( ^ω^) Channelers のようです 
2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/07(水) 22:12:16.28 ID:byLdg7Qz0
 
(*゚ー゚) 「ギコくん?」

(,,゚Д゚) 「……見つけた」

(*゚ー゚) 「!」


第一話のラストと同じポーズのまま、
二つの視線が、後ろ手に教室のドアを閉めようとしている、ブーンのもとへと伸びていた。


(*゚ー゚) 「……あの、ぽっちゃりした人、だよね?」

(,,゚Д゚) 「……ああ、おそらくはな」


謎のオーラを醸し出す二人組。
まあ、どうせブーン系マニアの貴様やお前であれば、彼らの名前くらいは予想の範疇であろうが。

二人が近々ブーン達の前に立ちはだかるのは、登場の仕方からして間違いない。

そう。


(*゚ー゚) (あれは確か、B組の内藤くん、だったよね)


確定的に、明らかなのだ。


3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/07(水) 22:13:21.24 ID:byLdg7Qz0
 
−−−−−

小学校の頃の話だ。
今と違って、俺もまだそれなりに交友関係が広かった。 相手が女の子でも普通に話せてた。
当時、仲のよかった一人の子に言われたことがある。

「どんなに苦しくても、おいしいものを食べて、うんこすればなおるよ!」

高熱を出してうなされていた俺を勇気付けてくれた、とても心強い言葉だ。
熱で朦朧としていた俺には最初、断片的にしか理解ができなくて、
「おいしいうんこ食べれば治る?」 そう聞き返してぶん殴られた記憶がある。

彼女は看護士になったと風の噂で聞いた。 献身的な白衣の天使として活躍しているのだろうか。
もっとも、患者を容易にぶん殴るナースなんて俺は御免だが。

しかし俺は今ここに、もっと革新的な新説を提唱する。


('A`) 「寝ればだいたい治る!!」


ベッドに潜って数時間。
見事もとの姿に戻った俺は、着の身着のままで流し台の食器を洗っていた。


4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/07(水) 22:15:16.85 ID:byLdg7Qz0
 
(; ^ω^) 「わかったから尻を振るなお! 気持ち悪い!」


そうして俺は、帰って来たブーンに対し、無事にオトコに戻れたことを告げた。
ホッとしたと同時に、ちょっとだけ寂しそうだったブーンの表情変化を俺は見逃さなかったが。


( ^ω^) 「というかニーチャン……早くそれ脱いで返してくれお……」

('A`) 「ふんふんふ〜ん。 ちょっとエプロンが食い込むな」 カチャカチャ

( ;ω;) 「ねえお願い! それ以上僕のメイド服を汚さないで!」

('A`*) 「あ、オナラでそう。 でs」 ブッ

( ;ω;) 「いやああああああ!!」


ワンピースの裾が、黄色い風にひらひらと揺れた。


5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/07(水) 22:16:31.68 ID:byLdg7Qz0
 
●第二話  『 うたいびと 』


(-A-) 「はあ……やっぱ日本人だなあ……チクショーめ」


風呂釜から腕を伸ばしつつ、俺は今日の午前中、わずか数時間の不思議体験を反芻していた。


('A`;) 「夢……なわけない、現実だよなあ」


着ていたメイド服を強引に脱がされ、こうやって湯船に浸かってるのは現実。
ブーンがぷりぷり怒っているのだって現実だ。

ここから導き出される結論は一つ。
俺は女の子になり、メイド服を着た。  人類は滅亡する。


6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/07(水) 22:18:54.11 ID:byLdg7Qz0
 
('A`) 「ふぃ〜、さっぱりさっぱり。 さっぱり妖怪あらわる」


風呂から出ると、何故かブーンは正座で満面の笑顔を湛えていた。


(* ^ω^) 「おっおっおっ。 じゃあ僕も入ってくるお」


自分の携帯を閉じながら、慌ててそう言い放つ。
俺が入浴してる間に何かが起きたのは明らかだった。
あれだけ怒って湯気を出していた肉まんが、今ではくしゃくしゃのえびす顔。
必殺破顔ダッシュガンガン。  ホクホクというSEすら聞こえてきそうだ。 


('A`) 「……うん、気持ちえがったぞ、早ぅ入ってきなはれ」

( ^ω^) 「ういすー。 キレイなワタシになってくるおー」


ブーンがスキップしながら脱衣所に向かう。 地響きが気になるのでやめて欲しい。
風呂場からヘタクソな鼻歌が聞こえてきたところで、スネークは探索を開始した。


7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/07(水) 22:20:24.17 ID:byLdg7Qz0
 
('A`) 「おわっ! 手と足と頭が滑ったー!」


無造作に置かれていたブーンの携帯を躊躇なく開き、着信履歴をチェックする。


('A`;) 「すまん弟! 兄ちゃんはな、決して悪気があったわけじゃ……」


最新の20件は実家や俺からのコールで埋め尽くされている。
さしたる異常が無いことに安堵すると、続いてメールフォルダにメスを入れた。


('A`) 「信じて……おっ」


『ニーチャン』や『カーチャン』という送り先のメールが並ぶ中、明らかに異彩を放つメール。
最新の一通には、アドレスしか表示されていなかったのだ。
つまり、ブーンが携帯の電話帳に登録していない、どこかの誰かから受信したメールだということだ。


('A`) 「ふふふ、こいつが弟を惑わした元凶か……」

('A`) 「そうら、こうしてやる!」 ピッ


そう言って、ジョジョ立ちのままパンドラの箱を紐解いた。


8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/07(水) 22:22:25.92 ID:byLdg7Qz0
 
−−−−−

次の日の夕方。
バイトが終わると、俺は一目散に現実から逃げた。
逃げて、逃げて、その足で真っ直ぐ駅前方面へと向かった。


('A`) (たぶん今日も来てるはずだけど……)


傷心の俺を癒してくれるのはやっぱりあの人しかいない。
駅の真正面に位置する公園。 その場所に近づくにつれ、自然と歩く速度が上がる。

ひょっとしたらいないかも知れないと不安になったが、その心配は杞憂に終わった。


('∀`) (……よかった)


並木の向こうから聞こえてくる、アコースティック・ギターの軽快な音色。
それに乗せた伸びやかでクリアな歌声。  時折、語尾がハスキーにかすれるのが特徴的だ。

周りには、学校帰りの高校生を含む7、8人が陣取り、肩でリズムを取っている。
彼女の振りまく笑顔と音楽が、その一角に独特の空間を作り出していた。


9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/07(水) 22:24:04.68 ID:byLdg7Qz0
 
从 -∀从  ♪ ♪ ♪

('A`) 「……」


俺はいつも通り、取り巻く集団から一歩離れたところに立ち止まり、彼女の歌に聞き入る。


从 ゚∀从 ゙ ♪ ♪ ♪

从 ^∀从  ♪ ♪ ♪


(*'∀`) 「……!」


俺の姿を見止めると、はにかんだような笑顔で首をかたむけ、挨拶してくれた。
高校生のひとり二人が俺のほうに振り返ったが、すぐに何事もなかったかのように向き直る。
もうそれで充分だった。 幸せにとろけそうになりながら、残りの演奏に酔いしれた。

曲が終わり、輪の中央で拍手を受ける彼女──ハインさんは、それらに照れ笑いで応える。


10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/07(水) 22:25:30.57 ID:byLdg7Qz0
 
さらに二曲ほど演奏した後、彼女はおもむろに口を開いた。


从 ^∀从 「みんな、今日もアタシの歌を聴いてくれてありがとう!」

从 ゚∀从 「次がラスト! いつものアレ、いきます」


ラストの一言に、高校生の集団からえーっという不服の声が上がる。


('A`) (黙ってろっての。 ハインさんのアレが聴けるんだから)

从 ゚∀从 「じゃ、最後まで聴いてってね。  ──『シエンタ』」


不可思議なコード進行のイントロに始まり、抑揚に富んだ歌声が重なる。
アップテンポながらもノスタルジックな雰囲気のメロディが、
擦れたビブラートと相俟って、言い様の無い独特の雰囲気を演出している。
通行人が歩く速度を緩める。  中には足を止めて聴き入る者もいた。


('A`) (……すごい。 完璧だ)


今から数年前に活躍し、一世を風靡したモンスター・バンド、『Work-Taker』。
『シエンタ』は、彼らの4番目のアルバム『ソナーゲ』に収録されているナンバーだ。

12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/07(水) 22:28:57.07 ID:byLdg7Qz0
 
ロックに民族音楽の要素を取り入れた、ミステリアスで耳に残るメロディ。
ヴォーカルの中性的なルックスと、神の歌声とまで称されたクリアな超高音。
インディーズの頃から人気はあったらしいが、メジャーデビュー後はミリオンヒットを連発。
そして、その人気が翳る間もなく、最も脂の乗っている時期に、衝撃の解散宣言。


从 -∀从  ♪ ♪ ♪


今こうやって、彼らの歌のひとつを演奏している彼女──
ハインさんもまた、『wktk』に影響されて音楽を始めたうちの一人だ。
流行っていた当時はあまり興味がなかったが、
彼女と知り合ってからは、俺もwktkの歌をよく聴くようになった。


(*'A`) (……すげえ、あんな高音よく出せるなあ)


彼女の歌声はとても魅力的だ。
本人曰く、ギターはまだまだ、らしいけど。

この素敵な演奏を路上で聴けるのは、今のうちだけだと思う。
現に、彼女を取り囲むファンの数は日々増えつづけている。
周りに誰もいなかった頃から、この歌声を聴いている俺が言うのだから間違いない。


13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/07(水) 22:30:29.10 ID:byLdg7Qz0
 
从 -∀从 「……」


無事に曲を終え、ハインさんは割れんばかりの喝采に包まれた。
ギターを抱えて満面の笑みを返す彼女に、俺も一言声をかけたかったが、それは叶わなかった。
曲が終わった途端、数名の取り巻きがガッチリ齧りついて離れなかったからだ。


从 ゚∀从 「……っ!」


そんな彼女を一目見やると、踵を返す。
何か言いたげな視線がこちらに向けられたが、
そうやって気にかけてくれるだけで充分だ。  俺はそのまま公園を後にした。

国道沿いの歩道をテクテク歩きながら、俺は先ほどの余韻に浸っていた。


('A`*) 「はあ……今日も可愛かったなあ、ハインさん」


以前のストレート・ヘアーも好きだったが、今のハネた髪型もよく似合っている。
今の俺にとって、まともにしゃべれる数少ない……いや、唯一人の女性と言っても過言ではない。

ハインさんはバンドを組まないのかな、なんて、時に思う。
まあ俺としては、彼女が誰かと組むようになっちゃうのはちと寂しいものがあるけれども。

15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/07(水) 22:32:20.37 ID:byLdg7Qz0
 
('A`) 「最近は、『wktk』のコピーも板についてきたなあ」


彼女が敬愛してやまないバンド、『Work-Taker』……通称・wktk。

活躍していた当時のムーヴメントは凄まじいものがあった。
あらゆるメディアにおいて、彼らの音楽を耳にしない日はなかったほどだ。
どこへ行ってもwktk、wktk。  解散して数年経った今でもなお、伝説のバンドとして語り継がれている。

メンバーの一人は現在プロデューサーとして活躍しており、
彼のプロデュースするミュージシャンは、バンド、ソロ、ユニットを問わず、立て続けにヒットを飛ばしている。
メディアの呼称する、『wktk・チルドレン』。 それらの奏でる音楽もまた、メディアで耳にする機会は非常に多い。
二次的なブームに後押しされ、まだまだwktkの伝説は色濃く、褪せることがない。


16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/07(水) 22:33:53.89 ID:byLdg7Qz0
 
そんな事を考えつつ家に着くと、先に帰宅していたブーンが夕食の準備中だった。


( ^ω^) 「おいすー、お帰りニーチャン。  早速だけど風呂掃除よろしく」

('A`) 「ただい……ん? なんか機嫌良さそうだな?」

(; ^ω^) 「え? き、気のせいだお! そんな事は一切ありませんお!」

('A`) 「ならいいけどさ。 夕飯なに?」

( ^ω^) 「マグロのカルパッチョ、舌平目の白ワイン蒸し、カルボナーラ」

(;'A`) (何この人! 絶対機嫌いいし!)

( ^ω^) 「やりイカのマリネもございます」

Σ(゚A゚) (や……ヤリイカ!?)

('A`) (ヤリヤリだけにヤリイカですってか! もうやだ! この子ぜったい許せない!)

( ^ω^) 「何か言ったかお?」

('A`) 「いえまったく」


17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/07(水) 22:36:06.99 ID:byLdg7Qz0
 
( ^ω^) 「つーわけで、出来上がるまでもちっと待っててくれお」

('A`) 「しょーがねえ……風呂でも洗っとくか」 ムシャムシャ

( ^ω^) 「てかさ、オブラート食うのやめてくれる?」

('A`) 「好物なんです……」
_, 、_
( ^ω^) 「薬箱の買い置きまた持ってったお? 粉薬飲む時に困るんだけど」


そんなヤリ取りを繰り返すうちに夜の帳が降りる。
ちなみに夕飯は鯖の味噌煮と野菜炒めだった。


18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/07(水) 22:37:25.65 ID:byLdg7Qz0
 
互いに入浴を済ませ、居間でだらだらと時を過ごす。
超能力の特番を観ながらジュースを煽る。  何故だか最近は本当にこういう番組が増えた。
ブラウン管の中では、自称超能力者の若者が顔を顰めてコップに念力を送っている。


('A`) 「ちょーのーりょくがあるってんなら、女の子の下着でも透視すりゃーいいのに」


耳を掘りながら呟いた。
そうして21時に差し掛かった頃、横にいたブーンが不意に口を開いた。


( ^ω^) 「おっお……ニーチャン、僕ちょっとコンビニ行ってくるお」

('A`) 「こんな夜遅くに?」

( ^ω^) 「まだ9時だお。 なんか買ってきて欲しいもんあるかお?」

('A`) 「あら珍しい。 いつもはパシリなんて嫌がるくせにねー」

(; ^ω^) 「お……と、とにかく! 何もいらないのかお?」

('A`) 「んー、俺は別にいいや」


19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/07(水) 22:39:04.63 ID:byLdg7Qz0
 
( ^ω^) 「わかったお。 立ち読みしてくるからちょい遅くなるかも」

('A`) 「へいへい。 さっさと行っておいで」

( ^ω^) 「行ってくるおー」 バタン

('A`) 「……」


ブーンが出て行ったのを見計らい、すぐさま行動を開始する。
テレビを消し、服を着替えて準備を整えた。
コンビニというのは嘘だ。 何故なら、俺はブーンの行き先を知っている。


('A`) 「弟よ……人生には三度のモテ期があるという」


『 件名:はじめまして。

内藤くんですよね?  私、D組の猫塚といいます。
突然こんなメール送っちゃってごめんなさい。
アドレスは友達に教えてもらいました。

貴方に大事なお話があります。
明日の夜9時半に、学校の前で待ち合わせしたいんですが、
来てもらえないでしょうか?
お返事待ってます 』


20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/07(水) 22:41:24.37 ID:byLdg7Qz0
 
('A`) 「昨夜のメールは、春の到来を告げる福音。 お前がそう勘違いするのも無理はない」


だって、告白なら今日の放課後とかに言えば済むことじゃん!
なんでわざわざ夜に呼ぶ必要あんねん!
これはフラグか? 不純な異性交遊ちゃんのフラグなのか?


('A`) 「嫉妬の──もとい、正義の血が騒いでやまん。 すぐに出動しよう」 


ブーンの横で楽しそうに笑う女の子の姿を想像してみる。
その顔は、自然とハインさんのそれに置き換えられていた。


('A`) 「ありがとうハインさん──今日あなたの歌を聴いて、ようやく決心がついたよ」


テレビのリモコンを掴んで一人ごちる。
最後に映ったローカルニュース、市長の顔がアップになったところで画面が暗くなる。


(゚A゚) 「可愛い弟をたぶらかす、色ボケの悪女を粛清する決心がね!」


俺はいつもの上着を羽織ると、勢いよくドアを開け、夜の街へと飛び出したのだった。


21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/07(水) 22:43:32.36 ID:byLdg7Qz0
 
−−−−−

私立VIP学園──の、目の前の、路地。
正門近くの電柱の影に息を潜ませ、俺は辺りの様子を窺った。


(;'A`) 「ふう……思った以上に早い到着だったな」


俺のアパートからここまではそう遠くない。 時刻は21時20分。
校舎には誰も見当たらない。 明かりのない建物は少々不気味な雰囲気を漂わせている。
辺りに人通りは殆どなく、どこからか犬の遠吠えが響いてくるばかりだ。


('A`) (ありゃ……早く来すぎたか、それともとっくにどこか移動しちまったか)


正門の隣に職員用と思われる小さな入口を見つけ、そこから侵入を試みる。
ここが開いてるってことは、学園の関係者がまだ校舎に居るのだろうが、
その考えに至ったのは侵入して少し歩いた後だった。
まあ、見つかっても何とか誤魔化すことにしよう。 神様はきっと許してくださる。

敷地内に入ると、正面には学舎へと続く舗装された広い道。
その脇には芝生に覆われた段差があり、下はグラウンドになっていた。


22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/07(水) 22:46:22.48 ID:byLdg7Qz0
 
(;'A`) 「ブーン……まさかとっくに告白されて、校舎の中でえっちな事を!?」


あらぬ予想に頭を抱える。
とその時、後方より人の気配を感じた。
気配というより話し声だ。  今は門の向こう側だが、段々とこちらに近づいてくる。


Σ(;'A`) (む、ブーン達か? やべっ)


俺は暗がりを小走りに移動し、咄嗟に近くの草むらへ潜り込んだ。
そうでなくとも、辺りには南国のデカいヤシみたいな樹が幾つか植林されていて、
隠れるところには困らなさそうではあったが。

しゃがんで息を殺しているうちに、足音は五メートルほど先まで近づき、そこで止まった。
耳を傾けると、聞こえてきたのは男女の話し声。
ビンゴだ。  きっとこれから、ここでブーンへ甘々ちゅっちゅな告白タイムが……


「ああ、間違いない。 そこだ」

「そっか、ありがとう」

「じゃあ、とりあえずそっちは任せた。 俺は警備員を何とかしてくる」

「うん……わかった」


23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/07(水) 22:49:09.57 ID:byLdg7Qz0
 
('A`) (ありゃ、ブーンの声じゃない?)


そこにいる男女が何者なのかはわからないが、
ブーンではないことは明らかである。  これじゃ俺、ただの出歯亀だ。 
一つの足音は校舎のほうへと遠ざかっていった。

そして、もう一つの足音は──。


(;'A`) (えっ? えっ?)


真っ直ぐ、こちらに近づいてくる。
まるで、ここに俺が居る事を見透かしたかのように。


(;'A`) (いかん! 俺の脳が危険信号を発している!)


見つかると学園への不法侵入になるのだろうか?  いや、なんとか誤魔化せば……。
今こそ人狼で鍛えた俺の嘘八百がうなりを上げるときだ。
頑張れドクオ! 口先三寸でどうにかしろ!


(;'A`) (どう言い訳しよう? ええと、急に喉が渇いたので……)


24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/07(水) 22:51:02.07 ID:byLdg7Qz0
 
「内藤くん? そこに居るんでしょ?」


不意に声をかけられた。
完全に位置はバレている。  俺は観念し、草陰から飛び出した。


(;'A`) 「す、すみません! あまりにいいヤシの木だったのでつい!」


(*゚−゚) 「……!?」


そこでは、制服姿で背の低い女の子が眼を丸くしていた。


(*゚−゚) 「……あれ?」

(;*゚ー゚) 「あなた、だれ?」

(;'A`) 「い、いえその、私全日本ヤシの樹大好き協会の内藤ドクオと申しまして……」


必死でごまかしながら、名刺を取り出すような素振りで上着のポケットを漁る。
ていうか本名名乗っているし。
や、やべえ。  これじゃ全然ごまかせてねえぞ。


25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/07(水) 22:53:29.35 ID:byLdg7Qz0
 
(*゚ー゚) 「え? ないとう、って……」

(;'A`) 「唐突な渇きをですね、大好きなヤシジュースでですね、ええと、そのっ!」


あたふたとよくわからない身振り手振りを繰り返す。 ボディランゲージは勢いが重要だ。
それと同時に、ポケットからころりと何かが地面に転がった。


(;*゚−゚) 「あ、何か落ちましたけど……」

(;'A`) 「あ、え? あっ」

(* − ) 「……!!」


それは先日の、カプセルが入っていた小箱だった。
ああ、もしあの人に出会ったら返そうと思って持ってたんだった。

月明かりに照らされて、
黒い表面と、そこに印字された銀色の文字が、鈍い輝きを放っている。


(* − ) 「そ、それ……」

(;'A`) 「あ、あーすみません、会員証明が……」

(;'∀`)b 「落ちちゃいましたよ! ヤシの実だけにね! ははは……」


26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/07(水) 22:56:14.69 ID:byLdg7Qz0
 
そう言って、汗をふきふき小箱を拾い、元のポケットに収める。


(* − ) 「会員!? 何、それ……」


何だか女の子の様子がおかしい。
箱を見た途端に表情が強張り、そのうち彼女はわなわなと震え出した。


(* − ) 「まさか……貴方が……」

(;'A`)b 「そーぉなんです、全国の会員に南国の雰囲気を……」

(#゚−゚) 「答えてっ!  3年前の”あの事件”、貴方の仕業なの!?」

Σ(;'A`)b 「ひいっ!? え、ええっ!?」


突然、女の子が割れんばかりの叫び声を上げた。

妙な迫力に気圧され、気付けば俺は脱兎のごとく逃げ出していた。
こけそうになりながら芝生を蹴り、段差を一気に駆け下りる。

28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/07(水) 22:58:41.31 ID:byLdg7Qz0
 
(;'A`) (って、グラウンドのほうに逃げてどうすんだよ!)


学園の入口、つまり正門は逆方向である。
しかし今さらそんな事を言ってもどうしようもない。

ど、どこかに抜け道とかないんだろうか?
そう考えながら最後の段差を飛び降りた際、
足がもつれて転びそうになり、俺は地面に掌をついてこらえた。

ざっ。


(*゚−゚) 「……」

Σ(;'A`) 「ぬおっ!?」


手をはたきながら顔を上げるのと、目の前で女の子が足ブレーキをかけるのは同時だった。
目眩を起こしそうな状態の俺とは違い、
グラウンドの端で対峙する彼女は、ほぼ息を乱していない。
ああ、なんという体力だろう。  若いって本当に素晴らしい。

30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/07(水) 23:01:02.96 ID:byLdg7Qz0
 
(;'A`) 「失礼しました! だ、大日本バナナ愛好会の方だとは知らず無礼を……」


言いながら、くるりとターン。
俺は今度こそ、正門のほうに向かって一目散に駆け出した。


Σ(;゚A゚) 「……うわっ!?」


その刹那。
びゅん、という音がして、俺の横すれすれを黒い何かが横切った。
続けざま、がしゃんという音とともに、目の前のフェンスから何かがずり落ちる。

それは、体育系の部活動が使うような、ロープのついた一本のタイヤだった。
つまりこれは、俺の後方から飛来し、フェンスに叩き付けられた、ってこと……?


(;'A`) 「え、ええ、えええ!?」


あまりの事に足を止め、俺は恐る恐る振り返った。


31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/07(水) 23:03:09.88 ID:byLdg7Qz0
 

それは幻想的な光景だった。


校舎の巨大なシルエットをバックに。

少女が眼を吊り上げ、薄桃色の口唇を尖らせている。


満月の強い明かりがその横顔を照らし。

乾いた軟風が、栗色の前髪を妖しく揺らした。


そして、そこから覗く赤い瞳。

射抜くように、俺の体を真芯に捉えていた。



32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/07(水) 23:05:47.16 ID:byLdg7Qz0
 


− Channelers のようです −



34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/07(水) 23:07:27.93 ID:byLdg7Qz0
 
(;゚A゚) 「あ、あわ、あわわわ……」


こんな事、誰が予測できただろうか。
いや、できるわけがない。

大学中退、フリーター、年齢=彼女いない歴。
もちろん、童貞オプション標準装備中。
親には留年と嘘を通し、自堕落で退廃的な生活を送る、正真正銘のダメ人間。


そんな俺の前で繰り広げられている事象は、
20数年生きてきた中で、

初めて体験する『人智を超えた能力』であり、

最も神秘的で、印象に残る光景であり、


(*゚−゚) 「……」


これから起こる、数々の事件への幕開けでもあった。



(続く)

Back
inserted by FC2 system