第18章
28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 21:09:53.50 ID:TrIhuqyG0
第18章 「疑念」
川 ゚ -゚) 「まったく、碌なもんじゃないな」


そう言いながら森林地帯を歩くのは須名(No14)。
彼女は敵が来ても隠れられるという理由でわざわざ森へ来たのだ。
もっとも、実際はそう考える多くの人間が森に潜んでいるのだけれど。


川 ゚ -゚) 「……まずいな。誰かパートナーを探さないと」


陽は建物を出た時よりずいぶん下がってしまっている。
もうすぐ夜が来る。それまでにパートナーを見つけないとおちおち休んでもいられない。


川 ゚ -゚) 「大声で仲間を探すわけにもいかないし……困ったな」


疲れたのでそこらへんの切り株に座る。
須名はふと考える。切り株があるということは、生活の跡があるということだ。
とすれば、ちょっと前までここには人が住んでいた――?


川 ゚ -゚) 「ふう」


余計な思考を切断する。
今この場には必要のない知識だ。
ここにだれが住んでいたかなんて大した情報じゃない。

29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 21:12:55.01 ID:TrIhuqyG0
川 ゚ -゚) 「……出発するか」


ガサ……


川 ゚ -゚) 「! 誰かいるのか」


草が鳴る音がすぐそこから聞こえていた。
動物だろうか。それとも――『やる気』の人間だろうか。


川 ゚ -゚) 「誰だ。私は須名だ。出てきてほしい」


須名のその言葉に反応したのは、腕だった。
その右手の爪にはマニキュアが塗られており、中ぐらいの拳銃も握られていた。


川;゚ -゚) 「待て! 私はこのゲームに乗る気は……」


刹那、乾いた音が響く。
それと同時に右肩にこれまで感じたことのない壮絶な痛みを感じた。
ドクン、ドクンと心音に合わせて血が噴き出るのがわかる。
もう、ダメかもしれない――狙撃手のマニキュアがやけに脳裏に残る。
この痛みに耐えられない。もう意識を手放した方が楽かもしれない。
そう思い、須名は静かに目を閉じた。死を、覚悟しながら。
31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 21:15:58.01 ID:TrIhuqyG0
川 ゚ -゚) 「! ……あ、あれ?」


須名が目を覚まして最初に見たのは家屋の天井だった。
天国とはこんなにも質素なものなのだろうか。
そんなバカみたいな思考は右肩の痛みによって中断された。
しかし、撃たれたはずの右肩も申し訳程度に止血と包帯がされている。


川д川 「あ、クーちゃんおはよう」

川 ゚ -゚) 「貞子……!」


起きた須名を見に来たのは山村(No33)だった。
お互いにクー・貞子と呼び合う仲で、須名の友達の一人だった。


川д川 「びっくりしたんだよ。クーちゃんが撃たれてるから」

川 ゚ -゚) 「あ、ああ……すまないな。この応急処置も、貞子が?」

川д川 「一応ね。素人の見よう見まねだからちゃんとできてるかわからないけど……」

川 ゚ -゚) 「いや、かなり楽になったよ。ありがとう」


実際その言葉は嘘ではなく、動かせば多少の痛みは走るものの、かなり軽減されていた。
あのとき感じた焼けつくような痛みはすでになりを潜めていた。
須名は貞子に感謝する。――やはり、持つべきは友達だ。
33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 21:19:00.03 ID:TrIhuqyG0
川д川 「ところで、クーちゃん。いったい誰が、こんなこと……」

川 ゚ -゚) 「……わからない。草陰から、腕しか見えなかったんだ」

川д川 「そう……でも、大丈夫だよ。2人ペアなら、狙う奴も多少は減るかも」

川 ゚ -゚) 「……すまないな」

川д川 「何言ってんの! 友達なんだから当たり前じゃない!」


須名は本当に感謝していた。
その時、ある音が響いた。
36 :>>32多謝。ありがてえ:2009/01/31(土) 21:22:36.42 ID:TrIhuqyG0
その音とは、須名の腹の虫の音だった。
須名と貞子はその音に笑いあう。


川д川 「あははっ! クーちゃんおなかすいた?」

川*゚ -゚) 「わ、笑うんじゃないよ恥ずかしい。……ところで今、何時だ」


自分はある程度規則正しい生活を送っている自負がある。
体が夕飯を欲したとすれば夜にはなっているはずだ。
もしかしたら、阿部が言っていた定時放送を聞き逃したかもしれない。


川д川 「んー、その時計が合ってるなら、5時、かな」


その家の壁には壁掛けの時計が設置されてあった。
その時計は、なるほど5時を指している。
自分の体内時計もこんな非常事態に追い込まれれば機能しなくなるのかもしれない。


川д川 「さて、クーちゃんのおなかのむしも鳴いたことだし、ご飯にしよっか」

川 ゚ -゚) 「? ご飯なんて作れるのか」

川д川 「この家の冷蔵庫にいっぱい野菜とかお肉とか入ってたんだ。

      たぶん、腐ってはないと思うよ」
38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 21:25:41.91 ID:TrIhuqyG0
川 ゚ -゚) 「そうか。なら、作ろうか」

川д川 「だめだめ。クーちゃんはけが人なんだから。

      私に任せて、ゆっくりしてて。こう見えても私、結構料理うまいんだよ」

川 ゚ -゚) 「いや、悪いよ……」


こんなやり取りがしばらく続いたのち、結局貞子に任せっきりにしてしまった。
少し悪いな、とは思いながらも肩を動かすと痛むので、好意を受け取っておいた。


川 ゚ -゚) (それにしても……)


あの腕は誰のものだったのだろう。
中性的な腕だった気がする。
男のささくれだってゴツゴツした手でもなく、女の柔らかそうな手でもなかった。

39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 21:28:44.77 ID:TrIhuqyG0
川д川 「クーちゃん、できたよー」

川 ゚ -゚) 「あ、ああ。ありがとう」


出てきたのはシチューだった。
野菜とブイヨンの香ばしい匂いに思わず食欲がそそられる。
須名は思考をいったん中断し、貞子から差し出された皿を受け取ろうとした。
――その時、須名は気づいてしまった。


川;゚ -゚) 「貞子……きみ、マニキュアを……?」

川д川 「え? ああ、これ。お母さんが、折角の修学旅行だからつけていきなさいって。

      私はそんな柄じゃないって断ったんだけどね……やっぱりおばちゃんは押しが強いっていうか」


須名はすでに貞子の話を聞いていなかった。
マニキュア。あの、草陰の腕がフラッシュバックする。
信じていいのか? 本当に、本当に貞子を信じてしまっていいのか?
41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 21:31:47.45 ID:TrIhuqyG0
川 - ) 「う……おえ」

川;д川 「クーちゃん!? 大丈夫!?」

川 - ) 「す、すまない……少し気分が悪くなった。少し、ひとりにさせてくれ……」

川;д川 「あ……うん。ごめんね。無理しないで。誰か来たら、すぐに知らせるから」

川 - ) 「すまない……」


須名は起きたベッドにまたもぐりこみ思考を再度巡らせる。
貞子を信用していいのか。自作自演で自分を助けた演技をしただけではないのか。
違う。そんなことをする必要はない。貞子は自分を純粋に助けてくれたのだ……


川 - ) 「うう……」


もし貞子が撃ったとすると自分を助けた目的はなんだ。
あそこに自分の死体を置いておくとなにか不都合でもあったのか。
もしかしたらここで自分を抹殺するつもりだったのかもしれない。
どうやって?
45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 21:34:52.84 ID:TrIhuqyG0
川 - ) 「…………し、ちゅー?」


シチューだ。シチューに毒が入っているのかもしれない。
貞子は自分をかたくなに台所に入れようとしなかった。
それは自分がいたらなにか不都合があったからではないのか。
まさかターゲットの目の前で毒を入れるわけにはいかないだろう。
そう考えればすべてつじつまが合うではないか。
あっさりと、人を信じてはいけない……


川 - ) 「うう……」


心臓がドクドクと波打つ。息苦しい。目が回る。何も考えられなくなる。
自らの心音が煩い。うるさい。うるさい五月蠅い煩い――



夜は、近い。

【No14 須名空 武器:??? 現在位置:E-5】
【No33 山村 武器:??? 現在位置:E-5】
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