ぬけ雀……のようです
118 名前: ◆0AbeJpvDL. :2009/05/16(土) 04:27:10.86 ID:v8a7CDTiO
まだ駕籠という乗り物が幅をきかせておりました江戸時代
これを担ぐ駕籠かきの中でもタチの悪いものは雲助などと呼びまして
街道筋を根城にその無法ぶりも始末にわるく
道中する人たちからたいへんに嫌われたそうで……
ま、言うなればあまり素性のよろしい方のなさる商売ではなかったようで
さて…ここ東海道は小田原の宿町
日暮れともなりますとあちらこちらの宿の女中さんの客引きでたいへんな賑わい
折しもやってまいりました一人の男

( ´ー`)「……」

年の頃なら二十五、六。されば その風体のいかにもくたびれ果てて
どこぞに泊まろう当てのあらばこそ せめて客引きの一声のみが頼りでございます
しかしこんな男に声をかける女中などございませんで……
( ´ー`)「チッ 薄情なもんだね
      どっからも声がかからない」

そのうち辺りは紅く染まりカラスが鳴き出します

( ´ー`)「しかし弱ったね
      日はだんだん暮れてくるし
      この先はもう宿はずれだ」

と、そこへ一人の男が近付きはなしかけます

(-@∀@)「えーお泊まりではございませんか」

119 名前: ◆0AbeJpvDL. :2009/05/16(土) 04:29:02.76 ID:v8a7CDTiO
( ´ー`)
(´ー` )
( ´ー`)?
(;´ー`)「あーおれか?」

(-@∀@)「へぇ
      あなたさまで」

( ´ー`)「あーそうか
   おれに泊まれというのか」

(-@∀@)「手前どもは奉公人は使いません
     わたしと家内の二人でやっておりますが
     えーもう親切を旨としておりまして……」

( ´ー`)「ウム ところでおれは
      朝一升 昼一升 晩に一升
      合わせて三升酒を飲むがいいかい」

(-@∀@)「へぇへぇ そりゃもう結構でございます」

( ´ー`)「そいじゃ内金として百両ほど預けておこうか」

(-@∀@)「へ?
     いえ手前どもは幾日泊まっておいでになっても
     お勘定はお立ちンなるときで結構で」

120 名前: ◆0AbeJpvDL. :2009/05/16(土) 04:31:05.09 ID:v8a7CDTiO
( ´ー`)「気に入った
      厄介になろう」

(-@∀@)「へい
     お一人様ごあんなァ〜〜い」

しかしこの男、宿に入るやいなや湯にも入らず酒を一升平らげると高いびき
明くる朝になりますとさっそく一升
昼に一升晩また一升と幾日か経ちまして…


ζ(゚ー゚*ζ「ちょいとお前さん」

(-@∀@)「なんだい?」

ζ(゚ー゚#ζ「なんだいじゃないよ えぇ?
     二階のお客酒飲んで寝てばっかりじゃないか」

(-@∀@)「良いじゃないか寝ていたって。
     宿屋の二階で酒飲んで寝てたって、べつに不思議はないやな
     これがまた縁の下で水ゥ飲んで寝てられた日にゃ気味悪いけどな」

ζ(゚、゚*ζ「何いってんだい
      今日でもう七日ンなるよ
      日に三升っつ飲まれちゃって酒屋の支払いはどうすんのさ」
ζ(゚ー゚#ζ「内金に五両ばかりもらっておいでな!」

121 名前: ◆0AbeJpvDL. :2009/05/16(土) 04:33:05.34 ID:v8a7CDTiO
と、女房に小言をいわれぶつくさ言いながら二階に上がる主人
女房に頭が上がらないのは今と同じようでして……


(-@∀@)「それがどうもいいにくいときてるんだ
     へへへまいったねどうも」


二階につきました主人は件の客のふすまを開けまして


(-@∀@)「えーお早うございます」

(*´ー`)「あー主人か
      酒持ってきたのか?」

(-@∀@)「いえ酒は持ってきますがね
     じつは酒屋の方の支払いにつきまして
     へへへ ちょっと五両ほど内金をいただけたらと……」

(*´ー`)「ン?
      あー金か 金ならない」

(-@∀@)「ない……?」

( ´ー`)「ない!」

122 名前: ◆0AbeJpvDL. :2009/05/16(土) 04:35:44.66 ID:v8a7CDTiO
(;-@∀@)「ないってあなた内金で百両も預けとこうかっておっしゃったでしょ」

( ´ー`)「預けておいたらさぞいい気持ちだろうと思っただけだ」

(;-@∀@)「そんな殺生な
     でもいくらかあるんでしょ」

( ´ー`)「一文なしのからっけつだ。ははは」

(-@∀@)「いばってもらっちゃ困りますな」

(-@∀@)「よわりましたな どうしてくれるんで……
     あーあこんなにお酒のんじゃって……」


これでは主人もたまったものではありません


( ´ー`)「なにか抵当におくといっても、あいにくそれもなし……」

考えながら男は歩き回るうちにひとつの衝立が目につきました

( ´ー`)「ン?あの衝立はどうしたい?」

(-@∀@)「あァそれは先月経師屋の職人が宿代のかたにこしらえていったんですよ
     あたしンとこはよく一文なしが泊まるんですよ」

( ´ー`)「ふーん」

と男は衝立をまえになにやら考えをめぐらせているようす

123 名前: ◆0AbeJpvDL. :2009/05/16(土) 04:37:23.08 ID:v8a7CDTiO
( ´ー`)「よし!これにおれがなにか絵を描いてやろう」

(-@∀@)「するてぇとあなたは絵描き屋さんで?」


男は手際よく準備をすまし さればまかせておかれよと
筆に墨をふくませてジーっと衝立をにらんでおりましたが、ツ・ツツツーと描き上げましたその早さ
あっというまに衝立に見事な雀を五羽描き上げました

( ´ー`)「どうだ主人
     雀を五羽描いておいた
     一羽が一両 五羽だから五両の抵当だ
     今度くるまで預けておく」


と言いはなつと荷物をまとめあげ宿を後にしました


( ´ー`)(いろいろ世話ンなった
     また来るぞ
     さらば……)

124 名前: ◆0AbeJpvDL. :2009/05/16(土) 04:39:16.61 ID:v8a7CDTiO
翌朝

(-@∀@)「おい 起きなよ
      起きて二階の雨戸でもあけなよ」

と布団のなかの女房に声をかけます

ζ(´、`ζ「やァだよ
      あたしゃばかばかしくて働くのがいやになっちゃったよ
      一文なしに七日も酒飲まれてスーッと行かれちゃってさぁ
      みんなお前さんがドジだからだよ」

(-@∀@)=3

(-@∀@)「それを言うなって…」
主人は不承不承に雨戸をあけます
朝の光がサーッと差し込み

(-@∀@)「おれも朝から一杯やりてぇもんだ」

なーんてぼやいていると部屋の中から雀が二羽 三羽……

(-@∀@)「あっ雀が      だれだい雀を閉め込んだのは……」

と、衝立に目をやると

(;-@∀@)「衝立の雀が……いない!
     へぇーすると雀がぬけ出して……!」

125 名前: ◆0AbeJpvDL. :2009/05/16(土) 04:42:11.12 ID:v8a7CDTiO
呆っ気にとられてみておりますと、雀たちはまた一斉に戻ってまいりしまして
衝立の中へぴったりとおさまります
主人は驚きあわてて

(;-@∀@)「おっかぁ!
      ちょっときてみろやい!!
      ちょいとお向かいの旦那ァー!」

と人を集めて衝立のようすをうかがいますとまた雀が出入りいたしまして
さぁてこれが評判になりまして閑古鳥が鳴いていた宿に客がドッと押し寄せます
雀のお宿は連日押すな押すなの大盛況ぶり
お客は夜の明けないうちから衝立の前へ並んで待ち、朝日と共に飛び立つ雀を息を殺してながめております
そんな日が幾日か経ち
やはりこの衝立の雀のうわさをきいてやってきたという、品のいいご老人


( ´∀`)「……」

126 名前: ◆0AbeJpvDL. :2009/05/16(土) 04:44:03.82 ID:v8a7CDTiO
衝立から行きつ戻りつする雀をジーッと見ておりましたがボソリと一言

( ´∀`)「この雀は……死ぬ」


それを聞いた主人はあわてて問いただします


(;-@∀@)「ひぇっ
      そ、そりゃまたどういうわけで?」

ご老人は静かに答えます

( ´∀`)「絵というものはいくらうまく描いてもその人間の心が定まっていなければなんにもならないものだ」

( ´∀`)「つまりいくら衝立から抜け出す雀と言えども休む場所を描いておかなければやがて雀は落ちてしまう」

(-@∀@)「あっ なるほど」

(;-@∀@)「なんとか助ける方法はないもんでしょうか」

( ´∀`)「止まり木を描いてやればよい
      よし、わしが描いてやろうかの」


さればと筆に墨をふくませましてジーッと衝立を睨み据えます
やがて五羽の雀が一斉に抜け出したあとの衝立に一気に筆を走らせます
128 名前: ◆0AbeJpvDL. :2009/05/16(土) 04:46:08.84 ID:v8a7CDTiO
( ´∀`)「これでよし」

となにかを描き上げ満足げなご様子

(-@∀@)「なんです?これは」

( ´∀`)「よく見ろ。鳥籠だ」

(-@∀@)「あぁカゴですか」

( ´∀`)「中に止まり木がある
      いま雀が帰ってきて籠ン中へ入るぞ」


見ておりますとやがて帰ってきた五羽の雀
籠のまわりをしばらく飛んでおりましたが、それぞれ中に入るとピタリと止まり木にとまりました
さぁこれがまたまた大評判
とうとうご領主様までお見えになってこれをご覧になるといった按配

( ・∀・)「いやぁあっぱれあっぱれ
      雀といい鳥籠といい実に見事なものだ」


そしてついにはこれに二千両の値がつこうという大景気で

ζ(゚ー゚*ζ「どうしよう お前さん」

(-@∀@)「どうしようったって、売るわけにはいくめぇ
     衝立と籠は売れても雀はあのからっけつ先生の預かりものだからな」

129 名前: ◆0AbeJpvDL. :2009/05/16(土) 04:50:03.75 ID:v8a7CDTiO
そうこう言っておりますところへひとりの身なりの良い男が訪れます

(´・ω・`)「いよう主人。しばらくであったな」

(-@∀@)「へ?
     えーあなたさまは……どなたさま?」

ζ(゚ー゚*ζ「?」

その男は自分を指差しながら言います

(´・ω・)「おい忘れたのか?お前のとこで日に三升ずつ酒を飲んだ一文なしだ」

(-@∀@)「あーっ!あのからっ……いや絵描き屋大名人!」

主人は昔にきた姿とのかわりように驚きながら二階の客間に通します

(´・ω・`)「ところで例の雀はどうした」

(-@∀@)「そ、それでございますよ
     それにつきましてはかくかくしかじが……」

(´・ω・`)「なに?するとそのご老人が籠を描いてくださったというのか」

驚く絵描きに主人はつづけます

(-@∀@)「この雀を描いたものは心のない人間だ
     これでは雀が疲れて落ちて死んでしまう……と、おっしゃいましてな……」

130 名前: ◆0AbeJpvDL. :2009/05/16(土) 04:51:05.17 ID:v8a7CDTiO
それを聞いたとたん男は衝立に向かい頭を垂れました

(´-ω-`)「ははぁーお許しくださいまし
      いつもながらお見事にて恐れ入りましてござります」

それだけでなくなにやら衝立にぶつぶつとつぶやいております
そのようすをふしぎに思った主人は男にたずねます

(-@∀@)「あれ?どうしたんです
      衝立に向かってお辞儀なんかして」

振り向き男はこたえます

(´・ω・`)「じつはこの籠をお描きになすったのはわしの父上だ」
(-@∀@)「へぇーあなたのお父さん!
      さすがですな 親子そろって名人てぇのはじつに立派なもんで」

(´・ω・`)「なにが立派なものか」

ほめる主人とは逆に男は目に涙を浮かべつぶやきます

(´つω;`)「あぁおれは実に親不孝をした……」

(-@∀@)「えっあなたが親不孝?
      そりゃまたどうして?」

(´;ω;`)「この衝立を見ろ
       おれは親をかごかきにしたのだ」

131 名前: ◆0AbeJpvDL. :2009/05/16(土) 04:53:36.16 ID:v8a7CDTiO
これで終わりです。訳わかんない人は、最初からよく読むとわかるかもです。
原作は落語の『ぬけ雀』をブーン小説に改変したものです。


しかし人がいない!ンギモヂィィ!!!
◆0AbeJpvDL.さん
ありがとうございました
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