1 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 19:48:43.38 ID:NqrSbmi40
白衣を着た白髪の女性が右手に書類を持ち、じっと注視していた。
書類にはこう書かれている。

鬱田ドクオ

所属 ニューソク軍兵士 階級 伍長

高岡ハインリッヒ博士が提唱する<VIP計画>に携わり、
博士の研究の被検体となってVIP計画が作りだす<VIPPER>となった兵士。

ハインリッヒ博士が作り出した<強化骨格>と呼ばれる
潜水服のような特殊な防弾衣に身を包み、肉体を人工物に交換し身体能力、
生存能力が大幅に向上したサイボーグとなった。

VIP計画によって作られた<黒き剣>と呼ばれるシリーズの特殊な剣
“No.04ライトニングブレード”で武装し、これまで数々の戦果を上げてきた。
吸血鬼捕獲の為戦闘を行い、敗北し、重傷を負う。

素直クール

ニューソク国内で発見され、高岡ハインリッヒ博士が<ミディアンズ>と呼称する吸血鬼。
博士は鬱田ドクオに捕捉を命ずるがあえなく失敗。

しかし、ドクオとの戦闘によって致命傷を負って現在彼の手によってニューソク軍から“逃亡中”

逃亡中。

白衣姿の女性はその一字を見つけると頬を緩める。
彼女の表情からはこれから楽しみにしていた映画が始まる時のような期待感がにじみ出ていた。

2 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 19:52:08.57 ID:NqrSbmi40
******

昼間の大通り。
高層ビルの屋上に彼等は居た。

('A`) 「クー、生きているか?」

川メ - ) 「フン、ここまでボロボロにしておいて良く言う……」

そう応えた彼女の体には右肩から腹部にかけて
大きく切り裂かれており、左肩から先は既に無くなり、
身体のあちこちに赤い線が刻まれ、ダクダクと血が流れていた。

('A`) 「………じゃあここまでボロボロにされてどうして俺を助けた?」

川メ - ) 「私は君に惚れたんだ」

(;'A`) 「誤魔化すんじゃねーよ……」

川メ ー ) 「本当だ。君の事をもっと知りたくなったんだ。だから私は君を僕にした」

クーが口元を緩め、率直に言い切り、
ドクオは狼狽する。

(;'A`) 「……そういうことにしとくよ」

川メ - ) 「頼りにしているぞ。私のナイト君」

(;'A`) 「俺は兵士……ポーンなんだけどな」

3 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 19:56:11.26 ID:NqrSbmi40
ドクオは屋上から下を見下ろすと
ビル周辺へと兵士達が群がり、包囲網を作り出している。

('A`) 「まぁ、烏合の集が群れるは群れるわ。暑苦しいぞー」

どうやら周辺住民の退避はすんでいるらしい。

いや、この区域は既に閉鎖されてしまっているのであろう。

こういった手際の速さはこの国に住まう国民の取りえの一つだ。

('A`) (さぁて、戦車隊がこないうちに逃げるとしますかね)

彼はそう内心に呟き、フード付きの黒いコートを目深に被ったクーを手招きする。

川メ - ) 「さて、どうするんだ?」

クーがドクオの元に近づき、尋ねる。
5 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 20:00:05.92 ID:NqrSbmi40
('A`) 「ここから北上し、ニーソクとの国境ギリギリまで逃げる」

川メ - ) 「把握」

そう彼女が短く答えた途端、
甲高いスピーカ音声が響きわたり、

「伍長、なんのつもりかは知らんが武装解除してとっとと投降しろ!
ニューソク軍人として仲間を撃つつもりはない!
しかし、貴様が拒むと言うのであれば上へ貴様の排除許可を申請する!」

彼等へ警告を発する。

('A`) 「あーぁ、慈悲深いこって。その優しさに甘えてお前等の伍長は逃げさせて貰うよ」

ドクオが呟き、そのままビルの裏側へと回り、
クーはそれについてゆく。

そうすると、彼等はそのままビルから飛び降りた。

落下していく彼らの肌に冷たい風がぶつかり
ヒュゥと言った風を切る音が鼓膜に響きわたる。

そのまま地面へと激突し、血の池を作るかのように思われたが
彼等は難なく着地した。

ビルを包囲していた兵士達は目をぎょっと見開いて
口をだらしなく開けたまま唖然とする。

6 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 20:04:48.09 ID:NqrSbmi40
('A`) 「さぁて、お前達は誇りの為に撃たれない限りは仲間を撃ったりはしない。
だが、俺はお前達を撃てる、斬れる。躊躇なく、躊躇いなく。俺は既に人じゃあないからな」

ドクオがそう宣告し、クーを左脇に抱えて
右手に方刃の剣――――<黒き剣>No.04ライトニングブレード――――を構え、
兵士達へと切り込んでいく。

彼等は唖然とした表情を塗り替え、
咄嗟に銃を構えなおしてドクオへ発砲。

火薬の爆ぜる音がし、金属の弾ける音が響きわたる。

ドクオの目前に火花が撥ね散り、剣が舞う。

彼は銃弾を往なしているのだ。

<VIP計画>で作りだされたVIPPER、
そのプロトタイプである鬱田ドクオ。

<強化骨格>を全身に埋めこんだ彼はサイボーグとなり、
その身体能力は弾丸を肉眼で確認して剣で往なせる領域までに向上されているのだ。

彼の右腕に握られた剣。これは超音波を自らの刀身に当てることによって
切れ味を増加させた高周波ブレードと呼ばれる剣。

<黒き剣>の一種。

VIPPERがこの剣を扱えば、
主力戦車ですら正面から相手取ることができる。

7 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 20:08:40.56 ID:NqrSbmi40
ドクオが剣を軽く振るい、一番手前に居た兵士が横一文字に真っ二つとなる。

これが高周波ブレードの切れ味だ。

兵士を切り捨てるとその後ろに居た者へと向かって行く。

上段から剣を振り下ろし、
竹を割ったかのように兵士が裂けた。

続けて、剣を左右に振り、両隣りにいる者達を斬り伏せ
弾丸が飛び交う最中ドクオは表情一つ変えずに駆け抜けていく。

自らの体に襲いかかる弾雨を彼は往なす。

往なす、往なす。そして走り続ける。

立ち塞がる敵は皆血飛沫を撒き散らして倒れていった。

川メ - ) 「流石、VIPPERだな。私の騎士」

ドクオの脇に抱えられたクーが脇からドクオを見上げるようにして呟く。

('A`) 「俺は兵士だって」

8 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 20:12:37.66 ID:NqrSbmi40
彼等を取り囲んだ兵士達はドクオの常人離れした戦いぶりに恐れを成したのか
蜘蛛の子を散らすように散っていった。

('A`) (おかしい。この程度で逃げだすような連中じゃないんだけどなぁ……)

ドクオは疑問に思い、周囲を見渡す。

増援が来る気配もない、
こちらの戦力はとうに知れていたはずだ。

VIPPERが1人に吸血鬼が1人。

('A`) (いや………始めから不自然だったのか)

そう確信すると彼は身を伏せた。

それに一瞬遅れて地面のアスファルトが爆ぜる。

('A`) 「やっぱりな」

小声で呟き、彼は正面に構えるマンションへと駆けて行く。

すると、連続してドクオの周囲の地面が爆ぜ
それが狙撃されているという危険を実感させる。

爆ぜた地面には13mm程の丸い穴が出来ていた。

そうして弾痕がアスファルトに増えていく。


9 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 20:16:56.49 ID:NqrSbmi40
ドクオとマンションとの距離はどんどん縮んでいく。

しかし、距離が狭まると共に銃撃は激しくなっていった。

ドクオへと弾丸が飛んで行くが
甲高い金属音が響き、往なされる。

大口径の弾丸だ。
刀身が弾丸に触れると巨大な衝撃が腕を襲い
僅かに痺れる。

だが、そんなことはお構いなしに狙撃は続く。

次々と弾丸が迫り、次々と往なされていき
ドクオはマンションへと飛びあがった。

強化骨格によって強化された彼の身体能力は
マンションの屋上までの跳躍を可能としたのだ。

窓ガラスを砕き散らして彼は室内へ侵入。

('A`) 「よぉジョルジュ。ここならあのビルを狙撃できるよなぁ。
ここら一帯を見渡すことも出来るし、狙撃には持って来いだ。
でもな、ここは狙いやすいだけに“狙われやすい”んだよ」

ドクオが狙撃兵に向けて言った。
  _
(;゚∀゚) 「おう。んなことわかってるっての。
そいつが吸血鬼か? 綺麗なねーちゃんだな〜
この女の為に軍事大国ニューソクを裏切る? ロマンだね〜」

10 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 20:20:19.99 ID:NqrSbmi40
('A`) 「残念、お前と話してる暇はないんだ」
  _
(;゚∀゚) 「ハインは本気でお前を潰すつもりだぜ?
VIPPER達を総動員してな。プロトタイプにすぎないお前には逃げ切れn」

ジョルジュと呼ばれた狙撃兵がそう言いきる前にドクオは彼を蹴り飛ばし
壁に後頭部を激突させ、意識を失っていった。

('A`) 「知るか」

そう短く呟くと、彼は室内を飛び出し
マンションから飛び降り、着地。

彼は再び駆け出して行った。

目指すはニーソクとニューソクとの国境。

走り続けていると後ろから何かが迫ってくる。

('A`) 「ッ!」

ドクオはそれに気付き
横に飛び跳ねると装甲車が先程まで
彼の居た空間を通過した。

すると、1台、2台、3台とやってき
ドクオの行く手を阻んだ。


11 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 20:24:50.54 ID:NqrSbmi40
川メ - ) 「来るか……」

クーがそう呟く。

しかし、彼女の予測は微妙に外れた。

装甲車の上に1人の兵士が現れると
その者は仁王立ちし、叫び出す。

(*゚∀゚) 「アハハハハハ! ドクオ! お前が裏切るなんてなー!
みんな驚いてるみたいだけどあたしはもっと驚きだよー!!
さぁっ! あたしと楽しいことしようかー!!」

(;'A`) 「楽しいこと? 何言ってんだつー」

ドクオが“楽しいこと”という単語に良からぬ妄想をするが、

川メ - ) 「浮気は許さんぞ?」

というクーの一言によって現実へと引き戻された。

(*'A`) (いつ付き合うことになったんだ!?)

疑問を残しつつ、にやけた彼は装甲車の上の女性兵士、つーへと斬りかかって行く。

しかし、ドクオが駆けだす前に既につーは彼の頭上へと飛んでいた。

その跳躍力はドクオに劣らないどころか僅かに優れている。

13 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 20:29:01.90 ID:NqrSbmi40
彼女は先ほどのジョルジュが言っていた
VIPPER達の内の一人だ。

ドクオと同じように、彼女もまた強化骨格でサイボーグになっている。

VIPPER。

彼の武器は方刃の剣、
対する彼女は大振りのナイフだ。

つーは空中からナイフを投げつけ、
ドクオに刃が向かって行く。

彼は剣を振ってそれを往なし、後退して間合いを開く。

リーチはドクオのほうが僅かに勝っている。

そのはずだが、彼女は続けてもう一度ナイフを投げつけた。

ドクオはもう一度往なし、彼女は更にナイフを投擲する。

(;'A`) 「ッ!」

すると、無数の刃がドクオへと向かい、狼狽した。

だが、襲い来るナイフ群を彼は剣を振るい、冷静に往なす。

往なす。往なし続ける。

彼女のナイフが尽きる気配はない。

15 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 20:33:21.27 ID:NqrSbmi40
(*゚∀゚) 「アッハッハッハッハ! ドクオー、防戦一方だな〜!?」

刃を弾く金切り音にも劣らぬ甲高い声で彼女が叫んだ。

それを無視して彼はナイフを往なし続け
少しづづ前進していく。

(*゚∀゚) 「アハッ! 片手で往なしちゃうなんてさすがだね〜。じゃあこれならどうだ!?」

つーは背中のバックパックからナイフの束を取り出す
それは全て大振りではあるが、縦から見るととても薄く作られていることを確認できた。

とても薄く、CDの厚さ程しか無い。

これならばバックパックにいくらでも入るであろう。

つーはそれをドクオへと投擲。

キィンという金属が擦れる音がし、ナイフが弾かれる。

すると、弾かれた刃が突如爆発し、
金属片がドクオの体へと降りかかり彼の体を切り裂かんとする。

彼は横転して破片を避けるが
背中に赤い線が走った。

16 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 20:37:36.37 ID:NqrSbmi40
(;'A`) 「黒き剣か」

(*゚∀゚) 「そうだ! 黒き剣No.7“投擲爆導短剣”
ライフルを超えた爆発する投げナイフだ!」

('A`) 「クー、大丈夫か?」

ドクオはつーを無視して言う。

川メ - ) 「あぁ、問題無い」

(#*゚∀゚) 「おーい! 無視すんじゃねーよぉぉ!」

つーが叫び、ナイフを放る。

ドクオへとその刃が迫るが剣を振るってそれを真っ二つに切り伏せ
ナイフは彼の背後へと飛んでいき爆発する。

爆破するが早いかドクオはつーへと突き進んでいった。

つーは更にナイフを投擲。

ドクオは迫りくる刃の雨を全て切り裂いて進み、
刃の雨は破片の雨へと変化し、彼の体を少しずつ刻んでいく。

黒い潜水服のような物の上から赤い線が少しずつ増えていき
彼とつーの間合いはどんどん閉じていった。


18 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 20:42:10.63 ID:NqrSbmi40
('A`) 「爆発するんだよな?」

ドクオが駆けながら問う

('A`) 「なら、自分の近くでそれをぶん投げるわけにはいかねーよなぁ?」

つーが慌てふためき、後方へと飛びのきながら
ナイフを一振り放る。

(;*゚∀゚) 「来るな! 来んじゃねぇ!!」

ドクオもそれに続いて飛翔したので、
投擲されたナイフをかわすことは出来ない。

ドクオは往なすでも無く、斬るでもなく
投げられた刃を右手で衝撃を与えないようにやさしく掴み取った。

見れば、彼の右腕には握られていたはずの剣は無く、
腰に付属している鞘に納刀されていた。

(;*゚∀゚) 「えッ!? ええええええええええええええっ!?」

つーの顔は驚嘆に満ち、口からは断末魔の叫びのような声を上げていた。

('A`) 「じゃあな」

そう言うと共に彼は握ったナイフをつーへ投擲する。

彼女は避けることも出来ずに刃が腹に突き刺さり爆発。


19 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 20:47:55.05 ID:NqrSbmi40
黒煙に包まれ、彼女は地面に激突して意識を失った。
強化骨格によって爆発によるダメージは緩和されたようだ。

('A`) 「楽しめたか? 俺はお前に付き合ってる暇はない。せめて楽しい夢でも見ていろ」

ドクオはそう呟くと再び駆け出して行った。

******

('A`) 「ミディアンズ? 吸血鬼? 何時からこの国はファンタジーで溢れるようになったんだ?」

ニューソク軍中央基地。その研究室の一角でドクオは疑問の声を上げた。

从 ゚∀从 「おう! そうだ。ドクオ、お前にこの化物を捕まえて来て貰いたいとアタシは思ってるわけだが」

それに応えたのがハインリッヒ高岡博士だ。

('A`) 「はっ、いくら俺でも漫画やアニメの世界には行けないぞ?
それにそんな化物捕まえて来てどうするってんだよ」

从 ゚∀从 「いいかドクオ? こいつはこいつは面白い現実世界の話なんだぜ、よく聞けよ?
今回発見された吸血鬼。これはアタシ達ニューソク軍人の一個大隊を壊滅させた。その時の戦闘記録が残っている」

('A`) 「………」

从 ゚∀从 「0003 国内に紛れ込んだテロリストとの戦闘を開始すると
突如、黒いコートを着た女が向かってきた。その女に発砲すると
なんと! 吹き飛んだはずの頭が再生し、隊員の一人が襲われ、体を食い千切られた。
更にその女は恐ろしいまでの怪力を誇り、戦車を殴り飛ばし、何処からともなく巨大な犬を呼び出したそうだ」

20 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 20:52:41.57 ID:NqrSbmi40
从 ゚∀从 「そうして、その一個大隊は壊滅し、皆殺しにされた
この話を聞いてどう思うよ! ドクオ!?」

('A`) 「頭大丈夫か?」

ドクオがそう応えると、今まで喜々として語っていた
ハインリッヒの眉根に皺がより、目付きが鋭い物へと変わっていく。

('A`) 「厨二病を発症したのならいい精神科を紹介して……」

从#゚∀从 「誰が厨二だぁぁぁぁ!?」

ハインリッヒが叫ぶが早いかドクオの頭上に彼女の拳骨が飛んだ。

(メ'A`) 「てか、皆殺しにされたんならなんで記録があるんだよ?」

ドクオが再び疑問を投げかける。

从 ゚∀从 「その場にアタシが居たからだ」

彼女はそう胸を張って答えた。

その様はさも当然と言わんばかりで
何を当たり前のことを聞いてるんだと不思議そうにしていた。

从 ゚∀从 「あぁ〜中々強かったな〜、久々の死闘だったかもしれんね」

('A`) 「戦う科学者……“人類最強”かぁ……」

从 ゚∀从 「おう! そうさ、アタシは何故なら最強だからな! だから生き残れた」

21 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 20:56:45.92 ID:NqrSbmi40
从 ゚∀从 「だからこそあいつのことを知りたい、このアタシと互角に戦ったあいつのことを!
あの吸血能力、あの再生能力、あの身体能力、あの自分以外の生物を使役する能力、あの人心を惑わす催眠能力」

('A`) 「何なんだそりゃ………」

从 ゚∀从 「それらの能力は素晴らしい、だがあいつはまだ隠している。力を隠し持っている。
奴らは夜に生きる者達、世界の闇に巣くう人外の異能力を持った者達。
奴らの名はミディアンズ! あの女はミディアンズの一種、吸血鬼“ドラキュリーナ”だ」

从 ゚∀从 「お前にはこいつを捕まえて貰う。それが私が与える今回の任務だ」

('A`) 「どうして俺に? 俺だけではそんな化物に敵うようには思えない。俺には無理だ」

从 ゚∀从 「ドクオ、お前は雷だ。夜の闇を切り裂く鋭い光を放つことが出来る。真っ直ぐな人間だ」

('A`) 「意味がわからない」

从 ゚∀从 「化物を倒すのは何時だって人間だ。人間だ。強い、人間らしい強い人間だ。そうでなければならない。
化物を作り出すのは人間だ、作ることが出来るのも破壊することが出来るのも人間だ、だからこそ、お前に任せる」

('A`) 「………よくわからないけど、つまり、俺を人間として認めているから俺に任せるって?」

从 ゚∀从 「う〜ん………まぁ、それでいいわ」

煮え切らない返答をハインリッヒは返すが
ドクオは満足気に任務の実行へと移っていった。

23 :('A`) ドクオは夜に生きるようです>>21の次:2008/12/26(金) 21:04:49.30 ID:NqrSbmi40
****** 
  _、_ 
( ,_ノ` )y━・~ 「待っていたぜ小僧」

北へと向けて疾走していると
ドクオ達の前に煙草を吸っている強化骨格に身を包みこんだ
男が立ち塞がった。

('A`) 「渋澤さんまで……」

川メ - ) 「知り合いなのか?」

('A`) 「あぁ……俺の昔の教官だ」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~ 「そして、お前の配属先の上官、卒業後までテメーの面倒を見る羽目になるとはな」

('A`) 「そこまで迷惑かけてませんよ、だけど今のあんたは物凄く邪魔だ」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~ 「言うじゃねーか小僧、強化骨格で口まで強化されたか?」

(#'A`) 「口だけじゃねーさぁっ!!」

そう咆哮してドクオは渋澤へと切り込んでいった。
  _、_ 
( ,_ノ` )y━・~ 「さて、荷物を抱えたお前に、俺が倒せるか」

口から大きく紫煙を吐き出し、煙草を無造作に放り捨てると同時
渋澤は腰のホルスターから巨大な拳銃を2丁取り出し
大口径の銃口をドクオへと向ける。

27 :('A`) ドクオは夜に生きるようです>>23の次>>22ミス:2008/12/26(金) 21:12:19.58 ID:NqrSbmi40
 _、_
( ,_ノ` )y━・~ 「<T−REXマグナム> 27.8mmの専用弾薬なんてクソでかい弾を使うんだ。
反動もクソでかい。最早人間に扱える代物じゃねぇ、俺達VIPPER専用ハンドガンと言っても過言では無い」

渋澤が、だが、と付け加え、
_、_
( ,_ノ` )y━・~ 「お前には扱いこなせないだろうがな。こいつは俺が扱う為に作られたようなモンだ」

ドクオを挑発する。

('A`) 「んなもん使えなくてもあんたを倒してみせますよ」

ドクオが応えると同時に渋澤へと斬り込んでいく。

次々と発射される巨大な弾丸に翻弄されながらも
ドクオは再び渋澤の懐へと潜り込んでいく。

しかし、渋澤の強化骨格の足裏に組み込まれている
小さなローラーのようなものによって行う滑らかな動きで逃げられてしまった。

それでも彼は突っ込んでいく。

それでも渋澤は銃撃を行う。

付いたり離れたりの繰り返しを行っていると
次第にドクオには限界が訪れてきた。

巨大な弾丸を右腕だけで往なし続けてきた結果
彼の右腕は衝撃を受け続けてダメージが蓄積され、腕の反応が鈍ってきたのだ。
 

25 :('A`) ドクオは夜に生きるようです>>23の次>>22ミス:2008/12/26(金) 21:08:47.57 ID:NqrSbmi40
引き金へと指を伸ばすと、既にドクオは彼の目前へと迫っていた。

(#'A`) 「おおおおぉぉぉぉぉっ!」

彼はそう咆哮するが
その声は銃声によって掻き消されることとなる。

鼓膜を突き破るような強烈な火薬の爆ぜる音と金属音がし
地面へと巨大な弾痕を作り、その大きさは銃弾の威力を語っていた。

ドクオはそのまま剣を振りかぶり、渋澤を切り捨てんとするが
彼は滑るように滑らかに後退して避けた。

そうしてドクオへと向けて発砲。

再び轟音が鳴り響き、それに続いて金属が弾かれる
甲高い音が響きわたった。

ドクオが弾丸を往なしたのだが、その威力の高さに
彼は腕を痺れさせ、僅かに後ろへ仰け反ることとなった。

続けて渋澤は発砲。

ドクオは全て往なすが、渋澤の放つ弾丸によって彼は間合いを開いてしまう。


28 :('A`) ドクオは夜に生きるようです>>23の次>>22ミス:2008/12/26(金) 21:15:58.31 ID:NqrSbmi40
 _、_
( ,_ノ` )y━・~ 「どうした? 右腕が垂れ下がっているぞ? サイボーグと言えどあれほど使い込めば限界も訪れるよなぁ?」

('A`) 「それがどうしたクソジジー!」

ドクオは我武者羅に突き進み
弾雨の雨を切りぬけ、再び渋澤の前に立った。

しかし、やはり後退して避けられてしまう。

そこで彼は剣を振り上げると見せかけて逆手に構えなおし
その刃先を渋澤へと向けた。

そのまま振りかぶり、渋澤へと投擲。
  _、_
(;,_ノ` )y━・~ 「ぐぅ……」

それは彼の腹部に突き刺さり
渋澤は苦しげな声を上げた。

ドクオがその刹那に踏み込み、突き刺さった剣を掴み取り
引き抜こうとする、だが、渋澤は踏み込んできたドクオに対し発砲。

放たれた弾丸がドクオの横腹を抉り取り
引き抜かれた刃は渋澤を斜め右上に大きく切り裂く。


30 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 21:19:52.72 ID:NqrSbmi40
(;'A`) 「ぐぅぉぉぉ!」
  _、_
( ,_ノ )y━・~ 「ぐぅぅぅ……」

お互いに苦しみに悶え、お互いに倒れていった。
  _、_
( ,_ノ )y━・~ 「小僧………流石だ。お前、ジョルジュ達を殺さなかったようだなぁ?
まさかてめぇは俺まで殺さずに済まそうとなんて思ってなかっただろうなぁ?」

(; A ) 「知り合いを殺すのは気が引ける……」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~ 「馬鹿野郎め、そんなもん只の言いわけだ。半端者め。
いいか? これからお前は逃げ続ける、隠れ続ける、戦い続けることになる。
ニューソクを裏切るってことはそういうことだ。どこに行っても俺達はお前を追う」
  _、_
( ,_ノ )y━・~ 「人間ってのは様々な物を受け継いで生きていく。
だが俺達のような兵士は戦いの中でしか生きられない。
だからこそ、戦う理由は俺が決める。俺が受け継いできた物を伝えるために。だからお前を追う」
  _、_
( ,_ノ )y━・~ 「お前が戦う理由はなんだ? 俺はお前に俺の受け継いだものを伝えられぇ……」

渋澤が擦れた声でそう言おうとしたが、その先の言葉が口にされることは無かった。

( A ) 「渋澤さん……俺は恩を返す為に戦ってるよ」

ドクオは自分が戦う理由を再確認するかのように呟いた。まるで自分に言い聞かせるように。

日が暮れてゆく、もうそろそろ夜が訪れる頃合いだ。

31 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 21:26:19.73 ID:NqrSbmi40
******

深夜、男が一人、女が一人立っていた。

男は膝を附き、血反吐を吐いて横たわり、
女を鋭い目付きで射殺さんとするかのように睨みつける。

対する女はズタズタに切り裂かれ、左肩から先を切断され、
左腕を失ってはいるが、彼女は悠然と佇んでいた。

川 ゚ -゚) 「ふぅ……流石だ。私を捕らえに、それもわざわざ“夜に”正面から挑んでくるだけはあるな」

女性、クーが言う。

(メ A ) 「まだ終わってねぇぞ吸血鬼!」

男性、ドクオが叫ぶ。

川 ゚ -゚) 「しつこい奴だ。人間にしてはやるほうだな。
だが、馬鹿だ。敗北が決定しているにも関わらず、何度も何度も突っ込み、逃げようともしない」

(メ A ) 「俺は逃げるわけにはいかない。ここでお前を捕らえなければならない。銃を握ることが俺に唯一出来ることだ。
銃を捨てた俺には何も残らない! 銃を向けたからには倒さなければならない! 来いよ化物!!」

ドクオはクーを見据えながら叫んだ。

その眼は真っ直ぐとクーの瞳を見上げていた。

彼の眼を見たクーは少し興味が湧いたかのように目を輝かせる。

32 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 21:30:10.28 ID:NqrSbmi40
川 ゚ -゚) 「化物と対峙するお前はなんだ? 万に一つも勝機の無い化物に挑むと言うのか?」

(メ A ) 「俺は兵士だ! 人間だ! 勝機だと!? 知るかよ! 大人しく殺されてろ吸血鬼!!」

ドクオがそう咆哮し、立ち上がる。

川 ゚ -゚) 「ほう………そうか、人間。気に入ったぞ、名を聞こう人間よ」

(メ'A`) 「ドクオ……鬱田ドクオ。気はすんだか? とっとと掛かって来いよ!」

彼は勇ましく咆哮を上げるが、咳き込み、口から血液を吐き出してしまう。
そのまま膝を附き、再び横たわってしまった。

仰向けになり、酸素を欲しがる体に新しい酸素を吹き込む為
肩を上下させて大きく息を吸う。

すると、やがて呼吸は静かなものへとなっていき。
ドクオは目を閉じ、目覚めることのない眠りへと就いていった。
だが、まだ死んではいない。

川 ゚ -゚) 「ドクオ……鬱田ドクオか。顔はいまいちだが、なかなかいい男じゃないか」

川 ゚ -゚) 「ドクオ、君にこれからは夜を生きて貰う。最も君のような者がこれを望むとは思えないが。
君のような人間は人間の為に夜に生きることになってでも生きていて貰いたいのだ」

そして、と続け。

川 ゚ー゚) 「私は君に惚れたよ」

そう笑って言い、クーはドクオの首筋へと噛みついていった。

34 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 21:33:57.99 ID:NqrSbmi40
******

空が茜に染まり、少しずつ薄暗くなってきた頃。

渋澤との戦闘が終え、横腹を抉られたドクオは
クーを抱えて再び北へと進んでいた。

(;'A`) 「くそ………流石に威力がたけーな……弾がでかすぎなんだよ」

ドクオが悪態を吐きつつも歩き続ける。

川メ - ) 「ドクオ、夜まで耐えてくれ。夜になれb(,,゚Д゚) 「見付けたぞ」

クーが応えるが、その言葉はドクオとは別の男の声によって途中で遮られてしまう。

('A`) 「ギコか……お前がどうしてここに? お前は<天国>攻略の最前線に居たはずだろ?」

(,,゚Д゚) 「お前が裏切ったと聞いてハインに呼び戻されたのさ」

ギコという男がドクオの疑問に答え、さらに言葉を続ける。

(,,゚Д゚) 「≪サンダーボルト≫ ≪ジャック・ザ・リッパー≫ ≪白い悪魔≫ ≪FOX HOUND≫ ≪雷電≫
数々の異名を持ち、数々の輝かしい戦果を上げたVIPPERのプロトタイプ。
ハインリッヒ博士の懐刀。そんなお前が裏切ったのだ。
俺を呼び戻す理由も納得できるであろう」

('A`) 「悪いなギコ。お前は呼ばれ損だ。俺は戻る気もないし殺される気もない」

35 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 21:37:40.94 ID:NqrSbmi40
(,,゚Д゚) 「お前にその気が有ろうがが無かろうが関係ない。俺がこの場に呼ばれたのだからな」

('A`) 「嘗めるなよ?」

(,,゚Д゚) 「その台詞そのまま返そう。今のお前の体で何ができる。
プロトタイプ! 完成品の俺を前にしてよくもそんな口が利けるな!」

('A`) 「戦いにそんなもんは関係ねーさ」

そう言い、ドクオは剣を構える。

ギコの体は強化骨格の上から鎧で包まれており
その鎧からは二つのマニュピレーターが生え
阿修羅が如き姿である。

(,,゚Д゚) 「関係あるのさ。完成品に試作品は劣る」

ギコがそう言うと、マニュピレーターが彼の腰のホルスターから拳銃を二丁抜き
彼の腕は二つの日本刀を抜刀した。ぬらりと微かに曲線を描いた刀身が白銀の輝きを放つ。

(,,゚Д゚) 「黒き剣No.05共和刀 No.06民主刀。お前のライトニングブレードよりも切れ味は上だ」

ギコがそう言うと、彼はドクオへ突っ込んでいった。

彼の強化骨格の足裏から火花が飛び散り、轟音と共にドクオの目前へと迫る。

瞬きの間に間合いを詰め、刀を振り下ろす。

ドクオはその刃を剣で受け止める。

37 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 21:43:08.22 ID:NqrSbmi40
ギコは更にもう一方の剣を振り下ろし、ドクオの左肩を狙う。

ドクオは受け止めた刃を払いのけてそれを往なす。

すると、ギコは自由になった片方の刀でまたドクオに斬りかかる。

またしてもドクオは剣でそれを往なすが、再び自由となった刃で斬りかかられ……

防戦一方となっていった。

このままではいけない。とドクオは判断し
バックステップで距離を取るが、マニュピレーターが放った銃撃に右肩を抉られる。

そのまま弾雨が彼に押し寄せ、クーを庇う様にして身を屈め、剣で弾丸を往なす。

結局防戦一方となってしまい、更にギコはドクオに詰め寄って刀を一閃。
刃が胸に大きな赤い線を描きだした。

間合いを開く為に、鋭い痛みに顔を歪めつつもドクオは地面を蹴る。

ギコはそれを追撃。火花を移動した軌跡に舞い散らせ
ロケットの如く迫る彼はその速さから刀による突きを繰り出す。

ドクオは突き出された刃を足で踏みつけ、切っ先を地面に突き立たせた。そのまま踏み込み、剣を一閃。

ギコの胸が斬り裂かれるが、浅い。踏み込んだドクオは彼のマニュピレーターに跳ねのけられ
地面へと激突してしまい、立ち上がらんとするがいつの間にか間合いを接近したギコに刀を振り下ろされる。
それを間一髪でさけたドクオはもう片方の刃に右腕を切り落とされ、下腹に食い付くように迫る足に蹴り飛ばされてしまった。

地面へと激突し、その拍子に脇に抱えていたクーを衝撃で落としてしまう。

39 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 21:47:49.94 ID:NqrSbmi40
川メ - ) 「ドクオ……やられているじゃないか……」

(メ A ) 「やっぱりやるよ、あいつは………ごめん……」

クーが血反吐を吐きつつ言い、ドクオがそう応える。

川メ -) 「ドクオ……こっちに来い……」

そう言いつつ彼女はドクオのほうへと体を向け、彼は地を這って彼女へと向かう。

すると、クーはドクオに顔を寄せ、彼の首に手を回すと
ドクオの唇に自らの唇を重ねた。

(* A ) (何なんだーっ!?)

ドクオが歓喜し、内心に狼狽していると、耳の奥から彼女の声が聞こえてきた。

《ドクオ、お前は一度死の淵に立たされ、私に血を吸われ、私の僕として吸血鬼となり生きながらえた。
私の血を吸え。そうすればお前は使役される為の存在ではなく、完全な、独立した吸血鬼となれる。
私の僕ではなく一個のドラキュラと成れる! 自らの意志で夜を生き、自らの意志で血を吸う、吸血鬼に!》

彼女はドクオにそう伝えると、自らの舌を彼の舌に絡ませ、唾液を口腔に送った。
その唾液には血が混じっているようでドクオに鉄の味を知覚させた。

《私の血を飲め、VIPPER! 鬱田ドクオ!!》

ドクオはクーの首に腕を回し、抱きしめると、彼女の唾液を呑み込んだ……

(,,゚Д゚) 「フン、人間の恋人は出来ずに、ついに化物に手を出したか」

41 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 21:51:10.26 ID:NqrSbmi40
ギコがその光景を眺めて言う。

(,,゚Д゚) 「どうだ? ファーストキスだったはずだ、感想を教えてくれないか?」

('A`) 「鉄の味がしたよ」

挑発じみた台詞に素っ気なく答えると、ドクオは立ち上がった。

すると、彼にあった無数の傷は全て消え去っており
切断されたはずの右腕が生えていた、だがその腕は鎖のような物で固められている。

(,,;゚Д゚) 「お前……何をした? 何をされた!?」

('∀`) 「お前自分で言ってたろ? ファーストキスって奴だよ!」

ドクオがそう言い、続けて呟く。

('A`) 「リミット解除。『コード雷電』発動による承認認識。目前敵の無力化までの間能力の完全開放を開始」

すると、腕に巻きつけられた鎖のような物が爆散し、悪魔のような禍々しい紅の腕が現れた。
携えた黒き剣をその腕で構えると、刃に青い稲妻を纏わせ、轟音を掻きならしてギコへと切っ先を向ける。

暗闇の中を眩しいくらいに彼の剣が照らしていた。

血を吸い、彼は夜に生きる者ミディアンとなり、吸血鬼――ドラキュラ――に成ったのだ!

ドクオはギコへと駆け出すと共に剣を振るう。すると、稲妻がギコに襲いかかった。

青白い光が走る。彼のマニュピレーターの一つが弾け飛び、ギコは慌てて発砲を行う。
だが、放たれた弾丸は全て雷によって焼き尽くされ、弾雨は稲妻に掻き消されていった。

43 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 21:56:06.72 ID:NqrSbmi40
玉砕覚悟でギコは突撃する。

刀を振るうが剣に阻まれ、それどころか刀身が溶解していき真っ二つに折られてしまう。

(;,,゚Д゚) 「貴様っ!? サイボーグであるに関わらず吸血鬼に成ったのか!? そんな馬鹿げた話があるものかっ!!」

('A`) 「俺は夜に生きることにしたんだ。ハインに言っておけ、追って来るのなら“人類最強”が相手でも俺は容赦しないってな」

(;,,゚Д゚) 「思いあがるなよドクオ。ハインの力はお前を圧倒的に凌駕する! 何故ならあいつは最強だからだ!!」

ギコが咆哮すると、マニュピレータ―がドクオに襲いかかった。

だが、轟音と共にそれは彼の目前で弾け飛び、ギコは続けて残る刃でドクオに斬りかかる
火花が飛び散り、柄から先が吹き飛んでいき、弾かれた刃がギコの背後の地面に突き刺さった。

その刹那、ドクオは一歩踏み込み、ギコの横腹に刃を突き刺して電撃を浴びせる。

すると彼は力を失ったように倒れていった。

川 ゚ -゚) 「吸血鬼を1人作るのは大変だな。力を分け与えたせいで私は体を夜まで再生出来なくなってしまう」

ドクオの後方から声がし、
振り返るとそこには大怪我を負っていたはずのクーが立っていた。

45 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 21:59:59.80 ID:NqrSbmi40
すでに彼女の体からは傷が消え去っており、目深に被っていたフードを外して
彼女の白い肌と長く美しい艶やかな黒髪が外気に晒されている。

クーはその切れ長の鋭い瞳でドクオを見つめ、言う。

川 ゚ -゚) 「これからどうするつもりだ? 吸血鬼として自立した以上、私に付き従う意味はないぞ」

('A`) 「どうするも何も、夜の中を生きていくだけだよ。クー、俺はあんたに付いていっていいか?」

フフフ。よし、私がエスコートしてやろう。
クーは笑みを浮かべてそう返し、ドクオは剣を収めてクーと共に夜に消えていく。

救われた命。その恩を返す為、ドクオは夜に生きていく。

例え人類最強が彼等化物の前に立ちはだかることになったとしても。
47 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 22:02:51.06 ID:NqrSbmi40
――――そう。

彼等は生きていく。

戦っていく。

例え、終わったと思い、
安堵の息をついてほっと胸を撫で下ろしていたところに

目の前に美しい白髪の前髪で左目を覆った赤い目した白衣の人類最強と遭遇したとしても―――――――――だ。

人類最強が口を開く。

从 ゚∀从 「よう、ドクオ。お前随分暴れてくれたじゃねーの?
何だテメー、このままあたしが登場しないで終わるとでも終わってたのか!?」


48 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 22:05:56.86 ID:NqrSbmi40
('A`) 「ハインか……あと少しでニーソクの国境なんだ、見逃してくれないか?」

ドクオがぶっきらぼうに、心底どうでもよさそうに言う。

対して、クーは喜んでいるように言葉を発した。

川 ゚ -゚) 「久しぶりだなハイン。君は相変わらず元気が良さそうだな」

从 ゚∀从 「あー? あたしが元気に見えるってのか? 今あたしはとっても鬱な気分なんだよ。
そこにいる無表情ブサイクのせいでな。クソ童貞ヤローめ」

('A`) 「……………」

ドクオは黙りこくり、ハインリッヒがいつ攻撃してきても常に迎撃できるように構えていた。

(;A;) 「………………」

いや、その顔をよく見ると、うっすらと涙が浮かんだいた。

从 ゚∀从 「へっ! 何でぇー何でぇー、ピリピリしやがって。そう構えんなよぉー」

気楽な声を上げるハインリッヒ。

49 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 22:08:47.17 ID:NqrSbmi40

从 ゚∀从 「あーあー、テメーならクーを捕まえてくれると思ったのによー。
これじゃあニューソクが世界中を自国の領土にする計画が大きく遅れちまうぜ」

('A`) 「疲れたんだよ、テメーらの野望はでかすぎる。俺は自由気儘にやらせてもらうぜ」

从 ゚∀从 「あぁー、つれねー奴だ。今まであんなに頑張ってたのによぉ」

ところで、とハインリッヒが次の言葉を続けた。

从 ゚∀从 「あたしはテメーに吸血鬼を捕まえて来いって言った。だが、テメーは出来なかった。
そして今、あたしの前には吸血鬼が二匹居る。ハッハッハ、こうなるだろうと思ってたぜ」

(;'A`) 「ッ!?」

ドクオはその言葉に後頭部を鈍器で殴りつけられたかのように
驚愕の表情を浮かべた。

こうなるだろうと思ってたぜ?

50 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 22:12:40.19 ID:NqrSbmi40

从 ゚∀从 「あたしは吸血鬼の能力が欲しい、その能力を持った兵士を量産したい。
吸血鬼の軍隊を作りたいわけだ。だが――――それだけではつまらない」

从 ゚∀从 「吸血鬼を強化骨格でサイボーグとし、さらに強化する。
これであたしの野望は更にステップアップだ。
これが実現すれば他国の奴らがいくら束になったとしても、ただの人間の軍隊じゃ敵いやしない」

从 ゚∀从 「サイボーグは、VIPPERは吸血鬼になれるのか? それも実験してみたかった。するべきだった。
そこで、テメーをクーにぶつけた。お前なら勝てるかもしれなかった。
お前なら“負けたとしてもクーが助けるだろう”と推測していた」

从 ゚∀从 「結果は後者となったわけだ。
さて、吸血鬼共――――――屈する覚悟は出来たか?」

('A`) 「へっ、随分回りくどいことしてくれるじゃねーかよ。人間」

ドクオは鎖のような物で縛りつけられた右腕で剣を抜く。

鞘から刀身が空気に触れるとシィンという鋭い音が鳴り響いた。

从 ゚∀从 「覚悟完了か、んじゃあフルボッコしてやんよ!」

白衣を棚引かせてハインリッヒが駆けだす。

51 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 22:15:51.54 ID:NqrSbmi40
彼女の得物は――――――得物は彼女の拳だ。

ドクオは何時でも剣を一閃出来るように構えなおすと、
既にハインリッヒが目前で拳を構えていた。

肘を背後に引き、ドクオの顔面に弾丸の如き速さで拳が走った。

至近距離で放たれた拳を避けようがなく、
ドクオは受け流そうと地面を後ろに向けて蹴り、
衝撃を受け流すように飛んだ。

(;゚A゚) 「ブゥッ!?」

だが、それはただの拳では無い。

人間の拳ではあるのだが、
ただの人間の拳では無く、“人類最強”の拳なのだ!

一撃全力で放てば砕けてしまうような貧弱な拳では無い、
殴り続けることによって無駄に付いている拳の肉が削られていった強靭な拳でも無い。

最強の拳。

全人類中最強の拳。

吸血鬼のようなミディアンズをも圧倒する、
サイボーグですら、吸血鬼ですら屈伏させる無敵の拳。
52 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 22:19:45.24 ID:NqrSbmi40
ドクオが受け流したと思っていた衝撃は、
彼の脳みそを激しく揺らし、衝撃が脳天から足のつま先まで、激痛となって走って行った。

すると、足が地面から浮きあがる。

衝撃を受け流す為に後方に跳んだのだから当然だ。

ここまでは当然だ。
浮き上がった後にジェット機のような速さで身体が吹き飛ぶ。

これは、ハインリッヒの拳の衝撃によって生まれた結果である。

吹き飛んでいき、ハインリッヒが乗って来たのであろう装甲車に激突。
大の字に身体が広がってゆくと、衝撃を受けた装甲車は横転していく。

装甲車が倒れ、轟音が鳴り響くと、そこから火の手が上がり始め、火柱が出現する。
先程の物より巨大な爆発音が響き、黒煙が空に棚引いてゆく。

それを見ていたハインリッヒが言葉を発する。

从 ゚∀从 「へっ! 役に立たない男だ。いや、今までは役に立つ男だったと言うべきだな」

ハインリッヒは装甲車の残骸へと歩み始める。
53 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 22:23:39.90 ID:NqrSbmi40
声が響いた。

「アッハッハッハ、全力を出せる相手が出来て嬉しいぞ、ギコは大したことが無かったからな!」

続き、拘束を解除する為の承認文が矢継ぎ早に語られる。

('A`) 「リミット解除。『コード雷電』発動による承認認識。目前敵の沈黙までの間、能力の完全開放を開始」

言い終えた途端、彼の右腕の鎖のような拘束具が爆散。

覆い隠されていた露わとなり、
ドクオの右肩から先に禍々しき紅の悪魔が如き腕が姿を現す。

指先が爬虫類の如く尖っており、その手で黒き剣No.04ライトニングブレードを製作者へと向ける。

灰色の刀身が月明かりに照らされ、鋭い光を放っており、
青白い雷を纏う刃からはバチバチという放電音が敵を威嚇する猛獣の咆哮のように良く響く。

夜闇はこの光によって霧散し、ドクオの周辺を眩いばかりに照らす。

だが、その光にも劣らない程にドクオの瞳は鋭い光を放っていた。

名刀の輝きが如き鋭い眼光。

54 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 22:28:17.04 ID:NqrSbmi40
対し、ハインリッヒの瞳も輝いている。

好奇心、これから面白いことが始まるとでも
言わんばかりの期待に溢れた眼光。

从 ゚∀从 「ハーッハッハッハ! 面白れぇ、放電ぐらいなら前の体でも出来たが、この威力は実現できなかった!
流石だ、流石すぎるぜ! 良くやったあたしの懐刀! FOX准将を殺した頃とは見違えるぜ!!」

FOX准将、かつてニューソクに反乱を起こそうとした者。

その頃のドクオは強化骨格によるサイボーグ化を行ったばかりであり、
VIP計画が発案された当初であり、今のように巨大なものでは無かった頃だ。

FOX准将がクーデターを画策しているとの情報が入り、その真偽を確かめるべくして
当時のドクオは単独でFOXの根城である南方基地に潜入したのだ。

そして、クーデターを行う為に作られていた新型戦車の存在を知り、
FOX准将諸共それに関わっていた者達を全て斬り伏せたのだ。

たった一人でFOX一派を殲滅し、
その戦果を聞き付けた軍部上層部はVIP計画の予算と規模の拡大を決定。

後に、ドクオが≪FOX HOUND≫と呼ばれるようになった所以だ。

他にもこのような逸話が沢山あるのだが、語り尽くすことは難しい。
55 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 22:32:31.68 ID:NqrSbmi40
ハインリッヒは構えもせずにドクオに突っ込んでいく。

まるで、ただランニングしているだけだとでも言わんとするような無防備な走り。

隙だらけだ。

相手をよく見て、体勢を低くして迎撃の姿勢を取る。

最速の剣撃を叩き込める状態。

しかし、その状態に持ち込んだ時には既に遅く、
ハインリッヒに懐へと踏み込まれていた。

(;゚A゚) 「なっぃ!?」

何!?

ドクオはそう言葉を発しようとしたが、それには時間が足りなさすぎた。

ハインリッヒは疾走する勢いに乗せ、力任せにドクオへと右ストレートを極める。
拳が頬へと綺麗な形でぶち当てられ、衝撃で彼は遥か後方へと吹き飛んで行く。

57 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 22:36:34.02 ID:NqrSbmi40
この一撃を放つ為に、ハインリッヒは全力で駆け抜け、
その全力で走った事によって生まれる勢いを力に変換して
前のめりになる形で真っ直ぐと拳を放ったのだ。

ハインリッヒが全力で走り全力で殴りつける。

全てが全力の上で行われた捨て身の攻撃。

その威力は数mの距離を一度もバウンドさせずに
地面の上を障害物に衝突するまで滑空させていた。

街灯にぶつかり、それを真っ二つに砕き、
マンションの壁に身体がのめり込んだところでやっと停止する。

必殺の一撃に相応しい攻撃だ。

ましてや、人類最強の足の全力で、人類最強の拳の全力で放たれた一撃である。

無事にすむわけがない。

その証明に、この攻撃を受けたドクオは地面に崩れ落ち、
ぴくりとも動かなくなっている。
59 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 22:41:40.40 ID:NqrSbmi40
頬を地面に擦り付け、ハインリッヒを睨む。

眼光だけは傷付く前と変わりない。

それどころか視線だけで人を殺せるまでに増しているとも言えた。

しかし、意思に反して体の方は指先すら動かない。

从 ゚∀从 「あーぁ。なんだよ、油断しすぎだぜ?
タクよぉー、テメーまだまだ弱すぎんぜ。大人しく掴まってあたしに飼いならされてろ」

何時の間にかドクオの傍に立っていたハインリッヒが呆れたように話す。

从 ゚∀从 「そうすりゃあ可愛がってやんよ。沢山飽きるまで愛でてやる。
そうしようぜ? テメーのような人間らしい奴はあたしの計画に必要なんだ」

从 ゚∀从 「最もあたしに勝とうなんて2008年と12月26日早えーけどな。
ハーッハッハッハ! ハインリーッヒ!!」

そうやってハインリッヒは快活に笑う。

どこか挑発じみているが、本気で言っているようにも聞こえる。

60 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 22:44:58.74 ID:NqrSbmi40
すると、ドクオの周囲に落雷。

轟音と共に目を焼き付けるような白光が輝き、
彼の体を雷が覆って行き、剣が真っ赤に染まり上がって高熱を帯びていく。

ゆらりと立ち上がり、剣を握る腕に更に力を込め、
幽鬼のようにハインリッヒへと近づく。

鬼は周囲に雷鳴を響かせ、ハインリッヒへと電撃を放った。

腹の奥底から震え上がらせるような轟音と共に雷が走り。
ハインリッヒの頬を掠め取る。

そう認識した時には彼女は疾走を開始していた。

目にも留まらぬ速さで駆け抜けていく彼女は、
ドクオの脇腹へと向けて右の蹴りを浴びせようとする。

が、攻撃を中断。

しかし、彼女は足を繰り出す一歩前の段階で距離を取り、
ドクオの周囲360°に落とされた雷撃を避けたのだ。
61 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 22:48:08.24 ID:NqrSbmi40
彼の頭の中にはハインリッヒを倒すことしか浮かんではおらず、
彼女が前に放った言葉が脳裏を過ぎる。

『ドクオ、お前は雷だ。夜の闇を切り裂く鋭い光を放つことが出来る。真っ直ぐな人間だ』

だが、ドクオは既に人間では無い。サイボーグでも無い。

中途半端な存在。

では、彼は何であろうか?

問いの答えを彼はすぐに導き出す。

(メ A ) 「俺は雷………雨の化身……」

ドクオは一歩ずつゆっくりと歩を進め、
ハインリッヒへと剣を向ける。

62 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 22:52:05.30 ID:NqrSbmi40
対し、ハインリッヒは脇目も振らずに駆けだす。

鉄砲玉のように迫る彼女は驚異そのものであり、
弓を撓らせるように拳を引いてドクオへと向けて放つ。

拳撃は今までの物と全く変わらぬスピードで彼の右顎を狙う。

しかし、ドクオも学習能力が無いわけではなく、
紙一重で彼女の拳を身体をずらして避けていた。

そして最小の動きで赤熱化した剣を振るう。

ハインリッヒは少し慌てたような表情を見せるが、
それは一瞬にも満たない時間で消え去り、ドクオへと拳を放つ動作を取る。

だが、これは判断を誤っていた。

彼女の頭上にはドクオが放った雷が迫っていたのだ。

ハインリッヒは何かを察知したのか、後方へと地面を蹴って離脱。

一拍置き、彼女の居た空間に轟音と衝撃が響きわたる。

63 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 22:55:49.14 ID:NqrSbmi40
青い光の柱がハインリッヒの目前に突き立ち、
彼女は呆然とそれを見つめている。

柱から赤い物が二つ飛び出す。

赤き禍々しい悪魔の腕と、蒸気を上げて赤熱化した無骨な刃だ。

从 ゚∀从 「ッ!?」

ハインリッヒは慌てて回避の姿勢を取る。

だが、彼女の予想を遥かに越えた速さで二つの赤が迫り、
ドクオが突き立った光の柱から飛び出してきた。

ハインリッヒの首を赤い刃が切り裂かんと襲いかかってゆく。

ドクオが出せないと彼女が思っていた速度でそれは迫る。

想定外。突然のハプニングだ。

64 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 22:58:56.21 ID:NqrSbmi40
しかし、彼女が避けられない程の速さでは無い。

上半身を僅かに彼女が後方へと傾けるが早いか、
ドクオの刃が彼女の首の目前で空を切った。

ドクオは一瞬目を見開いて驚きの表情を作るが、
すぐにその表情は崩されることとなる。

衝撃と激痛が顎から頭蓋へと駆け抜け、
ドクオが数m上空まで浮き上がッて行く。

ハインリッヒはその下で拳を空に突き立てるように伸ばしており、
彼女がドクオの顎に拳を叩き込んだのだと判断できた。

数秒が経つと、ドクオの体が地面へと打ち付けられ、
身体の数多くの部品が砕ける金属の破砕音が鳴り響く。

从 ゚∀从 「フー、危なかったぜ。ドクオ、やっぱお前以外にあたしの懐刀は務まらねーよ。
テメーはこのニューソクに、このあたしに必要な人間だ。グズってねーで戻って来い。
そしてあたしを超える程に強くなれ、もっと戦え、ニューソクの人間として戦い続けろ」

楽しげにハインリッヒは語る。

65 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 23:01:41.72 ID:NqrSbmi40
(メ A ) 「俺はぁ……もぉ……にんぇ……じゃぁ……」

ドクオが応えるが、息が絶え絶えで言葉にならず、上手く聞き取れない。
そんな状態にも関わらずに剣だけは手放さずに、地面へと杖代わりに突き立てて起き上がろうとする。

立ち上がるには立ち上がれたが、
剣を掴む腕に上手く力が入らずに尻餅を付いてしまう。

片膝で立ち上がろうとするが、
鋭い声が響きわたってドクオを制止させる。

静かであるが、どのような喧噪も一声で収まるような鋭い声。

その声にビクリとして背筋を震わせ、音源を辿る。

先程ドクオが衝突した装甲車の残骸の方からだ。

声は美しく、彼はこの声に聞き惚れていた。

女性にしては少し低いが、大人らしい落ち着いた声。クーの声。

川 ゚ -゚) 「ドクオ、無理をするな。その程度の怪我なら5分もすれば回復する。
君は無理をしなくて良い。そこで休んでいてくれ」

66 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 23:05:43.31 ID:NqrSbmi40
(メ A ) 「こぉ……つぅ……ぁ………れぉ……」

川 ゚ -゚) 「だが、君では勝つことは難しい。言っただろう?
私がエスコートしてやると。夜を生きると言う事がどういうことか教えてやろう」

川 ゚ -゚) 「君は吸血鬼と言っても、まだ1人の血しか吸っていない。
言わば吸血鬼のヒヨコと言ったところだ。これから吸血鬼の大人という物を見せてやろう」

吸血鬼の大人。

未熟な吸血鬼をヒヨコと例えるならば
成熟した吸血鬼は吸血鬼のニワトリと言うべきでじゃないのか?

ドクオは突っ込みたい衝動に駆られたが、生憎上手く言葉が出てこない。

ハインリッヒがクーに相対する。

从 ゚∀从 「ヘッ! 今度はクーか。久しぶりだなー、お前は色々とスゲーから楽しいぜ」

川 ゚ -゚) 「ただの人間にも関わらず、そこまで練り上げられたお前の方が凄いさ
だが、お前では私に勝てない。今までの戦いでわかっている。誰かの狗などには私は倒せない。
たかだか“数十年”しか生きてない小娘め。私の物に飼いならされろとはいい度胸だ」

クーは「では」と付け加え、

川 ゚ -゚) 「本当の吸血鬼の闘争と言う物を教育してやる」


67 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 23:10:32.20 ID:NqrSbmi40

彼女の体中に目玉が出現する。

数十、数百、数千という目玉が
顔に、首に、胸に、腹に、腰に、肩に、腕に、手に、掌に、足に。

身体の至る所全てに突如として出現した。

その全てが、ハインリッヒへと視線を集め、
クーは言葉を発する。

川 ゚ -゚) 「拘束解除。目前敵をクラスAの障害と認識、無力化までの間制御一番までの能力解放開始」

彼女が口を閉じるが早いか、腹部から目が飛び出す。

目は体を持っており、巨大な4足歩行動物だ。

10mはあるのではないかという巨体に
夜に良く映える美しい銀色の毛並み。

切れあがった眼に顔から飛び出した巨大な獲物でも容易に噛みつける口。

そして鋭い牙と爪を持つ――――――狼。

68 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 23:13:39.16 ID:NqrSbmi40
白銀の狼は国中に響きわたるような、
それでいて気高さを漂わせる雄たけびを上げてハインリッヒへと疾走する。

从 ゚∀从 「大神ベオウルフ! かつての軍事大国オオカミの国章にもなった伝説の生物、か」

白銀の狼は自慢の大口を彼女へとむけて開き、頭から噛みついていく。

口の中には刃の如き輝きを放つ牙が覗いており、
それを人の肉に突き立てられたら容易に噛み千切られることは目に見えている。

狼、ベオウルフは口を閉じ、ハインリッヒの首に牙を突き立てた。

だが、“閉じ切らない”。

ハインリッヒはベオウルフの口を牙の上から抑え、
避けようともせずに噛みつきを受け止めたのだ。
70 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 23:16:42.31 ID:NqrSbmi40
从 ゚∀从 「お前を掲げた国はあたし等ニューソク人が潰してやったんだ」

从#゚∀从 「―――――吠えるんじゃねーッ! 駄犬がぁっ!!」

彼女はそのまま腕に思いの限りの力を込め、ベオウルフの口を大きく開く。

限界まで口が開かれるが、ハインリッヒは更に力を込める。
すると、ベオウルフの口の端が裂け、そのまま身体が真っ二つに引き裂れていった。

肉が裂かれる異音と内臓が地面に落ちる生々しい音が響き、
ベオウルフの巨体が保有していた血液全てが宙を舞い、黒一色の夜空を赤く染め上げる。

血が一つの世界を作り上げていく。

赤一色の戦の世界を。

世界は彼女を中心にして回っている。

ハインリッヒは血塗られた世界の中心で笑い出す。

从 ゚∀从 「ハーッハッハッハ! ハインリーッヒ!!」


71 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 23:19:40.49 ID:NqrSbmi40
その背後、クーがハインリッヒへと日本刀を一閃。

「気付いていた」と言わんばかりにクーの方を見もせずに迫りくる刃を身を屈めるだけで避ける。

ハインリッヒの頭上を刃が風切り音を伴って通過する。

屈んだ体勢から足を延ばして180回転。

クーの足をハインリッヒの足が掬い上げようとするが、
足と足が激突する頃にはクーの足は煙のように霧散していた。

从 ゚∀从 「ッ!」

後頭部に何かが突き刺さるような感覚を覚え、
判断を下す前に身体は動き出す。

地面を蹴り、横転。

すると、先程までハインリッヒが居た空間に拳が突き出す。

黒い腕、黒いコートを身に纏ったクーの拳だ。

ハインリッヒが彼女を視認出来た頃には既にクーは消えていた。

75 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 23:24:39.09 ID:NqrSbmi40
从 ゚∀从 「ヘヘヘ、楽しいじゃねーか!」

ハインリッヒは笑い、後方へと回し蹴りを放つ。

そこには何も無かったはずだが、いつの間にかクーが立っていた。

彼女は両腕で足を防ぎ、衝撃に僅かに怯む。

从*゚∀从 「瞬間移動? 使い魔? 次は何を見せてくれるんだ!?」

言い、ハインリッヒは回し蹴りを放った右足を地面へと戻し、
軸足にしていた左で鳩尾へと蹴撃を繰り出す。

先程の回し蹴りで怯んだクーにはハインリッヒの足を止める術がなく、
避けることも出来ない。

爪先が鳩尾に突き刺さる。

それだけではまだ優しい。

爪先が鳩尾を捕らえたかと思うと、足が彼女の腹部かえら背を貫通したのだ。

クーはくの字に折れ曲がり、
腕は力無くダラりとぶら下がる。

76 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 23:27:40.28 ID:NqrSbmi40
彼女の腹部を穿った足の周辺から大量の血が滴る。

そして、突き刺さった足を横へと一閃。

クーの体は真一文字に引き裂かれ、
上半身が宙へと舞い、血の雨が降り注いだ。

肉を打つ鈍い音が二つ響き、別れた身体が地面に落ちた。

だが、肉体の破片は瞬時に再構築されてゆき、
黒い靄に包まれたかと思うと、靄は地面を滑るように移動する。

ハインリッヒから離れた場所に靄は止まり、そこから生えてくるように頭が出現する。

川 ゚ -゚) 「フッフッフ、大した威力だ。たかが人間の回し蹴りがここまでの威力を持つとはな」

从 ゚∀从 「不死身に近い再生能力か。次は何だ!? あたしをもっと楽しませて見せろ! 化物の王“吸血鬼”!!」

川 ゚ -゚) 「そうガツガツするな、ゆっくり絶望させてやる」

クーの体を足元から黒い靄が包んでゆき、靄からコウモリやカラス大量にが飛び出してくる。


77 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 23:30:38.74 ID:NqrSbmi40
黒色の群はハインリッヒの視界を覆い隠すように、
周囲に群がって行く。

从 ゚∀从 「ヘッ! 小細工かよ!!」

ハインリッヒは一足飛びで宙へと上昇。

その動きと共に360°回転して回し蹴りを繰り出す。

群がるコウモリとカラスは散り散りになって消えてゆく。
跳び上がったハインリッヒの真下へと集まって行き、そこにはクーの姿があった。

日本刀を鞘へと納めて、居合の構えを取る。

ハインリッヒが重力に従って落下を開始。

クーは上半身をハインリッヒへと向けており、
間合いにさえ入れば何時でも抜刀出来た。

ハインリッヒをクーは鋭く睨みつけ、
タイミングを計りだす。

78 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/26(金) 23:33:42.45 ID:NqrSbmi40

が、ハインリッヒは空中で足を大きく蹴り、
その勢いで刀の間合いに入る直前に今まで居た空間から距離を取る。

ちっ、と舌打ちが聞こえたような気がする。

从 ゚∀从 「へっへっへ、焦ってきてんのか? そんなにそこのロクデナシが馬鹿にされたのが許せねーのか?
へー、良いねー良いねー。人間にはモテ無かったくせに何でこんな化物には惚れられちまうんかね!」

川#゚ -゚) 「貴様ぁぁぁぁぁッ!!」

クーが今までからは想像も付かないほどの怒声を張り上げる。

ハインリッヒへと目掛けて一直線に突っ込んでゆき、
日本刀を胴へと向けて一閃。

刃を鞘から解き放ち、鞘走りによって剣撃の速度は加速され、
今までの剣撃とは比べ物にならない程に早い。

だが、その一撃は荒々しく、彼女の怒りが滲み出ていた。
81 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/27(土) 00:00:34.76 ID:jeDL7Wva0
力任せの隙だらけの振り。

ハインリッヒが見逃すはずはない。

クーが剣を抜刀するかしないか。
その一瞬を身切ってハインリッヒは彼女の頭上へと飛ぶ。

一拍遅れて剣が足元を過ぎる。

剣を大ぶりに振るった今、クーは隙だらけだ。

ハインリッヒは彼女の頭上で素早く縦に車輪のように一回転し、
その回転に乗せて踵をクーの後頭部へと叩きこんだ。

途轍もない衝撃を受けた彼女は前のめりに頭から転倒する。

着地したハインリッヒはクーの背後を見たまま後ろの倒れ込むように飛び込んだ。

クーの体に覆いかぶさるように飛び、
彼女に背中から乗しかかる。

同時に肘打ちを背へと叩きこんだ。

82 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/27(土) 00:04:44.50 ID:jeDL7Wva0
「ぐっ」という嗚咽と肉を打った鈍い音が響き、
ハインリッヒは体をぐるりと反転させ、彼女に馬乗りになった。

彼女の顔は見えず、後頭部しか見えないのが少々残念だ。

だが―――――――

从 ゚∀从 「チェックメイトだぜ!!」

ハインリッヒは右の拳を振りかぶり、クールの後頭部へと叩きこむ。

逆の腕も同じように振りかぶり、更にぶち当てる。

左右交互に殴打し続け、頭蓋が砕ける音や肉が抉れる生々しい音が
連続して鳴り響き、虐殺ショーが始まる。

クーの頭からは血の水溜りが出来、夥しい赤色に染まっていた。

美しい黒髪からは白く砕けたことによって尖った棒状の骨が飛びだしている。

どう見ても、既に死んでいる。

だが、ハインリッヒは殴打を止めない。

83 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/27(土) 00:08:50.85 ID:jeDL7Wva0
从 ゚∀从 「さーて、そろそろドクオ共々とっ捕まえちまうか」

そう言うと彼女は白衣のポケットから鋼線を取り出し、クールの体中に縛り付ける。

絶対に解けることがないように二重にも三重にも重ねて縛りつけ、
ハインリッヒはそれを終えるとドクオへと近づいていく。

どうやら、まだ彼は回復しきっていないようだ。

仰向けになり、片肘を附いてこちらを睨みつけてくる。

やはり、どれだけボロボロになろうとも、
その闘争心だけは傷つかない。

この顔を見ると、ハインリッヒはどうしても傷めつけたくなる。
何故か彼のこの表情には気持ちが昂ってしまうのだ。

もしかしたらドクオはSを興奮させる天才的なMなのかもしれない。

从 ゚∀从 「んじゃ、縛って叩いて攫ってやんよ!」

どこか高揚した声でハインリッヒは言う。


84 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/27(土) 00:11:47.23 ID:jeDL7Wva0
******

首筋が熱い。

だが何か冷たい物を押し当てられている。

牙だ。

それも動物の物じゃない。

吸血鬼の物だ。

力が抜けていく。

あぁ、あたしは血を吸われているのか―――――

******
85 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/27(土) 00:16:18.30 ID:jeDL7Wva0
ドクオはハインリッヒの首筋に噛みついていた。

牙を突き立て、血を啜る。

1分も血を吸っていると、
流石にハインリッヒと言えども足に力が抜けて倒れていく。

从;゚∀从 「な………何が起きたんだ……?」

ハインリッヒが不安気な表情で疑問を呟く。

川 ゚ -゚) 「フフフ、随分と気持ちよさそうにしていたが、いい夢でも見れたか? ハイン」

それにクーが愉快そうに答える。

从;゚∀从 「あぁ……あぁぁ………成る程。幻覚だったわけね」

ハインリッヒが二度頷き、答えを出す。

川 ゚ -゚) 「そういうわけだ」
88 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/27(土) 00:20:18.54 ID:jeDL7Wva0
从;゚∀从 「何時から?」

川 ゚ -゚) 「私とお前が戦い始めた、お前から見たらベオウルフを呼び出した辺りからだな。
まぁ、実際はそんな物は出さずに幻覚を見せていたわけだが、上手く掛かってくれたな」

最後の力を振り絞るかのように、ハインリッヒは悪態を付く。

从;゚∀从 「ちきしょー、せけーな」

言い終えると、彼女は糸の切れた人形のように動かなくなった。
悪態に対し、にやりとクーが唇の端を釣り上げて笑い、

川 ゚ー゚) 「言っただろ? 吸血鬼の闘争を教えてやるとな。これに懲りたら二度と私達に挑んでくるな」

ドクオに視線を移してクーが話す。

見ると、彼は血を吸った事によって身体を回復させることが出来たようだ。

('A`) 「ふぅ……なんか、メチャクチャ頭がスッキリする」

間の抜けた声でドクオが語る。

89 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/27(土) 00:24:40.66 ID:jeDL7Wva0
川 ゚ -゚) 「どうだ、血の味は? これから君の食事は人の血が主食となるぞ。三食取る必要はないがな」

('A`) 「んー、鉄臭い」

ドクオは短くぶっきらぼうに答える。

それを聞いたクーは、

川 ゚ー゚) 「フフフ、いずれ無性に血が欲しくなる時が来るさ。
夜を生きていく上で悩みがあれば何でも聞くと良い」

笑って話し、ドクオに向けて手を差し伸べた。



91 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/27(土) 00:27:04.53 ID:jeDL7Wva0
('A`) 「……?」

何をするのかと疑問に思っていると、クーが切り出す。

川 ゚ -゚) 「私がエスコートする。手を繋いでくれ、行くぞ」

そう言われてドクオはクーの手を握った。

柔らかい感触が彼の手を包みこみ、瞬間移動でも出来るのか?
などと気楽に思っていると、クーはそのまま歩き始める。

それから数分ほど歩き、そういった能力は無いのだと思い知らされた。

クーは国境までドクオの手を引いてニーソクへと逃亡する。

別にニューソクで隠れ住んでいてもいいのだが、
ニューソク軍に追われているとなると、国外に隠れた方が面倒は少ない。

最も、不法入国であるが、夜の世界を生きる化物である
ドクオとクーには関係のない話しであった―――――――
93 :('A`) ドクオは夜に生きるようです:2008/12/27(土) 00:29:53.21 ID:jeDL7Wva0
******

力尽き、地面に張り付いていたハインリッヒが目覚める。

从*゚∀从 「フー、あたしとしたことが半日も死んじまうとはな。ドクオのヤローガッツリ血ー吸いやがって……
へっ! ドクオ、クー! テメーらは本当に面白い奴らだ! あたしはお前達が欲しい、
世界のどこにいたとしても追い詰めてやんよ! ハーッハッハッハ! ハインリーッヒ!」

早口で叫び上げ、雄たけびとも取れる笑い声を彼女は上げた。

ドクオが夜の世界を生きていくには、障害は多く、強大すぎるようだ。

それでも彼は、
刃を向けたにも関わらずにその命を救ってくれたクーへと恩を返す為、
化物達が犇めく夜を生きていく。
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