第28章

58 :第28章 「阿部高和の華麗なる黄昏時」:2009/02/15(日) 21:27:31.91 ID:Nuq0+N020
N| "゚'` {"゚`lリ 「……ふぅ」


なかなかの重労働だった。
飛行機に睡眠ガスを注入し、生徒1人1人を手分けして運ぶ。
全員が起きた時を見計らってゲームの説明を始める。
それから1人1人ちゃんと島に行ったか確認する。これだけで2時間ほどかかってしまった。


N| "゚'` {"゚`lリ 「……」


それから、随時送られてくる死亡者の情報。
あの首輪にどういったギミックが仕掛けられているのかはよくわからないが、その正確性は信頼できるものらしい。
それに禁止エリアの情報。送られてきたリストを見て溜息をつく。


N| "゚'` {"゚`lリ 「まったく……あの人は何を考えているんだか……」
60 :第28章 「阿部高和の華麗なる黄昏時」:2009/02/15(日) 21:30:20.45 ID:Nuq0+N020
リストを脇にポイと放り投げ、眼前のモニターに食い入る。
そこには地獄が映し出されていた。すでに5人が死んだ。だがまだだ。こいつらには残りの3人まで殺し合ってもらう。
その光景を高いところで見物するのだ。生徒が決して届かない高い、とても高い場所で。


N| "゚'` {"゚`lリ 「ふふふ……」


その圧倒的な差を見た生徒はいったいどんな顔を自分に見せてくれるのだろう。
それを想像すると今から笑いが止まらない。
ふふ、ふふふ、ふふふふふ。


「……失礼します、司令官」

N| "゚'` {"゚`lリ 「ん、なんだ」


ひとりで笑っていると運営側の黒服を着た男が話しかけてきた。
そう、自分はここでは校長なんてしょぼくれた役職ではない。
司令官。このゲームの、すべてを司る役職。それが、今の自分の肩書きだ。


「あの方からです」

N| "゚'` {"゚`lリ 「……わかった。出よう」
63 :第28章 「阿部高和の華麗なる黄昏時」:2009/02/15(日) 21:32:58.60 ID:Nuq0+N020
黒服は手に電話機を持っていた。一般的なコードレスタイプのものだ。
やたらと体が大きいこの黒服が持つと、電話機はまるでおもちゃのようだ。
しかし、あの方か……何も問題は起こしていないので怖くはないが。


N| "゚'` {"゚`lリ 「お電話代わりました。阿部です」

『やあ、阿部君。うまくいったようだね』


電話越しに聞こえるしわがれた声は機嫌がよさそうだ。
阿部はほっとする。もし、あの方の機嫌を損ねでもしたら……そう思うとゾッとする。


N| "゚'` {"゚`lリ 「ええ、なかなか大変な業務でしたが」

『ほっほ。送った人員は機能しておるかね?』

N| "゚'` {"゚`lリ 「ええ。彼らはすごいですね」


そばにいる黒服をちらりと横目で見ながら言う。
なぜか寒気を覚えているようだ。この部屋の気温は快適なものに保たれているはずだが。
実際その言葉は世辞ではなく、本当だった。力仕事や雑務はほぼ彼らがこなしてくれたと言ってもいい。
66 :第28章 「阿部高和の華麗なる黄昏時」:2009/02/15(日) 21:35:38.11 ID:Nuq0+N020
『ふむ、そうだろうそうだろう。では、これからもよろしく頼むよ』

N| "゚'` {"゚`lリ 「はい、どうも。……あの、ひとついいですか?」

『なんだね』


電話越しに聞こえる声のトーンが少し低くなる。
少しためらいもするが背に腹は代えられない。


N| "゚'` {"゚`lリ 「どうして、この本部は禁止エリアにならないのでしょうか……?」

『……気にする必要はない。じきにわかるさ』


その言葉を最後に、電話は切れた。
後には、ツーツーという会話終了の合図が流れているだけだ。
電話機を恨めしそうに見、それを黒服に手渡す。それを受け取ると黒服はそそくさと出ていった。


N| "゚'` {"゚`lリ 「まったく……あの人は何を考えているんだか」


まあとにかく、自分は与えられた業務を淡々とこなしていけばいいのだ。
そうすれば、自分にもしかるべき報酬が与えられる。
ふふ、まただ、笑いが止まらない。ふふ、ふふふ、ふふふふふ。

67 :第28章 「阿部高和の華麗なる黄昏時」:2009/02/15(日) 21:38:19.33 ID:Nuq0+N020
N| "゚'` {"゚`lリ 「む、もうこんな時間か……」


マイクのスイッチを入れる。
さあ、いよいよだ。普段自分を舐めに舐めきっていた生徒達に自分の偉大さを知らしめる儀式だ。
ああ、体の震えが止まらない。こんなに興奮したのは筆おろしの時以来かもしれない。
放送を知らせる音声を流す。さあ、自分の番だ。


N| "゚'` {"゚`lリ 『おーす、阿部だ。元気か、それとも死んでるか?

         おまちかね、定時放送の時間だ!』


この時、世界のすべては阿部の物だった。
幸せだった。

【阿部 現在位置:E-4(本部)】

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