいるか?
- 3 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 18:54:26.27 ID:c9KHVz9e0
- 良くて逃げるか、最悪通報されたこともあったけな。
だからオレは全身を隠せて、尚且つ人に笑われるアルバイトを探した。
そんで見つかったのがクマの着ぐるみを着てチラシを配る仕事だ。
まあ体力には自身あるし、ある意味天職かもな
だけどある日、とんでもない事が起きた。
オレがバイトをしてた商店街の近くで、トラックが人を轢いて暴れているらしい。
しかもそのトラックに乗ってた連中が化け物と一緒に暴れてるって話だ。
誰かに話したら笑い話って言われるかもな。
……いや、むしろ笑ってくれ。
- 5 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 18:55:49.29 ID:c9KHVz9e0
- まあいいか、それで話の続きだ。
オレは逃げ惑う人が来てる方に様子を見に行こうとした。
そしたら、小さな女の子が道端で泣いてるのを見かけたんだ。
”おかあさんがおっきな車に轢かれた”。
女の子はそう言って泣いていた。
それが許せなくて、子どもが可哀想で、
オレは轢いた奴らをぶん殴ろうとして走り出したんだ。
それから少し走って、オレの前にいた奴がオレが行こうとした方に走ろうとしてたのを見かけたんだ。
だから危ないぞって言ったら、そいつもあっちの方に行かなきゃいけない理由があるらしくて、
2人で一緒に行くことにしたんだ。
そいつはやけにでっかいスーツケースを大切そうにもって、汗だくだった。
名前はブーンって言うらしい。
- 7 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 18:57:23.33 ID:c9KHVz9e0
- その後。
みんな避難したはずの道路の先に怪しい男が立っていて、そいつオレらに向けて銃を撃ってきたんだ。
それから……。
なんて説明すりゃいいんだろな……。
そいつの後ろにでかい銃を持った巨大なお面みたいな化け物が立っていて、
その化け物がオレに銃を向けてたんだ。
……もうその時点で訳わからなくなってたのに、
オレの後ろにいた男、ブーンて言う男が、大事そうに持っていたスーツケースを開けたんだ。
そしたら、ブーンのスーツケースの中から、これまたでかくて奇妙な奴が出てきたんだ。
もうさ……、たぶんこれは夢なんだと思うぜ。
それも、とびっきり変で、荒唐無稽な夢。
だからさ、こんな夢早く醒めてくれなーかな……とか思ってたんだ。
- 9 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 18:59:13.71 ID:c9KHVz9e0
- 指輪をしっかりと嵌めた事を確認する。
そうしないと懸糸傀儡に指輪を持っていかれるか、
最悪、指の骨を折るとツンから言われたからだ。
それ以外にも様々な事柄を、昨日のツンの言葉を必死に思い出し、それを心の中で反芻する。
(;^ω^)(基本的な操作は昨日ツンに教えてもらったお……!)
ブーンが両手を可能な限り正確に、そして出来るだけ早く動かす。
彼の十指に嵌められた銀色の指輪から伸びる無数の糸。
ブーンはその先に立つ黒衣の懸糸傀儡、あるるかんに目をやる。
- 11 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 19:00:30.60 ID:c9KHVz9e0
- (;^ω^)(頼むお……! せめて、せめて今だけ動いてくれお!!)
ブーンの必死の願いが通じたのだろうか、
自分の眼前に立つ懸糸傀儡の歯車がキリキリと回る音が傍にいるブーンの耳に届いた。
(;^ω^)(早く! 早く走り出せお!!)
右手の手の甲を上に向け、左手を下げるように引く。
これは昨夜ツンに教えてもらった基本的な操作の一つ、
そして、最も使用頻度が高い操作の一つだ。
弛緩していた繰り糸がしなるような感覚が指に伝わった。 - 13 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 19:01:57.34 ID:c9KHVz9e0
- 昨夜教えてもらった通り、素早くギュッと操り糸を引いた。
まるでその操作に答えるように、あるるかんが前を向き、
ブーンの正面に立つギコに向けまっすぐに駆ける。
(*^ω^)(や、やったお!!)
まだまだあるるかんの動きはぎこちない。
それでも、あるるかんはブーンの思い通りに動いてくれた。
(;^ω^)「……おっ!?」
あるるかんが自分から離れるにつれ、
まるで自分があるるかんに引っ張れるような感覚がブーンの指に伝わった。
どうやら人形繰りは予想以上に力が必要なようだ。
自然と、ブーンの十指に力が入る。
- 15 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 19:03:23.47 ID:c9KHVz9e0
- ふと、ブーンがギコと、その先に立つ人形使いの男とその懸糸傀儡を一瞥した。
無表情な人形使いの顔からは何も読み取れない。
ただ、冷徹な目がギコに向けられているのだけが理解できる。
その男が操る、銃を持った懸糸傀儡はギコに向けて狙いを定め終わったようだ。
もう数秒も無く、ギコの体に向けて巨大な銃弾が放たれるだろう。
( ・(エ)・)「……」
当のギコと言えば、まるで石膏で塗り固められてしまったかのように動かない。
恐らく、彼の理解の範疇を超える出来事があまりにも連続して起きたため、頭が混乱しているのだろう。
その気持ちはブーンにもよくわかった。
- 16 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 19:04:38.31 ID:c9KHVz9e0
- とにかく間に合ってくれ。
男が銃の引き金を引く前に、ギコを撃ち殺す前に。
ブーンは抵抗を強める操り糸を無理やり屈させるように両手を更に強く引く。
それに合わせるように、あるるかんが更に速く駆ける。
(;^ω^)「ぐっ……」
指が軋む。指輪ごと指を持っていかれてしまいそうな程だ。
それでもなお、ブーンはあるるかんを操る力を強める。
そして静かな道路に鳴り響く、大きな銃声と何かを突き飛ばす音。
- 17 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 19:05:58.72 ID:c9KHVz9e0
- ブーンとギコ、そしてドクオ以外の人間が逃げ去った道路に二つの音が同時に響いた。
そしてそれから一拍置き、ギコの悲鳴がブーンの耳に届く。
(,;゚Д゚)「ぐぁ!!??」
ギコが思いっきり前のめりに倒れ、その衝撃で着ぐるみの頭が地面に落ちる。
地面に落ちたクマの顔がコロコロと転がり、あるるかんの足元へとぶつかった。
(;^ω^)「だ……大丈夫かお!!?」
足元に置いてた空のスーツケースを左手に持ちながらブーンがギコの元へと駆け出す。
ブーンはその時、あるるかんの入っていないスーツケースは軽い物だな、と感じた。
- 19 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 19:07:16.53 ID:c9KHVz9e0
- ブーンがスーツケースを盾にするように身を隠しながらギコに近付く。
いまだにこちらへ銃口を向ける懸糸傀儡から身を隠しながら、地面にうつ伏せに倒れたギコを起こす。
(,;゚Д゚)「あ……ああ、なんとかな」
ギコの体に怪我は見られない。
間に合ったようだ。ブーンは胸を下ろした。
(;^ω^)「よかったお……」
('A`)「……」
間一髪。
他の操作方法をほとんど知らないブーンが取った選択は正解だったようだ。
ギコの頭を狙って放たれた弾丸は、ギコの頭のギリギリ上をかすめ外れた。
弾丸が当たる寸前に、あるるかんの体当たりはギコの背中に直撃し、
ギコは飛ばされるようにして、前のめりに倒れたのだ。
もし、あと一瞬でもブーンの判断が遅れたらギコの頭には巨大な風穴が開いていただろう。
- 20 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 19:08:57.60 ID:c9KHVz9e0
- ('A`)「…死ね」
人形使いが再び銃口をこちらに向ける。
(;^ω^)「く……」
(,;゚Д゚)「お、おい! なんなんだよお前ら!?」
(;^ω^)「一旦逃げるお!」
(,;゚Д゚)「お、おお!」
ブーンが道路の脇の雑木林を指差す。
あそこなら人間2人ぐらい楽に隠れられるだろう。
('A`)「…逃がすかよ」
男が両親指を上げる。
その動きに合わせて、人形遣いの男の懸糸傀儡が両手に持つ拳銃の撃鉄を引いた。 - 23 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 19:10:12.14 ID:c9KHVz9e0
- (;^ω^)(マズイ! このままじゃ逃げられないお……)
(,;゚Д゚)「くそっ…… どうすんだよ!?」
間違いなく、このまま走っても逃げ切れないだろう。
雑木林まではまだかなり距離がある。
(;^ω^)(………!)
ギコが諦めかけたその時、ふとブーンは閃いた。
( ^ω^)(そうだお! こうすれば逃げれるお!)
ブーンが近くに立つあるるかんを一瞥する。
そして
( ^ω^)「ギコ! 早くあるるかんの体に掴まるお!!」
(,;゚Д゚)「え…?」
- 24 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 19:11:29.49 ID:c9KHVz9e0
- ( ^ω^)「この人形にぶら下がるんだお!! 早く!!」
(,;゚Д゚)「わ、わかった……」
訳がわからない、と言いたいような顔をしたギコとブーンがあるるかんの衣服を掴み、あるるかんにぶら下がった。
2人分の体重を支えているにも関わらず、あるるかんはしっかりと立っている。
( ^ω^)「しっかり掴まってるお!」
(,;゚Д゚)「お、おう!」
ギコがちゃんとあるるかんに掴まっているのを一瞥し確認したブーンが操り糸を思いっきり引く。
それは、先ほどギコを突き飛ばしたのと同じ操作だ。
- 25 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 19:12:43.28 ID:c9KHVz9e0
- ('A`)「死ねよ」
ブーンが指輪を引いたのとほぼ同時に、男が中指を手のひらにくっ付けるように絞った。
小さな大砲とも思えるほどの大きさの銃口から、それに見合った大きさの銃弾が何発も放たれる。
(;^ω^)「うおおおおお!!」
(,;゚Д゚)「うわぁ!?」
2人が掴まったあるるかんが、雑木林に向け飛ぶように駆け出す。
まるで車のような速さだ。
ブーンは思わずあるるかんから手を離してしまいそうになるのを必死に耐えた。
何度も銃声が耳に届き、その度にあるるかんの駆けたその後ろを銃弾がかすめる。
- 27 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 19:14:05.20 ID:c9KHVz9e0
- (;^ω^)「も、もうすぐ雑木林だお!!」
何度もあるるかんから手を離してしまいそうになるのを耐え、ようやく眼前に雑木林が見えてきた。
(;^ω^)「林に飛び込むお!!」
(,;゚Д゚)「あ、ああ!」
ブーンが両手を強く握り、その手を後ろに下げる。
その操作に合わせあるるかんが体を屈めた。
そして次の瞬間、2人を運んだあるるかんが周囲の木に達するほどの高さまで大きく飛んだ。
(;^ω^)「ちょ!? 飛びすぎだお!!?」
(,;゚Д゚)「うおお!!??」
文字通り飛び込むように、2人とあるるかんは雑木林の中に消えていった。 - 30 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 19:15:51.46 ID:c9KHVz9e0
- ('A`)「…?」
その光景には、人形使いの男さえも驚いたようだ。
('A`)「……逃がすかよ」
ドクオが雑木林に向け闇雲に乱射する。
しかし銃弾は木々に風穴を空けるだけで、2人に当たった手ごたえは無い。
銃弾の衝撃で落ちる葉の音と銃声だけが虚しく道路に響き渡った。
('A`)(まさかブーンの奴があるるかん繰れるとはな…。
まあ問題ない、所詮は素人だ)
- 31 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 19:17:11.27 ID:c9KHVz9e0
- ――道路の外れの雑木林
(;^ω^)「いたたたた……。 さ、さすがに死ぬかと思ったお……」
ブーンが指輪を外し、服や髪に着いた葉を落とす。
2人はあるるかんと共に木々の中に飛び込んだ。
通常であれば怪我は免れない高さの飛翔だったが、
幸いにも木の枝がクッションとなり、2人とも怪我をせずに着地できた。
( ^ω^)「大丈夫だったかお?」
木に立てかけるように置いたあるるかんの傍に指輪を置き、
ブーンが大きな石に腰掛けているギコに声を掛けた。 - 33 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 19:18:39.88 ID:c9KHVz9e0
- (,;゚Д゚)「ああ。あんたのお陰で助かったぜ」
( ^ω^)「間に合ってよかったお」
(,;゚Д゚)「……そ、それよりなんなんだよ? なんでこんな化け物がいんだ?」
ギコはそう言いながらあるるかんを指差す。
なるほど、確かに何も知らない人間が見たら化け物に見えるかも知れない、とブーンは思った。
自分も、昨日初めて見るまでこんなものが存在するとは夢にも思わなかった。
( ^ω^)「……僕も詳しくは知らないお」
(,,゚Д゚)「……? これはお前のじゃねーのか?」
- 35 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 19:20:20.82 ID:c9KHVz9e0
- ( ^ω^)「まあ確かに僕の家にあったお。けど僕もよくわからないお」
(,,゚Д゚)「ロボットか? それ」
ギコが再びあるるかんを指差し、ブーンに尋ねる。
( ^ω^)「からくり仕掛けの人形。らしいお」
(,,゚Д゚)「人形… 」
( ^ω^)「そうだお、これ… あるるかんって言うらしいけど、
あるるかんの中にはびっしりと歯車が詰まってるらしいお」
(,,゚Д゚)「すげーな…」
- 36 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 19:22:25.72 ID:c9KHVz9e0
- ( ^ω^)「全くだお、何故かこれが僕の家にあったんだお」
(,,゚Д゚)「へぇ…… こんなのがあったら子どもも笑ってく……ぜひ…」
ギコが何かを言いかけた、その時。
突然。ギコが胸を押さえ、苦しそうに咳をしながらその場に倒れこんだ。
(,; Д )「ぜひ… ぜひ…」
(;^ω^)「おっ!?」
(,; Д )「ぜひ ぜひ ぜひ ぜひ…」
(;^ω^)「ど、どうしたんだお!?」
ブーンが慌ててギコに駆け寄り、声を掛けながら肩をゆする。
しかしギコはブーンの呼びかけに応えず、その場にうずくまったまま動かない。
- 37 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 19:23:48.93 ID:c9KHVz9e0
- (,; Д )「ぜひ…ぜひ…」
(;^ω^)「まさか……さっき撃たれたのかお!?」
ブーンがギコの体をよく見る。
しかしギコの体に銃で撃たれた痕跡はどこにも見られなかった。
(,; Д )「ブ、ブーン……」
(;^ω^)「…なんだお!?」
(,; Д )「ぜひ…笑ってくれ… ぜひ…ぜひ…」
(;^ω^)「お!?」
ブーンは自分の耳を疑った。
だが確かにそう聞こえた、苦しむギコの口から出てきた言葉。
それは「笑ってくれ」と言うものだった。
- 40 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 19:25:02.18 ID:c9KHVz9e0
- だが聞き間違えではないだろう、ブーンには確かにそう聞こえた。
(;^ω^)「こ、こんなときに何言ってんだお!」
(,; Д )「ぜひ… 頼む… ぜひ… 笑ってくれ…」
(;^ω^)「……」
冗談には見えない。
今もギコは胸と首を苦しそうに押さえ、息も絶え絶えといった様子だ。
そんなギコの口から笑ってくれなどとふざけて言えるものではないだろう。
つまり、ギコは本当にに笑って欲しいのだろう。
ブーンにはその理由が全くわからないが。 - 42 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 19:26:18.41 ID:c9KHVz9e0
- (;^ω^)「は、はははは…」
とてもではないが、今は笑える状況ではない。
いまも道路には殺しを何とも思わない人間がいる、銃を持った懸糸傀儡と共に。
(;^ω^)「ははは…… こ、これでいいかお?」
(,; Д )「ぜひ ぜひ ぜひ ぜひ…」
ギコは咳とも呼吸ともわからない音を出すのみだ。
それどころか、さっきよりも苦しそうに見える。
(;^ω^)「ど、どうすればいいんだお……」
救急車を呼ぶしかない。
そう考えたブーンがポケットから携帯電話を取り出し、救急に電話を掛ける。
幸い、この雑木林の中でも電波はあるようだ。
- 45 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 19:27:39.02 ID:c9KHVz9e0
- 『119番、消防署です。火事ですか、救急ですか』
(;^ω^)「救急ですお」
『あなたのお名前と住所を言ってください』
(;^ω^)「………」
『もしもし? お名前と住所を言ってください』
(;^ω^)「………」
ふと雑木林の一角を振り向いた瞬間ブーンは固まってしまった。
そして後悔した。すぐに逃げればよかったのだと。
『もしもし?』
('A`)「…よう」
(;^ω^)「………」 - 47 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 19:28:53.52 ID:c9KHVz9e0
- (;^ω^)(……最悪…だお)
人形使いの男、ドクオは雑木林の先からじっとこちらを見ている。
あいかわらず血色の悪いその顔からは何も読み取れない。
まるでドクオが、ドクオの隣に立っている懸糸傀儡と同じみたいだ、とブーンは思った。
もしかしたら、この男も人形なのかも知れない。
人形に感情はない。
同じように、この男もそうなのかも知れない。
『もしもし? 聞こえてますか?』
携帯電話からは相変わらずオペレーターの呼びかけが聞こえる。
静かな雑木林の中、それは普段より余計大きくうるさい声だ。
- 49 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 19:30:11.34 ID:c9KHVz9e0
- ('A`)「…どうした? 電話してたんじゃねぇのか?」
(;^ω^)「……」
『どうしたんですか?』
('A`)「ほら、答えてやれよ」
ドクオが両手にピストルの形を作る。
さっきも見せたように、ドクオの隣に立つ懸糸傀儡が両手の銃をこちらに向けられた。
『もしもし? もしもし?』
('A`)「答えてやれよ。”これから僕は死体になります”ってな」
(;^ω^)「くっ……」
動けない。
いまあるるかんを操る指輪はあるるかんの傍に置いている。
そしてそのあるるかんは、ブーンが今立っている位置から少し離れた木に立てかけるように置いてある。
- 50 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 19:31:51.57 ID:c9KHVz9e0
- あるるかんの指輪を装着するよりも、銃弾がブーンの体を貫く方が明らかに早いだろう。
('A`)「じゃあな」
ドクオはそう言うと、中指をゆっくりと絞るように引き始める。
あと少し力を加えれば銃が火を吹くだろう。
そしてブーンの命を、あっさりと奪い去るだろう。
(;^ω^)「ま、待ってくれお」
('A`)「黙って死ね」
(;^ω^)「せ、せめて殺す前に少しだけ質問に答えてくれお!」
('A`)「あ?」
(;^ω^)「な、なんで僕を殺そうとするんだお!?
何が狙いなんだお? そ、それだけ教えて欲しいお!」 - 53 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 19:33:04.16 ID:c9KHVz9e0
- ('A`)「知って何になるんだ? 今から殺されんだぞ、お前」
(;^ω^)「あう……」
('A`)「お前は今から死ぬんだよ。俺の”ガン・オブ・フェザー”に頭撃ち抜かれてな」
(; ω )「うぅ……」
希望は断たれた。
もはや助かる要素は一切無い、昨日のようにツンが助けてくれる事もないだろう。
全てを諦め、ブーンが目を閉じた。
もう全てが終わりだ。
どうせなら苦しまずに早く殺してくれ。
そう心で呟いたブーンが最期に思ったのは、ツンに対する罪悪感だった。
いまツンがどうしているのかはわからない。
だが、彼女がわざわざブーンの店に回収しに来たほど大切なあるるかんを
ブーンは持って逃げてしまったのだ。
自分は最低だ、もし出来るなら謝りに行きたい。
ブーンはそう思った。
- 54 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 19:34:19.52 ID:c9KHVz9e0
- ('A`)「死ね」
ドクオが最後まで糸を引き終える。
そしてそれに合わせて男の懸糸傀儡、ガン・オブ・フェザーが引き金を引き。
無慈悲な弾丸がブーンを目掛け正確に放たれた。
木々を揺らし、地面までも揺らす様な大きな銃声がブーンの頭に直に響いた。
(; ω )「………」
おかしい。
全く痛くない。
死とはそんな物なのだろうか。
だとしたら自分は既に死んでいて、いまは天国なのだろうか。
不思議な物だ。死ぬ前とさして変わらない気がする。
まるで今でも、自分は立っているかのようだ。 - 57 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 19:35:41.42 ID:c9KHVz9e0
- いや……本当に立っているようにしか思えない。
自分はまだ、生きているのだろうか。
(;^ω^)「………」
ブーンが怖る怖る、きつく閉じていた瞼を上げた。
そこには先ほどと同じ風景が広がっている。
一つだけ違うのは、自分の目の前に大きな人影が立っていると言う点だけだ。
(;^ω^)「え……?」
いま自分の目の前にいるのは誰だ?
ギコ?
いや違う、ギコは今も自分の後ろに倒れているはずだ。
いまもギコの苦しそうな呼吸とも咳ともわからない音が微かにだが後ろから聞こえる。
じゃあ誰だ?
その人影は頭に羽のような物が着いている。
その人影は黒い衣装に身を包んでいる。
- 59 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 19:36:54.86 ID:c9KHVz9e0
- (;^ω^)「……あっ!」
やっと理解できた。
いま自分の目の前に立ち、自分の命を救ってくれたもの。
それは……
(;^ω^)「あるる……かん」
間違いない。
いま自分の前にあるもの。
それは、さっきまで自分から離れた場所に置いていたはずのあるるかんだ。
('A`;)「………な、なんだ?」
ブーンが男を一瞥する。
ブーンは初めて、この男が動揺しているのを見た。
(;^ω^)(なにが起きたのか理解出来ないけど…)
ブーンがあるるかんの指輪を素早く、
そして男に気付かれないように静かに、十個全てを自身の指に嵌めた。
- 60 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 19:38:10.44 ID:c9KHVz9e0
- 何故あるるかんが自分を助けてくれたのか、それは後で考えればいい。
いますべきことはただ一つだ。
(;^ω^)(あ……!)
ふとあるるかんの体を見たブーンが声に出さずに驚いた。
ブーンの視線の先にはあるるかんの左腕、いや、左腕だった物。
恐らく左腕に銃弾が直撃したのだろう、破片となった左腕の歯車や木片が砕け、地面に散らばっている。
( ^ω^)(………)
それを見て、ブーンが最初に感じた感情は怒りと悔しさだった。
何故、そんな感情を持つのか自分でも分からない。
ただ、自分にとってとても大切な物を壊された様な、そんな感情が湧いた。
- 62 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 19:39:24.48 ID:c9KHVz9e0
- ( ;ω;)(………うっ…う)
何かが頬を伝い、足元に散らばる左腕の破片に滴り落ちる。
それが涙で、いま自分が泣いていることに、自分でも気が付かなかった。
( ;ω;)(……なんで…僕は泣いてるんだお…?)
ブーンが自問する。
しかし答えは見つからない。ただ、悔しくて悔しくて仕方がなくなった。
そしてその不思議な感情が次第に、漆黒の炎のような怒りへと変わってくる。
そう。あるるかんを傷付けた、あの男への怒りへと。
- 65 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 19:41:05.94 ID:c9KHVz9e0
- ( ;ω;)「………」
( ω)「………」
( ^ω゚)「………」
それはほとんど無意識に近い。
まるで始めから知っているかのように、まるで動物に備え付けられた本能のように。
ブーンはまだツンに教えてもらっていないはずの動かし方で両手を動かす。
両手をクロスさせ、その両手を天高く上げる。
あるるかんの繰り糸がブーンの周りにフワッと舞い上がり、それはまるで銀箔の衣のようにさえ見えた。
キリ キリ キリ キリ。
あるるかんに内蔵されている歯車が回り始めた。
('A`;)「…なんで…懸糸傀儡が 勝手に…」
男はまだブーンに気が付いていない。
いや。今更気付いても手遅れだろう。
ドクオがブーンの存在を思い出し、ブーンを一瞥しようとした時。
その時、既にあるるかんは男との距離を詰めていた。 - 67 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 19:42:25.22 ID:c9KHVz9e0
- ('A`;)「ッ!!??」
男の視界に左腕を失ったあるるかんが映った。
男が気付いたその時には、
あるるかんはガン・オブ・フェザーに攻撃の当たるほどにまで距離が詰めていた。
('A`;)(なっ…、早い!)
慌てて男の懸糸傀儡、ガン・オブ・フェザーで反撃しようとする。
だが、もはや遅かった。
ガン・オブ・フェザーが素早い動作であるるかんに銃を向ける。
('A`;)「ちぃ!」
( ^ω゚)「遅いお!」
ブーンが左手を斜めに下ろし右腕を横にスライドさせるように引く。
その次には全く別の動作、そしてまた違う動作。
それはまるで、懸糸傀儡を知り尽くしたかのように無駄の無い、完璧な動きだった。
銀色の繰り糸が弛緩を繰り返し、あるるかんに動作を伝える。
- 68 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 19:43:37.63 ID:c9KHVz9e0
- ( ^ω゚)「聖(セント)・ジョージの剣」
次の瞬間、あるるかんは右腕から分厚く頑丈そうな刃物が飛び出した。
あるるかんはそれを横に薙ぎ払うように切りつけた。
そのあまりの速さに、近くにいた男にさえその斬撃がまるで銀色の閃光のようにしか見えなかった。
そして、空を斬る音と共にガン・オブ・フェザーの肘から先の両腕がガン・オブ・フェザーの体と分れた。
銃を握ったままの重い腕が地面に激突する。
('A`;)「なっ!!??」
( ^ω゚)「これで終わりだ……お」
ブーンが手のひらを上に、両手をクロスさせるように天高く上げた。
あるるかんの胴体が開き、中の歯車が見える。 - 71 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 19:45:05.06 ID:c9KHVz9e0
- ('A`;)(あいつ…… さっきまでの奴とは別人か!?)
( ^ω゚)「レ ザア マシオウ(戦いのアート)……」
あるるかんの胴体にある歯車が高速で回転する。。
その異様な殺気に男は威圧され、後ずさりを始めた。
('A`;)(……ヤバイ!)
( ^ω゚)「コラン」
ガン・オブ・フェザーを巻き込むように、あるるかんの上半身が凄まじい速度で回転する。
先ず肘から先を失った両手、そして頭も、足までも。
まるであるるかん全身が粉砕機なのかと思えるほど凄まじい破壊力で、
巻き込まれたガン・オブ・フェザーをバラバラに砕き尽くす。
- 72 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 19:46:24.20 ID:c9KHVz9e0
- 最後に、先ほどまで男が嵌めていた指輪までも。
あるるかんはガン・オブ・フェザーを原型を一切残さないまでに徹底的に破壊し尽くす。
回転が終わった後そこに残っていたのはあるるかんと、ガン・オブ・フェザーだった物の歯車と木片だけだった。
('A`;)(マジかよ……。 なんなんだコイツ、ありえねぇ…)
( ^ω゚)「………」
ブーンが男に歩み寄り始める。
パキパキと、ガン・オブ・フェザーの歯車を踏み潰しながら。
('A`;)(……くそがッ! こんな奴がいるなんて聞いてねえぞ)
( ^ω゚)「お前も…… 死ぬのかお?」
('A`;)「……」
- 74 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 19:47:38.61 ID:c9KHVz9e0
- 今は勝てない。
訳が分からないことだらけだ。
意思が無いはずの懸糸傀儡が勝手に動いてブーンを守った。
今はそのブーンがあるるかんを使って、男の懸糸傀儡を破壊した。
('A`;)「チィ……」
いまはとにかく撤退するしかない。
ドクオはさっき来た道を振り向き、走って引き返した。
( ^ω゚)「………まだ、上手く馴染んでない…お」
ブーンが忌々しそうに自分の両手を見つめる。
そして、自分の十指に嵌められた銀色に輝く指輪を摘まみながら呟く。
( ^ω゚)「まだだ…。だがいずれ、完全にダウンロードは完了する …お」
ブーンはドクオを追おうとはしなかった。
ドクオが見えなくなった所まで行ったのを視認すると、指に嵌めた指輪を外そうとする。
その時、ブーンの背後からブーンを呼ぶ声が聞こえた。
- 75 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 19:48:53.72 ID:c9KHVz9e0
- (,;゚Д゚)「ゼヒ… ゼヒ…」
ギコだ。
発作でまともに動けないその体を無理に動かし、必死にこちらに向かって這いずっている。
( ^ω゚)「ほう……ゾナハ病か お」
(,;゚Д゚)「ぜひ… た、頼む… 笑ってくれ…ぜひ…」
( ^ω゚)「これも、また巡り合わせ…だな」
(,;゚Д゚)「ぜひ…ぜひ…」
( ^ω゚)「ククク… はははははははははははははは!
見事だ! これほどまでとは!」
(,;゚Д゚)「はあ… はあ… た、助かった…」
ブーンが笑ったその瞬間、すぅとギコの発作は止んだ。
しかし発作の時間が長すぎたせいだろう、ギコはまだ苦しそうに地面に倒れ、肩で息をしている。
- 77 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 19:50:15.76 ID:c9KHVz9e0
- ( ^ω゚)「はははははははは… はは… は……」
笑いながら指輪を外す。
一つ、また一つと外す度に笑い声は小さいものになっていく。
( ^ω゚)「はは… はは… は……」
そして最後の一つを外し終えた。
( ω)「は……」
(;^ω^)「……お?」
(,;゚Д゚)「た、助かったぜ…… お前強かったんだな」
ギコが立ち上がり、ドクオが去っていった方を見ながらブーンにそう言った。
( ^ω^)「……なんのことだお?」
(,,゚Д゚)「謙遜すんなよ。その人形使って化け物みたいな人形ぶっ壊したじゃねーか」
(;^ω^)「よくわからないけど……勘違いじゃないのかお?」
(,,゚Д゚)「なわきゃねーよ。ちゃんと見たぜ。
……まあそんなことより、早くトラックの現場に行こうぜ、仲間がいんだろ」
(;^ω^)「おっ!そうだお! 早く行くお」
- 79 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 19:51:28.25 ID:c9KHVz9e0
- (,,゚Д゚)「お前のお陰でゾナハ病の発作が治まったんだ、借りは返すぜ」
ギコが先に駆け出す、ツンがいる方を目指して。
ブーンは足の速いギコに追いつく為、あるるかんに掴まり腕を引いた。
キリキリとあるるかんの歯車が回る感触が布越しに伝わる。
あるるかんがブーンを運んだまま駆け出した。
(;^ω^)(なんだか……さっきから記憶が曖昧だお…)
あるるかんが地面に撒き散らされた歯車と木片を踏み潰しながら疾走する。
目指すはツンの元へ、彼女がまだ無事だと願って。
あるるかんブーンを運び駆ける。
( ^ω^)と不思議なからくり奇譚のようです つづく
- 85 : ◆aiYLanui.Y :2009/02/05(木) 20:09:38.31 ID:c9KHVz9e0
- これで第三話は閉幕です。
皆様、支援ありがとう御座いました。