第32章
- 5 名前:第32章 「その手に君は何を抱く?」:2009/07/08(水) 20:49:18.26 ID:kdIqD3Ym0
- (#^ω^) 「……」
(メA`) 「……」
(#^ω^) 「もういっぺん言ってみろ、ドクオ!!」
(メA`) 「……しょうがない、そう言ったんだ」
俺がそういった瞬間、内藤が俺に向けて殴りかかってくる。
どう見てもケンカなどしたことのない殴り方だ。
力が入りすぎてて固いし、当たっても大して痛くも無い。内藤の殴り方はそんなものだ。
(#^ω^) 「あぁああ!!」
(メA`) 「っ……!」
しかしそれでも痛いものは痛い。体ではない、心の話だ。
今まさに現在進行形で内藤は俺に失望しているんだ。
その事実に俺は叫びだしそうになる、それを何とか押しとどめる。
先ほどから俺がしている作業はおおまかそんなものだった。 - 8 名前:第32章 「その手に君は何を抱く?」:2009/07/08(水) 20:52:06.82 ID:kdIqD3Ym0
- (#;ω;) 「ふざけんな……!! ふざけんなふざけんなふざけんな!!!
なんで、なんでジョルジュが死ななきゃならないんだお!! なあ!!
答えろよ! ドクオ!! お前があそこで銃を撃たなきゃジョルジュは死ななかったんじゃないのか!!
答えろ!! ……答えろって言ってんだろ!!」
そう言って俺の胸倉を掴む。それでいい。ジョルジュは死んだ。それは動かしようなない事実だ。
さっき放送が入った。その前からなんとなく嫌な予感はしていた。
見捨てたとはいえ、やはり友達だった人物だ。それが死ぬなんてことはあってほしくなかった。身勝手な話だが。
だが、ジョルジュの死は簡潔に、淡々と伝えられた。そのすぐ後だ。内藤が俺に激昂したのは。
殴られながら禁止エリアは暗記した。こんなときにも冷静な自分がいたことには辟易してしまう。 - 13 名前:第32章 「その手に君は何を抱く?」:2009/07/08(水) 20:55:50.58 ID:kdIqD3Ym0
- (メA`) 「……しょうがなかった」
(#^ω^) 「まだ……まだ言うのかお!!
返せ!! ジョルジュを返せよ毒田!!」
自分でも不思議だった。ジョルジュが死んだ時は流石の自分も涙の一つぐらいは流すだろうと思っていたのだ。
でも、実際は違った。涙を流すどころか禁止エリアなど、自分のことだけを考えていると考えられてもおかしくない言動と行動をとった。
それがやはり内藤には気に食わなかったのかもしれない。でもこれが自分と言う奴なのだ。
(#^ω^) 「大体なんでだお!?
なんで僕は守ってジョルジュは守らないんだお!?
ジョルジュも生きたかったに決まってるお!! なんで、なんで僕だけなんだお!!」
('A`) 「……」 - 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/08(水) 20:59:38.38 ID:kdIqD3Ym0
- そう言えばなんでだろう。
ほぼ無意識で内藤を守らなければいけないという意識にかられていた。
なんでだろう。俺はふと自分の記憶を掘り起こす。長岡を見捨ててまで内藤を守る理由。
('A`) 「……はは」
(#^ω^) 「……っ! 何を、笑って……!!」
('A`) 「お前は覚えてないかもしれないけどな、ブーン。俺は、お前に感謝してんだぜ?」
- 17 名前:第32章 「その手に君は何を抱く?」:2009/07/08(水) 21:01:33.55 ID:kdIqD3Ym0
- 中学時代の話だ。
俺と内藤は一緒の中学だった。まあ話したことなんてなかったが。
まあ、なんと言うか、俺はいじめられていた。何が気に食わなかったのかはよくわからないがそんなもんだろう。
「はい、毒田しばきの刑ー」
「うひゃひゃwwwwww毒田なにもしてないのにwwwwwwぱねぇwwwwww」
「ガム喰いたい」
('A`) 「っ……」
このパンチは、まあ痛かった。それでも苦痛はなかった。Mだからとかではない。
ただただ何も感じなかった。学校生活にも、家庭環境にも何も。
('A`) 「……」
いつの頃からか、学校には行かなくなった。
親は何も言わなかった。多分感づいていたのかも知れない。
毎日毎日陽が出ては落ちていく姿を部屋で見ていたのだ。 - 20 名前:第32章 「その手に君は何を抱く?」:2009/07/08(水) 21:04:27.90 ID:kdIqD3Ym0
- ('A`) 「……」
何も感じなかった。何も喋らなかったし何も起きなかった。
学校で自分を嘲笑っている奴がいると思うと少し気になりはしたが悔しいとかそんな感情は一切として出てこなかった。
つまり俺は灰色の窓も扉も無い部屋でぽつんと体育座りをしていたのだ。
( ^ω^) 「毒田クーン!! 学校行くおー!!」
('A`) 「……」
その俺だけの灰色の世界にずかずかと入り込んできたのは内藤だった。
内藤は純真とKYのハンマーを持って窓のない部屋の壁をぶっつぶしてきたのだ。
('A`) 「あのな……俺は、もういいんだよ」
そう呟いた俺の声は、ずいぶん久しぶりに出したからだろう、声帯がその機能を忘れたかのように小さかった。
声を出したあと、少し恥ずかしくなってしまったかのようだった。 - 23 名前:第32章 「その手に君は何を抱く?」:2009/07/08(水) 21:07:30.89 ID:kdIqD3Ym0
- ( ^ω^) 「? いいはずがないお!」
――何をこいつは呑気なことを。
俺が感じた最初の思考はそんなものだった。
俺は内藤を帰した。学校など必要ないと思っていたからだ。
- 25 名前:第32章 「その手に君は何を抱く?」:2009/07/08(水) 21:11:40.35 ID:kdIqD3Ym0
- ――次の日。
( ^ω^) 「毒田クーン! 学校行くおー!!」
('A`) 「……」
――また、次の日。
( ^ω^) 「毒田クーン! 学校行くおー!!」
('A`) 「……」
――さらに、次の日。
( ^ω^) 「ドクオー! 学校行くおー!!」
('A`) 「……」
俺が部屋の壁を何度塗りなおしても、内藤は俺の部屋の壁をぶち壊した。
どんなに振り払おうとしても、内藤は何度も何度も俺の部屋をハンマーでノックした。
――そして何度目かのノックかもわからなくなったある日、俺はついにぶちぎれた。 - 28 名前:第32章 「その手に君は何を抱く?」:2009/07/08(水) 21:14:18.90 ID:kdIqD3Ym0
- (#'A`) 「ああああああああ!! ふっざけんなよ!!
そろそろうぜーんだよお前!!」
(;^ω^) 「おっ……?」
(#'A`) 「んだよその顔は!! うざいんだよ! お前も俺に突っ掛ってくる奴らも!!
とにかく、もう来るな!! わかったな!!」
(;^ω^) 「お……」
(# ) 「とにかく!! もういい!! だいたい同じクラスでもないのになんなんだよ!」
そう言って俺は玄関に入ってまた新しい壁を塗りなおすため内藤に背を向けた。
こんなに感情が揺さぶられたのは初めてだった。
(;^ω^) 「ドクオ……泣いてるのかお?」
( ) 「……え?」 - 30 名前:第32章 「その手に君は何を抱く?」:2009/07/08(水) 21:17:42.07 ID:kdIqD3Ym0
- パッと自分の頬を触る。
そこには、確かに水の感触があった。その水源は間違いなく自分の目からだった。
不思議だった。人前で泣くなんてことは多分今となってもこの時が最初で最後だった。
なにかが自分の中で弾けてしまったのかもしれない。
( ^ω^) 「……」
(#;A;) 「な、何がおかしいんだ」
( ;ω;) 「おおーん、ドクオ! 泣くほど辛かったなんて! ブーンがよしよししてやるお!!」
(#;A;) 「ぬあっ、ちょっおまっくんなくんなアッー!!」
そして男2人、家の前で泣き合った。頭の撫で合いもした。
はたから見ればかなり異様な光景だったように思える。
そしてなんだかんだで説得されて学校に行くことになった。
そこからの経過は自分でもわけのわからないことだった。 - 32 名前:第32章 「その手に君は何を抱く?」:2009/07/08(水) 21:21:33.03 ID:kdIqD3Ym0
- ('A`;) 「……」
( ^ω^) 「ほらほら、さっさと教室に入るお」
('A`;) 「いや、でも……」
( ^ω^) 「ほらほら」
そう言って背中を押され、教室に入る。
ざわざわとしていた教室が一瞬静まり返る。
当然だ、登校拒否の人間が何の脈絡もなく登校してきたのだから。
( ^ω^)b 「がんばれお」
内藤は俺とは違うクラスだ。
だから俺とは違う教室に入る。
無責任な話だ。こんな四面楚歌の状況で自分が入れば―― - 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/08(水) 21:24:14.57 ID:kdIqD3Ym0
- 「おーい、毒田くん、ちょっとなにきみ学校来ちゃってるわけ?」
「あんなにいじめ倒したのに学校来るとかwwwwwワロッシュwwwww」
「グミ喰いたい」
こんな奴らを呼び寄せることになるのは当然だ。
内藤はどう考えたのだろうか。こいつらがいじめをやめてくれるとでも思ったのだろうか。
('A`) 「……っ」
授業を受ける。一応家でも勉強してきたから内容はわかる。
しかしさっきから物を投げつけられている。
後ろの席からだ。振り返って確認するまでもない、あいつらだ。
('A`) 「……」
結局、こんなものだ。
再び嫌気がさしていた。学校に来なくても、卒業はできる。
勉強を欠かさなければ、こうやって普通に学校に行くのと大した違いはない。
1時間目は後ろから聞こえるクスクスという笑い声を無視する作業で終わった。 - 36 名前:第32章 「その手に君は何を抱く?」:2009/07/08(水) 21:27:38.49 ID:kdIqD3Ym0
- ('A`) 「……」
1時間目が終わった。
帰り支度を始める。もちろん授業はまだ続く。
しかしこれ以上この場にいる気にはならなかった。
(;^ω^) 「ドクオー。いるかおーっておおい!!」
('A`) 「なんだよ」
(;^ω^) 「なに帰り支度してんだお!! 地方の公務員でもこんなに早くは帰らんお!」
('A`) 「うるせえよ。どけよ」
ξ゚听)ξ 「内藤、ドクオってこいつ?」
内藤を腕で押しのけ、扉に向かおうとする。
そんな俺の前に現れたのは巻き毛で端正な顔立ちをした女子生徒だった。
( ^ω^) 「おっ……そうだお」
ξ゚听)ξ 「ふーん、そう。あんた、ちょっと」
('A`) 「?」 - 39 名前:第32章 「その手に君は何を抱く?」:2009/07/08(水) 21:30:32.45 ID:kdIqD3Ym0
- 呼びとめられてつい足を止める。
なんだろうか、自分のような奴にこんな美人が用など……
その瞬間、左頬に強烈な痛みを感じた。殴られるなど予想していなかった俺は横薙ぎに思い切り吹っ飛ばされた。
教室内が騒然となる。ふと、俺をいじめていた奴らがあんぐりと口を開けてこちらを見ているのが見えた。
ξ゚听)ξ 「ふう。すっきりした」
(;^ω^) 「ちょ、おま」
(#'A`) 「……ってえな、何すんだクソアマ!!」
(;^ω^) 「ぁゎゎ」
内藤がおたおたしている。
しかしそんなことはこの時はどうでもよかった。
ξ゚听)ξ 「むかつくのよ、アンタ。男のくせにうじうじうじうじ」
(#'A`) 「るっせえ! てめえに何が分かるんだ!」
ξ゚听)ξ 「わかるか、アホ」
なんなのだろうかこの女は。
いきなり出てきてぶん殴られるとは。
もっとなにか言い返そうとすると、後ろから肩を叩かれた。 - 41 名前:第32章 「その手に君は何を抱く?」:2009/07/08(水) 21:34:10.75 ID:kdIqD3Ym0
- 「ど、毒田wwwww女にぶん殴られるとかwwwwwワロチwwww」
「なwwwwwwさwwwwwけwwwwwwwないwwwwwww」
それは俺をいじめていた奴の手だった。
やかましい声は俺のテンションを下げる。
('A`) 「っ……」
ξ゚听)ξ 「うるさい」
俺が言葉に詰まっていると目の前の女は足を振り上げる。
何をするのかと思わず目を凝らす。
( ^ω^) 「あ」
('A`) 「あ」
「え」
「あ」 - 44 名前:第32章 「その手に君は何を抱く?」:2009/07/08(水) 21:36:34.88 ID:kdIqD3Ym0
- その女が振りあげた足は――
俺をいじめていた奴の股間へ吸い込まれていった。
(;^ω^) 「ちょ」
('A`) 「え」
「――っ!!!!!!!!!!!!!!!!」
「え」
そして返す刀――もとい返す足でもう1人のいじめていた奴、そしてなぜか俺の股間にも足はやってきた。
それをもろに食らった俺は、目の前が白くなっていくのを感じた。
股間部に感じる強烈な痛みと共に。 - 46 名前:第32章 「その手に君は何を抱く?」:2009/07/08(水) 21:40:18.53 ID:kdIqD3Ym0
- ('A`) 「……」
ここからの展開は疾風のごとしだった。
いじめていた奴ともども仲良く3人で目を覚ました俺達はなんとなく話をするようになった。
敵の敵は味方、と言うやつだろうか。
それとも股間の繋がりは強いということなのか。
とにかく、もう俺がいじめられることはなくなった。
( ^ω^)ノシ 「おーい、ドクオ―!」
ξ゚听)ξ 「まったく、本当なら2人きりで遊ぶ予定だったのに」
('A`) 「へーへー、すいません」
そして、この日は俺をいじめから解放してくれた2人と繁華街で遊ぶ約束をした。
内藤はともかく、俺の股間を潰そうとした津出とはまだなんとなくぎくしゃくした感じだったが。
ξ゚听)ξ 「しょうがないじゃない、ムカついたんだから」
余談だが、俺たち3人を保健室に運んでくれたのは内藤だったらしい。
津出は潰したっきりでそそくさと自分の教室に帰ったそうだ。
ひどい話だ。 - 48 名前:第32章 「その手に君は何を抱く?」:2009/07/08(水) 21:42:55.59 ID:kdIqD3Ym0
- ( ^ω^) 「おっおっ。じゃあ、映画に行くおー」
('A`) 「ゲド戦記だっけ、楽しみだな」
ξ゚听)ξ 「つまんなかったら金玉潰すから」
そんなこんなでクラスでの居場所もでき、内藤や津出のような親友もできた。
3人仲良く同じVIP高校に受かり、1年生2年生と楽しい時間を過ごした。
そして受験の年、内藤は国公立大学、津出は看護学校、俺は地元私立を志望した。3人で集まって勉強もした。
そして受験勉強の最後の息抜きとこの修学旅行を楽しみにしていたのだ。 - 51 名前:第32章 「その手に君は何を抱く?」:2009/07/08(水) 21:44:48.91 ID:kdIqD3Ym0
- ( ;ω;) 「なあ……なんで……笑ってるんだお……笑えるんだお……?」
過去を振り返っていた意識が現実へと向かう。逃れようのない現実へ。
生き残るのは、俺、内藤、津出の3人だ。長岡も仲は良かったが、所詮高校からの付き合いだ。
エゴイスティックと軽蔑されるだろうか。恐らくするだろう。内藤も津出も人を殺して生きようとするやつらではない。
それでいい。俺は内藤と津出に救われた。ならば、今度は俺が2人を救う番だ。
('A`) 「……俺の」
( ;ω;) 「……」
内藤は俺の胸倉を掴みながら俺の言葉を待つ。
ごめんな、内藤。お前は自分が死んでも人を生かすような奴だもんな。
でも、それじゃダメなんだ。お前は生きて、他の奴も生かさなきゃならない。
俺が、生きるのはそれこそエゴかもしれない。でも、死ぬのは怖い。だから、自分も生きる。
('A`) 「手は、小さいから……」
俺は、守る。内藤が、津出がどれだけ嫌がろうが、最後まで生かしてみせる。
俺はいい。どんなに血を被ろうが生きてみせる。でも、内藤と津出は血の河なんて渡る必要はないんだ。
橋になる。どんな手を使っても2人を守ってみせる。
- 53 名前:第32章 「その手に君は何を抱く?」:2009/07/08(水) 21:46:35.80 ID:kdIqD3Ym0
- ('A`) 「1度に多くは、守れない」
(# ω ) 「ああっ!!!!!」
内藤は俺の胸倉から手を放し、そばにあった机を叩く。
ドン、と鈍い音が起きる。そして内藤はソファに勢いよく座り、頭を抱えてしまった。
自らの武器であるボウガンを焦点の合わない眼で見ている。
俺はその光景をやるせない気持ちで見る。こんなに荒れている内藤は見たことがない。
('A`) 「……守る」
手に持ったトカレフの重みを感じる。
この銃がどんな人間の命を奪おうとも、内藤だけは死守する。
この銃は、盾でもあるのだ。
【No20 毒田 武器:トカレフTT33 現在位置:F-2】
【No21 内藤 武器:ボウガン 現在位置:F-2】