第19章
46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 21:37:58.17 ID:TrIhuqyG0
第19章 「ナンバーワン」
出玲(No18)は街中をぶらぶらしていた。
もちろんかねてから目障りだった女子生徒を殺すために。
自分がナンバーワンになるにはこのゲームは正に天恵とも言えるものだった。


ζ(゚ー゚*ζ 「まあ、この状況で道をうろついてる奴はいないわよね……」


とはいえ、決意をしても人と出会わなければ話にならない。
すこしばかり出玲は焦っていた。もう陽は傾き始めている。
そろそろ誰かを手に掛けなければ決意が鈍ってしまうかもしれない……


ζ(゚ー゚*ζ (! 誰か、いる)


向こうの方からかすかな音が聞こえてくる。
ボールをつく音だろうか。自然が奏でる音ではないのは確かだろう。


ζ(゚ー゚*ζ (こんな状況でボール遊びする? フツー)


まあ、無警戒な者ならば殺すだけだ。
そう思い、なんのためらいもなく出玲は音の方向へ足を進めた。
48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 21:40:29.69 ID:TrIhuqyG0
( ´∀`) 「ほいっ」


そこにいたのは喪名(No29)だった。
女子生徒ではない。出玲は肩を落とした。
出玲は一番になるために女子生徒を殺すつもりでいるのだ。
男子生徒が『殺してください』の張り紙を額に張り付けていたって興味はない。


ζ(゚ー゚*ζ (それにしても……)


喪名が持っていたのはバスケットボールだった。
少し大きめの家の庭にはバスケットゴールも設置されている。


( ´∀`) 「それっ」


右手でボールをつき、セットシュートの構えから放たれたボールはきれいな放物線を描きゴールのネットを揺らした。
そのボールの動きはバスケを体育以外でしたことのない出玲から見てもうまいとわかるものだった。


ζ(゚ー゚*ζ (みとれてる場合じゃないよ、あたしが探してるのは女子なの)
50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 21:42:58.28 ID:TrIhuqyG0
そう思い、別の所に行こうとする。
喪名は男子だし、バスケなどしていては遅かれ早かれ死ぬだろう。
ならば造作にかけるまでもない。そう思い足を踏み出したその時。


( ´∀`) 「殺さないの?」

ζ(゚ー゚*ζ 「!」


喪名がこちらに向けて話しかけてきた。
なぜばれたのだろう。喪名はこちらに背を向けていたし、決してわかるはずはないのだが。


ζ(゚ー゚*ζ (はったりよ。きっと気配を感じた時にはああ言ってるんだわ)


そう思い、さらに足を速めようとする。


( ´∀`) 「おいおい、質問に答えずに行っちゃうのかモナ。

       その髪型だと津出、もしくは出玲さん、かな?」

ζ(゚ー゚*ζ 「……」


髪型まで当てられている。
ここで変に逃げて喪名の武器で仕留められてはたまったものではない。
とりあえず会って即殺し合いとはならなさそうな雰囲気だったので喪名の前に出ることにした。

51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 21:45:39.60 ID:TrIhuqyG0
ζ(゚ー゚*ζ 「……」

( ´∀`) 「あ、出玲さんか。ビシッと当てたかったモナ」

ζ(゚ー゚*ζ 「どうして、わかったの。私は陰に隠れてたはずよ」

( ´∀`) 「影」

ζ(゚ー゚*ζ 「……?」

( ´∀`) 「影が丸見えだモナ。モナ以外だったら即殺だモナ」


そう言われて足元を見ると、なるほど夕日に照らされた影がその身を長く落としている。
そしてその影は喪名のいたバスケットゴールにまで到達していた。
――うかつだった。影のことなど一切頭の中に入っていなかった。
これからは気をつけなければならない。

52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 21:48:06.64 ID:TrIhuqyG0
( ´∀`) 「さて、今度はこっちの質問。――なんで、殺さないの?」

ζ(゚ー゚*ζ 「……女子を全部殺して、クラス1になるため」

( ´∀`) 「クラス1って……3人じゃクラスはできないモナ」

ζ(゚ー゚*ζ 「そうかもね。でも、それでも私1人が残ればクラス1よ」

( ´∀`) 「わかんないモナ。なんで、クラスなんていうちっぽけな入れ物の1番にこだわるんだモナ?」

ζ(゚ー゚*ζ 「……」


出玲は考えていた。急に現れて人の参加目的を聞きだすこの男の質問の答えを。
そして、それはすでに出玲の中では答えは出ていた。


ζ(゚ー゚*ζ 「1番に、なったことがないから」

( ´∀`) 「ほう」

ζ(゚ー゚*ζ 「私はいつでも2番だった。容姿も、背も、家柄も、なにもかも。

       好きだった人の彼女にもなった。でも私はやっぱり2番だった。いわゆるキープってやつよね」
54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 21:50:33.46 ID:TrIhuqyG0
( ´∀`) 「ふむ」

ζ(゚ー゚*ζ 「私は、私の力で1番になるの。そのためにはこのゲームに乗るのが1番効率がいいのよ」

( ´∀`) 「へえ」

ζ(゚ー゚*ζ 「たとえ、ちっぽけなクラスの中の1番でも、私にとれば価値があることなの」

( ´∀`) 「そう」

ζ(゚ー゚*ζ 「……」


出玲はゲームが始まってから自分が考えていたことを話したつもりだった。
でも、目の前の喪名は特に心揺さぶられた様子はない。
それが出玲にはいらだちを覚えさせた。


ζ(゚ー゚*ζ 「だから、男子は殺さない。でも、女子は全員殺す」

( ´∀`) 「殺さないと、1番になれないんだ」

ζ(゚ー゚*ζ 「は?」

( ´∀`) 「だってそうだモナ。相手が生きてるうちは勝てませんって宣言でしょ?」

ζ(゚ー゚*ζ 「……」
56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 21:53:01.82 ID:TrIhuqyG0
これ以上、話す気はなかった。
もともと立ち去ろうとしていたのである。
喪名に付き合って話をする理由はどこにもない。
今度こそ、出玲は歩き出した。


ζ(゚ー゚*ζ


出玲は歩く。


( ´∀`)


喪名も歩く。


ζ(゚ー゚*ζ 「……なんで、ついてくるの」

( ´∀`) 「面白そうだから。そんなちっぽけな理由で人を殺す人間がどうなるのか、見てみたくて」

ζ(゚ー゚*ζ 「殺すわよ?」


手に持ったマシンガンを音がたつように持ち上げる。
弾は入っている。トリガーを引くだけで弾は発射される。
それでも喪名は怖気づく様子はない。
59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 21:55:28.61 ID:TrIhuqyG0
( ´∀`) 「脅しにもならんモナ。僕はもともとゲームに参加する気はないモナ」

ζ(゚ー゚*ζ 「ふーん、あんたはこのゲームには乗らないんだ」

( ´∀`) 「乗るとか、乗らないとかじゃないモナ。興味がないんだモナ」

ζ(゚ー゚*ζ 「は?」

( ´∀`) 「誰が死のうが興味ないし、誰が殺そうが関係ない。別に死んでも構わない。

       ――でも、面白そうなものには興味あるんだモナ」

ζ(゚ー゚*ζ 「……」

( ´∀`) 「幸い、君の狙いは女子のみ。僕は君のあとをついていくだけ。

       君に関しては口も出さないし手も出さない。それでどうだモナ?」


狂人。出玲の脳裏にはその言葉が浮かんでいた。
普通こんなゲームに放り込まれたら生き残りたくなるのが普通のはずだ。
なのになんだこいつは。生き残ろうとしないばかりか危険な面白いことに首を突っ込もうとしている。
呆れた快楽主義者ではないか。

60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 21:57:55.89 ID:TrIhuqyG0
ζ(゚ー゚*ζ 「……勝手にすれば」


出玲の出した結論はそうだった。
1人より2人の方が凶暴な男子生徒に狙われにくくなるかもしれない。
それにもうすぐ夜が来る。交替で見張りにつける人間は必要だ。
……この快楽主義者に自分の身を任せることは多少不安ではあるが。


( ´∀`) 「そ。じゃあ、お構いなく」

ζ(゚ー゚*ζ 「……ところで、あんた。武器は?」

( ´∀`) 「さっきからずっと手に持ってるモナ。これ」


喪名の手にあるのは先ほど喪名自身が使っていたバスケットボールだった。
出玲はため息をつく。喪名が生き残るつもりがないなら武器を譲ってもらえるかも知れなかったのに。
63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 22:00:20.46 ID:TrIhuqyG0
( ´∀`) 「じゃ、どこ行くモナ?」

ζ(゚ー゚*ζ 「あなたは私のあとをついてくるだけでしょう?」

( ´∀`) 「それでも、会話は楽しみたいモナ」

ζ(゚ー゚*ζ 「……」


出玲はその言葉には特に反応せずに歩き出す。
無視されて手持無沙汰になった喪名は決まりが悪そうに手の中のバスケットボールを見つめる。
そして、このボールはこれからの邪魔になると思ったのか、最後のシュートを喪名は撃った。
ボールはリングにもボードにも当たらずネットのみを通って地面についた。
辺りにはなんとも小気味よいパスッっという音が響く。
しかしその音を聴く者は、もうそこにはいなかった。

【No18 出玲 武器:H&KMP5A3(マシンガン) 現在位置:G-6】
【No29 喪名 武器:なし(ボールは廃棄) 現在位置:G-6】
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