第1幕
8 :Classical名無しさん :09/02/09 13:04 ID:uAaCj1/g
第1幕
 
挨拶がわりでうめき声
 
 
 
穏やかな昼食時間を切り裂くかのごとく、女性の金切り声にも近い悲鳴が上がった。
 
ζ(>ー<*ζ「ひゃぁぁぁぁぁあああああああぁぁぁぁあああぁぁぁぁっ!」
 
ビクッ──と教室が震えた。
教室の空気は完全に凍りつき、水滴が落ちる音すら聞き取れるくらいに静かになっていた。談笑しながらお弁当のフタやパンの袋を開けようとしていた生徒たちも言葉をなくして、悲鳴の主をただただ見つめるばかり。
悲鳴の主は自分のカバンを覗き込んだ姿勢のままで、液体窒素を吹きかけられたように硬直していた。
第2学年を示す肩章をつけた妙齢の女子高校生だ。セミロングの黒い髪が逆立ち、制服の袖から見えるまるで陶器を連想させるがごとく白く綺麗な手でカバンを開けている。そして、人並み以上に整った容姿は生気を失っていた。
 
ζ(゚ー゚;ζ「なっなっなっないぃぃぃっ!?」
 
本来なら目線の先にあるはずのモノがない。
少女はカバンの中身をほじくりだしながら漁っていく。ジ〇リキャラの手鏡や8×9のスプレー缶、タオルにノート、といった中身を全て出し尽くした後にも、その目的のモノは見つからない。
無くした?
と最悪にして有り得ないパターンが一瞬脳裏を掠めた。が、
9 :Classical名無しさん :09/02/09 13:06 ID:uAaCj1/g
いやいやいや、有り得ない有り得ない。だって2時間目が終わったときにはちゃんとあったし。と記憶を辿りながら胸の内で否定する。
 
ζ(ー*ζ(……ならば、いったいどこに……どこに消えたんだ、あたしのパンは。)
 
昼食を紛失してしまったらしい。
んなバカなことが起こるわけないのだが、本人は頑としてそれを認めようとはしない。最後に自分のカバンに近いた生徒の顔を思いだすため、さらに記憶の糸を手繰り寄せ──思いだした。
少女は勢いよく顔をあげ、周りを見渡す。その表情はとても言葉では形容できないと記しておく。
誤って目を合わせてしまい、顔を引きつらせる同級生たちの中にお目当ての人物がいないとわかるなり、疾風のごとく走りだした。
去ったあとの教室は笑い声や話し声はするのだが、始終言いようもない静寂に包まれていた。
 
 
 
   
まだまだ暑いのだが、どこか涼しげで柔らかい秋の風が屋上を撫でていく。
昼休み中の生徒たちの憩いの場である屋上は、今日は生徒がほとんどいなかった。授業中のほうが多いかもしれない。けど、少ないながらも皆、思い思いの過ごし方をしていた。
そう──次の瞬間までは。
10 :Classical名無しさん :09/02/09 13:08 ID:uAaCj1/g
屋上全体に、扉を蹴り破るような炸裂音が鳴り響いた。
屋上にいてた生徒たちは弦で弾かれたように屋上への入り口へと目を向けた。そこには猛スピードで駆けてきたのだろう、肩で息をする少女がいた。その表情は般若も裸足で逃げ出すほどの恐ろしさ。
重たい沈黙が屋上を支配した。
少女のなんとも言えぬ覇気にビビって体が言うことをきかない。本能が頭に直接伝えてくる。動くなっ! 動くと殺られるぞっ! と。
少女はゆらりと目を動かす。その目が柵にもたれかかって座る1人の女子高生に向けられた。こんな状況下で、その女子高生はまったく気にもとめずに菓子パンを袋からとりだした。どこかで見たことのある──
 
ζ(゚ー゚#ζ「クーっ!」
 
ピクリとクーと呼ばれた女子高生は動きを止めた。袋から出したパンを持ったまま、錆び付いた歯車のようにぎこちなく顔を向けた。
 
川 ゚ -゚)「…………」
 
無言で菓子パンを袋に戻し、ビニール袋にいれる。そして、ニッコリと笑った。
 
川 ゚ー゚)「デレ、どうしたのさ? もしかしてパン?」
 
ζ(゚ー゚#ζ「当たり前だぁぁぁぁぁっ!」
 
戰鬼──もとい、デレは目にも止まらぬ速さで、クーの腹部にパンチをかました。
12 :Classical名無しさん :09/02/09 13:21 ID:uAaCj1/g
 
川; -)「ごふぇっ!」
 
くぐもった声を上げて、クーがくの字に折れ曲がった。苦悶の表情を浮かべ、重力に惹かれるようにゆっくりと崩れ落ちていく。
突然の襲った災厄に恐れをなして逃げだしたため、すでに屋上には人っ子1人いない。2人っきりだ。
 
川; -)「うぅぅぅううううぅぅぅっ……」
 
クーの口から漏れる呻き声がうんうんと聞こえるなか、デレは先ほどまでクーが持っていたパンを拾い上げた。
 
ζ(゚ー゚#ζ「やっぱりあたしのパンじゃない。ちょっとクー、なんでパクったりしたのよ!」
 
ヾ川*゚ -゚)〃「いやぁ、お昼ご飯忘れちゃってねぇ」
 
先ほどまで呻いていたクーが、超回復としか言いようのない速さで回復し、頭をポリポリとかいた。
デレはどうしようもないクーをねめつけた。クーは、大きな瞳にスラッとした高い身長。
見るものをうなずかせる高校生離れした美貌にサラサラの腰までのびたロングヘアーであり、黙って、しかもおしとやかにしていれば女のデレから見ても──うんうん。
しかし、行動と言動を入れるとその評価は最低レベルまで一気に垂直落下してしまう。
13 :Classical名無しさん :09/02/09 13:25 ID:uAaCj1/g
ζ(゚ー゚#ζ「ったく、忘れたって初めっから言ってくれたら」
 
川*゚ -゚)「え! あたしのために色気満点の愛妻弁当でも作ってくれ──」
 
とっさに放たれた水平チョップがクーを3回転させた。直撃したところからは白い煙が上がっている。
綺麗でスタイル抜群なのだが、残念なことにこの人……淫欲の化身だったりする。
ツラーっと鼻血を垂れ流しつつも、
 
川メメ゚ -゚)「まだだ……まだ終わらんよ」
 
などとつぶやいてるあたり、まだまだ肉体的には大丈夫なのだろう。デレには舌打ちものだが。デレは額に手を当ててあからさまにため息をついた。
女神のような顔に影が差す。女神といっても、湖から現れる女神ではなく、剣と盾を持った戦女神(バルキリー)のほうだが。
 
ζ(゚ー゚*ζ「あのねぇ、アンタとうとう犯罪者の仲間入りよ。窃盗と淫欲でね」
 
川 ゚ -゚)「未遂なんだしいいじゃない。それに淫欲は余計だから」
 
水平チョップが当たった部分を撫でながら、ぶうぶうと唇を尖らせて文句を垂れる。寝転がっているが、服が汚れるのを気にしていないのだろうか。
 
ζ(゚ー゚*ζ「しょーがないわねぇ……ホレ、恵んであげる」
 
川*゚ -゚)「いや〜ホント助かっ……」
 
クーの目が手の上に鎮座するその物体に向けられた。そして、その物体からガサゴソとビニール袋を漁るデレの後ろ姿へとゆっくりと移る。
 
川 ゚ -゚)「ねぇねぇデレ」 
ζ(゚ー゚*ζ「ん? どうかした?」
14 :Classical名無しさん :09/02/09 13:28 ID:uAaCj1/g
川;゚ -゚)「……いくらなんでもブルーチーズはないでしょ?」
 
パッケージをはがしたとたんに鼻につく異臭を無差別に漂わせる、あのチーズのことだ。デレは心外そうな顔をして振り向いた。
 
ζ(゚―゚*ζ「いらないんだったら返してよ」
 
故意が偶然か、右手が唸りを上げてクーに迫るが、
 
ヾ川 ゚ -゚)〃「一度もらったものは返せませーん」
 
瞬時に体のバネを使い、後ろに跳ねながら起き上がると、デレの手の届く範囲外に退避した。デレは忌々しげに舌打ちをして、右手を所在なさげに下ろした。
 
川*゚ -゚)「てかさてかさ、なんでブルーチーズなんて買ったのさ?」
 
ブルーチーズの漂う異臭に顔を歪めながらも、やはり空腹には勝てないらしくクーは1口パクリ。 
川 ゚ -゚)「……あ・意外とイケるわ。まぁ、臭いは別だけど。」
 
ζ(゚ー゚;ζ「えーっと、モッツァレラチーズと間違えてしまいまして」
 
川;゚ -゚)「……どーやったらモッツァレラとブルーを間違えるのよ。値段でわかるでしょ値段で」 
クーは制服の裾をパンパンと叩いた。短いスカートがひらひらと揺らめき、太ももの半分以上が露わになる。
 
ζ(゚ー゚;ζ「それが全然、気づかなかったのよ。コンビニ出てから、あ・ブルーチーズだ……って気づいたの。それ高かったんだからあとで返してよ」
15 :Classical名無しさん :09/02/09 13:32 ID:uAaCj1/g
クーは、つかんだブルーチーズを見下ろし、デレを再び見上げた。そして、おもむろに制服の襟元をピラッとはだけさせ、 
川*゚ -゚)「あ・体でもいい?」
 
ζ(゚ー゚#ζ「よし、アンタの言いたいことはよーく、わかったわ。あたしのサンドバッグになりたいってことね」
 
額に青筋なんか浮かべ、指の関節をバキボキと鳴らしながら淡々と告げる。おそらく、そこらへんに釘バットが転がっていたら迷わず叩きつけるに違いない。転がってるほうが怖いが。
 
川;゚ -゚)「じょ、じょーだんだからじょーだん……やだなぁ目が笑ってないよ。スマイル、スマイル」
 
ζ(^ー^*ζ「そうね、スマイルね。たぶん淫魔が血まみれになって倒れていてもあたしはスマイルでいられる気がするわ」 
デレの内側から滲み出てくる殺気とゆーか威圧感に怯え、ぶるぶると震えるクーを柳眉を逆なでまくった顔でにらむ。
こんな短時間に3度もデレを怒らすなんて、ある意味才能かもしれない。もしくは本能のまま、とか。
もきゅもきゅとブルーチーズを食べていたクーは、ふとデレの顔を覗きこんだ。たじろぐデレ。 
ζ(゚ー゚;ζ「ど、どうかした?」
 
川 ゚ -゚)「いや、べっつにぃ。ただあの人とはうまくやってんのかなぁって」
16 :Classical名無しさん :09/02/09 13:36 ID:uAaCj1/g
ζ(////*ζ「っ──!?」 
とたんに顔を、これでもかっ! というほど真っ赤にさせるデレ。
それを見て心底面白そうに川 ゚ -゚)はニヤリと笑みを浮かべる。
屋上に真夏時よりは涼しさを増した風が一陣吹いた。これはかなりよくない兆候だ。真っ赤な顔のまま慌てふためく。
 
ζ(////*ζ「なっなっな……」
 
呂律が回らず、まるで言葉になっていない。そんなデレにクーが追い討ちをかける。
 
川 ゚ー゚)「ほほぅ、まだまだ若いですなー。この新婚さんいらっしゃい!」
 
ζ(////*ζ「いやいや、訳わかんないからソレ」 
頬を紅潮させたまま、あまりキレのないツッコミをする。動揺しすぎてクーと目すら合わせられない。
アイツと顔を合わせて話したりする分には大丈夫なんだけど、こうあからさまに指摘されると、どうしても赤面しちゃう……。
 
ζ(////*ζ「あぁもうっ。いちいちあんたは言わなくていいのっ!」
 
川 ゚ー゚)「ふぅん、やっぱり恥ずかしいんだ?」 
ζ(゚ー゚*ζ「まだ付き合ってなんかないってば。都合のいいときだけあたしに絡むなっ!」
 
川 ゚ -゚)「──はっ!」 
そこでクーはピタリと言葉を止めてデレをまじまじと見た。半歩後ろに下がるデレ。
 
川;゚ -゚)「…………!」 
その表情は何かに気づいたようである。突然の変わりようにたじろぎながらも問う。
17 :Classical名無しさん :09/02/09 13:43 ID:uAaCj1/g
ζ(゚ー゚;ζ「ど、どうしたのよ?」
 
クーは手で口元を覆い隠し、キラキラした瞳でデレを見ると言った。
 
川*゚ -゚)「もしかして……あたしにヤキモキしてほしかったの?」
 
ζ(ー*ζ「…………」
 
ぶちっ
 
何かが切れる音と、
 
川 ;Д;)「ぎゃぁあぁあぁあぁあぁっ! 助けてください少佐ぁぁぁぁっ!」
 
クーの断末魔の──06で大気圏へと突入するかのような壮烈な悲鳴が屋上に響き渡った。
  
   to be contined…
Back
inserted by FC2 system