第26章
62 :第26章 「死に至る病」:2009/02/14(土) 21:54:02.94 ID:kY/LN5pb0
(´<_` ) 「……」


弟者(No6)はこのゲームには乗らないつもりでいた。
基本的に争いは好まないタイプだ。ケンカもしたことはないし、自分が記憶する限り無茶なことをした記憶もない。
しかしこのゲームを止めようとしているのかと言うとそうでもない。
非常に微妙なのだが、とりあえず自分の目の前で人が死ぬのを見たくないと言うことだけなのだ。


(´<_` ) 「とりあえずもう暗いからなー」


もうすぐ夜が来る。夜が来たら眠らなければならない。
自分は少なくとも7時間寝なければ調子が悪いのだ。兄には笑われるが。
そういえば、兄はどうしているのだろう。


(´<_` ) 「……」


兄はあまり好きではなかった。もちろん家族としての最低限の愛情は持っている。
しかし、命を懸けて守りたいかというとそうでもない気がする。
つまりドライなのだ。自分は。今まで18年間生きてきたからわかる。
自分は誰かを命をかけて守るとか、対抗するとかそういったタイプではないのだ。
64 :第26章 「死に至る病」:2009/02/14(土) 21:56:33.66 ID:kY/LN5pb0
(´<_` ) 「……っと」


手に持っていた探査機に赤い点が1粒出た。
これはなにやら首輪の電波のようなものを解析して液晶に映す機械らしい。
しかし液晶には赤い点しか出ていないので、その点が誰かまではわからない。


(´<_` ) 「とりあえず、これが誰か確認するか……」


ゲームに参加する気はないとはいえ、孤独では気がめっぽう滅入る。
とりあえず、話し相手にでもなれば……そう言った気持ちで気軽に足を向ける。
ヤバそうな奴だったらすぐ踵をかえせばいいのだ。


(´<_` ) 「ここら辺りだが……こう家が多くてはどこにいるかわからんな」


赤い点に誘われてやってきたのは住宅地だった。
探査機では大体の位置は分かるが、細かい位置まではわからない。
そんなにこいつに会いたいわけでもないが……とりあえず、虱潰しに探す。


(´<_` ) (これで宝とかソッチ系の奴なら俺、アホだなー)


これだけ探しまわってやる気の奴です、さあ殺し合いを始めましょうではまったくお笑いだ。
自分はなるべく波風立てずに生きたい。これはそんなに的外れな希望ではないと信じたい。

65 :第26章 「死に至る病」:2009/02/14(土) 21:59:23.07 ID:kY/LN5pb0
(´<_` ) 「おっと……」


弟者は家の中に誰かがいるのを見つけた。
誰か確かめるために庭の窓から慎重に中を覗く。


川 - )


(´<_` ) (須名……か。信用できるか……?)


中にいたのは須名(No14)だった。
彼女は確かクラスの代表で、責任感も多大に持っていた筈だ。
やんちゃをした兄を叱りつける場面も何度か目にしたこともある。


(´<_` ) (しかし暗い顔をしている……なぜだ?)


須名は無表情ではあるが、決して暗い人間と言うわけではない。
むしろ、交友も広くみんなから愛されるタイプの人間だ。
そんな須名があんなに沈んだ表情をしている場面は見たことがなかった。


(´<_` ) (まあいい。とりあえずこの部屋に入って、仲間になるよう交渉しよう)
69 :第26章 「死に至る病」:2009/02/14(土) 22:02:01.78 ID:kY/LN5pb0
そう思い、窓から玄関のドアの方へ移動しようとする。
その移動すがら、ちらりと目に飛び込んできた情景は弟者にとって衝撃的なものだった。


川 ; -;)


泣いている。あの気丈な須名が。
いや、それだけならまだいい。問題は手に持っているものだ。
あれは――どうみても、拳銃。しかも、超大型と言っても差支えないほどのものだ。
それを自分で自分のこめかみに当てている――弟者が一瞬ストップした脳の機能で出てきた言葉は――自殺。


(´<_`;) 「やめろ!」


気づけば、飛び出していた。
先ほど自分で自分をドライだと思っていたばかりにもかかわらず。
窓を割って、夢中で須名の手から拳銃を取り上げる。


(´<_`;) 「お前、何をやっている!?」

川 ; -;) 「……」

(´<_`#) 「なんとか言え! なぜ、自殺なんぞしようとする!?」

川 ; -;) 「……殺して」

70 :第26章 「死に至る病」:2009/02/14(土) 22:04:34.73 ID:kY/LN5pb0
(´<_`#) 「!?」

川 ; -;) 「自分で死ぬことを許さないなら、あなたが殺して」

(´<_`#) 「何を……!」


そこで弟者は気がついた。
この家が自分が嗅いだ事のない臭いが充満しているということに。
鉄でもない、なにか、生物的な嫌悪を抱かせる臭いだ。


(´<_` ) 「なんだ、この臭い……」

川 ; -;) 「……」


慎重に、臭いの元となる方へ歩む。
そこになにがあるかはある程度、予想がついた。しかし認めたくなかった。
まさか、須名が――

71 :第26章 「死に至る病」:2009/02/14(土) 22:07:11.60 ID:kY/LN5pb0
(´<_`;) 「――!!」


卒倒しそうになった。叫び声をあげなかったのも奇跡かもしれない。
そこには予想通りの――いや、予想以上と言うべきか――死体があった。
なにか刃物のようなものでメッタ刺しにされている。
それこそ、顔、首、腕、上半身、下半身、足、頭。人体を構成するすべてのパーツに切り刻まれた跡があった。


(´<_`;) 「須名、お前……」

川 ; -;) 「わかっただろう? 早く、私を殺せ」

(´<_`;) 「それがわからない。こんな惨殺できるぐらいだったら、生き残ろうとするのが普通だ」

川 ; -;) 「……」

(´<_` ) 「答えろ。なぜ、こんなことをしておきながら死を望む?」


須名から奪った拳銃をちらつかせながら言う。
もっとも、死を望む相手にこんな脅しなど効きそうもないが。
74 :第26章 「死に至る病」:2009/02/14(土) 22:09:46.94 ID:kY/LN5pb0
川 ; -;) 「……間違い、なんだ」

(´<_` ) 「……間違い?」

川 ; -;) 「ああ、ああ。私は貞子を殺してしまった。でも、それは間違いだったんだ」

(´<_` ) 「貞子……山村か。お前らは無二の親友だろう。それが間違いで済むのか」

川 ; -;) 「し、し、仕方ないじゃないか。ま、間違ってしまったんだから」

(´<_` ) 「……」


いま一つ、会話に要領を得ない。
本来ならば相手が落ち着くのを待つが、仮にも1人惨殺している人間だ。
悠長に待つつもりはなかった。


川 ; -;) 「わ、私が悪いんだ。勘違いを、してしまったから」

(´<_` ) 「勘違い……」

川 ; -;) 「さ、さだこが、マニキュアを、したから。わた、わたしは」

(´<_` ) 「待て。なぜマニキュアが殺人の理由になる」
76 :第26章 「死に至る病」:2009/02/14(土) 22:12:24.46 ID:kY/LN5pb0
それから弟者は須名にことの発端を聞きただす。
それを聞いてどうにかしようとしたわけではない。
ただ、聞きたかったのだ。好奇心と言う奴だ。
須名は、要領を得ないながらも何とか筋道だった説明を始めた。


(´<_` ) 「……なるほど」

川 ; -;) 「……」


大体はわかった。マニキュアを塗った人間に狙撃されたこと。
そこを山村に救ってもらったこと。しかし山村もマニキュアをしていたこと。
シチューを出されたが、碌に食べることができなかったこと。


川 ; -;) 「そ、それで、マニキュアをしている人間が、全部私を狙ってるように見えて、

      信じられなくなって、う、後ろを向いた隙に、貞子の武器の、メスで、体を刺したら、

      貞子が倒れて、でも、それも信じられなくて、か、体を、貞子の体を」

(´<_` ) 「わかった、わかった。……もう、いい」

川 ; -;) 「私が、バカだったんだ。貞子の武器はめ、メスだから、私を、狙撃なんてできるはずないのに。

      あの、時の、私は、なにも、なにも考えられなくて」

(´<_` ) 「もういい!!」

77 :第26章 「死に至る病」:2009/02/14(土) 22:15:02.89 ID:kY/LN5pb0
机をドン、と叩く。
須名はビクッとしたきり、話すのを一時中断した。
と思いきや、またすぐに話し始めた。


川 ; -;) 「ごめんなさいごめんなさい貞子ごめんなさいごめんなさい許してください……」


須名はまだ泣き続けている。
それでも多少は話が通じるようになった。
やはり、人に話すということは人を落ち着かせる効果があるのかもしれない。


川 ; -;) 「……」

(´<_` ) 「……死ぬなよ」

川 ; -;) 「……」

(´<_` ) 「お前が死のうと死ぬまいと俺は知らん。関係ない。

       だが、死んで逃げようとする腰ぬけは嫌いなんだ」

川 ; -;) 「……」

(´<_` ) 「だから」
81 :第26章 「死に至る病」:2009/02/14(土) 22:17:41.64 ID:kY/LN5pb0
その時、スピーカーから大きな声が流れ出す。
そのせいで俺の声は一時中断されることになった。


『アッーアッーアッー! 午後6時です! 定時放送の時間です!』


川 ; -;) 「……」

(´<_` ) 「……」


『おーす、阿部だ。元気か、それとも死んでるか?

おまちかね、定時放送の時間だ!』


(´<_` ) 「……もう6時か。早いな」


それは正直な感想だった。
誰とも会わない6時間など長いに違いないと思っていたが、決してそんなことはなかった。
あっという間に過ぎ去ってしまった感じだ。

82 :第26章 「死に至る病」:2009/02/14(土) 22:20:11.60 ID:kY/LN5pb0
『まずは死亡者の発表だ!

4番斉藤、12番須田、22番中嶋、23番長岡、33番山村。以上5名だ。

最初にしてはまあまあだな。ペース上げていけよ!』


(´<_` ) (……5人、か。多いのか、少ないのか……)


弟者は無意識のうちに兄がこの中に入っていないことを安堵していた。
やはり、腐っても家族なのだろうか。自らに嘲笑を漏らす。


川 ; -;) 「……ああ」


そして、気付かなかった。
その放送に先ほどとは違う、絶望の感情を宿した女が目の前にいたことに。


『次に禁止エリアだ。入ると首がドカンだぞ! 気をつけr


弟者が聞くことができたのはそこまでだった。
須名が、素早い動作で机の上にあった銃を奪い、その銃底で弟者を殴ったからである。
84 :第26章 「死に至る病」:2009/02/14(土) 22:22:37.80 ID:kY/LN5pb0
川 ; -;) 「はぁ、はぁ、はぁ……」


殴ってしまった。弟者を。死んだのだろうか。そうであってほしくない。
耐えられなかった。貞子の死を告げるあの放送に。だから、やはり死のうと思った。
でも、弟者の前では駄目だ。真摯に話を聞いてくれたあの人の前で死を晒したくはなかった。
だから、銃を奪って逃げた。殴ったのは、不可抗力だ。止められるに決まっているから。


川 ; -;) 「はぁ、はぁ……はぁっ」


今までより一層大きい溜息を吐く。
先ほどの家よりはかなり遠くにきた。ここまでくれば弟者も追いつけないだろう。


川 ; -;) 「……」


ごくり、と唾を飲む。先ほどからつばきが止まらない。
やはり、覚悟していても死は怖い。
しかし、死ななければならない。自分は殺したから。罪を犯したから。ならば、償わなければ。
88 :第26章 「死に至る病」:2009/02/14(土) 22:25:03.98 ID:kY/LN5pb0
川 ; -;) 「……」


手に持った銃を握りしめる。汗でうまく握れない。先ほどから、ドクンドクンと心臓が喧しい。
手足がブルブル震える。止まらない。手先足先が冷たい。きっと、血が通ってないのだろう。


川 ; -;) 「あああっ!!」


銃を持ち上げる。自分のこめかみに当てる。
あとは、この引き金を引いたら――!
目をギュッとつむる。暗闇がやってくる。右手の人差指に力をこめる。
その時、声がした。


『……何やってんの?』

89 :第26章 「死に至る病」:2009/02/14(土) 22:26:37.38 ID:kY/LN5pb0
(´<_`;) 「いてて……須名め、あんなに強く殴らなくてもいいだろうに……」


後頭部がずきずきと痛む。これはこぶぐらいにはなっているかもしれない。
時計を見る。6時27分。気絶していた時間はそんなに長くなかったようだ。


(´<_` ) 「……」


痛む後頭部をさすりながら、窓の外を見る。
もうとっくに日は暮れ、辺りには静寂と暗闇がたちこめている。


(´<_` ) 「……もう、会えないだろうなあ」


なんとなく、弟者にはわかった。
理屈ではなく、本当になんとなくの勘なのだが。
次の放送で、須名の名が呼ばれるであろうことを。

【No6 流石弟 武器:探知機 現在位置:F-6】
【No14 須名 武器:デザートイーグル50AE 現在位置:D-4】
【No33 山村 × 残り30名】
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