第五話
2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/23(金) 02:11:25.10 ID:LSo1/ZYY0
 
('A`) 「あ、俺コーラ」

(,,゚Д゚) 「アイスティーよろしく」

(*゚ー゚) 「えっと……私は、ホットココアで……」


 俺とギコがほぼ同時、それにちょっと遅れてしぃちゃんが注文する。
 三人の視線が一挙に集中した。
 それを受ける肉塊は一瞬眉を顰め、それからしぶしぶといった表情で立ち上がった。


(; ^ω^) 「へいへい! わかったお! 行けばいいんでしょ行けば!!」


 既に割増料金となっているファミレスの禁煙席、隅の一角。
 ここに来るまでのわずか十数分のうちに、我々の力関係はすっかり出来上がっていたようである。

 ヒエラルキーの最下層をブーンに押し付けることが出来、俺はホッと胸を撫で下ろした。
 悪く思うな、可愛い弟よ。  誰だってババは引きたくないもんだ。


3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/23(金) 02:12:17.69 ID:LSo1/ZYY0
 
●第伍話 『 C・H・A・N・N・E・L ── V.S ニダー 』


( ^ω^) 「お待たせお」 ドン

(*゚ー゚) 「はい、どうぞっ」 コトッ


 結局ブーンに着いていったしぃちゃんが、目の前になみなみのコーラを置いてくれる。


(,,゚Д゚) 「さんきゅー」

('A`) 「あ、ありがごぶ」


 時刻は22時をとうに回っていた。
 俺のように夜を駆ける人種にとっては深夜とも呼べない、まだまだ宵の口に過ぎない時間だが、
 ことティーンネイジャーを三人も連れている身となりゃ、それは無視できない事実だ。

 しかもうち二人はバッチリ制服姿。
 長居はできないだろうが、それでもちゃっかり全員がドリンクバーを頼んでいる。


4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/23(金) 02:13:37.38 ID:LSo1/ZYY0
 
('A`) 「……」 チュー
( ^ω^) 「……」 グビグビ
(,,゚Д゚) 「……」 ポチャンポチャンポチャン
(;*゚ー゚) 「あつっ」 カチャン


 腕や顔に生傷を負ってたり、しわしわの制服を着てたりする我々のほうを、
 ウェイトレスがことあるごとにチラ見してくる。  やはりそう長居は出来そうにない。
 

('A`) 「……それで、キミ達は、ええと」


 ストローを置くと、俺は早速本題を切り出した。


(,,゚Д゚) 「……ギコ。  外藤ギコ」

(*゚ー゚) 「猫塚しぃです」


 ぶっきらぼうに言い放つ金髪の男の子と、膝に両手を伸ばし、もじもじしている女の子。
 ブーンと同学年である二人は驚くべき事に、世に言う『超能力者』の類であるという。

 まあ、実際に彼ら……
 特にしぃちゃんの、あの超人的な振る舞いからして、その事実は容易に納得せしめるものだったが。


5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/23(金) 02:15:08.53 ID:LSo1/ZYY0
 
(;'A`) 「それで、その『能力』ってのは……」

(*゚ー゚) 「あ、ちょっと待って……」


 しぃちゃんは、こちらに向かってぺこりと頭を下げた。


(;*゚−゚) 「改めて言います。  本当にごめんなさい」


 そして、横にいるギコに目で謝罪を促す。


(,,;゚Д゚) 「あー、なんというかその……」

(*゚ー゚) 「ほらっ、ギコ君も謝って」

(,,;゚Д゚) 「ええと……うん、あのさ」

(; ^ω^) 「……」 ('A`;)

(,,>Д<) 「すまんっ!  悪かった、このとおりだ!」


 大声のもと、ギコが顔をテーブルに擦り付ける。  周りの客と店員が何事かと振り向いた。


6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/23(金) 02:17:14.51 ID:LSo1/ZYY0
 
(; ^ω^) 「でかいでかい、声でかいから」

(;'A`) 「二人とも、とりあえず顔、上げて……」


 あの後。
 グラウンドの中央で泣きじゃくる俺と、その腕の中ですっかり毒気を抜かれたしぃちゃん。
 そこに体育館からブーンとギコが転がり出てきたことで、一同顔を見合わせる事態となる。 
 状況がgdgdの泥沼に落ち入ろうとした中、その場を治めたのは他ならぬしぃちゃんだった。


(*゚ー゚) 「言い訳にしかならないけど……最初、その、動転しちゃって」

(,,;゚Д゚) 「だってよお、何で呼び出した『ちゃねらー』とは、別の『ちゃねらー』が待ち合わせに来るんだよ。
      どう考えたっておかしいじゃねーか」

(; ^ω^) 「そりゃあこっちのセリフだお!  僕は最初から最後まで、何がなんだか……」

('A`) 「まあまあ、お互い様ってことじゃないかね」

( ;ω;) 「ニーチャンが言うセリフじゃないお!  人の携帯勝手に見て、勝手に学校来たくせに!」

(;'A`) 「え、いやその……それは……」
 
(;'A`)b 「ま、まあでもアレだよね。  呼び出された場所に相手の彼氏が来たらそりゃ驚くやね」


7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/23(金) 02:19:20.68 ID:LSo1/ZYY0
 
(,,゚Д゚) 「はい?」

(*゚ー゚) 「彼氏?」


 示し合わせたような動作で、二人が顔を見合わせる。
 意味が飲み込めると、しぃちゃんは慌てて手を横に振った。


(*゚ー゚) 「違います違います!  私は、ギコ君の恋人じゃありません!」

Σ(;'A`) 「へ? そうなの?」

(,,゚Д゚) 「兄妹だよ、双子の。  顔はあんま似てねえけどな」

( ^ω^) 「ええ?  で、でも、名字が違うじゃ……」

(,,;゚Д゚) 「んあー、それはだな」


 そこまで言うと、ギコはばつが悪そうにチラチラ横目でしぃちゃんの方を見る。


(*゚ー゚) 「私達、中学の時から別々の親戚の家で暮らしてるんです。
     幸い高校は一緒になれたんだけど……」

(,,゚Д゚) 「しぃ……」


8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/23(金) 02:21:14.68 ID:LSo1/ZYY0
 
(*゚ー゚) 「いいの。  こうなったのは私たちのせいなんだし、はっきり説明しなきゃ」

( ^ω^) 「ご両親、離婚したのかお?」

(;'A`) 「……おいおい」


 そうやって、肉塊が事も無げに空気の読めない質問をする。
 デリカシーも遠慮もないからそうピザるんだよ、弟……。


(*゚−゚) 「……」


 しぃちゃんの表情が強張った。
 そして、制服の胸ポケットから何かを取り出す。


('A`) 「?」

( ^ω^) 「あっ、これ……」


 それは初めて見るが、我々にも覚えのある物体だった。
 薄手で長方形の、カードケースのような……小箱?

 色は黒ではなく水色で、形状は多少異なるが、
 表面に印字された銀色の模様といい、まるで……。
10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/23(金) 02:27:54.79 ID:LSo1/ZYY0
 
(*゚−゚) 「……私たちがこれを手に入れたのは、3年前」

('A`) 「え?」

(* − ) 「両親は、殺されたんです。
      ──どこかの『チャネラー』に」


 その一言で、場に重々しい空気が流れた。

 俺が先程無造作にテーブルに置いた、例の黒い小箱。
 そして、それと同じ模様のついた箱を彼らは所持している。
 どうやらこいつがしぃちゃんの正気を奪った原因で、この事態の発端だったらしい。


(;'A`) 「そ、その箱って、中身は」

(,,゚Д゚) 「開かないから実際はわからないけど、たぶん……」


 ギコの指差した部分は透明になっていて、中にはディスクのようなものが光を反射していた。
 俺の持っていた箱と形状が違うことから、中身が違うであろうことは推察できた。
 少なくとも、カプセルの類は入っていなさそうだ。


11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/23(金) 02:28:53.39 ID:LSo1/ZYY0
 
(*゚ー゚) 「……あなたの箱、開けてもいいですか?」

('A`) 「え?  ああ、どうぞ」


 二人は黒い小箱を開き、しげしげと眺める。
 中身について質問がくるかと構えていたが、しばらくのち、無言で箱を返された。


(;'A`) 「とにかくまあ、何らかの誤解が解けたみたいで一安心だよ、ほんとに……」

(*゚ー゚) 「あの……この箱、本当に」

('A`) 「え?  うん。
    さっきも言ったとおり、数日前に貰ったものだよ。 通行人に」

(*゚ー゚) 「そうですか……」


 それからは特に誰も言わず、場を静寂が支配する。
 ジュースに手をつけると、なんとなく皆もそれに続く。


12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/23(金) 02:31:11.59 ID:LSo1/ZYY0
 
 全員が無言でジュースを啜り、コップをテーブルに置いたところで、ようやくブーンが口を開いた。


( ^ω^) 「あの、ところで、聞きたいことがあるんだお」

(,,゚Д゚) 「おう、何でも来いや」

( ^ω^) 「あんたらの言う『ちゃねらー』って何だお?」

(,,゚Д゚) 「……」 (゚ー゚*)


 その質問に、二人は呆気に取られたような表情になり、カップを持ったまま固まった。


(;,,゚Д゚) 「ま、まあ、『ちゃねらー』って言い方については、知らなくても無理ねーけどよ」

( ^ω^) 「?」

(;*゚ー゚) 「あの……失礼だけど」

('A`) 「うん?」 ズゴゴゴゴゴ

(*゚ー゚) 「本当にあなた達は、自分の『能力』に気付いてなかったんですか?」


 二人の言う『能力』とは、言うまでもなく超能力のことである。
 気付くも気付かないも、我々にそんなものが眠っているのだと言うのだろうか?


13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/23(金) 02:33:06.55 ID:LSo1/ZYY0
 
('A`) 「いや全然……ていうか、俺は超能力者じゃないし」

(*゚ー゚) 「そっか、本当に何も知らないみたいですね。
     じゃあ、順を追って説明しますね」

(,,゚Д゚) 「えーとだな、その、なんだ、アレだよアレ、アレアレ」

(*゚ー゚) 「ギコ君はいいから、私に任せてて」

(;,,゚Д゚) 「ん、あ、ああ……うん、悪ぃな」

( ^ω^) 「……」 ジー

(;,,゚Д゚) 「な、なんだよその目。  俺は説明苦手なんだよ」

( ^ω^) 「何でも聞けって言ったくせに……」


 そうして、しぃちゃんの説明がはじまる。

 当然というべきか、それはにわかには信じがたい内容だったが、
 実際に能力を持った人間が目の前にいる以上、俺たちにそれを否定する要素はなかった。


14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/23(金) 02:35:41.89 ID:LSo1/ZYY0
 
 最近、巷を賑わせている『超能力』の類。
 テレビで騒ぐような内容はデマやヤラセが殆どだが、
 我々の知らないところで本物の『超能力者』が増加していることも、また事実らしい。


(;'A`) 「……ふえー……」


 実際、昨今は常識で考えられないような、不可解な事件が増えた感じがする。
 彼女に言わせると、そういった事件の幾つかには
 『超能力』が絡んでいそうなケースが散見されるのだと。

 そして、この数年で後天的に能力を手に入れた者達には、一つの共通点がある。


(*゚ー゚) 「彼らは、ほぼ例外なく『多重人格』という性質を併せ持っているんです」


 世に言う『多重人格障害』と、ここで言う『多重人格』の大きな違いとして、『記憶の有無』がある。
 精神病の一種である前者が『障害』たる所以は、『記憶の欠如』を伴うことにあるのだ。

 噛み砕いて言うと、多重人格障害という病気は、
 別人格になっている間は、本人格や他の人格の記憶がないケースが多いらしい。
16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/23(金) 02:37:51.12 ID:LSo1/ZYY0
 
(; ^ω^) 「……」


 対して、最近生まれている『多重人格の超能力者』。

 彼らは、別の人格が活動している間も、
 その他の人格が活動の記憶を共有している、というのが基本らしい。
 また、人格同士による意思疎通も、意識的に人格交替することも、訓練次第で可能であると。


(*゚ー゚) 「そして彼ら──というか私達は、それぞれの人格で異なる能力を持ちます」

(*゚ー゚) 「各人格を『チャネル』と呼び、必要に応じて切り替えることができるんです」


 複数の人格(チャネル)を持つ超能力者──『Channeler』。
 人格解放の副次的な効果として、身体機能の向上を伴う。 
 呆れた話だ。  そこまでくると、最早超人と呼んでも過言でないのでは?

 また、いわゆる多重人格障害では、3つ以上の人格を有しているケースが多いのだと言うが、
 こと『チャネラー』に至っては、人格は主人格と副人格の2つに限定されることが大半らしい。
 
 2つの『Channel』を持つ超能力者。
 つまり『2ちゃんねらー』ってことか。
18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/23(金) 02:39:44.89 ID:LSo1/ZYY0
 
('A`;) 「……でもさ、君ら一体、どこでそういう知識を身に付けたわけ?」

(,,゚Д゚) 「知り合いに、こーゆーのに詳しい人がいるんだよ」

(*゚ー゚) 「親を失った私たちにも、何かと力になってくれて」


 メロンソーダを飲み干すと、ブーンが唐突に訊ねた。


( ^ω^) 「んで、僕らに接触したのは何故なんだお?」

(,,゚Д゚) 「そ、それはだな……」


 ギコは口ごもったが、しぃちゃんがそれに続ける。


(*゚−゚) 「私達の両親を殺した犯人は、まだ捕まってないんです。
     わかっているのは、相手が『チャネラー』であることと、
     この箱が狙いだったのではないかという事。  それだけ──」

('A`) 「……」

(,,-Д-) 「なんつーかよ、欲しかったんだよ、手がかりが」
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/23(金) 02:41:25.37 ID:LSo1/ZYY0
 
(*゚−゚) 「今までも数人の『チャネラー』と接触を試みたんですが、
     結局なんの情報も得られませんでした」

(,,゚Д゚) 「俺たちのほうが、自分たちの状態をよく把握してるってケースが大半っつうかさ。
     ちゃねらー達にゃあ、能力に自覚のない奴らも混じってたしさ。  あんたらみたいなね」

(*゚ー゚) 「ドクオさんの持ってた箱を見て、今度こそは、と思っちゃったんですけど、
     ちょっと早とちりっていうか、飛躍しすぎでした。  ごめんなさい」

(,,゚Д゚) 「……とーちゃん達の形見と、似たようなモン持ってりゃあな。
     そりゃ疑うわ。  だろ?」

(;'A`) ( ^ω^) 「はあ……」


 溜め息とともに、再び全員が押し黙る。
 彼らが俺たち兄弟を襲った理由はわかったが、それで納得がいったというわけでもない。
 現に、二人とも怪我させられちゃったわけだしさ。


21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/23(金) 02:43:13.51 ID:LSo1/ZYY0
 
(,,゚Д゚) 「ちなみに、俺の能力は『超感覚』」

(,,゚Д゚) 「って、知り合いに名付けられた」


 ギコは、精神を集中することで、任意の五感を高めることのできる能力者らしい。
 それは例えば千里眼(クレアボヤンス)的な望遠視力であったり、
 犬並みの嗅覚であったり、遠くの音を聞き分ける聴力であったり。

 別人格(アナザー・チャネル)は『タカラ』という名前で、非常に好戦的な性格。
 身体機能に著しい変化が起き、身軽かつアクロバティックな動作が可能になるのだという。

 これも広範的には超能力の一種に違いない……。
 つってもなんか、物は言いようって感じがするけどなあ。


(,,゚Д゚) 「あと、俺は『チャネラー』を見分けることもできるぜ。
     ……これは、相手が相当近くにいないと無理だけどな」


 まさに人間レーダーだな、と俺は思った。


('A`) 「それで、ブーンの事を『チャネラー』だと知ったわけか」

(,,゚Д゚) 「ああ、まさか全然自覚がなかったとは予想外だったけど」

(; ^ω^) 「僕だって未だ半信半疑だお……」


22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/23(金) 02:45:10.15 ID:LSo1/ZYY0
 
 ブーンは、体育館におけるギコとのいざこざで『ロマネスク』という人格(チャネル)に覚醒したらしい。
 ちなみに、『怪人ロマネスク』とは、
 ブーンの好きな萌えアニメに出て来る、猫の格好をした味方キャラクターの名前だ。
 アニメキャラを模した人格を生み出すなんて、ブーンらしいといえばらしいけれども。

 それから、皆の視線は自然としぃちゃんのほうに向く。

 
(*゚ー゚) 「私の能力は……ちょっと恥ずかしいけど、『金剛力』って名付けられました。
     他に例のない能力だから、こんな変なネーミングなんですけど。
     重力操作系の能力が絡んでるらしいんですが、あまり詳しいことはわからなくて……」

( ^ω^) 「具体的にはどんな能力なんだお?」 チュー

(;'A`) 「いや、お前は知らないほうがいいぞ、うん」

 ;;(*/−/);;

( ^ω^) 「?」


 目の前で恥ずかしそうに下を向く女の子が、
 白くて折れそうなこの細腕で、あんなクソでかい物を軽々担ぎ上げる様を見れば、
 ブーンはきっと腰を抜かすだろう。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/23(金) 02:47:30.20 ID:LSo1/ZYY0
 
(,,゚Д゚) 「別人格(アナザー)は『つー』。
     コイツの説明はまあ……ヤバいし面倒だから省略な」

(;'A`) 「ああ、それはもう充分にわかってる……」

(,,;゚Д゚) 「……え?  ひょっとしてもう、アイツに『遭った』のか?」

 ;; (*/−/)ノシ ;;

(,,;゚Д゚) 「よ、よく無傷でいられたな……」

(;'A`) 「さっぱり無傷じゃないって!  これこれ」


 切り裂かれた上着の左腕部分をちょいちょいと指差して示す。
 メスを光らせ、闇夜に笑うあの表情は簡単には忘れられそうにない。
 

(;*゚ー゚) 「そ、そうだ二人とも!
      確かめたいことがあるんですけど、ちょっといい?」


 当のしぃちゃんが、あたふたしながら話に割り込んだ。


('A`) 「確かめたいこと?」

(*゚ー゚) 「そうです。  ドクオさんの能力についてなんだけど」


25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/23(金) 02:49:26.21 ID:LSo1/ZYY0
 
(,,゚Д゚) 「そういや興味あるな」

( ^ω^) 「ニーチャンの能力?  3秒以内に寝れることくらいじゃねwww?」

(,,゚Д゚) 「……のび太か」

(;'A`) 「……いや、能力とかこれっぽっちもないし。  吉良吉影は静かに暮らしたいし」

( ^ω^) (爆破能力……だと……)

(*゚ー゚) 「それを今から確かめてみるんです!」


 そう言うとしぃちゃんは、ギコの右手と俺の右袖をきゅっと掴み、テーブルの上に引き出してくる。


(*゚ー゚) 「二人とも、ちょっと握手してみてくれませんか?」

('A`) 「え?  握手って……彼と?」


 『握手』と言われた時点で、しぃちゃんが手を繋いで欲しいのかと、
 ほんの少しだけ期待してしまった俺は童貞。
 まごついてる間に、体格の割にデカいギコの掌が、俺の手をぐっと握り締めた。


26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/23(金) 02:51:10.44 ID:LSo1/ZYY0
 
(,,゚Д゚) 「これでいいのか?」 ギュ

(;'A`) イテテテテ


 これで仲直り、一件落着ってことかいな。


(*゚ー゚) 「ギコ君、そのまま『能力』を使ってみて。  なんでもいいから」

(,,゚Д゚) 「なんでもいいって……」

(*゚ー゚) 「じゃあ、あの人たちの話してることを『聴いて』みて?」


 そう言って、この一角とは反対側の端、一番遠い席を指差す。
 水商売風のケバケバしい女二人組が、化粧たっぷりの顔を顰めながら煙草を吹かしている。


(,,゚Д゚) 「お安い御用だ。  まあ、『聴いた』ところで誰も得しないような気もするけど」

(,,-Д-) 「……」


 ギコが目を閉じる。  集中しているのか、ますます握る手の力が強まる。


27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/23(金) 02:53:04.60 ID:LSo1/ZYY0
 
(,,-Д-) 「……あれ?」

(;'A`) 「?」

(,,;-Д-) 「な、なんだこれ、おかしい」 ギュウウウウ

(;゚A゚) 「痛てててででで!!」


 骨がきしむほど握り締められ、俺は耐え切れず、その手を振り払う。


(,,;゚Д゚) 「……あ、『聴こえ』た」

(;'A`) 「……???」 ジンジン

(*゚ー゚) 「……どう、わかった?」

(,,゚Д゚) 「ああ。  あいつら今から男を呼んで乱交を……」

(;*゚ー゚) 「いやそっちじゃ……別に報告はいらないから!」


 しぃちゃんは大仰に慌て、真っ赤な顔で両手を振った。
 うーん、なんだか見てて飽きないなあこの娘。


(*゚ー゚) 「多分これが、ドクオさんの『能力』だと思うの」
29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/23(金) 02:54:57.24 ID:LSo1/ZYY0
 
(,,;゚Д゚) 「? どういう事だ?」

(*゚ー゚) 「えっと、見ててね」

(*゚ー゚) 「ってことで、わたしも……。
     ドクオさん、ちょっとごめんなさい」 ギュ

Σ(;*'A`) 「!」

( ^ω^) ガリゴリバリ


 しぃちゃんの小さな両手が、俺の掌を優しく包み込んだ。
 あまりに突然のことだったため、耐性のない俺は思いっきり戸惑う。
 袖から半分くらい出した手は、白く、やーらかく、とても温かい。  意に反してどぎまぎしてしまう。

 全く、相手は高校生なんだぞ……?
 これじゃあ童貞丸出しだ、俺。


(*゚ー゚) 「やっぱりそうみたい。
     ドクオさんの肌に触れていると、『能力』が使えないわ」

(,,゚Д゚) 「使えないって、お前……」


30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/23(金) 02:56:26.75 ID:LSo1/ZYY0
 
(*゚ー゚) 「うん。  今、一生懸命ドクオさんを持ち上げようとしてるんだけどね」 グイグイ

Σ(;'A`)


 穏やかな口調でとんでもない事を言う。
 ここで俺の身に何か起こっていたら、店内で注目の的だろうに。  そんなのたまったもんじゃないぜ。
 しかし、彼女の言うことが本当だとすると……。


(,,゚Д゚) 「相手の能力を、無効化……封じ込めるってことか?」

(*゚ー゚) 「……おそらくね。  詳しいことは、調べてもらわなきゃわかんないかな?」

(,,゚Д゚) 「……あの人に、だな?」

(*゚ー゚) 「うん」

(;'A`) 「その、『あの人』って一体?」

(*゚ー゚) 「さっきも言った、私たちの知り合いです。
     ドクオさんもその人に会わせてあげたいなあ。
     きっと、自分の能力を知る手がかりをくれますよ」


31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/23(金) 02:58:18.51 ID:LSo1/ZYY0
 
(,,゚Д゚) 「もちろん、おめーもなっ!」 ドン

Σ(; ^ω^) 「うぶっ」 ブッ

(;'A`) 「きたねっ」


 暇に任せてグラスの氷を食っていたブーンの肩を、ギコが乱暴に叩く。
 驚いた拍子に、ブーンの口から氷の欠片が飛び出し、テーブルに散らばった。


(;*゚ー゚) 「あう、テーブル拭かなきゃ。  布巾もらおっか」

('A`) 「……いや、いいよ。  そろそろ出y」

『きゃああ!』


 時計を確認し、俺がそう言いかけたところで、店内に短い悲鳴が轟いた。


32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/23(金) 03:00:14.41 ID:LSo1/ZYY0
 
('A`) 「……?」

(*゚ー゚) 「!」


 見ると、痩身で頬のこけた男が、中央の席と席の間に立って怒鳴り散らしていた。
 その足元では、アルバイトと思われるウェイターが一人、床に倒れている。
 小さな女の子を前に抱え込むようにしており、その手に何か光るものを……。

 あれは……ナイフ!?


<ヽ`∀´> 「どくニダ!  邪魔ニダ!  悪いのはお前らニダ!」


 男はただならぬ様相で、左腕に幼女の顎を捉えていた。
 そうして、右手でナイフを振り回しながら、強引に道を開いてゆく。
 その脇、蒼白で口を抑えているのは女の子の母親だろうか。


*( ;;)* 「ふわああああん!!   うえええええん!!」


 こんな時間に小さい子供を連れてファミレスなんかに……なんて言ってる場合じゃなさそうだ。
 第一、俺も高校生を連れてるわけで。  まったくもって人の事を言えないわけで。
34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/23(金) 03:02:02.71 ID:LSo1/ZYY0
 
<ヽ#`∀´> 「こんなモンはパフェとはいえないニダ!!
       床屋の看板を思わせる、あの白黒のパイプみたいなチョコが刺さってないニダ!
       ウェハースも小さい! 底はフレークの上げ底!  客を舐めるのもいい加減にしろニダ!
       こんなんでパフェを名乗ろうなんてちゃんちゃらおかしいニダ!
       謝罪しる!  賠償しる!  誠意を示せニダぁぁああ!!」


 男は謎の主張を喚き散らし、あたり構わず刃物を振るっている。  これは非常にマズい事態だ。


<ヽ`∀´> 「お前ら全員動くなニダ!  動いたら……」


 そう言って、女の子の首筋にナイフを当てる。
 女性がひっと小さい悲鳴を漏らす。  店内に緊張が走った。


*( ;;)* 「ぎゃあああああん!!  ぶええええええ!!  うびゃあああああ!!」

<ヽ;`∀´> 「あーくそ、大人しくするニダ!  二日酔いの頭に響くニダ!」

<ヽ`∀´> 「!」


 幼女を持て余し気味の男の視線が、不意にこちらへと向く。


35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/23(金) 03:04:14.70 ID:LSo1/ZYY0
 
(,,゚Д゚) 「!?」

(; ^ω^) 「ま、まずいお」

(;'A`) 「!  こっちに……」


 男はナイフを掲げたまま、真っ直ぐ俺たちの席に歩いてきた。


<ヽ`∀´> 「おいお前!  ちょっと来いニダ」

(*゚−゚) 「!」

<ヽ`∀´> 「聞こえなかったニダか!?  立て!  早くするニダ!」


 そう言って、男はしぃちゃんにその切っ先を向ける。


(,,#゚Д゚) 「てめえ! しぃに何しやが……」

<ヽ#`∀´> 「動くんじゃねえっつってるだろうが!!」


 横から立ち上がろうとしたギコだったが、
 男が再びナイフを幼女に向けたのを見て、その場でぴたりと止まる。


36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/23(金) 03:06:18.38 ID:LSo1/ZYY0
 
(,,;゚Д゚) 「くっ」

<ヽ`∀´> 「ガキが!  大人しくしてろニダ!!」

Σ(,,;゚Д゚) (!  こいつ……)

<ヽ`∀´> 「さあ!  さっさとするニダよ!」 

(;*゚−゚) 「……」


 男は左手でしぃちゃんの袖を掴む。  彼女はそれに抗うことなく立ち上がった。
 幼女を右手で突き飛ばすと、
 代わりにしぃちゃんの体を後ろから抱くようにして、ナイフを首に宛がう。
 幼女は泣きながら親のもとへ駆けていった。


(; ^ω^) 「あ、あうあう……」

(;'A`) 「し、しぃちゃ……」

<ヽ`∀´> 「いいかお前ら!  警察なんかに連絡したら、この娘がどうなるか……」

(;*>−゚) 「いたたっ……」


 男はそのまま、しぃちゃんの身体を引き摺るようにしながら入口へと向かっていった。


37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/23(金) 03:08:10.13 ID:LSo1/ZYY0
 
 ドアが閉まると、辺りはあっと言う間に喧騒に包まれる。


(;'A`) 「どうしよう?  お、俺、年長者の保護責任とかあばばあばば」

(; ^ω^) 「んなことどーだっていいお……」

(,,゚Д゚) 「ちとマジぃな。  あいつ、『チャネラー』だ」

(;'A`) (; ^ω^) 「!?」


 ギコが驚愕の事実をサラッと言ってのける。
 あ、あの男が超能力者だって……?  ただの頭おかしい奴にしか見えなかったのに。


(;'A`) 「と、とにかく、ああああいつを追おう!」

(,,゚Д゚) 「とーぜんだ!  行くぞ!」

(; ^ω^) 「ちょ、邪魔だお! どいてくださいお!」

(,,;゚Д゚) (まあ、けど、たぶん……)


 俺たち三人は、集まった人波を押しのけながら、一直線にドアへと向かった。


38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/23(金) 03:10:42.26 ID:LSo1/ZYY0
 
−−−−−

 駐車場に出ると、男はしぃの背中にナイフを当て、車のほうへ誘導する。
 車の脇に彼女を立たせると、後部座席からロープとガムテープを取り出し、下卑た薄笑いを浮かべる。


<ヽ`∀´> 「ホルホルホルホル。  乗せる前に、お前の手と口を縛らせてもらうニダよ」

(*゚−゚) 「……」

<ヽ`∀´> 「こっちを向けニダ。  うん? お前……」

<ヽ*`∀´> 「フヒヒヒヒ!  可愛い顔してるニダね。  テンション上がってきたニダよ」


 ナイフの腹でしぃの首を持ち上げ、舌なめずりをする男。
 肩から覗き込む格好で、顔、うなじと、品定めするように視線を動かす。
40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/23(金) 03:12:05.97 ID:LSo1/ZYY0
 
<ヽ*`∀´> 「むひひひ、こりゃあ思わぬ上玉ニダ。  なかなか愉しめそうニダね……!」

 
 ねっとりとした、舐め回すような視線が下方へと移ってゆく。
 その先にあるのは、制服の襟元から覗く白い肌と鎖骨のなだらかなライン。
 男は歓喜し、キムチ臭い息を荒げながら、しぃの胸元に左手を伸ばした。

 

(* ー )


 しかし、その腕は彼女の両手に阻まれる。


<ヽ`∀´> 「……あん?」




(*^ー^)


41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/23(金) 03:14:10.19 ID:LSo1/ZYY0
 
−−−−−
 
 雪崩れ込むようにしてドアから飛び出した俺たちだったが、
 外に出て、真っ先に飛び込んできた光景は、想定の範疇を遥かに超えるものだった。


(;'A`) (; ^ω^) 「!!」

(,,;゚Д゚) 「お、おわっと……」


(*゚ー゚) 「──」


 それはあまりにも非現実的すぎて。
 まるでスローモーションのように、俺の目に焼きついて離れなかった。


<ヽ;`∀´> 「な、何をす……アイゴー!?」


 あっという間の出来事だった。
 長い袖に包まったしぃちゃんの右手が、男の左手を掴んだかと思うと、
 ターンとともに、その場でぐるぐる振り回しはじめたのだ。

 男の長身が、遠心力によっていとも容易く宙に浮き上がる。
 なおも彼女のスピンは加速した。
43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/23(金) 03:16:13.33 ID:LSo1/ZYY0
 
 それは言わば、片手同士のジャイアントスイング。
 そう、両腕じゃなく、たったの右手一本で、だ。


(;'A`) 「な、なっ……ええ!?」


 相手の男が『どんな能力者だったのか』、
 また、『いかなる別人格を有していたのか』、
 そういったことは、一切考慮に値しない、とばかりに。


 一回転。


( ゚ω゚) 「──」


 二回転。


(*゚ー゚) 「──」


44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/23(金) 03:18:09.89 ID:LSo1/ZYY0
 
 三回転目と半分で、


(*>ο<)

<ヽi||`∀´> 「!!」


 勢いよく、その体を放り投げる。


(;'A`) 「──!!」


 単位にすると、3室伏ってところだろうか。
 無邪気で可憐なサイドスロー。
 小さな体躯に有り得ないポテンシャル。  まさに怪物……モンスター・ガール。


<ヽ;`∀´> 「に、にだぁぁぁああああああぁあ──!!」


 そうやって、事態は一瞬で蹴りがついた。


45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/23(金) 03:19:49.94 ID:LSo1/ZYY0
 
 俺はただ、その出来事を。
 ビルのほうへと吹っ飛んでいく男の姿を。


(,,;゚Д゚)  ( ゚ω゚)


 何事もなかったかのように手をはたく、彼女の涼しげな表情を──


(;゚A゚)


(*゚ー゚)


 その能力の、規格外っぷりを。


 呆気に取られて、眺め続けるばかりだった。



 (続く)
 
Back
inserted by FC2 system