序幕
2 :Classical名無しさん :09/02/09 12:51 ID:uAaCj1/g
序幕
 
今宵始まるのは機甲化された演奏会──
 
 
 
 
上を見上げると、澄み渡った青空──などではなく灰色の雲が覆う、曇天の薄暗い空が見えた。吹き渡る潮風は肌を刺すように冷たい。
そう、ここはとある凍てつくような寒さが滞る海岸だ。そんな海岸を見下ろすような高台に1人の男が立っている。
男がライターをつけた。暖かい光とともに至福の炎が生まれる。
吐き出された白く、細い煙は男のため息と混じり合いながら灰色の空へと登っていった。
思わず身を呪いたくなってしまう。なぜ自分がこんなところにいるのか全くわからない。仕方なく命令に従ったらこうなってしまっていた。冬の海岸で6日間待機することになっていた。
 
( ’ t ’ )「全く……ついてないったらありゃしない。」
 
口の中で愚痴を言い、男はベレー帽をかぶりなおした。そして来た道を戻っていく。
雪が降るほど寒くもないが、それでも地面を踏みしめるブーツはジャリジャリと音を鳴らした。自分の足音じゃない。他の誰かだ。
 
( ̄⊥ ̄)「隊長、ここにいらしたのですか」
 
迷彩柄の厚手のコートに身を包み、軍曹の階級章を身につけた男が走ってきた。
 
( ’ t ’ )「すまんすまん。なにぶん風に当たりたくてな」
 
男は静かにそう言った。軍曹は怪訝な顔をする。
3 :Classical名無しさん :09/02/09 12:53 ID:uAaCj1/g
( ̄⊥ ̄)「はぁ、ですが何も言わずにどこかに行くのは止めていただけませんか? あなたはこの部隊の指揮官なのですから」
 
( ’ t ’ )「すまない。次からは気をつける」
 
男──隊長と軍曹はそう言い合いながらも自分たちの野営地へと足を向かわす。
野営地である海岸を一瞥できる小高い丘、そこにいたのは12両ほどの車両と兵士であった。
ただの車両ではない。ただの車両に砲塔なんて物騒なものが積載されているわけない。戦車であった。
 
( ̄⊥ ̄)「隊長、我々はいつまでこの地で待機すればいいのでしょうか?」
 
いかにも不満があるといった風に軍曹は尋ねた。不満を言いたいのは隊長も同じなのだが、隊長自ら任務が気に食わないなんて言えるわけがない。しかし、たしなめる気もしなかったため、あえて無視しておくことにした。
いくら過酷な訓練を積んだ兵士といえど、目的もわからないまま冬の海岸で6日間も待機していれば疲労するに決まっている。隊長にはそれが痛いほどよくわかっていた。
 
( ̄⊥ ̄)「そういえば最近、本国が慌ただしいという噂を耳にしますが、それが原因なのでしょうかねぇ」
 
( ’ t ’ )「さぁな。たとえそうだとしても私たち一兵士には関係のないことだ」
4 :Classical名無しさん :09/02/09 12:55 ID:uAaCj1/g
確かにそうである。現場の兵士が何を言おうとも上には伝わらない。兵士とは単なる駒にしかすぎないから。
 
( ’ t ’ )「すまんが基地へ無線をつないでくれないか?」
 
( ̄⊥ ̄)「あ・はい、わかりました」
 
理由はただ1つ、現在の状況を伝えると同時に任務遂行が著しく難しい──すなわち、任務遂行は不可能と伝えるためだ。おそらく、上からは嫌な目で見られるだろうが、こんなところで待機するよりは100倍マシだ。
隊長は通信室へと向かおうとするが、それはいらぬ苦労だった。
 
《;´_‥`》「隊長! 基地から緊急通信です!」
 
通信兵の慌てた声を耳にするなり隊長は駆け出していた。
 
(;’ t ’ )「緊急通信だと!?」
 
《;´_‥`》「は・はい、内容を読みます『海岸に対して第一種警戒態勢』の命令……です」
 
第一種警戒態勢。海岸から何かがくるということだろうか。だが、少なくとも、
 
( ’ t ’ )「意味がわからないが……全部隊に通達、第一種警戒態勢に入れ。繰り返す、第一種警戒態勢に入れ」
 
隊長の命令とともに兵士たちが慌ただしく走り出す。
ある者は銃を持ち、またある者は戦闘車両に乗り込んだ。隊長も指揮テントから出て、海岸を見た。
少なくとも異常はない。空をそのまま映し出したかのような灰色の海が広がっているだけだ。
5 :Classical名無しさん :09/02/09 12:57 ID:uAaCj1/g
(#’ t ’ )「なにもないじゃないか……」
 
激しい怒りを内面に秘め、隊長は唇を噛んだ。
隊長だけではない、将兵たちも疑心暗鬼でただただ潮の満ち引きを眺めるだけだった。この6日間でストレスがピークに達していた。
さらに彼らを煽る通信が届いた。
 
《;´_‥`》「司令部から通達、第一種攻撃態勢の命令が入りました!」 
狂ってやがる。
隊長はその思いに確信を抱いた。何もない場所で第一種戦闘態勢だと? そんなもん必要なんかないに決まってる。
 
(#’ t ’ )「この命令は報告するな。将兵のストレスを増長させるだけだ」
 
怒りを抑えて表面上は冷静に言った。だが、内では煮えくり返っている。
だが、何もないと決めつけるのはいささか早かった。その数分後、信じられない報告がレーダー班から届いた。
 
(;ゝ○_○)「報告っ。海面より未確認の物体が浮上してくるとのことです!」
 
(;’ t ’ )「なんだと!?」
 
隊長はその報告に瞳目し、驚愕した。
くそったれっ、正しかったじゃねぇか!
だが、そんなことを悔いる時間はない。
 
(#; ’ t ’ )「第一種戦闘態勢っ。繰り返す、第一種戦闘態勢っ。海面から何かがくるぞっ!」
 
緊張が切れかかっていた兵士たちは慌ただしく動きだし、戦車の12門の砲塔が海面へと向けられる。
6 :Classical名無しさん :09/02/09 12:59 ID:uAaCj1/g
全ての兵士が目線を向けるなか、穏やかな波が立っていた水面が震えた。
海面上になにか黒い影が現れた。
遠く、そして霧が発生している悪天候ということもあってよく見えないが、全体的に細長いシルエットだということはわかる。
始めは潜水艦かと思った。でも、こんな浅瀬に潜水艦が浮上するのはおかしい。浮上する前に座礁してしまう確率のほうが高いからだ。隊長は妙な胸騒ぎを覚えた。そんな胸騒ぎを払うかのように、大声で叫んだ。
 
( ’ t ’ )「相手が浮上しだい攻撃を開始せよ。だが、今はまだ攻撃するな!」
 
彼らの目前で影がどんどん大きくなっていく。
そのシルエットは完全に潜水艦のそれではない。どちらかというと楕円形に酷使している。そして──それが大量の水しぶきを雨のように辺りに飛び散らせながら、水面を割って彼らの前に現れた。
隊長は驚愕のあまりに言葉が出てこない、という言葉を自己で改めて実感した。
それほど衝撃的だったのだ。
 
(;’ t ’ )「う、撃て!」
 
そのため、攻撃命令がわずかながら遅れてしまった。
もし、もっと早くに攻撃を加えればこの後の展開は変わっていたかもしれない。しかし──それは単なるIFだ。「もしも」であって現実ではない。
7 :Classical名無しさん :09/02/09 13:01 ID:uAaCj1/g
IFは願えば願うだけの可能性が存在し、それにより変化する。
けれども、いくら「もしも」と願ってもIFとは違い、現実は全く、これっぽっちも変わりはしないのだ。
現実にIFなんてものは存在しない。現実においてはIFなんてものは単なる妄想にしかすぎない。
戦車の砲弾がソレに向かって放たれた。
12発──いや、それ以上の砲弾が着弾し、辺りを空の色より濃い灰色の爆煙と、紅蓮の炎によるアンサンブルで包み込む。
 
( ’ t ’ )「砲撃止め―っ!」
 
隊長が無線に言葉をかける。それと同時に止む砲撃。
その砲撃は苛烈で、辺りの地形が変わってしまうほどであった。大地は抉れ、水は氾濫し、硝煙の匂いが漂う。
 
(;’ t ’ )「やった……のか?」
 
掠れた声で隊長はつぶやきを漏らした。その声には僅かながらの安堵も含まれている。
兵士たちが不安と期待の入り混じった目を向けるなか、ゆっくりと煙が引いていく。
そしてそこに佇むのは──
 
 
(; ’ t ’ )「な…………」
 
隊長は絶句した。兵士たちも絶望しに満ちて、無傷のソレを見ている。
 
(;’ t ’ )「全員、て──」
 
隊長が何かを言おうとした。しかし、その言葉に被さるように、攻撃的な眩い閃光と音が隊長と彼ら戦車中隊を包み込んだ。
 
 
   to be contined…
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