第23章

44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 21:29:25.24 ID:JsPkaiij0
第23章 「羊、吠える」

(*‘ω‘ *) 「早く見つけるっぽ!」

( <●><●>) 「急いてはいけません。ゆっくり落ち着いて行きましょう」


私、和手枡(No36)はある人物を探しています。
1人は今会話した人物、新保(No10)さん。通称ちんぽっぽさん。
卑猥であるとかは知りません。私が出会った時には、もうこのあだ名だったのです。
この人とはゲームが始まってすぐ出会うことができました。全く奇跡と言っていいでしょう。


(*‘ω‘ *) 「ビロードー!」

( <●><●>) 「大声を出してはいけません」

(*‘ω‘ *) 「……」

( <●><●>) 「……小声なら」

(*‘ω‘ *) 「ビロード……どこだっぽ……」


ですが、その軌跡の反動か、もうひとり合流したい人物、稚内(No35)くん、通称ビロードになかなか出合えません。
いつも3人で行動している我々です、この状況でも3人で行動しようとするのは自然な行動でしょう。
48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 21:32:40.06 ID:JsPkaiij0
(*‘ω‘ *) 「……」

( <●><●>) 「……」


我々が出会っておよそ5時間ほどでしょうか、あれほど天高く昇っていた太陽も今では水平線に落ちようとしています。
夕陽が水平線に溶け込み、海の色を赤く変えているその情景は、普段ならば感動の声を出すことしきりだったでしょう。
しかし今の私たちにはその情景に風流を感じることすら無駄な行為なのです。


(*‘ω‘ *) 「……」

( <●><●>) 「……」


最初こそ声を出してビロードを呼んでいた私たちですが流石に疲れてきました。
無理もありません、5時間ずっと極限状態でしかも声を出していたのですから。
男の私ならまだしも、小柄な女性であるちんぽっぽには耐えられないものでしょう。
50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 21:35:59.49 ID:JsPkaiij0
( <●><●>) 「少し、休みましょう」

(*‘ω‘ *) 「嫌だっぽ」

( <●><●>) 「肉体の疲れは精神にも影響します。ここは休むべきです」

(*‘ω‘ *) 「嫌だっぽ!!」


ちんぽっぽは大声を出して休むことを拒否します。
ビロードと一刻も早く合流したいのは私も同じです。
ですが、総合的に考えここは休むべきなのです。
しかし。


( <●><●>) 「……わかりました、できる限り探しましょう」

(*‘ω‘ *) 「……ビロード、どこ……?」


私もあいにくながらそこまで冷静な判断をすることはできませんでした。
私たちはなおも歩き、周りの風景は森林地帯になってきました。
52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 21:39:44.37 ID:JsPkaiij0
『アッーアッーアッー! 午後6時です! 定時放送の時間です!』


( <●><●>) 「「!」」 (*‘ω‘ *)


午後6時の定時放送。もうそんな時間なのでしょうか。
いや、そんなことより阿部の話ではこの放送で死亡者の名前を読み上げると。
そこにもしビロードの名前が入っていたら……私は身震いする思いを止められませんでした。


( <●><●>) 「……」

(*‘ω‘ *) 「……」


ちんぽっぽの顔をちらり、と見ると考えていることは同じなのかこくりと、頷いてくれました。
私たちは放送を聞き逃さないよう集中するため、近くの木陰に座りこみました。


『おーす、阿部だ。元気か、それとも死んでるか?

おまちかね、定時放送の時間だ!』


阿部の忌々しい声が聞こえます。
しかし今はそんなことにかまっている時ではありません。
早く。早く死亡者を読み上げてくれ。
死亡者が読み上げられる時間は阿部と私とで感じた時間がかなり違っていたことでしょう。
54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 21:42:59.79 ID:JsPkaiij0
『まずは死亡者の発表だ!』


ドクン、と心臓が跳ね上がります。
もし、ここにビロードの名前があれば……
私はこの胸の奥の奥にある感情を抑えきれないかもしれません。


『4番斉藤、12番須田、22番中嶋、23番長岡、33番山村。以上5名だ。

最初にしてはまあまあだな。ペース上げていけよ!』


(*‘ω‘ *) 「ない……」

( <●><●>) 「……ええ」


私はそこにビロードの名前がないことに、不謹慎ながら安堵しました。
しかし、死亡者がいるということは殺意を持った人間がいると言うことです。


(*‘ω‘ *) 「速く、探さないと」

( <●><●>) 「待ってください、禁止エリアを聞かなければ」
55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 21:46:14.61 ID:JsPkaiij0
禁止エリアは重要情報です。
ビロードを探していてドカン、ではまったくお話になりません。


『次に禁止エリアだ。入ると首がドカンだぞ! 気をつけろ。

午後8時・G-6。午後9時D-2。午後10時・A-1。午後11時・G-7。今回の発表分は以上だ。

繰り返す……』


( <●><●>) 「……よし、書き取りました。行きましょう」


そう言ってちんぽっぽを促します。
しかし。


(*‘ω‘ *) 「……聞こえる」

( <●><●>) 「え?」


まだこの島には禁止エリアを再度告げる阿部の声が響き渡っています。
この大音量の中、彼女は何を聞いているのでしょうか。
57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 21:49:19.53 ID:JsPkaiij0
(*‘ω‘ *) 「ビロードの声……あっちだっぽ!!」

( <●><●>) 「!!」


ちんぽっぽは西へ向けて走り出します。
禁止エリアを確認した時に現在地も確認しました。橋の配置から考えてここはC-6、あるいはC-7。
ここから西にはひたすら崖と森しかありません。
もしちんぽっぽが本当にビロードの声が聞こえたとしたら、彼はいったい何をしているのでしょう。
とりあえず、ちんぽっぽに続いて走ります。


(*‘ω‘ *) 「ビロード……!」

( <●><●>) 「……」


ちんぽっぽは何かに取りつかれたかのように走ります。
結構な長さの付き合いではありますが、ちんぽっぽがこれほど必死に走っているのを私は見たことがありません。
もうそろそろ島の西岸につくであろう距離を走ったその時。ちんぽっぽが叫びました。


(*‘ω‘ *) 「いたっぽ!」

58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 21:52:37.79 ID:JsPkaiij0
( <●><●>) 「!」


私たちが探していた人物――ビロードが崖のところに1人で立っていました。
あそこは周りのどこからも目立つ所です。
いくら暗いとはいえ、あんなところに突っ立っていては的にしてくださいと言っているようなもの。
ビロードが何を考えているのかは知りませんが、彼を止めるためさらに足を速めます。


( ><) 「……」


彼は手に大きな白い何かを持っています。
武器ではなさそうですが、あれはなんでしょう。
その疑問はビロードがとった行動によって解決することとなりました。


( ><) 『みんなー!! 聞いて欲しんです!!』

(*‘ω‘ *) 「!!」

( <●><●>) 「!! ……馬鹿者! ちんぽっぽ、急ぎますよ!」

(*‘ω‘ *) 「っぽ!!」
60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 21:55:51.66 ID:JsPkaiij0
ビロードが持っていたのは拡声器でした。
大方お人よしの彼のことです、クラスのみんなに停戦でも提案するつもりなのでしょう。
彼は先ほどの放送を聞かなかったのでしょうか。もう、このゲームに乗っている人間はいると言うのに。


( ><) 『こんなの絶対間違ってるんです! クラスメイトで殺し合いなんて絶対におかしいんです!!

       だから止めましょう!! 24時間で首輪が爆発と言っても、道はどこかにあるはずです!!』

( <●><●>) 「……くそっ!」


ビロードとはまだ距離があります。500mほどでしょうか。
あんなところであんなことをしては狙われるに決まっています。
一刻も早く、保護しなければ。
私の頭の中は、彼のことでいっぱいでした。


( ><) 『とりあえずみんな集合しましょう!! このゲームを止めたい人はここに来てほしいんです!

       ……早速、だれかひとり来たんです! ありがとうございます!!』

( <●><●>) 「……!!」

(*‘ω‘ *) 「ビロード!!」
64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 21:59:01.40 ID:JsPkaiij0
ビロードが立っている、ちょっとした丘のようになっている崖の頂上へ向かっている人影が見えます。
誰でしょうか。暗い上に木々に隠れて、顔まではよく見えません。
あれは本当にゲームを止めようとしている人間でしょうか。
そうではない気がします。あの背中、とてもとても悪い予感がするのです。


( <●><●>) 「ビロード!!」

(*‘ω‘ *) 「はぁ……はぁ……」

( <●><●>) 「ちんぽっぽ! 大丈夫ですか!」

(*‘ω‘ *) 「いいから! ……ビロードを、早く!」

( <●><●>) 「……はい!」


いったんちんぽっぽを置いて、さらに走りを速めます。
もう、ビロードと人影はかなり接近しています。

65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 22:02:15.48 ID:JsPkaiij0
( ><) 『ありがとうございます! えーっと、顔がよく見えないんです……

       ……あ、わかった! も』


その瞬間から私の視界は急にスローになりました。
まず、人影がマシンガンのようなものをビロードに向けます。
そのすぐあと、タイプライターのような音が鳴りました。
人影はあらかたタイプライターを撃ち込んだあと、走って去ってしまいました。
そして、ビロードの体は糸の切れたマリオネットのようにビクビクと跳ねていました。


『ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!』


拡声機のスイッチが入ったままだったのでしょうか、誰かの悲鳴がこだまします。
そのマイクはよほど性能がいいのか、ハウリングすることも無く、ただ響く音声を広めているのです。
私はますます目の前が信じられませんでした。
拡声機を持っていた人間が跳ねた衝撃で崖から落ちていく姿など。
67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 22:05:34.18 ID:JsPkaiij0
(*‘ω‘ *) 「ビロードおおおおおおおおおおお!!!!」


私の茫然自失とした状態から立ち直らせたのは彼女の行動でした。
彼女はまさに今ビロードが落ちていった崖に向かおうとしているのです。


( <●><●>) 「いけません、ちんぽっぽ!!」


私は無我夢中で、我も忘れてビロードの所へ向かおうとするちんぽっぽを抱きよせました。
そうでもしないと彼女は止まりそうになかったし、今あそこに向かうのはビロードと同じく的にしてくれと言っているようなものです。
私に抱き寄せられてなおも、彼女は暴れます。


(*‘ω‘ *) 「離せ!! 私は、ビロードの所に!! 離せ、和手枡!!」

( <●><●>) 「いけないと言ってるでしょうが!!」

(*‘ω‘ *) 「でも! でもでもでもでもビロードが! 嫌だ! 嫌だよ! お願い、離して!!」

( <●><●>) 「新保!!」


私の声は、いえ、声も体も、私が司っているものはなにもかも震えていました。
それは、ビロードを失った悲しみか、それとも怒りか。恐らく、後者の方が大きいのでしょう。
彼女もそれを感じたのか、私の腕の中でただただすすり泣き始めました。
しかし、それがわかったのは聴覚からの情報でした。視覚は使い物になりませんでした。
なぜか、視界がぼんやりと滲んでいたからです。

68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 22:08:46.84 ID:JsPkaiij0
どれぐらいの時間がたったでしょうか、そろそろ辺りに人影も消え、2人で崖の上へ行きました。
ビロードが落ちた崖の下を覗きこみます。しかし、暗闇の中に波の音が聞こえるのみでした。


(*‘ω‘ *) 「……誰が」


ちんぽっぽは泣き疲れ、ガラガラとかすれた声で呟きます。
私もその疑問は同じでした。しかし、私には手がかりがありました。


( <●><●>) 「……頭文字が、も、の人間」


『ありがとうございます! えーっと、顔がよく見えないんです……

……あ、わかった! も』


最期の、ビロードが拡声機によってはなった言葉です。
最後の、‘‘も’’という文字。これは、文脈から言って人影の頭文字と見て問題ないでしょう。
当てはまるのは、喪名、茂等、盛岡、諸本の4人。
71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 22:12:00.05 ID:JsPkaiij0
( <●><●>) 「……ビロードは、羊でした。か弱く、争うなど考えもしない、羊」

(*‘ω‘ *) 「……」

( <●><●>) 「その抵抗をする気のない羊を、何の戸惑いもなく葬る悪魔が、います」


足もとの白い物体を拾います。拡声機、ビロードの、遺品。
手に持つ部分のマイクは血でべっとりと塗れています。
私はそのマイクの部分だけをひきちぎり、胸のポケットに入れました。


( <●><●>) 「私は、戦います。ハンター気取りで狩りごっこを楽しんでいる悪魔を」

(*‘ω‘ *) 「……」

( <●><●>) 「殺します」


ポケットに入ったマイクがトクン、と鼓動を放ったような気がしました。
もちろん、気のせいでしょう。
しかしこれはビロードの叫びにしか聞こえませんでした。
73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 22:15:14.77 ID:JsPkaiij0
( <●><●>) 「……」


その辺りに咲いていた花を崖下に一輪、放ります。
それは夜の闇に溶け、瞬く間に消えていきました。


( <●><●>) 「ああああああああああああああああああああああああああああ!!」


叫びます。誰に聞こえるとか、危ないとかは、その時だけ考えませんでした。
ちんぽっぽが少しびっくりしたような顔をします。
しかしこの行為は私の中で欠かすことのできないものでした。


( <●><●>) 「私は、羊にはなりません」

(*‘ω‘ *) 「……」

( <●><●>) 「獣に、なります」
75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 22:18:20.53 ID:JsPkaiij0
私にも、ビロードのような考えがあったことは事実です。
もしかしたら、誰も死なない道があるのではないか。それがどんなに儚く脆いものでも、どこかに。
そんな、青臭い羊の考えを持っていました。
しかしそんなものは夢です。虚構です。嘘です。
そんな、羊の考えはいりません。それは、手向けた花といっしょに崖下へ放りました。
その確認が、あの叫びだったのです。私の、最後の羊としての吠えです。


( <●><●>) 「行きましょう。……もし、獣の私が嫌なら」

(*‘ω‘ *) 「嫌なわけ、ない」

( <●><●>) 「……」

(*‘ω‘ *) 「私も、獣になる。ビロードを殺した奴を、殺す」


そう言うと、ちんぽっぽも崖下に向って叫びます。
誰か来ないか確認しましたが、誰の気配もないのに安心します。

76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 22:20:47.88 ID:JsPkaiij0
( <●><●>) 「……」


私は鞄の中に入っていた説明書を読み、銃を組み立てます。
スナイパーライフル・ドラグノフSVDS。
スナイパーライフルながら伸縮ストックで、取り回しもよい、と書かれていました。
これが、私の獣としての牙です。獣は、自分が来た道など振り返りません。
ビロードの崖を振り返らずに、私は歩き出しました。
羊の心も、クラスメイトを思う気持ちもそこに置いて。

【No10 新保 武器:??? 現在位置:A-7】
【No36 和手枡 武器:ドラグノフSVDS(スナイパーライフル) 現在位置:A-7】
【No35 稚内 × 残り31名】
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