第30章
4 名前:第30章 「Door」 ◆5Ws6J0OZQE :2009/04/29(水) 20:59:18.62 ID:Fkntt6V60
ξ゚听)ξ (……以外と、ばれないもんだなあ)


津出(No17)。現在時刻午後7時。彼女の現在位置。
――E-5地点・本部。
――の中の、物置。


ξ゚听)ξ (あれ、私ずっとここにいれば勝ちじゃね? 私の時代来たんじゃね?)


どうせすぐばれると思っていた。
だから一か八かで外に誘導された後、黒服の目を盗んでマッハで本部の中にとんぼ返りしたのだ。
もちろんそこら辺を歩いていては外に放り出されるだろう。しかし幸運だったのは2畳ほどの広さがある物置に滑り込めたことだ。


ξ゚听)ξ (足も伸ばせるし……結構快適)


狭いところならエコノミークラス症候群なんかになってしまいそうな勢いだが足も伸ばせる。
中は掃除用具が入っていて、少し埃っぽいがそんな贅沢を言うつもりも無かった。

5 名前:第30章 「Door」 ◆5Ws6J0OZQE :2009/04/29(水) 21:02:20.09 ID:Fkntt6V60
ξ゚听)ξ 「……」


しかし、津出には後ろめたいことがないことも無かった。
先ほどの放送はこの物置にも十分すぎるほどの音量で届いてきた。
すでに5人、死んだ。自分だけが安全地帯にいる。それがどうしても津出の胸の奥の奥をチクリと刺すのだ。


ξ゚听)ξ (でも……今更出ていってもな……)


津出は手に持ったひしゃくをちらりと見る。
これが、津出に支給された武器だ。こんなものでどうしろと言うのか。
墓に水でもかけろと言うことなのだろうか。


ξ゚听)ξ 「あー、もう」


既に死んだクラスメイトには申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
しかし武器がこんなのでは出ていくに出ていけない。
板挟みだ。津出はわずか2畳のスペースで何時間もそのことばかりを考え続けていた。
9 名前:第30章 「Door」 ◆5Ws6J0OZQE :2009/04/29(水) 21:04:54.97 ID:Fkntt6V60
「うわ――――――!!」

ξ゚听)ξ 「!?」


放送が伝わってから何時間経っただろうか。
ぼうっといていた津出の耳に急につんざくような大声が響いた。


ξ;゚听)ξ (なに、なに。……もしかして、ばれた?)


それならば自分はどうなるのだろうか。
ルール違反として抹殺されるのだろうか。
今まで遠くに行っていた死の足音が自分に向けてひたひたと近寄ってくる。
暑くも無いのに背筋にじんわりとした嫌な汗が流れる。

10 名前:第30章 「Door」 ◆5Ws6J0OZQE :2009/04/29(水) 21:07:32.65 ID:Fkntt6V60
「プリンこぼしちまった――!!」

「ばか、お前プリンなんか持ちこみする奴がいるか」

「でも、でも! 好きだから!! 俺、プリン好きだから!!」


ξ゚听)ξ 「……」


どうやら、自分のことがばれた訳ではなさそうだ。
ホッと、一息安堵のため息を漏らす。
それにしてもプリンをこぼすなど――


「しゃあねえなあ。モップってあそこの物置にあったっけ?」
12 名前:第30章 「Door」 ◆5Ws6J0OZQE :2009/04/29(水) 21:10:14.39 ID:Fkntt6V60
ドクン、と心臓が跳ねた。
物置に入る時にざっと見ただけだが物置と呼べる物体はこの廊下に1つだけだった。
つまり、男が言う物置とはここのことだ。後ろをばっと振り返る。モップは確かにそこにあった。


ξ゚听)ξ (やばいやばいやばいやばいやばい)


頭がぐるぐるする。あの扉を開けられたら、自分はどうなる?
銃で撃たれる? 首を絞められる? それとも外に放り出される?
扉を内から押さえつけるか? ダメだ、そんなことすれば怪しまれてかえって躍起になって開けようとしてくるだろう。
どうすればいい? どうすればいい?


「よいしょっと……あれ、開かない。立てつけでも悪いのか?」


とりあえず中から引き戸となっているドアを押さえる。
しかしこれでは何の解決にもなっていない。
元々男と女では力そのものが違う。怪しまれる間もなくこのドアは開けられてしまうだろう。


「おい、お前も手伝え。一気に開けるぞ。せーの……」

13 名前:第30章 「Door」 ◆5Ws6J0OZQE :2009/04/29(水) 21:12:56.32 ID:Fkntt6V60
目をギュッとつむる。
これから自分はどうなるのだろう。
もしかしたら黒服たちの慰みものに……そう考えるとゾッとする。
しかし手だては何もない。半ば諦めの気持ちを持ちながらも手に力を思い切り込めた。
15 名前:第30章 「Door」 ◆5Ws6J0OZQE :2009/04/29(水) 21:15:41.91 ID:Fkntt6V60
「……君たち、何をしてるんです?」

「……!! し、白根さん!! も、申し訳ありません、すぐ、すぐ持ち場に」

「そんなことは聞いていません。何をしているのか聞いているのです」


……何か、外で黒服の上司のような人物が現れたらしい。
声を聞くだけでも黒服が同様しているのが分かる。
まるで親に叱られているときの子供のような声色だからだ。


「……まあいいです。至急、兵は集合するようにとの号令をかけました。早く来なさい」

「り、了解しました!」


それきりで会話は終わり、上司らしい男の足音が遠ざかっていく。
続いてプリンをこぼした男二人の会話も聞こえる。


「やばかったー……殺されちゃうかと思ったぜ」

「ホントだよ。……プリンはどうしよう」

「バカ、至急集合の号令がかかってんだ、すぐ行くぞ」

「あっ、ちょ、ちょっと待ってよー!」

16 名前:第30章 「Door」 ◆5Ws6J0OZQE :2009/04/29(水) 21:18:32.17 ID:Fkntt6V60
ξ゚听)ξ


暇。


ξ゚听)ξ


暇。


ξ゚听)ξ


そんな暇な私に、すぐに解決しないといけない問題がひとつ。


ξ゚听)ξ

ξ゚听)ξ (お小水漏れる)

17 名前:第30章 「Door」 ◆5Ws6J0OZQE :2009/04/29(水) 21:21:20.97 ID:Fkntt6V60
そう、そもそも飛行機に乗る前から少し気になってはいたのだ。
しかし飛行時間はたったの2時間ほど、それならば我慢できるだろうと高をくくっていた。
それが何の因果かこんなゲームに参加させられた。
詳細な時間はわからないが、とにかく最低6時間は確実に経過しているだろう。


ξ゚听)ξ (やばいやばいやばいやばい漏れる漏れる漏れる)


とりあえず、物置を見回す。
なにか簡易のトイレになりそうなものを探すためだ。


ξ゚听)ξ (ねえ――――――!!)


何たる不運、何たる悲劇。
ペットボトルはおろか、ビニール袋すら存在しないこの物置。
全く物置としての機能を果たしていない。なんだこの物置は。


ξ゚听)ξ (ピーピーピー、ダム貯水率108%。強制排水モード、カウントダウンスタート)

ξ;゚听)ξ (か、カウントダウンが始まった!!)
19 名前:第30章 「Door」 ◆5Ws6J0OZQE :2009/04/29(水) 21:24:12.98 ID:Fkntt6V60
ξ゚听)ξ (10……9……8……)

ξ;゚听)ξ (ああ――――――!!)


もはや是非に及ばない。
漏らして生きるよりはトイレで人と会い死ぬ方が……いいとは思わないがとにかく理性がこの物置で排出することを拒んだ。
とにかくこのカウントダウンに間に合うように物置を飛び出す。
トイレはすぐ近くにあった。


ξ*゚听)ξ (せ――――ふ!! 勝利! ダム放水に完全勝利!)


洋式の便座に座り、放水を開始する。
排出欲を満たしたことによるちょっとした快感を感じながら身を震わせる。


ξ゚听)ξ 「ふぅ……」


とりあえず目下の目的は達成した。
次のミッションはいかに素早くあの物置に隠れるかだ。

20 名前:第30章 「Door」 ◆5Ws6J0OZQE :2009/04/29(水) 21:26:47.56 ID:Fkntt6V60
ξ゚听)ξ (すぐ近くにあったし、大丈夫。すぐ帰れる)


そう思い衣服を元通りに纏う。
手を洗うことができないが、それをしなくては死んでしまうわけではない。
生き残った後にゆっくり手を洗えばいいのだ。

21 名前:第30章 「Door」 ◆5Ws6J0OZQE :2009/04/29(水) 21:29:20.54 ID:Fkntt6V60
コンコン。


ξ゚听)ξ (え)


コンコン。


「おーい、速くしてくれー!」


コンコン。


ξ゚听)ξ (え、え)
23 名前:第30章 「Door」 ◆5Ws6J0OZQE :2009/04/29(水) 21:31:59.71 ID:Fkntt6V60
ノックされた。どこを? この個室の扉を。
扉の前に立たれているということは、自分は出ることが出来ない。
いや、そもそもこの声は……この聞き覚えのある忌々しい声は……阿部だ。


N| "゚'` {"゚`lリ 「おーい。……まったく、鍵でも壊れてんのかあ?」

ξ )ξ (どうしようどうしようどうしよう)


だいたいなんで阿部はこんなところに入ってきているのだ。変態なのか。変態なのか。
そんなことを考えている間にもノックは続けられる。
返事するか。できるだけ声を低くして。


N| "゚'` {"゚`lリ 「漏れそうなんだ。頼む、速くしてくれないか」


うるさい。お前なんかそこでみっともなく漏らしてしまえばいいんだ。
そう思うが、もちろん声には出せない。

24 名前:第30章 「Door」 ◆5Ws6J0OZQE :2009/04/29(水) 21:34:37.80 ID:Fkntt6V60
( ´ー`) 「何しているんですか」

N| "゚'` {"゚`lリ 「! ああ、びっくりした。白根さんですか、いや、少し催しましてね」

ξ )ξ 「……?」


また、白根?
先ほど物置の扉を開けようとした奴らを止めた奴らも白根と口にしていた。
少し、偶然が過ぎやしないか。それとも、自分は本当に強運を持っているのか。


( ´ー`) 「それは結構ですが、あの方からお電話が入ってましたよ。急いだ方がよろしいのでは」

N| "゚'` {"゚`lリ 「え。ほ、本当ですか。し、失礼します!!」


そう言って阿部と思われる足音は徐々に遠ざかっていく。
……私は、助かったのか?


( ´ー`) 「……さて」

25 名前:第30章 「Door」 ◆5Ws6J0OZQE :2009/04/29(水) 21:37:17.05 ID:Fkntt6V60
ξ )ξ 「……」

( ´ー`) 「返事は結構です。聞いてくれればそれでいい。……出席番号17番、津出さん」

ξ゚听)ξ 「!」


やはり。やはり、気づかれていた。
自分は、自分は生きてるつもりでいた。しかし、実際は手のひらの上で転がされているに過ぎなかった。
それに気づいたいま、何とも言えない悔しさだけが胸を衝く。不意に涙が零れそうになる。それを必死に抑える。


( ´ー`) 「……あなたは、面白い。

      何度か同じような境遇に置かれた人間を目にしましたが、あなたのような行動をとった人間は初めてだ」


ああそうですか、と大声を出しそうになる。
このドアを開けて白根という男の頬をひっぱたいてやりたい。


( ´ー`) 「私はあなたを気に入りました。だから、部下や阿部から救ってあげた。

      気に入りついでにもうひとつ、面白い情報を教えてあげます」
28 名前:第30章 「Door」 ◆5Ws6J0OZQE :2009/04/29(水) 21:39:51.96 ID:Fkntt6V60
唇を噛んで耐える。
この誰とも知らない男に、自分は生かされている。少なくともこの男のおかげで2回命を救われた。
いや、この男がいなければもっと多くの危機を迎えていたかもしれない。


( ´ー`) 「第2回の放送が行われたあと、ここは戦場になります。

      あなたにとって、いい意味でも悪い意味でもね。そしてその後ここは禁止エリアになります。

      あなたも、外に出る準備をした方がよろしいですよ」


そして今も、こんな重要な情報を教えてもらっている。
頭上の蛍光灯がやけにちらちらとしているように感じる。
光に誘われた虫がぱちぱちと蛍光灯に体当たりしている。


( ´ー`) 「では、私はこれで。……幸運を、津出さん」


かつ、かつと足音が遠ざかる。
私は、そこで立ちすくむ。何が目的なのだろうか、あの白根という男は。
いったい、自分にどんな役割を背負わせたいのだろう?
蛍光灯がパチパチとうるさいこの場では、考えはまとまりそうになかった。

29 名前:第30章 「Door」 ◆5Ws6J0OZQE :2009/04/29(水) 21:42:37.36 ID:Fkntt6V60
( ´ー`) 「……」


津出に情報を教えてしまった。
これでよかったのだろうか。いいに決まっている。これはゲームに刺激を与えるスパイスだ。
ふと脳裏に浮かんだデメリットを振り払うように、つかつかとリノリウムの廊下を歩く。
元々学校か何かで使われていた建物なのだろう。やけに古い。しかしそんなことはどうでもよかった。


( ´ー`) 「……」


第1会議室と書かれた部屋のドアを開ける。
中には黒服を着た屈強な男やカーキ色の軍用服を着た男が整列していた。
その男たちは精鋭部隊だ。人を殺すことなどなんとも思わない、徹底して訓練された精鋭部隊。
それらを横目に奥の椅子に座る。


「白根さん。緊急招集の意味を教えてもらいたい。内部の人間だけではなく、警備の人間も呼んだ意味をだ」

( ´ー`) 「……」


その精鋭部隊のトップを務めている男が座るなり話しかけてきた。
やはり、何度相対しても死線をくぐり抜けた男の雰囲気には圧倒される。
31 名前:第30章 「Door」 ◆5Ws6J0OZQE :2009/04/29(水) 21:45:20.89 ID:Fkntt6V60
「説明を」

( ´ー`) 「司令官……ああ、あのボンクラの校長上がりのことではない。

      その司令官経っての願いでね。ある人物の捜索をすることになった。

      ゲームの管理に支障が出る、という理由でね」

「……!」


司令官、という言葉を聞いて元々スッとしていた男の背筋がさらにぴんと張る。
やはり、軍人は見ていて気持ちがいい。


「……ある、人物とは」

( ´ー`) 「……」


これを言うと、やはり反対されるのだろうとは思う。
しかしこれはこのゲームを成立させるにあたってやはり重要なものなのだ。
それに、この頑固な男も軍人だ。軍人は上官の命令には逆らえない。
今のところ、自分が名前ばかりでも上官なのだ。この権威は使えるときに使っておかなくては。

32 名前:第30章 「Door」 ◆5Ws6J0OZQE :2009/04/29(水) 21:47:53.24 ID:Fkntt6V60
( ´ー`) 「行方不明になっている、高岡女史の捜索だ」


ざわめきとどよめきが、会議室中に響き渡った。


【No17 津出 武器:柄杓 現在位置:E-4】
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